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勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
第3章 ミストラル王国迷走
79/135

ティモ送別会企画

 神聖教団の勇者が来ようが平和に暮らすルーシュ達だった。

 そんな折に大きな転機が訪れる事になる。シャトーで出会ったティモという兎人族の少年が引っ越すと言うのだ。


 ラフィーラ教会の神父であり孤児院の院長でもあるヒューイは説明をしていた。

「実はラフィーラ教会というのはミストラルにも当然あるのはご存知で?」

「そういえばミストラル王国もラフィーラ教会と神聖教団が二分しているんだっけ?」

「最近は神聖教団のほうが強いらしいですが、まあ、ラフィーラ教会は存在しているんですよ。実はミストラル王国にいる神父の方と連絡が取れまして、孤児院を経営していると」

 ヒューイは簡単に説明してくれる。

「へー」

 ティモがミストラル王国のラフィーラ教会の孤児院へ引っ越すと言う事らしい。

 ルーシュが聞いた範囲では、ティモはミストラル王国に住んでいたのだが、犯罪者に奴隷として船で運ばれていた所を、何者かに助けられて、このイヴェール王国へ連れて来られた、という話だった。

 元々は母と暮らしていたらしいが、連絡手段も分からず、旅費も無いので、ミストラル王国へ行く事が出来なかったのが現状である。

 ミストラル王国に戻って母親を探したいと言うのがティモの思いだった。しかし、地理も知らない子供で、どこに住んでいたかもよく分かっていなかった。ミストラル王国へ行っても直に母親と再会できるわけではないという事情があった為、旅費を稼げばどうにかなるという話でも無かった。

 向こうで面倒を見てくれる人が見つかり、旅費も手に入ったので、ついにミストラルへ行って母親探しが出来る様になると言う事だった。

 これはティモにとっても喜ばしい事である。

 ティモはご機嫌なようで耳をパタパタと動かしていた。

「と言う事で、ついにお母さんに会えます!」

「良かったねぇ」

 直に会えるか分からないが、ルーシュは水を差したくないので同意する。

「師匠のお陰でやっとミストラルに行く事が出来ます!本当にありがとうございます」

 ヒシッとティモはルーシュに抱きつく。

 いつか、アップルパイをお母さんに食べさせてあげたいという話で始まり、ルーシュやレナもたくさんのお客を捌くためにティモにも屋台の手伝いをしてもらっていた。

 その手伝いの報酬によって、ついにミストラルへの旅費を稼げたという話らしい。

 ルーシュはティモの頭を撫でながら他の養護施設の子供達を見る。

 皆、仲間がいなくなる事で寂しそうな表情をしているが、施設を出て親に会えるかもしれないというので「おめでとう」とティモを祝う。

 施設の子供達の大半は親に会えないが、会える子がいるなら良い事だと祝福していた。

「じゃあ、出発前に送別会を開こう!」

「「「「「「おおーっ」」」」」」

 子供達はルーシュの提案に諸手を挙げて賛同する。




 ルーシュは拠点にある貸家である一軒家に帰ると、レヴィアに相談を持ちかけるのだった。

「ほうほう、たくさん稼いで大きいパーティを開きたいと」

「そうなの。これまで店を手伝ってくれたティモの為に、こう……送別会をしたいんだけど、今後の諜報資金の確保をしようとすると、僕らには自由に出来るお金が少ないの」

 ルーシュ達の資金はレナの食費以外、クロードが急に移動するときに対応する為の旅費として確保されている。

「なるほど……確かに……旅費はバカみたいに掛かるからの。いきなり大陸を渡るという事も無かろうが……勇者が移動するには魔族が移動するには金が掛かる場所もあるからの」

「とは言っても、店を畳むわけにもいかないから、どうしようって」

「確かにそうじゃの。仕方あるまい、我が稼ぎに行こうではないか!」


 ………


「レヴィア様が稼ぎに?」

 レナは首を傾げる。ルーシュも同様に想像がつかないようで頭の上にクエッションマークがたくさん湧く。さっきまでニートをしていた存在が稼ぎに出かけるというのは想像がつかなかった。

