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勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
第3章 ミストラル王国迷走
80/135

狩猟大会の行方

 辺り一面を緑で覆いつくすシャトー北部の平原では植物系モンスターが多く繁殖していた。

 背丈より高い人喰い植物は特に繁殖力が高く、切り殺しても、燃やしても、冬を越えれば種が芽吹いて新たなモンスターが現れる。

 大地で一定の栄養を受けると地面から湧き出す強靱な生命力の所為で、イヴェール王国北部の川沿いに、大きい都市が存在しないのはそういった理由である。

 そして植物系モンスターは肉食である為、当然だが草原にいる草食動物を食う。

 この平原最強のモンスターは肉食植物系モンスター、キングマンイーターである。

 巨大なハエトリグサのような植物は頭に黄金の花を開く。この花の蜜は非常に高価なポーションの材料に使われている。頭の花が王冠に見えるのでキングマンイーターとも呼ばれるゆえんである。だがハエトリグサの姿をしており、実際に口を開いて人間だろうがモンスターだろうが食い散らかす。だが、このキングマンイーターはハエトリグサと違って罠を張って相手を食うのではない。自ら首を伸ばして捕食するのだ。


 勇者クロードはロベールから降りて鋼の刃を右手に持ち、キングマンイーターと対峙していた。

 ロベールはマリエッタを乗せて、マンイーターから距離を取る。

 マンイーターは巨大な口にも見える二枚の葉を広げてクロードに噛み付くように襲い掛かってくる。

 クロードは魔力を体に循環させて人類の速度を超えた速度で動き、マンイーターの攻撃をかわし鋼の刃でマンイーターに攻撃する。しかし傷がつくも牛の胴ほどもある巨大な茎を切断する事は叶わない。

「クロード様、風の攻撃がそっちに行くのです!」

 マリエッタは風の精霊に声をかけ攻撃準備を開始する。

「分かった!」

 クロードは相手をひきつけつつ、マリエッタの方へ行かないようにしつつ、マリエッタの準備が追えると慌ててキングマンイーターから距離を取る。

「風の精霊よ!あの植物に風の刃を」

 マリエッタの命令によって風の精霊達が一斉に動き出し、辺りに風が吹き荒ぶ。風の刃が形成されて、キングマンイーターの体に無数の刃の攻撃が襲い掛かる。


 精霊術は人間や魔族の魔術師は使えない。精霊の声を聴く事が出来る亜人種のみが可能な技術である。マリエッタはエルフの血を引き、エルフ以上に風の精霊の感受性が高く、風の精霊を目で見ることが出来るからこそ、人間として生まれながらも精霊術を可能にしていた。


 しかし、刃が茎や葉を捉えるが、大きいダメージは与えられない。キングの名は伊達ではないと言う事だ。

 クロードは魔力を循環させて向上された身体能力によって、高々と飛び上がりキングマンイーターの頭の上にある花を切り落とす。

 クロードの愛馬ロベールはマリエッタを振り落とさないようにゆっくりと加速しながら、落ちた花に向かって走る。マリエッタは落ちてきた自分の頭より大きい巨大な花を見事にキャッチする。

「撤収!」

「なのです」

 クロードの号令でマリエッタは大きな花を抱え込みながらロベールに強くしがみ付く。

 ロベールは疾走し、クロードの方へ駆け寄る。

 クロードはロベールに飛び乗ってマリエッタの後ろに座ると、ロベールに合図を送って全速力で逃亡する。

 高値になるのは花の蜜であり、それ以外には興味が無い。実はこのキングマンイーターがいつまでも駆逐されないのは冒険者が倒すには強すぎるが、花の蜜を奪うだけならそこまで困る事が無いからである。

