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勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
第3章 ミストラル王国迷走
81/135

勇者は空回った

 イヴェール王国の玉座の間に1人の勇者がやって来ていた。

 玉座へと続く階段の下で、赤いカーペットの敷かれた場所に女性勇者がひざまずいていた。

「よくぞ来た、リヴェルタの勇者ソフィア・ロサ・ディ・モンテゼモーロよ。余がイヴェール王国セドリック・イヴェールである」

 イヴェール王国最大権力者の椅子に座る男は、王衣を纏う銀髪碧眼の若き国王は、玉座の上で足を組み、王冠を指で回しながら、勇者を見下ろす。

 長い銀髪を後に束ねた碧眼の勇者は、銀の胸当てを纏い、腰には白金に光る美しい剣が差してある。

「して、今日は何用で余の前に参った?」

「はっ…この度は陛下の御前におかれましては…」

「前置きは良い。私も若い頃は冒険者をやっていてな。無駄な時間は省く主義だ」

 セドリックは、教会育ちの勇者が、王様に出会った際に使う長い美辞麗句を喋ろうとしているのを察してさっさと斬り辞めさせる」

「それでは…この度は北部大陸神聖教団総本部聖人シルヴィオの名代として参りました」

「…北部大陸神聖教団総本部というとミストラルに移転したという?」

 セドリックはソフィアの言葉を聞いて眉根に皺を寄せる。

「貴国は勇者ノイバウアーを不当に扱い、貴国のラフィーラ教が偽勇者を仕立て上げ、バエラスを騙る悪しき魔族により扇動された人民は罪なき一般市民を火に焼いたと聞きます。貴国はそのバエラスを擁護しているとも。神聖教団は貴国の振る舞いに対して遺憾の意を表し、貴国に弁解を求めています」

 ソフィアは淡々と伝えるべき言葉を伝える。

「弁解?くっ……はははははっ!さすが神聖教団。ここでこう来るか。なるほど、さすがは神聖教団。弁解だと?先手を打てば何もなくなると思ってるのか?くははははっ!」

 セドリックは腹を抱えて大笑いする。

「なっ…へ、陛下。そのような振る舞い、私は神聖教団の勇者として許容できませぬよ!」

 ソフィアはセドリックが神聖教団を明らかにバカにしている様子を見て、怒りをこみ上げさせる。

「くはははっ…すまぬすまぬ。許せ。いや、何、貴殿も面倒な事を押し付けられたな。ミストラルの神聖教団はそう言ったのか。なるほど。……まさか…いや、ウチの死んだ兄上と良い、どうしてこう、自分の思い通りにいかないと無理を押し通そうとするのかね。しかも自ら主犯ですと名乗り上げるとは…」

 セドリックは笑いすぎて目元に涙を浮かべて腹を抱えていた。

「へ、陛下!それ以上、我が神聖教団を侮辱するならば、勇者の権限を持って陛下と相対する事になりますよ!」

 ソフィアは腰を浮かして刀に手を掛ける。

「やめておけ。出来もしない事を口にするな。底を知られるぞ?」

「!」

 相手が勇者であっても全く動揺しないイヴェール王国の国王にソフィアは驚きを見せる。

「さて、どう説明したものかな」

「その弁解はミストラルへお願い致したいのですが」

「ミストラルに弁解をする事など無い。奴らは何もかも知っているのだからな」

「陛下はお認めになると?」

 ソフィアはキッとセドリックを睨みつける。

「?……何を?」

「貴国が勇者ノイバウアーを不当に扱い、貴国のラフィーラ教が偽勇者を仕立て上げ、バエラスを騙る悪しき魔族により扇動された人民は罪なき一般市民を火に焼いたという事です!」

 しらばっくれようとしているのかと勘違いしたソフィアは強くセドリックに対して詰問する。

「勇者ノイバウアーは我が国の貴族を手に掛けようとし、200年前の勇者によって封印されていたモンスターを解き放ち、この国を滅ぼそうとした事か?」

「なっ……何を馬鹿な事を!勇者ノイバウアーがそのような事をする筈が」

 セドリックのあまりな言い方に、ソフィアは声を荒げて抗弁する。

 勇者に選定された者が、そのような利己的な行為をする筈がないと妄信していた。

「ほらな、話し合いにならないだろう?勇者はする筈が無い?バカを言え、貴様ら神聖教団は他の宗教や獣人や魔族の言葉なんて聞かないだろう。勇者も同じだ。俺達なんて踏みつけようが何も思わないじゃないか。弁解しろと言ったな?弁解を聞く気の無い奴に何を弁解するというのだ?」