「凄く失礼な子供達にとってもがっかりなのじゃが……。我ら魔公が稼ごうと思ったらそこまで難しい問題では無いのじゃ。ルー君のようにいるだけでモンスターが逃げる存在と違っての」

「失礼な」

 ルーシュは図星を差されるも、悔しげに頬を膨らませて文句を言う。

「簡単な話じゃよ。モンスターの肉は高値で取引されておる。モンスターの毛皮、強固なモンスターの鱗は防具などにも使われるし、モンスターの爪は武器の材料にも使われるのじゃ。ぷらっとモンスターを狩りに行って、売り叩けば結構な額になるじゃろ」

「なんと」

「とはいえ、動くと腹を減らすレナ、動くだけでモンスターが逃げ出すルー君では稼ぐのは難しかろう。我が稼いでこようではないか!」

 レヴィアが炬燵から顔を出して動く気配を一向に見せずに口にする。

 すると炬燵からぬくりと現れた子狼の二頭、ハティとスコールがルーシュにすり寄る。

「くーん」

「くーん」

 ハティとスコールは自分達も狩りに行くといわんばかりに訴える。

「なるほど、ハティとスコールが狩りをして、僕が売りに行く…という事だね?」

「「わん」」

 鳴き声をあげてから、再び炬燵の中に戻っていく。

「つまり我と勝負をするという事じゃな?」

「わうー」

「くーん」

 レヴィアとハティとスコールの三者の間で火花が散る。

 3者とも炬燵の中に体を入れているので目線は全くあっていないが。




 かくして、ルーシュ主催ティモ送別会狩猟大会が行なわれることとなったのだ。

 狩猟大会の参加者はレヴィア、スコール、ハティの三者に加えてクロードパーティが参加していた。

 早朝からルーシュは参加者一同に概要を説明していた。

「ふーん、あの兎人族の子が養護施設を移るから送別会かぁ。狩猟大会は別に良いけど……」

 レヴィア、スコール、ハティ、クロード&マリエッタという4組による争いである。

「負けないのです」

 マリエッタは闘志を燃やしていた。

「わう?」

 スコールは右前脚をくいくいと招き、掛かって来いよと言わんばかりの態度である。

「絶対に負けないのです!」

 マリエッタはスコールに対抗心を燃やしていた。

「2人で頑張ろー」

 クロードは愛馬ロベールの上にマリエッタを乗せながら宥める。

 マリエッタも最近では冒険に連れて行ってもらっているので、負けたくない気持ちが強いようだった。

「ふははははは、我こそは魔公★女王!レヴィアたん!そして冒険者ランクはS!果たして我に勝てるかな?」


氏名:レヴィア

冒険者ランク:S

ジョブ:魔導師

所属:ダイヤクラブ

称号:魔公★女王


 準備をしている一同の前に立っているルーシュとレナは愕然とそのカードを見ていた。

「魔公★女王って称号だったの!?」

「だ、ダイヤクラブの方だったんですか!?」

 ルーシュとクロードの驚きは全然別物だった。

 レヴィアの魔公女王というのは暗黒世界での肩書きではあるが、勝手に魔公と女王の間に★を入れていた。

 ルーシュはそれがてっきりただのお茶目だと思っていたのだが、公式称号となっていたらしい。

「ふむ。10年前くらいに魔族救出の時に少々世話になっての。ダイヤクラブの幹部には魔族もおる故、魔族救出作戦の後ろ盾になってもらっておるのじゃ。ダイヤクラブはこのグランクラブの経済で最も影響力があるからの。かの所属と言う理由だけで多くの国で活動がしやすいのじゃ」

 だが、レヴィアはダイヤクラブの所属である理由だけを教えてくれる。

 ルーシュとしては★の由来のほうが遥かに気になっていた。1人聞きたくてウズウズしているようだが、クロードとレヴィアは違う話を進めていた。

「あの世界最大商社で活動というからてっきり商売か何かかと」

「奴らは商社が表の顔じゃが、中身は色々とあるのじゃ。戦争を否定はせぬが、人種差別は否定するからの。国際組織としては、神聖教団から魔族を守ってくれるに対する唯一の対抗勢力といえるだろうの。確かオリハルコンにいたセイとか言う若造に入れてもらったのじゃ」