 それでも、2人でキングマンイーターの花の蜜を得るというのは中級冒険者の域に達する必要がある。クロードは着実に力をつけていた。




 翌日、冒険者の館で、クロードはルーシュと落ち合う。手に入れたアイテムから冒険者の館で査定を受けてから、誰が勝者になるのかを心待ちにしていたのだった。

「どう、このキングマンイーターの花を!もはや僕達の勝利と言っても過言では無いのだろうか?」


 クロードは近年の自身の成長に自信をもっていた。勇者といわれてチヤホヤされている事が理由ではない。弱くて何も出来なかった頃とは違う。近隣の初級モンスターならば1人で対処可能で、マリエッタやロベールと一緒に組む事でたった2人と1頭で中級モンスターを対処できるようになったのは一重に大きい進歩だろう。

 アレッサンドロやセドリックの教えによって、幼い頃より受けていた教育が実をつけたといえるだろう。滅ぼされた村では、魔法を教えてくれた魔族の師匠、狩猟を教えてくれた犬人の師匠を持って、様々な戦闘技能を学んでいた。


 だが、ルーシュは眉を垂れ下げてクロードの方を見る。

「それがさぁ、困った事になっちゃって」

「困ったこと?」

「今、冒険者の館にいる職員さん達に査定をお願いしているんだけど、どうも今日や明日で査定ができなさそうでさぁ」

「査定に困る?」

 クロードは理解できずに首を傾げる。

「まあ、査定中の場所に行けばわかるよ」




 最初に辿り着いた場所は港だった。

 港は人でごった返していた。

「ふははははは、我こそはレヴィアたん!そう、そこで我は奴を水の刃で切り刻んでやったのだ!逃げる奴を我は水の檻を構成し、迫り来る奴を…」

 レヴィアは集っている大衆の前で、海の守り神として有名なレヴィアたん像と呼ばれる自分そっくりな石像の上に乗って、身振り手振りで自身の武勇伝を語っていた。

 レヴィアはルーシュを見つけると自分そっくりな石像の上でピョコピョコ飛び上がり

「どうじゃ、ルー君!勝負は我の勝利じゃろう」

 と高らかに笑う。

 クロードはその言葉を聞いて視線を港の人だかりの方へ向ける。

 そこにはテンタクルスの死体がいた。体長にして100メートルを優に越す巨大なイカだかタコだか分からない海棲生物だった。

 周りにはそれを大急ぎで解体している冒険者協会の職員がいる。

「こんな見事なテンタクルス、100年に1匹見れれば良いほうじゃないか?」

「シーサーペントと並ぶ、海でであったら命を諦めろといわれているモンスターだぞ」

「テンタクルスの甲殻は柔軟性が高く硬質だからかなりの値がつくぞ」

「競りに掛ければ億ピースは下るまい」

 漁師達は驚きの目でテンタクルスを見上げていた。

「とりあえず明日までに肉を落として売りさばくぞ!」

「間に合わない肉は全て干物にしろ」

 冒険者達はバタバタと動いていた。


「な、何、あのテンタクルス。えと…1人で倒したの?」

 クロードはルーシュに訊ねる。

「レヴィアたんは海神リヴァイアス様直系の子孫で僕の家とは代々仲良しなんだ。海でも息が出来るしとっても強いんだよ」

「とっても強いんだぁ…」

 ルーシュが強いと言う時点で、狩猟勝負を挑む事自体が無茶だったような気がするクロードだった。

「ルー君、我の勝利は確定じゃろ?の?の?」

 レヴィアは嬉しそうに訊ねてくる。

「今日までに最も高い査定額の人の勝利って事なんだけど…」

「ほうほう」

「これ、今日中に査定が終わるの?」

「!?」

 レヴィアは愕然とする。査定に5日間は掛かりそうだと冒険者協会の人間達が嘆いていた。つまり今日中に査定が終わりそうに無いのだ。

「さてと、そう言う事なんでハティ達の所に行こう」

 ルーシュはクロードに声をかけて、今度は街の外に向かう。




 辿り着いた場所はセルプラージュへ向かう街道沿いの都市の外れにある広場だった。

 ルーシュとクロード一行が辿り着くと、冒険者協会の職員達がルーシュの方へやってくる。

「ルーシュ君、やっぱり無理だよ。あんなのを今日中に査定しろなんて」

「だよねー」

 山のような巨大モンスターの死体が倒れていた。

 ジャイアントマンモスと呼ばれる北部の雪山に住んでいる毛の生えた象で、体長は50メートルにも到達し、歩くだけで世界を壊し、人間だろうがモンスターだろうが簡単に食い散らかす猛獣である。寒い場所に住んでいるから人間と生息圏が異なる事で被害は少ないが、北部への開拓団は間違えてこのモンスターと会えば瞬時に壊滅するといわれている。

