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スコールとハティの散歩日和

 今回はスコールの一人称で送ります。

 第2章の事件が終わった後、レヴィアが暗黒世界に報告しに行き、シャトーの町で待機している頃の時節です。

 ちなみに、今回、投稿してから初めて読み仮名をつけてみました(笑) (16/2/20時点)

※章整理の為に、話の位置を変えました。(16/5/28)

 僕は神狼である。名前はスコール。

 偉大なるフェンリルの末裔なのだ。

 現在、僕は子分のルーシュと一緒に地上に遊びに…って、痛い痛い痛い。

 尻尾を引っ張るな。

 ごめんなさい、僕らは友達。だから、ルーシュ様、その手をお離しください。


 ふう、やれやれ、何故言葉が通じないのに心を読まれるのだろう。これが魔神の子孫の能力なのか。末恐ろしい。


 ルーシュはどうやらアップルパイを売る為に、白い兎人族の子供と、レナとかいう女の3人で出かけていったようだ。


 さて、気を取り直して


 現在、僕は、友達のルーシュと一緒に地上に遊びに来ている。

 母が言うには地上はとっても面白い場所だと言う。母は地上には行った事がないと聞いていたが、どうやら前世では天上界にいたらしい。社会勉強にはもってこいという事なので、母に指示されてやってきたのだ。

 それにしても、前世で天界に住んでいたとか。

 前世、憧れる響きである。


 さて、そんな僕だが、今日もハティと一緒に散歩をしている。ルーシュは商売なぞをしている。一緒について来て欲しそうな顔をしていたが、犬科の毛は落ちやすい。衛生上良くないのでアップルパイに入ってしまうかもしれないので、同行は遠慮しておこう。

 そう、僕は気遣いのできる子なのだ。

 …な、何だよ、ハティ。何で笑うんだよぉ。え?僕が付いていこうとしたのを止めたのは私だって?

 否、僕は自主的に…って、痛い痛い痛い。嚙むな!ハティ、僕の金色の尻尾を嚙むな!


 しくしく、全く、僕の周りはどうしてこんなに強い奴ばかりなのだ。

 母といい、ハティといい、ルーシュといい。何かの罰ゲームなのだろうか。

 もう良いや、さっさと街の散策でもしよう。



 僕が街を歩いているとハティも一緒に付いてくる。まあ、いつだって僕らは一緒だ。ハティは僕がいないと…え?僕が1人だと何かしでかしそうだからお守に?

 何だろう、僕は子供じゃないのに。

 そう、僕はとってもジェントルマン。ママの言いつけはちゃんとまも…けふんけふん、母の言いつけはちゃんと守るのだ。




 僕らが街を歩き始めて1時間が過ぎる。朝日が昇って久しく、小鳥のさえずりが聞こえてくる。食べるとおいしそうな声だ。

 そこには何やら変な人種族の男がいた。

「くそう、俺は東の大陸の勇者様だぞ。田舎汲んだりして北の大陸まで来てやったのに!何でイベントが変な形で終わってんだよ」

 男はぶつぶつと妖しげな言葉を口にしていた。

 イベントとは何だろう。お祭りでもやっていたのかな?そういえば魔族を焼くお祭りみたいなものがあったような気がする。


 ハティ、あいつ変な奴じゃない?


 僕の問いにハティはというと『駄目です。近寄っちゃいけません』的な事を言い出した。ああ、なるほど、あれは変態か何かなのだろう。

 ぼくはまたひとつ賢くなった。


「このイベントは俺が北の大陸の勇者になる為のものだったはずだ。転生神メタトルスは俺を異世界に飛ばした際にすべてのシナリオがグランクラブオンラインと同じだって言ってたじゃないか!何で俺じゃない奴が!しかもあんなザコステータスのNPCが勇者になってんだよ!」

 目の前の男は親指の爪を嚙んで悔しそうにしていた。

「こうなったら平行して進めていた大森林イベントを進めるしかない。この町をモンスターに襲わせて、俺が救ってやるんだ」


 襲わせるのに救うとか、訳の分からないやつがいるものだ。

「大体、シナリオと違いすぎる。この国はエリックが王だった筈じゃないか。エリックが殺されて、王弟クレマンを俺が退治して勇者王に成り上がる予定だったじゃないか。何でエリックが既にいないんだよ!」

 意味の分からない事を叫ぶ男だった。ハティは退屈そうに欠伸をしていた。僕も面倒なので放って置く事にした。




 僕達はちょっと走って街の外に出る事にする。

 ふふふ、僕はお兄ちゃんだから、行き先を妹であるハティに決めさせてあげよう。さあ、ハティ。どこに行きたい?

