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勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
第1章 勇者誕生
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地上では飛ぶの禁止

 一行は2時間ほど飛行して雲のその上にある山々の上にある平地に休憩を取るべく到達する。だがまだまだ進む先は山が立ち並んでおり全然到着地点が見えない。無論、ルーシュは到着地点がどのような場所か知らないので、分かるはずもないのだが。

「この山はいつまで続くの~」

 レナはいい加減に疲れたようで、ぐったりと岩山の上に座る。

「僕が抱えて一気に超飛ぶ?」

 ルーシュは提案するのだが、ダンタリウスは首を横に振る。

「あと1時間ほど進んだ場所に、次元の門がありまして、そこからこの大陸西端に出る事が出来ます」

 ダンタリウスの言葉にレナはホッとする。だが同時にグーと音がなる。何の音かと思ってダンタリウスは周りを見ると、レナの腹の虫がなっていたのだ。

「ルーシュ、お腹減ったよお」

「って、人の首筋を見ていうな!僕は食料じゃないぞ!非常食じゃないからな!ちゃんと食事を作ってきたからそれを食え!」

 ルーシュはリュックの中から弁当箱を取り出す。

「ふむ、確かに少々疲れましたし、丁度中間地点といった所でしょうか。しばし食事時にでもしましょう」

 ダンタリウスが提案する。


 ルーシュはレナに弁当箱を渡すと、そのままゴロンとルーシュは横になる。ダンタリウスは荷物から自分の携帯食を取り出す。

「ルーシュ様は食事を摂らないのですか?よくないですよ、そういうのは」

「僕は魔力を使わないと食べないから」

 ルーシュは首を横に振る。

「は?」

「ルーシュは魔力が高い上に省エネだから、1年中何も食べないでも生きていけるもんね」

「勿論、やった事ないけど大体そのくらいかなぁ。レナは燃費悪すぎだけど、僕は使う魔力に対して、持っている魔力が高すぎて、腹減らないんだよ」

 ルーシュはポヤポヤと空を見上げながらぼやく。

「でも、アシュタールの娘に食事を出してましたが…」

「僕、自分が食べられないようにする為に、レナに食事をを与えてるの。こう見えて、料理上手なんだから!自分ではあまり食わないけど」

「そうやって餓死する魔族も多いので気をつけないとダメですよ」

「…僕の場合、餓死というより周りを本能が喰らうからなぁ。気をつけないとご近所の危機だから、食事もちゃんと計画的だよ?」

 ダンタリウスは目を丸くさせる。

 ルーシュの口ぶりが少し普通の魔公と異なるからである。

「そもそも僕が本気で食事したら暗黒世界の魔力資源が直に尽きちゃうじゃない?そんなの先生に言われるまでも無く、…というか…そこら辺の計画を無視した食事をしたら母上に殺される。母上じゃ殺せないけど…もっと恐ろしい何かをされる」

 ルーシュは母の折檻を思い出し、ガクガクプルプルと恐怖に震える。

 ダンタリウスは疑問を解消しようとルーシュに訊ねる事にする。

「私はルーシュ様はベーリオルト公に匹敵する魔公としてお生まれになられたと聞いてますが…」

「僕もそう聞いているよ?」

「ですがその魔力総量ではそもそも魔力資源を枯渇させるほど魔力は無いはずですよ?」

「そうなの?でも僕は皆にそう言えって言われてるよ?よく分からんけど。ベーリオルトさんやレヴィアさんも母上も、普段は僕の足の小指の先ほどの魔力もないけど、実は多分もっと凄いんだって母上は言ってたし」

「魔族の把握できる魔力は隠せませんよ…」

 ダンタリウスは困ったように口にする。

 だが、ダンタリウスはその言葉を口にすると同時に、何かを察した様にして口をつぐむ。

「分かりました。まあ、そういう事にしましょう」

 ダンタリウスが訳知り顔で頷くものだから、ルーシュも怪訝に思いつつも頷く。


 ダンタリウスの持ってきた食事は燻したモンスターの肉とチーズを毒素の無い笹で巻いたもので、魔族にとっては一般的な携帯食である。魔族は魔力のある食事を摂るので、生き物さえいれば問題なく、牛や羊や馬などを飼って乳製品を作ったり、やモンスターの肉を好んで食べる。毒草ばかりしか生えないので、毒素のない植物は高価であり、毒素を抜く手法が一般的なのだ。