 過去、どのような勇者や英雄も、このモンスターと戦ったという話は聞いた事が無い。それほどの化物だ。

 ワオーンとスコールは勝鬨を上げるかのようにマンモスの上に立って雄たけびを上げていた。

「スコールが狩って来たんだって」

「もう何も突っ込む気も起きないんだけど…むしろ、あの小柄な子がどうやってこの巨大生物を運んできたの?」

「多分、引き摺って」

 ルーシュは北東の方を指差す。ここに至るまで、地平の奥から地が抉るような跡が残っていた。

「ハティは何かキラキラ光る何かを持って帰ったみたい。ハティ、狩猟が面倒くさくて絶対にサボったよね?」

「くーん」

 目を泳がせたハティは、何も知らない顔をして、足元を歩く蟻を見つけるなり、視線を移して誤魔化しに入っていた。

 するとスコールはルーシュに駆け寄って目をキラキラ輝かせて尻尾を振る。


 どう?すごいでしょ?僕が優勝だよね?


 既にそういう風に目が訴えていた。

 テンタクルスと同じくらい大きく、素材として使える部位も多い。毛皮はこの寒いイヴェール王国ではかなり高価である。

 ルーシュはスコールによくがんばったねと頭をなでてあげる。スコールは嬉しそうにしていた。

「何か、僕はこんな怪物に挑もうとしていたと思うだけでウンザリしてしまうのだけど」

 クロードはルーシュに訊ねるのだが、ルーシュは呆れる様に口にする。

「あのね、僕の目的を忘れているんじゃないかな、皆」

「目的?」

「近いうちに引っ越すティモの送別会のためにちょっとした収入が欲しいってだけなんだよ?これ、明らかにティモの送別会のための収入じゃないよね」

「あ」

 狩猟大会に躍起になっていたが、そもそも目的はちょっとした収入が欲しいという話だった。養護施設の子供の送別会なのに、王侯貴族の舞踏会でもやるような収入を手に入れてどうするのだろう。

「とりあえずスコールとレヴィアたんは査定出来ないみたいだから、ハティの持ってきたキラキラな何かとクロードの花の蜜のどっちが査定で高いか勝負って事で」

「……」

 ハティの拾ってきたアイテムはどう見てもただの玩具だった。



狩猟大会結果

1位 クロード&マリエッタ/入手:キングマンイーターの花蜜(20万ピース)

2位 ハティ/入手:黄銅メッキのブローチ(100ピース)

3位 スコール/入手:ジャイアントマンモスの遺骸(測定不能)

3位 レヴィア/入手:テンタクルスの遺骸(測定不能)



「と、いう事で栄光のアップルパイはクロード&マリエッタに進呈しまーす」

「勝利なのです」

 得意げなマリエッタはルーシュからシルバーアップルパイを受け取っていた。

「何故だろう、勝ったのに負けた気がする」

 クロードは残念そうな表情で、項垂れるスコールとレヴィアを見ていた。

 ハティはルーシュの肩にヨジヨジ登って、狩猟大会など特に気にした様子も見せなかった。

「っていうか、ティモの送別会までに収入入らないと意味無いんだもん。ハティはゴミ拾ってきただけだし。目的忘れて大物を取りに行くから」

「くーん」

 スコールは悔しそうに項垂れて、情け無い声を出しながらルーシュを見上げる。

「そもそも、そういう趣旨だったんだけどね。大物狩り勝負したら絶対にクロードが勝てるわけないじゃん。適度に稼いで誰が一番かみたいな感じだったのに、張り切りすぎるから。スコールはやらかすとはちょっと思ってたけど、レヴィアたんまでとは」