「!?」

 クロードは驚きに表情を変える。オリハルコンにいたダイヤクラブの関係者のセイって言えば先日散々振り回してくれた自国の王様だからだ。

「何ていうか……」

 魔族解放を駆け回るレヴィア、民の為に政治をし魔族を守る側に立っているイヴェール王国は、世界最大商社に影響力のあるセドリックがバックアップをしていたという事になる。

 魔族を悪とする世界最大宗教組織を前に、本気で立ち向かおうとしている存在が確かに存在しているのだと実感させられる。

 クロードは、前回の騒動でイヴェール王国の国民は正しい選択を出来たのではないかと感じてしまう。

「じゃー、優勝者にはシルバーアップルパイ1枚と名誉が手に入ります。期限は明日の日没まで。という事で、じゃー、はりきって、エイエイオー」

 ルーシュの号令によって一同が動き出す。


 楽しそうにハティとスコールがすたすた街の外に消えて行き、ついでレヴィアが黒い翼を羽ばたかせて空へと消えていく。

「じゃあ、行こうか」

 クロードもマリエッタと一緒にロベールに乗って、狩りへと向かうのだった。

「じゃー、店を出しにいきますかー」

 ルーシュは一同を見送ると、いつもの仕事に戻るのだった。




 スコールは競争という事ですこぶる燃えていた。大森林を北東へとを疾り、最強のモンスターを倒す為に駆け回っていた。

 ハティは途中で面倒くさくなってきたので、大森林の途中にあるモンスターの生息地のど真ん中で朝の二度寝をする事にした。

 レヴィアは海に潜ってモンスター退治へと向かっていた。

 クロードとマリエッタはロベールに乗って2日で往復可能な北に広がる植物系モンスターの多い群生区へと向かう。




 この日の午前も途中にアップルパイはあと2つで完売する事となる。

 品数を増やし、たくさん焼けるように大きい魔導窯に買い換えたが、それでも客の勢いは止まらなかった。

 最後の客であるティモほどの年齢の少年が母親に連れられて買い物をしに来ていた。

「今日はお母さんと買い物?」

 ルーシュはよく普通のアップルパイを買いに来ている少年の頭を撫でながら訊ねる。

「うん。今日はね、銀のアップルパイをお母様に買ってもらうの」

 並んでいる人達に前もって注文を聞いていたので最後の客である親子がシルバーアップルパイ2個を求めていたのは知っていた。

 たまに普通のアップルパイを求めてた子供のお客さんが、銀のアップルパイなんて高価なものを頼むとは思って無かった。


 この屋台の需要は一般客のスイーツとしての普通のアップルパイと、冒険者の魔力回復アイテムとしてのシルバーアップルパイの2種類なのである。高額なため、一般客はシルバーアップルパイを購入する事はまずなかった。


