休職した諜報員
ルーシュ達のシーンに飛びます。
クロードは朝早くルーシュの家を訪ねに来ていた。
昨日はソフィアと2人で国王の所へ行くと決めていたが、ルーシュも一緒にどうかと言う誘いをかけるためである。諜報員に自ら動向を促そうとしているが、知る由もなかった。
クロードがルーシュの家のドアをノックしようとするのだが、すでにドアノブが壊れてドアが半ば開きっぱなし状態だった。
強盗や泥棒の被害に遭わないのだろうかと逆に心配になってしまうのだった。
先日から既に破壊されていたことに気付いていなかったようである。
「もしもーし。ルーシュ、起きてるー?」
クロードは家の中に首を突っ込んで、開いているドアをノックする。
ドアの奥を見ると、リビングが見え、ソファーの上にもそもそと動く人影があった。
ゆっくりと頭が上がるとそこにはルーシュがいた。
「おはよー、クロード……にゅう……眠い…」
「ごめん、早すぎたか…」
とはいえ、既に朝の7時だ。アップルパイ屋台をやっているルーシュはもっと早起きだったとクロードは認識していた。
ルーシュは起き上がる。
普段のラフな服装そのままで眠そうに立ち上がるのだが、その同じソファーからレナも眠そうに起き上がるのだった。
「あー、おはよー…」
レナも眠そうにして起き上がるのだが、レナは一切服を着ておらず、毛布を体に包んでもそもそと動き出す。毛布の間から見えるレナの胸元の深い谷間と白くて細い足は非常に艶かしかった。
その2人の様子を見てクロードは慌てて顔を家の外へ向けて
「ごごごごごご、ごめん!ま、まさかそんな状況だったなんて!?」
顔を思い切り赤く染めたまま、上ずった声で謝罪する。
「………?おお、レナ、また僕の寝床に潜り込んだの?」
「だって寒いんだもん」
「一応、女の子なんだから男のいる場所で裸なのは感心しないんだけど」
「むー」
レナは不満そうにルーシュを睨む。
そのやり取りで、クロードは自分が想像したあれやこれとは全く別な事に気付いて胸を撫で下ろす。だが、また、という事は頻繁にこんなことがあるのだろうか?
クロードとしては非常に羨ましかったりした。ルーシュは一応14歳で自分より2つ年下だった筈。自分が14歳の頃だったら間違い無く我慢できずに襲っていただろう。
勿論、可愛い幼馴染も自分のベッドにもぐりこんでくる美女もいなかったが。
「何―、クロード」
ルーシュは首をかしげてクロードに尋ねる。
「え、あ、いや、その………そう、ええと、あれだよ。昨日、ソフィアさんと国王陛下のところに行く事になったんだけど一緒にどうかなって」
「セイのところに遊びに行くの?」
「遊びには行かないけど…」
クロードは、ルーシュにとってこの国の王様は友達の範囲内なのかと少し引き攣ってしまう。実際、ルーシュは知り合いなら皆友達感覚なのだが。
「どうしたものかな。僕は僕で行きたい場所があるんだけど。セイの所はそこでの調査の後かなって思ってて」
「調査?」
「ん?クロードの実家」
ルーシュの言葉にクロードは言葉を失う。
「クロードの実家が変わってるみたいな話を昨日の夜にレナから聞いたんだけど、そもそも銀翼の魔公と思われる男からの被害現場を僕は見て無かったなって思って」
「被害現場?まるで警察のような」
「まー、魔力の痕跡はないと思うけど被害状況とか魔法の規模とか調べれば、どういう手合いかは予想つくでしょ?暫く、食費には苦労しないから店を畳んで本格的に銀翼の魔公の調査に乗り出そうって」
「そ、そうなんだ」
「今までも調査して無かったわけじゃないよ?冒険者の館で情報調べてたし。雲を掴むような話だったからね。あとは~…スコールを倒した相手も調査しておきたいかな」
「そう、あれは何だったの?」
クロードもスコールの規格外はよく知っている。あのスコールをあそこまで痛めつける相手が何者かは知りたいところだった。
「空飛んで移動している時にあの子達におおよその情報は貰ったけど」
「ど、どうやって?」