「ううう、ルー君が虐めるのじゃ。くそう、マグロでも取ってきた方がまだ手軽だったのじゃ」

 マグロ一匹で100万ピース程度で、朝の競りで落とされるから、それで十分勝てるはずだった。その事実に至らずに決戦を迎えてしまったのがレヴィアの落ち度であった。

「大体、なんで僕が友達の送別会に小金が必要だからカンパしてって話だったのに、億ピースとか稼ごうとしているのか、理解できないんだけど」

「ルー君に正論を言われると悲しくなるのじゃ」

「ルーシュがヘンテコになったのはレヴィア様の所為でもあると思うよ」

 レナが鋭い言葉の刃でレヴィアを切り裂く。

 レヴィアは複雑そうな顔で言葉を失う。

「まあ、でもこれでティモの送別会が送れるよ。ありがとー」

 ルーシュはクロードから1万ピースを受け取っていた。

「これじゃ、僕がルーシュからシルバーアップルパイを買っただけになっちゃうんだけど」

「本来は競ってもらって、クロードと同じくらい稼いで貰えば今後の軍資金にもなって丁度いかなって思ってたんだけど…ウチのお三方は誰も稼いで来てくれないんだもん」


 私は稼いだよ?


 といった表情で、ハティはルーシュのズボンの裾を嚙んで訴える。

 しかし100ピースの収入ならば、普通に街道を端から端まで歩けば100ピース相当の白銅貨1枚くらい落ちていてもおかしくないような気がするのは気のせいではないだろう。

 2日掛けて何やってたのと突っ込みたいところだった。

「……」

 クロードはその時点でルーシュが自分を加えた理由を理解する。つまりルーシュはクロードの冒険者としての稼ぎ程度の稼ぎをメンバーに期待していたのだ。直に換金できて、パーティをちょっと豪華にしたいと言うささやかなお願いだったのだ。

「ルーシュ。結局…スコールやレヴィア様が動いても大差ないんだよ」

「ふふふ、役立たずは何人集っても役立たずという事か」

 レナの言葉に対してルーシュは黄昏た様子で遠くを眺める。

「わうっ!?」

 役立たず呼ばわりされてショックを受けるスコールがいた。



 一行は冒険者協会に入って、報酬を受け取ってから協会を出る。

 するとばったりといった感じで、ルーシュの前にはクロードではない方の勇者がいた。

 実に3度目の勇者ソフィア・ロサ・ディ・モンテゼモーロと魔公貴族ルーシュ・バエラス3世の邂逅であった。

 互いに全く会うと思って無かったので、一瞬2人で見つめあい、慌てて大きく跳び退る。

「ここであったが100年目」

 勇者ソフィアは白金に輝くレイピアを抜き放ち、ルーシュに向かって構える。

「フハハハハハハハー。我こそは大魔王ルシフォーン様の末裔、魔公王子ルーシュ。暗黒世界南方バエゼルブ連邦の君主バエラス3世である!よくぞここまできたな勇者よ!」

 ルーシュはノリノリだった。


「え、何してんの?」

「何が起こってるです?」

 クロードは目を丸くし、マリエッタは首を傾げる。

「ふはははははっ!勇者よ。貴様の冒険もここでおしまいだ。今日はいつもと違うのだ。さあ、出でよ、魔公王子たる我が同胞よ!」

「ふはははははっ!われこそは魔公★女王レヴィアたん!我が盟友ルーシュの声を聞き、義によって助太刀する!」

「ワオーン」

「ワオーン」

「そして同じく我が盟友、悪魔の森の覇王フェンリルが嫡子、白銀のハティと黄金のスコール!」

 ルーシュの前にはレヴィア、ハティ、スコールの三者が良く分からないポーズをとる。

 そしてルーシュはレナに視線を向ける。入って来いよと訴えていた。

「えと…私もこれ、やら無いとダメなの?」

 レナは困った様子でそのルーシュ達を眺めていた。


「くっ…な、仲間を呼んだのか!?」

 タジタジと後退るソフィア。

 するとソフィアの斜め後ろにいたメイドさんが前に出てくる。


 何故にメイド!?