「!」

 ソフィアはセドリックの指摘に言葉さえ出せなかった。

 勇者を犯罪者扱いした事を不当と言うなら、勇者が犯罪をしたという国家の弁解等誰も聞かないだろう。

 互いに話を聞かないもの同士が話し合うなど不毛な事だ。

 無論、外交の問題上、話し続けてどこかで妥協点を得なければならないが、セドリックからすれば武力で攻める気満々の相手に話し合いをするのは非常に面倒な事だった。

「そもそも神聖教団と裏で手を結んでいたラフィーラ教会の枢機卿が、魔族を殺せと大衆を扇動した。ラフィーラ教が魔族を焼くなんてありえない発想だ。扇動した枢機卿の裏にいたのは、神聖教団正教の人間だった所までは掴めていたが、生憎、とっ捕まえた際に他の教団の人間に口止めで殺されてしまったがな。それを俺にどうやって神聖教団に弁明しろと?お前らが裏で手を回してんのは分かってんのに、我らは貴方達のいう悪い事はしてませんなんてバカな事を言わせたいのか?」

「そ、そんな筈はありません。バエラスに扇動されて民が暴動を起こしたとミストラルではニュースになっていましたし」

「はっ……自分達の関与を消せばそうなるさ」

 呆れて物もいえないと、セドリックは肩を竦める。

「神聖教団がそのような事をする訳が…」

「お前らはいつもそうだろう?だから会話なんてするつもりはないんだよ。一方的に押し付けて、自分の正しさに証拠を持ち出さず、こちらの証拠は全て捏造と言い張る。会話にならない連中と会話をする予定はない」

 ソフィアも言葉を継げなくなる。

 彼女も勇者として活動し、長らく神聖教団の使徒として活動をしていたが、元はリヴェルタという思想の自由を許された国民である。

 その為、宗教の領分がどこまであるべきかは理解している。

 そしてソフィアはセドリックの言葉に対して、言われてみれば何の証拠もなく自分が妄信していた事に気付かされてしまう。

「確かにバエラスの扇動ともいえるかもしれないがな。焼かれる魔族を前に、魔王の血を引く自分が全ての罪を引き受ける、魔族は何も悪くないから手を出さないで欲しい。10代半ばの罪無き子供が、その気になれば目の前の人間を皆殺しできるにも関わらず頭を下げて懇願したんだ。だから民が奮い立った。それを扇動と言うなら扇動と言えば良い。自分の思い通りに行かない事を全て悪とする宗教なんぞに俺も屈するつもりはない」

 セドリックは殺気に近い威圧を勇者に込めて、強い視線で睨みつける。

 ソフィアは俯いてしまう。何よりも、セドリックから嘘の気配が微塵も感じなかった。とはいえ、国王なのだから平気で嘘を吐くだろう事をソフィアも理解しているので、王の言葉に判断がつかない。

「貴殿はどうも頭が固すぎるな。自分で何かを知ろうとは思わないのか?この国で何が起こったかなどいくらでも客観的に知る事が出来よう。現場にいた民はいた。冒険者の館だろうが、隣町だろうが、行商人だろうが、いくらでも情報を得る機会はあったはずだ」

 セドリックは溜息混じりに彼女の失態を指摘する。

「あ」

 ソフィアはその指摘の正しさに思わず間抜けな声を上げてしまっていた。

「無論、貴殿のように聞き分けの良い木偶の方が神聖教団は使いやすいから楽なのだろう。逆に賢くなりすぎて神聖教団に邪魔者として処分されかねぬ。勇者になったのであれば、何をしたいのかはっきりと物事を考えて動け。目先の事ばかりに囚われ、偉い人の言葉を是として動いていると、自分が何をしでかそうとしているかも理解できずに、無辜の民を犯罪者として滅ぼし、それに気付かず自分は正しい事をしたと自己満足をして生き続けるだろう」