 少年ではなく、その母親がシルバーアップルパイ2つのの料金である小銀貨2枚をレナの手に渡す。

「毎度ありがとうございまーす」

 レナは最後の客ににアップルパイ2つを包んで客である母親に手渡す。

「今日も完売なのです、師匠」

 ティモも嬉しそうにルーシュのよこでピョコピョコ飛び跳ねていた。

「そうだねぇ。もはやアップルパイで世界の経済を手に入れられるのではあるまいか…」

「ふおおおおっ!凄いです」

 ルーシュは怪しげな野望を勝手にぶち上げ、ティモは目を輝かせてルーシュを見上げる。

「それは、ないから」

 レナは適当に流すように否定していた。

「えー、ないのー?」

 そんな話をしている一同に、最後のお客である少年が口出しをしてきた。

「無理を言わないの」

 保護者の母親は苦笑するように少年に突っ込む。ルーシュの冗談を本気にするのはティモや少年のような子供だけだ。

 ルーシュはそこで不思議に感じる。

 この国では貴族くらいしかこんな綺麗な金髪碧眼はいないと聞いていたが、2人は普通の平民っぽい格好で平民街に出歩いて、あまつさえ自分の屋台の行列に並んでいた。

「僕は暗黒世界の君主だからね。グランクラブの俗世になど関わってはいられぬのだ。ふはははははははは」

「お母様、このお兄ちゃん、お父さんより偉そうだよ」

 少年はルーシュをゆびさして母の裾を引っ張り目を輝かせる。

「そうね」

 母親は息子の頭をなでて優しく笑いながらも、誰かを探すように周りをキョロキョロとしていた。

「ところで…こちらにレヴィア様がいらっしゃってるとお聞きしたのですけど…」

 母親の方からの質問にレナは首を傾げる。

「レヴィア様?」

 ルーシュも怪訝に思ったようで母親の方に尋ね返す。

「お知り合い?」

「ええ。昔、セルプラージュでシーサーペントから守っていただいた事があったのです。何のお礼も言えずに去って行ってしまって、今度こちらに来る用事があればと思ってきたのですが…」

「レヴィア様なら狩りに行ったよ。ルー君の変わりに頑張ってくるのじゃーとか言って」

 レナが説明する。人見知りなレナが普通に対応しているので、隣に立っているルーシュは少し感動していた。

 対人の苦手なレナが大きく成長したとばかりに。

「ルー君?」

 母親は碧眼をぱちくりとさせて、首を傾げて金髪を揺らして訊ね返す。

「僕だけど…」

 ルーシュはおずおずと手をあげる。すると母親は感動したように手を合わせてルーシュを見るのだった。

「貴方があの…」

「ほえ?」

 果たしてルー君とは有名人だったのだろうかと、自分に自問自答してしまうルーシュであった。

「いえ、その時、レヴィア様にラベンダーの香水をあげたのです。確かルー君という知り合いの子供がお母さんに会えないから、変わりに母親の好きな花の臭いでも届けたいと。貴方がそのルー君だったのですかぁ」

「…おー。……そういえば、昔、レヴィア様にお母さんの好きな花の臭いのする瓶を貰った事がある。お姉さんがくれたものだったんだぁ。その節はありがとうございました」

 ペコリとルーシュは頭を下げる。

「いえ、先の騒動では私達が不甲斐ないばかりにルーシュ様には辛い思いをさせてしまい…」

「?……騒動?……まー、魔族が虐められるのは、僕の曾お祖父ちゃんが失敗しちゃった事で、僕がその責任を取るのは当然だし」

 ルーシュとしては、この国の問題はともかく、魔族は悪くないのにグランクラブでは悪役になっているのは、ルシフォーンに一因があると認識している。誤解を解かずに亡くなってしまった失態を、代わりに責任を取るのは自分が適任だと自負していた。

 無論、祖先の失態を子供の代で取る謂れなど全くないのだが。

「!」

「むしろ魔族の皆が僕達の失敗の為に痛い思いをさせてしまい、僕こそ申し訳ないとおもってるけど。それをこの国の人が謝る事では無いけどね。皆仲良くすればいいのに…とは思うけど」

「ルーシュ様は幼くても立派な魔族の君主であるのでしょうね」

 少年の母親は感心したようにルーシュを見る。

「あんまり立派ではない」

 だが、レナは右手をブンブン横に振って、真顔で手厳しく否定するのだった。

「ふふふ。我が国の貴族はそれこそ、民の事を顧みるものなどいませんでしたから。貴方のような君主を持つ魔族の方々はさぞ幸せなのでしょう」

「んー?いやいや、僕は問題ばっかり起こすからね。本来、僕みたいな力をもてあましてる魔公は民に関わるべきでも無いとは思ってるんだ。この国みたく個人の一存で世界を変えない政治体系を作っていけたらいいなぁって思うけど、暗黒世界の魔族達はどうしても魔公や魔王がいないと環境的に生きていけないからね。民を自立させるような政治って言うのは目から鱗だよ」

 ルーシュはうんうんと頷いて感心するような姿を見せる。

「民の自立…ですか」

 ルーシュの言葉に少年の母親は目を丸くする。

「うん。住んでいる地方の事情で民が自立可能な条件は変わると思うんだよね。セイ…じゃなくてこの国の王様は上手くやっているんだと思うんだ。僕もバエゼルブ連邦領の君主として負けない様に頑張らねば」