 対するレナの弁当は、玉葱と人参とジャガイモと牛系モンスターの煮込み、鳥系モンスター肉のホワイトソース和え、ジャガイモと毒抜き草のサラダ、それに豚系モンスターのベーコンが箱に四つ分けして入っていた。

「おおー、綺麗…」

「随分凝ってますな」

 レナだけでなく、ダンタリウスもさすがに感嘆の声を漏らす。

 どうという事もないのだが、魔族はあまり食事に力を入れない。魔力さえ取れれば生きていけるので味を楽しむ文化が薄い。だがルーシュの作った食事はどう見てもそういう文化で育った子供のものではなかった。

「だって、まずいと、お前の魔力を食わせろって脅すんだもん」

 ルーシュはジトとレナを見る。凄まじくどうでも良い答えが帰ってきたので、ダンタリウスもうんざりしてしまう。だがレナはエルフのハーフでもあるので食事に対して味も求めがちなのだ。

「どこで覚えたのですか?こんな食事の文化はなかった筈ですが」

「魔王様に教わったー。アイリーンさんが作ってくれたんだって自慢してたよー。ちなみにこの毒草から毒を抜くと凄い魔力が吸収できて良いんだよ。毒抜きに1週間掛かるけど良い味が出るんだよね~」

 ルーシュは自慢げに語る。ちなみにアイリーンとは魔王の亡くなった妻で、ルーシュが5歳の頃までは母親に代わって面倒を見てくれた第二の母でもある。単位時間にしても実の母より面倒を見てくれていた。

「そういえばアイリーン様は地上界に赴き移民活動の手伝いもしておられた事もあるので、料理も出来たとは聞いております」

「へー」

「というか、アイリーン様はガエネール家の出身なので、ルーシュ様の方が詳しいのでは?ガエネール家はバエゼルブ連邦領の貴族でしょう。200年前はバエラスの部下の家柄だった訳ですから」

「しらなーい。だって僕が5つの頃しかアイリーン様はおられなかったし、今のガエネールの当主にはお仕事丸投げだし。というか…ぶっちゃけバエゼルブ領なんて僕はいらないから。バエゼルブ本家に全部任せてしまいたい程度には面倒ごとだよ」

「そこまで丸投げられても困るでしょうけど…」

「はっ…まさか、この人事は……左遷か?」

「いやいやいやいやいやいや、言っておきますけど大事な仕事ですからね?」

 ダンタリウスは慌てて否定する。

 ルーシュの頭はどうなっているのか、たまに奇抜な結論をどこからともなく取り出す事がある。そもそも領土を持つ貴族を左遷するというのはありえない事である。それを実行するにはまず領土を没収する所からはじめないといけない。




 それから延々と西のほうへと空を飛ぶルーシュ達は、山々を抜けた先にある洞窟に辿りつく。そこを潜った先に、またも異次元に通じるゲートが存在しており、そこを通過する。

 再度洞窟を抜けると、山奥に出る。だが、山の上から見た景色の中に、中央大陸から西の大陸に隣接している集落が現れる。ルーシュ達はやっと人里を確認することになる。

 暗黒世界を脱出してから、実に2000キロ以上の距離を、異次元ゲートを通過する事で5時間の移動を経て大陸中央から大陸西端に辿り着いた計算になる。

「これが魔法の力なのです。魔力だけではどうあっても2000キロという距離を移動するには膨大な魔力と時間が掛かるのを、4時間で到達できるのですよ。凄いでしょう」

 ダンタリウスが偉そうに言い、レナは感心しているのだが、ルーシュだけは冷たい目で見ていた。

 そもそもルーシュは自分の総魔力から比べれば大した魔力を使わなくても、2時間もあれば辿り着く距離である。ルーシュは何でこのおじいちゃんは一々大した事でもないのに、自分の手柄のように偉そうな事を言うのだろうと首を捻るが、周りに合わせる事こそが処世術と魔王に教わってきているので、何も言わずにしたがっていた。