「…」

 何も知らず、何の事情も聞かず、神聖教団の偉い人に言われて、義侠心に駆られて邪教を信じる小国の国王を処断するつもりでソフィアはやって来ていた事に気付き、セドリックの言葉によって、自分の愚かしさに気付いてしまう。

「先に言っておくが……俺は冒険者時代に神聖教団から勇者に誘われたことがある。下らぬと断ってやったがな。勇者なんぞ、所詮はその程度のものだ」

 あっさりと言ってしまう国王の言葉に、勇者に選ばれて有頂天になっていた自分に冷や水を掛けられた気がして、ソフィアは恥ずかしくなってしまう。

 悪逆国王を断罪するつもりでやってきたのに、自分の世間知らずを思い知らされる羽目になってしまったのだった。




 冒険者の館にて、ソフィアは幼馴染のメイドであるパトリシアと落ち合う。

 ソフィアは、イヴェール国王に厳しく言われて意気消沈して戻り、パトリシアに事のあらましを説明する。

「まあ、確かに勇者様も、ミストラルの胡散臭い将軍の話や、神官のお涙頂戴な話に涙ぐんで、必ずやイヴェールをなんたらかんたら、とか言って出て行き、イヴェールの調査もせずに乗り込んだのが悪いんですけどね」

「し、しかし、態々、バエラスを騙る等、尋常ではないだろう。バエラスという名は、人間側に立った振りをする魔族の常套手段だろう?」

 手をバタつかせてソフィアはパトリシアに訴える。

「あの差別の激しいミストラルが、多くの民を焼いたイヴェールを非難する時点で怪しいと思いませんでしたか?」

 そもそもミストラル王国では近年差別が激しいらしく、魔族を焼いてもどうとも思わないような国になっていた。西の大陸の神聖教団自由派という西方教団だけである。

 ミストラルの神聖教団の宗派は神聖教団正教と呼ばれる教祖アウロラの教えをそのまま守る宗派で、これは魔族を殺す事に何も思わないような宗派である。

「し、しかしだな。ノイバウアー殿はグリフォンを討ち果たし、1つの町を救ったという立派な勇者だろう。彼を犯罪者としてミストラルに送ったこの国が怪しいのは確かだ」


 そうだろう?


 ソフィアはフンと鼻息を荒くして体をのめりこませるようにしてパトリシアに訴える。

「まあ、ソフィア様は平和な国で真っ当な方法で勇者になってますからね。むしろ勇者の乱暴狼藉なんてよくある話ですよ?」

 パトリシアはあっさりとソフィアの妄信を指摘する。

「バカな!」

「ソフィア様がいない間、ノイバウアー様のした事の裏を取りました。彼はこの国の北部にある封印を解いてアルゴスなる山の様に巨大なモンスターを復活させたらしいです。同行して被害にあった冒険者はかなりの人数が亡くなったとか。その際に山のように巨大なモンスターと戦ったのが、件のバエラスとこの国の民に勇者と呼ばれている少年だそうです」

「それは本当なの?」

「当事者が話してしました。ノイバウアーがその際に貴族を殺そうとしたらしいです。いえ、目撃者全員を殺そうとしていたようです。その際に、青髪のエルフの少女が魔法で退避させなければ全滅も免れなかっただろうとの事です。それに…バエラスが、逃亡した勇者の変わりに、巨大モンスターを1人で戦っていたとか」

「ば、バエラスってあの子供…よね?」

 アップルパイ売りの人畜無害な少年。魔王様ごっこでも楽しんでいるかのような態度には困らされたが、それ以外で言えばどこにでもいる子供だった。

「はい。あれ程の戦闘能力を持つ子供ならば、本物のバエラスに違いないと。山のように巨大なモンスターと戦っている際に、天地を揺るがす魔法を連発して山や大地を穴だらけにしていたと。でも…ノイバウアー達と違って、誰一人傷つけないようにひきつけていたと」