「………確かに……あなたは魔族の王なのでしょうね。主人が貴方を王として遇したと聞き、他の貴族達が憤慨してましたが、我が国の過去の王族は皆、貴方のように民を想っていましたから」

「まー………僕は皆と違って長生きだから、滅んだりすると一人ぼっちで一生暮らさないといけなくなるから嫌だし」

「だよねー」

 レナはうんうんと頷く。

「そうなのですか?」

 ティモは不思議そうにルーシュを見上げる。

「そうだよ。それこそ1000年の歳月で生まれ変わるなどと言われているけど、1000年の歳月の後に生まれ出る誰かと再会できるかもしれない。友達の子孫が長らく繁栄できるように見守ることだって出来るのだ」

「ふおおおお、凄いです」

「良いなぁ、僕も長生きしたいなぁ」

 ティモは羨望するようにルーシュを見上げて赤い瞳をキラキラと輝かせる。

 少年は羨ましそうにせわしなく母親の裾を引っ張る。

「そうそう、今日は巷で評判のアップルパイを買いに来ていたのですが、主人からルーシュ様に報酬がそのうち届くと仰ってましたよ」

「ほーしゅー?っていうか、何で知らない人から、何もしていないのに?……ま、まさかアップルパイ世界選手権が僕の知らない内に開催でもされて、優勝してしまったのか!?」

 ルーシュの頭はかなりおめでたかった。

「いえ、主人が言うには、貴方のお友達の子狼に街を救われたので、子狼にご褒美を送るからって言ってました」

 がっかりとルーシュとティモは頭を垂れる。

 まさか本当にアップルパイ選手権で優勝したとでも思ったのだろうか、レナは2人の様子に引き攣っていた。

 だが、内容としては、世間話のようにスコールとハティが街を救ったとか口にするのである。

 ルーシュもバカではないので、気を取り直して、相手の貴族っぽい容姿を見て、もしかしたらそこの領地の奥さんなのかなと考え込む。

 だが、もっと重要な所にすぐにルーシュも気付く。

「……僕の知らない所でハティとスコールが街を救っていたのか!?」

「あの子達って、きままに生きてるけど、普通にこの大陸を支配できる能力があるからね?ルーシュ、あまり放置しないほうが良いよ」

 レナは不安そうにルーシュに言う。レナからすれば、ハティやスコールが町を救ったのは気分に従っただけで、彼らの牙が街にむいていてもおかしくは無かったと思えてしまうからだ。

「大丈夫だよ。あの子達は幼いけど、約束は守るし。ハティはちゃっかり者だから、こっそり悪さしそうだけど、スコールが一緒にいるしね」

「私的にはやんちゃなスコールの方がやらかしそうなんだけど」

 いつも敵に喧嘩を売るかのように突っ走るのはスコールで、ハティはちょっとあざといが人間に可愛がられようとする構ってちゃん。そういう認識をレナが持っているので、ルーシュの認識のほうが間違っているように感じるのだが…

