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勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
第3章 ミストラル王国迷走
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ハティとスコールの散歩

 ハティとスコールはいつもの様に散歩をしていた。

 森を越えて、川を渡り、ガイスラー帝国領と書かれた看板を越えて走っていた。


 2頭は街の中を歩き、街の人々に撫でて貰い、嬉しそうに尻尾を振っていた。稀に肉などももらったりしていた。

 この領は非常に景気が良いようで、野良犬と思しき2頭にも優しく接してくれる。無論、凶暴な犬であれば態度も変わるだろうが、この2頭の子犬然とした狼は基本的に人を襲わないし、子供に撫でてもらおうとじゃれて行くだけなので問題は無かった。


 平和で、どこか素朴で、少しだけ賑やかな町並の公園。

 2頭は日向ぼっこをしていた。偶に見かける子供が遊びに来て撫でてくるので、頭をちょっと持ち上げて撫でてもらう。

 2頭は本当に平和そうにしていた。



 だが、突如、そんな平和な町に異変が起こる。

 ズーンズーンと大きい足音が鳴り響く。

 長閑な町が急に慌しくなっていく。

 さっきまでハティの頭を撫でていた子供も、親に手を引かれて走り去っていく。

 ハティとスコールは周りで何が起こっている分からず、不思議そうに辺りを見渡していた。北の方へと逃げるように走る人々。

 2頭としては、自分達から逃げないのに、何で何かに襲われた様に逃げているのだろうと不思議そうに首をかしげていた。


 2頭はとてとてと小走りに歩いて南側の街の外の方へと向かうと、見た事の無い人間と変な生物とは思えない巨体が立っていた。


 ハティはジトとその巨体を見て、即座にそれが魔法生物であると判断する。体長10メートルを遥かに超える岩石で出来た巨大なゴーレムの巨人兵100体が壁のように並び、その背後には武器だけ持っている獣人族が1000人以上も隊列を組み、そしてその背後では騎馬に乗る甲冑姿の人間族が10人ほど控えていた。

「貴様ら!この町は憎きガイスラー帝国の領土だ!町は焼き、男は全て殺し、女は陵辱しろ!我らミストラルの力を見せ付けるのだ!」

「国王陛下万歳!我らハイドリッヒ様万歳!」

「我ら聖剣騎士団がこの悪しきガイスラーを平定するのだ!」

 偉そうな銀の甲冑を着た男が輝く剣を掲げて叫ぶ。

「「うおおおおおおおおおおおおっ」」

 ミストラル方面からやって来た騎士団たちは声を上げて攻め立てる。


 ハティとスコールはたまに遊びに行って構ってくれる住民のいる町を滅ぼそうとする一団を確認する。彼らもまた感情のある神狼である。ご贔屓さんを滅ぼすような連中を見逃すようなことはしなかった。


 白銀の体を翻して、ハティが凄まじい速度で戦闘を行く巨大なゴーレムを叩き壊す。

 スコールは雄叫び(ウォークライ)を上げて兵士達を止める。

 そしてハティとスコールは凄まじい速度で100にものぼる巨大なゴーレム達を砕いていく。


 圧倒的な速度で、実に1分も掛からずに、スコールとハティはゴーレムを全滅させていた。

 それを見た兵士達は一気に意気消沈する。彼らは目の前の2頭の獣に戦慄していた。どうみても毛色の綺麗な子犬である。以前も、ガイスラーにばれないように奇襲を仕掛けた際に、この2頭の子犬に侵攻が止められたという噂が存在していた。

 まさかと思っていたが本当だったとは信じられなかった。


 2頭はガオッと威嚇すると兵士達は腰が引けてしまう。

「ええい!獣人ども!何をやっているか!そんな子犬風情に怯えるな!行かねば我らが貴様らを背後から殺すぞ!」

 背後に立つ人間達が怒声を上げて、戦へと駆り立てる。

 獣人達は周りを見て、そして背後の騎馬に乗った人間を見て、怯えるようにして前へと侵攻を開始する。

 戦意のない敵が怯えるように自分達へ来るので、ハティとスコールも若干戸惑ってしまう。

 だが、お気に入りの住民がいる町を襲わせてあげるほど、2頭は甘くないのだった。

 ちょっと撫でられただけで味方をしてしまう程度にはちょろい子犬達である。知能は高くとも所詮は1歳児である。

 そして、母フェンリルやルーシュに不殺の命を受けているのも理解している。新たに覚えた殺さない程度のアタック攻撃によって敵を次々と撃退して行く。


 ハティもスコールもちょっと調子に乗っていた。

 相手は人類である。モンスター以下の雑魚が何千何万と来ても、たかが知れていた。動きが遅いので、攻撃してきても欠伸をしながらかわせる相手だ。

 そう、その油断が、2頭の虚を突いた。


 閃光が迸る。


 刹那、2頭の背後にあった街が瞬時に爆発し、炎に覆われるのだった。そして轟音と悲鳴が響き渡る。

 ハティやスコール達は何が起こったのか理解も出来ず背後の町を見て呆然となる。

 嗅覚や聴覚に優れた2頭は、聞こえてくる声を敏感に聞き分け、漂う匂いを嗅ぎ分ける事が出来る。

 さっきまで自分達を優しい言葉を掛けてくれた人間達の声が、苦しみと嘆きの声に変わっている事を。

 さっきまで自分達を撫でてくれた手の臭いが血と焦げた肉の臭いに変わっている事を。

 スコールは瞬時に何者がやったのか光を放った者を睨む。


「何をやっている!兵士共よ!そのような犬とじゃれ付く暇があるなら進軍し、あの街を滅ぼすのだ!進め!殺戮の限りを尽くし、略奪の限りを尽くし、ガイスラー帝国の町を滅ぼし、我ら栄光なるミストラルの旗を掲げるのだ!」