「………でも、その前、勝手にやられてたけど」

「今朝から屋台でアップルパイを売ってましたけど?」

 消えたり出てきたり、何者なのだろうかとソフィアは頭を悩ませる。

「……バエラスって不死身なの?」

「さあ…」

 200年前、勇者の侵攻を止めるべく、立ったまま命を落としたという武勇は有名である。バエラスの立ち往生といえば様々な噺で語り継がれていた。

 その子孫がアレというのは余りにも無体だ。まさか、実は当時のバエラスも生きていたという落ちがあったなら、伝え聞いた逸話の感動が台無しだった。

「と、とにかく、真実を調べなければなりません」

「真実をと言うなら、あそこに、先日勇者様に助勢したバエラスの知り合いがおりますが」

 パトリシアは冒険者の館で、新しい仕事を探している少年を指す。そこにはバエラスの知り合いと思しき少年がいた。同じく一緒にいた年端もいかない少女が仕事の紙を指差し、少年はその紙の内容を見ると顔を青ざめさせて首を横に振る。

 ソフィアは、何をやっているのだろうと思うのだが、そこでパトリシアが2人に声を掛けに行ってしまう。2人は素直にソフィアの方へと歩いてやってくる。



 ソフィアはバエラスが何の為にやって来ているのかという事を訊ねてみる。2人はどこまで知っているのかという事も含めてだ。

 クロードは美人勇者ソフィアに声を掛けられて、完全に舞いあがって友達を売る気満々でいた。マリエッタは長椅子に座りテーブルに体を出して、ジトと自分の勇者を見ていた。

「ルーシュ?うーん…社会勉強って言ってたけど。実際、最初に会った時は、一緒にいる子犬が勝手に店に並んでた品物を食べちゃって、無銭飲食扱いを受けて困り果てていた所だったし」

「は、はあ…」

 無銭飲食扱いされて困り果てるバエラスというのはどうなのだろう?ソフィアは突っ込みたい気持ちでいっぱいだった。

「一応、魔界の偉い人らしいですよ。魔王を叔父さん呼ばわりしてたから」

「?魔王?バエラスではなくて?」

 ソフィアもそこで、そういえば魔公王子だとか言っていた、と思い出す。

「えーと…確か、お母さんが魔王ルシフォーンの孫で、今の魔王の妹で、政略結婚でバエラスの息子と結婚して生まれた子…だったかな?そんな事を言ってたような気がする」

 クロードはこれまでの話しを統合して説明する。

「なっ……そんなものが本当だとあなたは信じているのですか?」

 だがその事実は、非常にインパクトがあった。

 グランクラブで最も名が売れている魔王とバエラスの血を引く子供だなんて出来すぎている話だ。うそ臭いというのがソフィアの感想だった。

「さあ、当人が何と無しに話してたし、……あれだけの力を見せられたらなぁ。まあ、嘘でも本当でもルーシュはルーシュだから関係ないと思うけど」

「あれだけの力?」

「北の山でアルゴスって言う、まあ何ていうか山みたいに巨大なモンスターが復活した時、ルーシュが1人で戦ってたし」

 クロードは思い出すように話す。

「……北の山で勇者ノイバウアーがそのモンスターを復活させたという話を聞きましたが、本当なのでしょうか?」

 ソフィアはクロードがその場にいた人物だと思って尋ねてみる。

「いきなりノイバウアーさん達のパーティが封印に攻撃を始めて、止めようとした貴族の人を刺したのは見たよ」

「……そ、それは間違いじゃなくて?勇者様なのですよ、ノイバウアー卿は」

「さあ見たものは見たし。アルゴスを倒して知名度を上げたいみたいな事を言ってたけど。まあ、あんなモンスターだって知ってたら手を出さなかったとは思うなぁ。あれは人類の戦えるモンスターじゃなかったもん」

 武勇を手に入れるためにモンスターの封印を解いて倒す。

 封印に怯える事もなくなり安全を確保できる事は喜ばれる事だが、国に無断で封印を解くと言うのは重大な違反だ。

 善意か悪意かはともなく、ノイバウアーが犯罪者扱いされるのは仕方ない事かもしれない。神聖教団を国教としているなら罪には問われないが、この国はラフィーラ教会の区画であると思い出す。

「アルゴスというモンスターを倒したのはバエラスだと。それはノイバウアー殿から名誉や武勇を奪おうとしていたのですか?」

「ノイバウアーさん達はアルゴスが復活した瞬間、ほとんどの人達がアルゴスに殺されて、生き残った人も逃げていたし。僕らはノイバウアーさん達の攻撃からルーシュ達が守ってくれたからどうにか早めに避難して生き残れたけど……。ノイバウアーさん達は戦う以前の問題だったと思うなぁ」