「そんな事よりお腹減ったよぉ」

「年中腹ペコさんなんだから…」

 レナはルーシュの腕を掴んで訴えるのでルーシュは呆れる。

「吸って良い?」

 レナは掴んでいるルーシュの腕をおいしそうに見て訊ねてくる。

「だから僕を保存食に使わないでよ!」

「ふむ、アシュタールの娘はそんなに食事が必要なのか?」

 ダンタリウスはレナを見ると、レナはルーシュを見る。

「レナの生まれが特殊なのは先生だって知ってるでしょ。魔王が魔王で生まれたのもレナがいつも腹ペコなのも同じなんだよ」

「それを同じ原理にされては困りますが、まあ、生まれは選べないという意味ではそう言う事なのでしょう」

「ところで…この土地は魔力が豊富なんですか?レナがついてくる際に、まあ、曾お祖父ちゃんが戦争してでも土地を欲した程度に魔力が潤沢な場所なのかなって思ってきてるから、実はあまり計算もなく来ちゃったんだけど」

 ルーシュの言葉に、ダンタリウスは少し困ったように渋い顔をする。

「まさか、褒め称えてきた魔王様が実は何の利益もなく戦争をしてたなんて事はないよね?」

 ダンタリウスに対して皮肉を言うように訊ねる。まさか違うのかと思う程度に間が空いていた。

「も、勿論、この土地は非常に魔力が潤沢です。そういった物は人間が多く確保しており、金が掛かります。人間達は便利な生活を送る為に魔法を使うので、今では人間同士が魔力資源を奪い合って争っています。それと魔王様は別に戦争を仕掛けてないですよ。魔力資源を手に入れたい目的を知った人間達が攻撃して来たのです。まあ、ここも言ってしまえば暗黒大陸と大きい差はありませんな」

「ふーん。じゃあ、レナの食費は大変だなぁ」

「そこら辺は支給されている金銭からどうにかなると思いますが?」

「シキューサレテルキンセン?」

 ルーシュは首を傾げる。

「前金は頂いてきたのでは?結構な任務ですし」

「そんなの貰えるわけないじゃん。魔王家が出してる金を僕が貰うの?母上からお小遣いさえ貰った事ないよ。男子、自分の稼ぎで食うべし。僕は小さい頃からずっと自給自足だよ?」

「完全にそれは育児放棄のような…」

「代わりに私がルーシュのお母様に育児されてたよ!」

 レナは胸を張って言い切る。

「他所の家の子を育児して、自分の息子は育児放棄ですか…」

 実際に事実なのである。だからルーシュは母親に嫌われていると認識している。そもそも母親自身が政略結婚で好きでもないバエラス二世と結婚させられて、嫌々ながらも出来た子供がルーシュなのだと、ルーシュは自分の母親に愚痴られて教わっている。

 レナは、母の親友であるエルフの女性の子供で、エルフの母親は体が弱く魔族特性の高いレナを育てられないという状況があった為に、代わりに面倒を見ていた縁がある。

 息子の育児を放棄して、他人の娘を育てるという状況ができているのはその為だった。

 ちなみにルーシュは生まれて直にルシフォーン三世に引き取られて育てられていたから、アイリーン様が母親同然と言っているのも事実である。

「んー、まあ、その頃は僕、ルシフォーン4世だったから仕方ないんじゃないかな?ちょっとダダをこねると母上も死んじゃうし、魔力が安定する4歳まではずっと魔王様と一緒にいたから。…母さんに会った時にレナにも会ったんだよね」

 ルーシュは過去を懐かしむように言う。

「なるほど。ルーシュ様の魔力が高すぎてメリッサ様では育てられないから魔王家にルーシュ様を預けて、その間にアシュタールの娘をメリッサ様が。そういえばあのエルフの娘も子供を生んで暫くすると亡くなったとか」