「何となく?」
「……ま、まあ良いや。で、その、どんな情報だったの?」
何故か「くーん」「わおーん」「わふ」と鳴く子狼の言葉を解するルーシュに対し、クロードは取りあえず話が通じているとして話を先に進める。
「西の大きい森林の奥にあるエルフとかドワーフとか獣人とかいろんな人が住んでる町を襲撃した顔の見えない男がその村を滅ぼしたから、腹が立ってやった。後悔はしてない。いつかやり返してやる。…みたいな感じな事をスコールは言ってたよ。人は殺すなって言ったのに……まあ、返り討ちにあったから殺してはいないそうだけど……」
肩を落とすルーシュ。
「顔の見えない男?」
ふとクロードは昨日話していた内容と合致して気になる。もしかしてソフィアの口にしていたシルヴィオ・ハイドリヒという仮面の聖人ではないのかと。
「顔の特徴を聞いたけど分からないって」
「ああ、そういう事か。って、村を滅ぼした?」
「みたい。詳しくはよくわかんなかった。ただ…魔法の痕跡からして……光の魔法か炎の魔法だと思う。エネルギーを集中させるような魔法だったと思うから」
「火の魔法って、ルーシュの魔法みたいなことが出来るの?」
「やろうと思えば出来るんじゃないかな?僕には無理だけど」
「む、無理なんだ」
クロードは言われてみるとルーシュの使う魔法は聖なる魔法、ルーシュが言うには光の魔法しか使っているのを見たことがない。高等魔法なのは確かだが、何故ルーシュはそのような魔法を使うのか聞いた事が無かった。火の魔法や水の魔法といった属性魔法の方が簡単だった筈だ。
「そもそも魔法ってシャイターン様が精霊を行使するのを分かりやすくして人類に教えた術法だって話なんだ。だから、魔法っていうのは僕ら魔王家をまねたものであって、決して魔王家が使うように作られていないってのが本当らしいんだけど……くっ、学校の授業で魔法が出来ないとバカにされるのだけは勘弁ならん」
「あはははは、ルーシュ、魔法の勉強ダメだったんだ」
「ううう、精霊にエンガチョされるクロードだけには笑われたくなかった」
魔法を受け付けない体質のクロードもまた魔法は苦手なのだ。
「で、クロードはどうするの?」
ルーシュはクロードが何をするつもりなのか確認をする。ソフィアと2人でセドリックに何を訴えに行くつもりなのか首をかしげていた。
「ソフィアさんと一緒に王様のところに行く積もりだよ」
だがクロードから返ってきた答えは全く内容の無いものだった。
「そうじゃなくて……あのソフィアさんと何をするつもりなの?ちゃんと考えを持って行った方が良いよ。セイは一々子供の相手なんてしないと思うから。何を成す為に、何の許可が欲しいのか、そういうのをハッキリしないで行くと、相手にしないと思う。自分がする事で、結果として何が起こりそうか、よく考えると良いよ」
「!………そう…だね」
ルーシュの助言にクロードはハッとする。クロードは自分がどこか国王陛下を近しいアドバイザーのように感じていた。だがクロードは冒険者になったが、イヴェール国民とイヴェール国王と言う立場であり、馴れ合っていい存在ではないのだ。
「逆に言えば、…クロードは冒険者なんだからセイの言葉なんて聞く必要もないのだけどね」
ルーシュの言葉に、クロードはあまりに当然なことに驚きをもつ。
「………ルーシュは強いね」
「?……よくわからないけど、頑張ってね~」
クロードは痛いほどに理解したのだった。目の前で不思議そうに首をかしげているルーシュが魔界の君主だと言う事実を。
ルーシュはセドリックと足並みは揃えても、異なる立場である事を理解していた。もしもセドリックがルーシュに異を唱えるならば、ルーシュは堂々と敵対する方向に回るだろう。
それはクロードには考えられない事だった。
そしてこの日を境に、ルーシュとクロードは別の動きをする事となる。
これによりルーシュは本格的に諜報員としての仕事から離れる事となったのだが、やはり、それはクロードには知る由も無かった