 クロードは当時を思い出す。武勇を奪うといわれても、戦うべき勇者が真っ先に半壊して、必死に逃げていたのだ。

「…そ、そんなに凄いモンスターだったのですか…」

 先日、ジャイアントマンモスを討伐した者がいたとか、テンタクルスが打ち上げられたとか、噂になって見てみたが、1万人くらいの軍隊じゃないと倒せないようなモンスターだった。その位のモンスターだったのだろうかとソフィアは感じる。

「まあ、止めを刺したのは、我等がラフィーラ教の勇者クロード様なのです」

 自慢するようにマリエッタは隣のクロードを指し示す。

「え?」

「しーっ!マリー。何、口走ってるの!?違う、違いますよ!?ぼくは断じて勇者とかじゃないですから!」

 クロードはマリエッタの方を見て口元に指を立ててシーッシーッと訴える。

「あ、貴方がもしかしてこの国で勇者を騙る人ですか!?」

 だが、ソフィアとてバカではない。この国に勇者を騙るものがいるという情報は耳にしていた。ソフィアはクロードが偽勇者だと知って強い視線で睨みつける。

「騙っていないのです!」

 プンスカ怒るマリエッタ。

「ちがっ、違います!僕、1度も自分が勇者とか口にした事無いですから。預言者様が勝手に認定したり、このシャトーの住民が勝手に呼び出しただけで、決して騙った事はないですよ!」

「でも、アルゴスを倒したのも、魔族を焼こうとする貴族に真っ先に異を唱えて立ち上がったのはクロード様なのです。もはや勇者と呼ばれておかしく無いのです」

「……け、結果的にそうなっちゃったけど、断じてぼくは勇者ではない。ちゃんと預言者様にも王様にもクレームしたもん!勇者って呼ばせるなって」

 拳を握って熱弁するクロード。

「貴殿がその…ノイバウアー卿さえも勝てなかったアルゴスに止めを刺したのですか?」

「え?…いやいやいやいや、あれは違うと…思います。ルーシュが散々叩いて弱らして、最後に僕が剣を刺したら死んじゃったってだけで。決して僕の手柄では」

 更に言えば、魔族を助けた勇者であるが、それも作戦通りに動かないでルーシュを助けた言い訳を遠くで見ていたアレッサンドロに叫んだだけなのだ。

 しかし、その言葉は民から聞けば隣人である魔族を見捨てようとする行動を非難した叫びとなって心に突き刺さった。結果として暴動へと発展したのだ。

 決して彼らを動かそうと思って叫んだ訳ではない。

「預言者とはあのラフィーラ教の預言者?神聖教団の教祖アウロラ様の母にしてクラウディウス皇帝を見出したという、あの?」

 ソフィアはゴクリと息を飲みクロードを見る。

「ふふん、そうなのです。預言者様は私の保護者で、クロード様を勇者として預言したのです。そしてアウロラ様とイザベラ様と同じく、私は預言者様に育てられてクロード様に仕えるように賜った神官なのです」

「嘘だ!預言者様に直接会った時に言ってたじゃないか。周りに振り回されて苦労する羽目になる星に生まれただけだって!マリー、今、自分が格好良くなるように都合の良い事だけを吹き込んだよね!?」

「バレたのです!?」

 クロードは激しく抗議すると、マリエッタも自分の言い分が余りに都合のいい無いようなのを自覚していたので、直に白状する。

「ですが、預言者様の遣いであるのは間違い無いのですか?」

「そうなのです。冒険者カードにも正式に記されてるです」

 マリエッタは自分の冒険者カードを見せる。


氏名:マリエッタ・R

冒険者ランク:E

ジョブ:精霊導師

所属:ラフィーラ教会

称号:預言者の遣い、聖人(ラフィーラ教会)


 それを見てソフィアは目を大きく開いて凍りつく。

 この称号はかつて神聖教団の創始者にして教祖アウロラとその双子の姉妹であるイザベラだけだったと認識している。まさか現代にそのような存在がいるなどとは思っていなかった。