 ダンタリウスはルーシュの周りにあった色々な事を思い出すように語り始める。

 レナの母親はエルフ族でも高位種族であるハイエルフと呼ばれる存在で、200年前の戦争で暗黒世界に取り残されてしまったのだ。魔公に近い性質を持った長寿種族で、レナを産むと途端に体を弱くして、病気で亡くなってしまった。

 通常、魔族との間にエルフは子供が作れないのを、無理して作ったためだとも言われている。

 レナは、自身に色んな事を教えてくれた優しい母親だったらしく、少しだけ寂しそうな表情を見せる。

「でも、出会ってからはいつも僕とシホと3人だったもんね!」

 ルーシュは、レナが母親の事を思い出して寂しそうにしているのを察して、すぐさま話をそらす。

「そうだね。就学期間に入ってからはアーム達とよくつるむようになったんだよね」

 アーム達というのは魔公アーメイム3世とその妹を差す。

 ダンタリウスが臨時教師として面倒を見た魔公の子供達というのが、アーメイム3世、リン・アーメイム、ルーシュ、レナ、それにシホの5人である。近しい年代で5人も魔公がいるのは非常に珍しいことだった。

「アーメイム3世ですか、あの子も中々にやんちゃだった記憶がありますな」

 ダンタリウスは思い出すようにぼやく。

「やんちゃというより、脳みそ筋肉」

「脳みそフニャフニャよりはましかと?」

「あー、確かに」

 レナとダンタリウスはうんうんと頷いてルーシュを見る。

 ルーシュは2人の会話を聞いていたが、『脳みそフニャフニャ』が自分であるという事実に気付いていなかった。


 一行は、道をとぼとぼ歩いているのだが、いい加減に我慢の限界が来たのはルーシュだった。

「で、何で僕らは歩いているの!?街まで100キロなんて一瞬じゃん!」

 但し、一瞬なのはルーシュだけである。ルーシュは100キロくらいならば3分で駆け抜ける。だが魔公であっても100キロはきつい距離だ。だが歩く必要はない。

「ルーシュ様、歩きながら説明しましょう。というより…気付いていただけているものだと思っていたのですが…。魔人の子供達が空を飛んでる姿を見た事がありますか?」

「ん?…………言われてみればあまり皆は飛ばないね」

 ルーシュはダンタリウスと並んで歩きながらも、言われてみればと首を傾げる。そもそも魔人族は背中に翼を持っていない。

「魔族が空を飛ぶのではなく、我々魔公が空を飛ぶのです。牛魔族達も空を飛びません。そもそも魔人達は羽根さえ持ってないのですから。そして、この地上には魔公はほとんどいません。ようするに飛んでる魔族なんていたら凄く目立つのです」

「なるほど。調査する方が興味をもたれたらダメって事だね?」

 ルーシュは納得する。

「そうです」

 ルーシュは腰の道具袋から手帳を取り出す。

「ええと、飛ぶの禁止」

 ルーシュはペンで手帳に書き込む。

 書く事でもないのだが、頭がフニャフニャなルーシュには必要な事だった。たまに自分の都合のいいように脳内変換する男だからだ。


「今の内に色々と情報も詰め込んでおきましょう。普通は大人しくしてそうですが、私が何か教える前に致命的なポカをやらかしそうですからな」

「失敬だな」

「まず、…人間はルーシュ様と違って頑丈ではありません。それはもう蚊虫のような虚弱さです。半径1mに近付いたら死ぬかもしれませんので、極力人と接しないようにしてください」

「って、今、物凄くわざと過激に言ってるよね!?僕のこと、あからさまにバカにしてるよね!?」

「でも、ルーシュにはそのくらい言った方が良いかも」

「って、何でそこで味方がいないのさ!?」

 どうやらルーシュはここまで来て、レナを味方だと思っていたようだ。

 正直、レナがルーシュの味方だなんて誰も思っていないだろう。ようするにルーシュの頭はフニャフニャと形容されるのが正しいのだった。

「そしてどこか遠くで誰かに凄くバカにされた気がした!」

 そして、地の文に対しても自分が文句を言われている事に気付ける程度には、勘の働く子なのである。

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