 軍隊の最後尾に立つ、鼻や耳が隠れるような仮面をつけた黒髪の男が怒声を上げて軍隊を駆り立てる。

「おおおおおおおおおっ」

 兵士達は慌てたように走り出す。スコール達が襲ってこようと無視するように走って町へと略奪へと進む。

 ハティもスコールも戸惑ったように周りを見渡すしか出来なかった。


 だがハティは直に気を取り直して、倒すべき敵を睨みつける。一番後方に立つ仮面の男だ。ルーシュに似た光を放つあの男は危険だと判断し、一気に襲い掛かる。ハティはスコールと違ってよく言えば賢いが、悪く言えば狡猾。

 ルーシュや母が見ていないのだから、敵ならば人類だろうと殺したって問題ない、バレなければいいし、理由があれば後で許してくれるだろうという打算を持つ子である。

 ハティは自分達に優しくしてくれた人間達を滅ぼそうとする敵に襲い掛かる。

 金剛石をも砕く鋭い牙で敵の首を刈り取ろうと仮面の男へと飛び掛かる。

 仮面の男はその攻撃をかわすのだが、すっぽりと頭を覆っていた仮面が欠けて、隠されていた長い耳が露になる。

「!」

 だが、ハティは自分の動きに対して、人類如きがかわせるとは露ほどにも思って無かった。

 男は仮面の奥に宿る黒く濁った瞳でハティを捉える。そして右手をハティに向ける。ハティは着地したばかりであるが、人間の攻撃等遅いだけなので油断していた。

光撃レーザー

 莫大な光のエネルギーがハティを襲う。

 ハティは想定していなかった。人類の攻撃が自分達の速度を上回るなんて事を。完全な慢心が自身の命さえも無防備にさせていた。

 仮面の男の放った攻撃は、ハティの命を奪うほどの莫大なエネルギーであると感じて、ハティは人生において初めて恐怖を感じて目を閉じてしまう。


 だが、同時に、ハティに何かがぶつかって、ハティは横に吹き飛んで転がる。


 ハティは何が起こったか理解できなかったが、まだ生きている事をを認識し、急に横から来た攻撃のお陰で命が助かったと安堵する。ヨタヨタと立ち上がり、何で自分が助かったのか、不思議に感じて、自分の元のいた場所を見る。

 すると、そこには血塗れで倒れている金色の毛色をした双子の子狼が倒れていた。

「わうっ!?」

 ハティは、スコールが自分を助けてくれたのだと察して愕然とする。目の前のスコールは体の一部を欠損し、ぐったりと倒れ、右前脚や腹から血がドクドクと流れている。


「死ね、このモンスターが」


 仮面の男は光の魔法をさらに使って、自分の邪魔をしたスコールへ止めを刺そうとする。

 ハティは慌てて走り、スコールの首を口で咥えると、必死にその場から逃げる。背後から凄まじい光の攻撃が襲ってくるがそれをかわしながら敵の射程の外へと逃げる。


 ハティは大森林の奥まで逃げて、敵の追っ手がないのを確認すると、スコールを地面に降ろす。スコールは息は荒く体は全く動かせない状況にあった。右前脚は失われ、腹が抉られるように穴が開き、大量の血は止まりそうになかった。

 ハティはスコールが致命的な状況なのを察して、如何すればいいか混乱していた。

 スコールの周りをうろうろして、どうしようどうしようとばかりに悩んでいた。ハティは、自身の半身でもある双子の狼の絶望的な状況に、かつてない混乱をしていた。どんなに賢く生まれてきても、所詮は1歳児である。

 スコールはグッタリと倒れたまま起き上がれそうに無い。このままでは死が待つだけだ。

「くーん」

 ハティは情けない声で鳴き、眼元を潤ませる。

 スコールは眼を開けて心配しているハティを確認する。

「わう…」

 スコールは心配するなよ、と鳴き声をかけて見せるのだが、ハティの心配がなくなる様子は見られなかった。

 ハティは困っていた。こういう時は如何すれば良いのか分からなかった。そもそも自分達が負けるなんて考えた事も無かったのだから。


 誰かが治してくれればと考えるが、そんな都合のいい存在は……


 ハティはそこで気付くのだった。自分達の親友は怪我を治す事に掛けては母よりも長けている事を。

 少々遠出をして全力で駆けて2~3時間は掛かってしまうが、それでもスコールの体力ならギリギリもちそうだ。ルーシュの元へ駆けつけるのが一番だと直に判断する。

「くーん」

「わふ……」

 ハティは暫く嚙んで抱えるから我慢してよと断りをいれ、それにスコールも頷く。スコールに傷がつかないように遠慮気味に嚙んで持ち上げる。

 ハティは走る。

 大事な自分の半身を守る為に、親友のいる遥か西へ。

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