「ほ、本物…」

「イヴェール王国限定でしか使えないしょっぽい称号じゃん」

「がーん、クロード様、酷いのです」

 マリエッタはぷうと頬を膨らませる。

 あの事件以降、預言者に直接頼まれた事もあり、クロードはマリエッタを連れて行動する事が多くなった。その為、どこか距離があったのだが今では仲の良い兄妹にも見えそうな距離感に変わってきている。

「驚きました。しかし……1つ聞いていいでしょうか?」

「?」

 ソフィアはクロードとマリエッタを見て不思議そうな表情で訊ねる。

「勇者といえば魔王を倒すと認識しているのですが、魔王っているんですか?」

「「さあ」」

 ソフィアの問いに対して、首を傾げるクロードとマリエッタ。そもそも現代は魔族の侵攻が無い。つまり倒すべき敵がいないのに勇者だけが預言されている状況だった。

 そもそも、ルーシュや預言者の言葉を聞く限りでは、当時は魔族の侵攻というのが一部の暴走した魔族のものであり、魔王自身は闘うつもりも無かったと言うのは事実らしい。

 今の魔王もいるにはいるが、ルーシュとレナにポンコツ扱いされている人だ。

 無論、ルーシュ以上の力を持っているというので戦って勝てるとは思えないのだが、戦う相手というよりは、友達の叔父さんというポジションでしかない。

「元々、私が北の大陸に来たのは、世界を覆そうとする魔王がいるという噂があったからです。世界中には魔王認定された魔族が何人かいますが、多くは人間と敵対している訳ではないのですが、北の大陸にいる魔王は多くの村を焼き、どこかの国の裏側で王を傀儡とし世界を滅ぼそうとしていると聞きます。私はこのイヴェールが怪しいと考えて来たのですが…」

 ソフィアは実情を話す。

「むしろこの国の王様だと魔族を倒して勇者になってしまいそうだけど」

 クロードは引き攣って呻く。

「この国の王は10年前ほどに国を乗っ取った冒険者だと耳にしてましたが」

 ソフィアの問いにクロードは首を傾げる。確かにその言葉は間違っていないが、正しくもない。

「国王陛下はこの国の第三王子で、一度は冒険者に身を落としたけど、第1王子を倒し王様になった、正統な王様だったけど。それはシャトーに昔から住んでた人のほうが詳しいかも。王様と王妃様は小さい頃は城から抜け出して、シャトーの街を散策していたらしいから。向かいの道具屋のおばあちゃんは2人と面識があるらしいし。少なくともセドリック王が偽りの王様って訳じゃないと思うけど。それに…王様は冒険者時代の身分が…まさか本当に……だったなんて」

「?」

 クロードは遠くを見て、ソフィアは首を傾げる。

「ソフィア様、そうなると怪しいのは我々に依頼を出した…」

 パトリシアはソフィアの耳に口を寄せて囁く。ソフィアはその言葉を聞いて、自分をミストラルとイヴェールで戦争を起こす為に送り込んだという可能性がある。

 これだけイヴェールとミストラルで情報が食い違うとどちらが正しいかは分からない。

 イヴェールの人間達は少なくとも当事者に出会えて話も聞いているが、それが完全な嘘とは思えなかった。ある程度の行き違いがあったが、今思えばミストラルで聞いた話は明らかに極端すぎて、イヴェールが悪の根源で国を恐怖で乗っ取り人民を支配する悪逆王によって支配された国のように言われており、ミストラルとしてはどうにかしたいと訴えていた。

 だが、ミストラルの首都とイヴェールの首都は口とは逆で、ミストラルは何か強者によって支配された不自由で活気の無い殺伐とした雰囲気で、イヴェールは自由で活気のある雰囲気があった。