「分かって無いなぁ、レナは」

「狼事情を分かるルーシュがおかしいと思うよ」

「友達の事くらい分かるよ」

 ルーシュは胸を張って言い切る。

 レナは複雑そうな顔をしてルーシュを睨む。私のことは余り分かってないよね?みたいな不機嫌顔だ。




 そんな世間話をしているルーシュ達の間に、1人の勇者が再び現れた。

「い、以前はよくも騙してくれたな、この大衆を先導して民を惑わす悪逆非道な魔王め!」

 ルーシュは再度現れた女勇者を一瞥する。名前が呪文のように長くて全てを思い出せなかったのでとりあえず覚えていた部分だけで返す。

「あ、ソフィちゃんやっほー」

「誰がソフィちゃんか!」

 当然、悪者だと思っている相手に気安くニックネームで呼ばれるのは気分が悪いに決まっていた。

「そうだよ、私の事をレナちゃん呼ばないくせに、そんな得体の知れない怪しげな勇者をソフィちゃんなんてずるいよ!ねえ、ソフィちゃんもそう思うでしょ!」

 レナはルーシュが他の女ばかり優遇するのに憤慨していた。

「ええい!気安く呼ぶな!我が名はソフィア・ロサ・ディ・モンテゼモーロだ!」

「ソフィア・ロサ・ディ・モンテゼノボッ」

 ルーシュは復唱しようとして舌を嚙んでしまう。

「くっ…さ、さすが勇者だ。まさか名前を名乗らせるだけで攻撃するなんて」

「恐ろしい。名前なんてテキトーな魔族と違うのはこの辺に理由があったのね」

 ルーシュとレナは戦慄する。

「ええい、誤魔化そうとしても私はもう騙されぬぞ!貴様の悪事は全て知っているのだ!北の山ではアルゴスなる魔獣を復活させてこの大陸を滅亡させようとしたり、大衆を先導して同胞である魔族を焼かせ、さらにはラフィーラ教の司教に毒を飲ませ、国王に罪を着せてこの国を乗っ取ろうとしている事はな!」

 ビシッとソフィアはルーシュを指差して断言する。

「失敬な!ルーシュはそんな小知恵が回るほど頭は良くないよ!」

 レナはルーシュをかばうように前に立って弁護をする。

 ルーシュはかばわれたというよりはバカにされたように感じていた。

「そのような戯言に騙されるものか。銀の林檎と言うモンスターをひきつけるアイテムをここで売っているのが証拠だ!先日もこの近辺にその林檎でも使ってモンスターを呼び寄せたのだろう。そして2人目の勇者さえも殺害したのは分かっているのだ!」

「さらに知らない罪まで着せられた!?」

 ルーシュは驚愕する。他人の罪が自分のものになっただけでなく、まさか自分の知らない他人の罪までかぶされるとは思っていなかった。

「ご婦人にそこの少年達、危険だから下がるんだ。その男は本物の悪者なんだからな」

 ソフィアはすかさずティモや親子客の3人を庇うようにして立ち、街中で堂々と腰の剣を抜く。

 美しく白金色に輝く聖なるレイピアがルーシュへと向けられる。

 母親は眉根に皺を寄せて怪訝そうにソフィアを見て、ティモと少年はオロオロとルーシュと勇者の間に視線をいったり来たりしていた。

「ふっ…前回は詐欺扱いされた上、偽造冒険者カードを見せられて混乱したが、今回は騙されぬぞ!お前が悪い魔族ルーシュ・バエラス3世であることは既に調査済みだ!さあ、覚悟!」

「……きゃーっ!強盗!強盗ーっ!」

 ルーシュは思いっきり情け無い声を上げる。

 すると近くにいた巡回していた2人の騎士がとことことやってくる。平和な街なので巡回していても普通に街の人間に溶け込んでいた。

「どうしたんだい?」

 何事か起こったのかと思って2人の騎士はルーシュの方へ歩いてくる。

「あそこの人が僕の店の従業員とお客さんを人質にして剣を向けるんです!」

「何?全く、女の子なのになんでこんな事を…」

 騎士の2人は大きく溜息をついて、自分達が王都治安維持警務騎士団の一員である手帳を見せながら、ソフィアへと歩いていく。先日の大事件に対して、貴族の暴走を止めるべく設置された治安維持の為の部隊である。

「え?いや、ちが、私はそこの悪い魔族を…」

 ソフィアはしどろもどろになって言い訳をする。

「折角、若くて可愛いのに、何て事を………」

「とりあえず、署に来てもらおうか。何でこんな事をしたんだ、全く」

 騎士団の2人はソフィアに任意同行を求めて連れ去っていくのであった。

「手強い相手だった」

 ルーシュはぐいと額の汗を拭く。

「何だか…変な子に絡まれてみたようだけど大丈夫?」

 お客さんに心配されてしまうが、ルーシュは大丈夫大丈夫と軽く流す。

「それじゃー、僕らは店仕舞なんで」

「「またのご来店お待ちしてますー」」

 レナとティモが、去って行く親子連れの客にお辞儀をして、店仕舞に入る。

どさくさに紛れて、お客さんの中にとある貴人が混ざってます。

2章でも章外でも触れていなかったのですが、お子さんがいたりします。これまで出て来なかったのは、貴族の暗殺を恐れて公にあまり出されていなかった為です。

 設定しておいて一切ほのめかす文章さえ入れてなかったことに気付いて、無理やり出したとかそういう事ではないのです。

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