 と突っ込みたい一同。確かにメイドさんだった。

「我が名はパトリシア・ロドリゲス!勇者ソフィア・ロサ・ディ・モンテゼノモ……様の専属メイドにして派遣事業サービスワーカーズのS級派遣メイド!」

 メイドさん、黒い髪を肩口で切り揃えらた女性は、ミニスカートなメイド服を翻してルーシュ達の前に立ちふさがる。


(嚙んだ!)


 メイド姿以上に、嚙んだ事にが気になってしまう一同だった。

 だが、ルーシュは優しい瞳でうんうんと頷く。

 あの名前は長いよね、嚙むよね、そんな言葉が出てきそうな表情をしていた。

「我が名は冒険者の戦士クロード!さあ、ルーシュめ、よく分からないけどやっつけてやる!」

 クロードが何故かルーシュと対峙する。

勇者(クロード)がここで裏切った!?」

「えー?」

 レナとマリエッタが目を丸くして様子を眺めていた。

「くっ…クロード、裏切るのか!?」

「偉い人は言いました。可愛いは正義!つまり勇者ソフィアさんが正義!」

 鼻の下を伸ばしてクロードはルーシュの前に立ちふさがる。ちなみに、その言葉は、偉い人じゃなくて、以前ルーシュが口にしたのだが。

「いつの時代も女の所為で勇者は狂うのか…」

 うんざり顔でレナがぼやく。

「くっ…やはり、勇者と魔公王子は相容れぬ存在であったという事か」

「いやいやいやいや、僕、勇者じゃないから!断じて勇者じゃないから!」

 この期に及んで必死になって勇者である事を否定するクロード。マリエッタは胡乱げな瞳でクロードを眺めていた。

「ふはははは、しかーし、人間なぞ魔公王子たる我の前には、1人も3人も変わらぬのだ。見よ!我が魔王たる第4形態を!」

 スコールが右肩に、ハティが左肩に、そしてレヴィアはルーシュに肩の上に立つ。

「「「「ちゃきーん」」」」


 4人がポーズを取る。凄く息があっていた。

「って、それは合体じゃないよ!」

 だが、レナがすかさず突っ込みを入れる。


 見事な突込みが入り、レヴィアが地面に落ちて、ハティとスコールがずるずると肩から落ちて、地面に回転して着地する。


 ピシャッ…ガーンガーンガーン…ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ


 ルーシュは体を光らせると効果音を何処からか鳴らして、体が崩れるように、脚から徐々に消えうせていく。

『ふははははははっ!我は死せど、魂は死せず。いずれ第二第三のルーシュが現れて、貴様らの前を立ちふさがるだろう!』

 念話によって言葉だけを遺して、ルーシュは本当にその場から消えていた。


「えと……これ、どうなってるです?」

 マリエッタは、ルーシュが本当に消えてしまい困惑気味にレナを見る。

 だが、レナは首をひねる。少なくとも第二第三のルーシュがいたらちょっとうざいとは思うが。

 ルーシュは『魔王様のやられた瞬間ごっこ』で最も上手い演技をする事は魔族の子供達の間では有名な話だ。その演技の際にルーシュが体を崩れて消すという荒業を使うが、レナもまたそのメカニズムを全く理解していなかった。

 以前、聞いてみたら、真似をされたくない。これは僕が将来やられる際に僕だけのものにすべく、文字通り『やられ方は墓まで持って行く』との事だった。


「えと……あれ?」


 とはいえ、倒す予定の相手が何もせずに勝手に負けてしまい、ソフィアも困ってしまう。別に殺そうと思って来ているわけでも無いので、何が起こったか理解できていなかった。

「悪は滅んだか」

 キラーンと目を輝かして、クロードは何かを成し遂げたような顔で言う。クロードは一切何も関与していないのに。

「それじゃー、またねー」

 レナはそのままレヴィア、ハティ、スコールと並んで去っていく。

 よく理解してないが、クロードとマリエッタも共に並んで去って行く。


 ソフィアとパトリシアだけがそこに取り残されていた。

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