 奴隷商船が多くミストラルから出ているとも聞く。

「情報感謝する。それでは私達はそろそろ暇としよう」

「え、えー。も、もう少しお話しませんか?」

「クロード様!」

 シャーッとマリエッタは怒声を上げる。

 クロードとしては同年代の美人と話すのが余りに新鮮だったので名残惜しかったのだ。レナと違って、彼氏持ちでないのもポイントの高い相手であった。




 ソフィアは宿に戻る。

 部屋に入ると、部屋についている風呂場へ向かい汗を流す事にした。

 体を拭き、バスタオルを巻いて自室に戻る。そんな折、外を歩いていたパトリシアが戻ってくる。

「どうだった?パティ」

 髪を乾かしながらソフィアはパトリシアに事情を尋ねる。パトリシアは外で情報を集めてきていたのだ。クロードの情報が嘘偽り無かったかの裏取りである。

「クロード様の言葉は間違いないようです。セドリック王と現王妃は幼い頃にこの町にお忍びで遊びに出ていたようです。今の国王が偽りであるなんてありえないと多くの住民から証言が取れました」

「やっぱりそうなのか」

 うーんとソフィアは考え込む。

「肖像画が残ってますが、確かに第1王子や第2王子よりも、セドリック王の方が、歴代の国王様に似ていますし。セドリック王は現王妃が第2王子との婚約を聞いた直後に出奔しており、どうも失恋のショックで家出をしたのではなんて話を聞きましたが」

「はた迷惑な王族だな…」

 だがあの王様らしくない振る舞いからしても、その行動がなんとなくしっくり来てしまう。

「お忍びで出かけていた頃、愛称をセイと呼ばせていたようで、冒険者時代もセイという名だったそうです。セイ・レ・ビスコンティ、伝説の冒険者、ファルコン便やチケット制会社の創始者で、ダイヤクラブの元幹部、傭兵団オリハルコン副団長が、どうもイヴェール国王だと。公にされて無いらしいのですが、この都市では公然の秘密だと」

「!……あのセイ・レ・ビスコンティが、セドリック・イヴェール陛下!?本当に?」

「マジです」

 驚きの声を上げるソフィアに対して、きっぱりとパトリシアは断言する。

「……」

「実際、セイ・レ・ビスコンティの冒険者としての活動期間とセドリック・イヴェールの失踪期間が丁度重なってます。セイ・レ・ビスコンティの肖像画とセドリック・イヴェールの肖像画は同じですし」

「リヴェルタの英雄が、まさか魔王に組するとは考え難いな。グローリア様とも懇意だったと聞いていたし……」

 ソフィアは本気で考え込む。

「どうやら勇者様。今回の件、身内の神聖教団に敵がいる可能性が大きいかと」

「……可能性は高いな。だけどあの立派な神官様方……それに今回の件は聖人様が……」

 ソフィアは思い出す。

 セドリックに最後に言われた言葉、そして彼が昔勇者に誘われたという言葉。

「陛下は、セイ・レ・ビスコンティという偉大な先輩冒険者として、私に助言を与えてくれていたのか」

「勇者様はちょっと猪突猛進で危なっかしいですからね」

「うぐ」

「リヴェルタは真っ当な情報を手に入れられますが、今回のような策謀が入り乱れると躍らされかねませんし」

「似たような事を陛下に言われたよ。そうか、陛下から見ても危なっかしいのか。とはいえ…」

 ソフィアは風呂上りだというのに、冷たい汗を感じる。

 ソフィアが国王の前に帯剣を許されていたのは勇者だからかと思っていたが、あの国王は最初から自分が襲いかかっても軽く勝てる自信が最初からあったのだ。

 セイ・レ・ビスコンティといえば、現在の冒険者の中でも屈指の猛者で、過去に違法活動をしている勇者を斬り殺している怪物である。

 新米勇者であるソフィアなぞ、相手にもならないだろう。

 更に言えばセイ・レ・ビスコンティという冒険者は、ソフィアの師匠でもある元勇者にして神聖教団自由派のトップ、聖方教団教祖グローリアと友人に当たる。

 彼女曰く、勇者よりも世界に貢献している偉大な冒険者であると。

「もう暫く情報を集めて、国王陛下と謁見して報告した後、ミストラルに戻ります」

「それが良いでしょう。いくら勇者様が猪突猛進のオバカさんでもここまで馬鹿にした事をミストラルでほくそ笑んでいる者達に眼にものを見せてやろうじゃないか」

「だ、誰が猪突猛進のおバカさんですか!?」

 パトリシアのあんまりな言葉に、ソフィアは涙目で訴える。

今回、ルーシュは出てません。

前話では、ルーシュは滅んで終わりました。果たして彼はどうなっているのでしょう?

次回に続く。

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