 ……森の奥?競争でもしようって?

 ふははは、良いだろう、僕に勝てるなら勝ってみせるが………って、もう駆け出してるーっ!?ずるいよ!ハティ、ずるいよ!まって、おいてかないで!

 ああ、もう地平の彼方へ。くっそおおおおっ!負けるものかぁ!




 それから3時間後

 僕はぐったりしていた。

 ハティは疲れていながらも、岩山に上って勝利の雄たけびを猛々しく吼えていた。

 フライングだもん。僕の負けじゃないもん。大体、僕を差し置いて、雌のくせに雄たけびとかずるいと思う。




 既に昼過ぎになっていた。

 森を越えて辿り着いた街はとても栄えていた。山の麓付近だろうか。

 ガイスラー王国・ヴァロワ辺境伯領とかいう新しい看板が出てる。

 ふふふ、僕は文字だって読めちゃう偉大なる狼なのだ。

 日差しは暖かいけど風は寒い。そんな日なのでそろそろ帰りたい気分だった。

 ハティさんや、そろそろ帰りませんか?

 僕がハティに一声掛けようとするのだが、そんな折、小さい少女がジトと僕を見ていた。

「あー、わんわんだー。まま、ワンワンだよー。かわいーね」

「本当、可愛らしいわね」

 幼い犬人族の少女が僕たちを指差す。となりにいる母親と思しき犬人族の女は同意して我等を眺めていた。

 お前にワンワン言われる筋合いはない。

 我等神狼族は超偉いのだ。

 知らんけど。

 近付いて媚びるような情けない生物だと思……

 くーん、とか可愛らしく鳴いて、ハティは子供にすりよって、喉元を撫でられてもらっていた。気持ち良さそうに目を細めている。

 ずるい、僕も撫でて!

 くーん、くーん。




 ふっ

 中々、撫でテクの上手い人類だった。誉めて遣わそう。

 まあ、そろそろ帰ろうじゃないか、ハティ。

 ハティさーん?ハティ~、どこ行くの?フラフラしないでよー。待って~。


 ハティが勝手にどこか行こうとするので、僕も付いて行く。


 街から軽く走って1分程駆け抜けた街道に辿り着くと、何やら人やら馬やらがワラワラと、僕達のやって来た側に向かって歩いていた。

 何だろう、お祭りかな?お祭りかな?

 ねえねえ、鉄で身を固めてるけど、あの人達は歩き難くないのかな?

 え?あれはお祭りじゃないの?そういえば、最近、ルーシュは白色の鉄を身に纏った変な人達と追いかけっ子してたな。なるほど、あれは戦う装備なのか。

 ねえ、ハティ?何で人間はあんな体の動きを阻害するようなものを纏っているの?動き難くないのかなぁ?

 僕の問いにハティは偉そうに答える。何で知らないの?バカじゃないの、みたいな感じで話してくるのだ。ふん、人間に染まって媚びるなんて愚か者のすることなのだ。って、痛い痛い痛い、齧らないで。齧らないでよぉ。ハティさん、すいません。ごめんなさい。だから教えてください。


 ハティ曰く、どうやらあの男達はこれから戦争をするらしい。

 地平の近くで、鉄の服を身につけてガチャガチャ五月蝿い連中の声に耳を傾けると、それらしい声も聞こえてくる。

「ヴァロワ領の領地は広いからな。国王様もたくさん切り取れば我らの活躍に多くの報酬が出るだろう。貴族のなりあがりも夢じゃねえ」

「でも、鬼神ヴァロワの領地だろ?やばくねえか?」

「領都の外れの街だ。いきなりあんな化物は出てこないだろ」

「そ、そうだよな」

「楽しみだぜ、男は皆殺し、女は好きに犯して良い。そんでもって国からは報酬だ」

「ミストラル王国万歳ってなもんだぜ」

 下卑た笑みを浮かべて何だかよく分からない事を口にしていた。


 ハティ、ハティ。戦争って確か殺し合いのことだよね?

 ハティはうんうんと無言で頷く。まあ、僕らの意思疎通は基本無言だけどね。念話とかまだ覚えてないし。

 しかし、それは困った事だよね?僕らを撫でたあの幼き少女も殺されるという事なの?あの撫でテクは世界遺産認定されても良いのに、それを保護しないとかどうなってるんだ人類は。

 ハティさんや、戦争とやらを回避させられないでしょうか?もう一度撫でてもらいに行くのも吝かではないのですが?

 そこでハティは悪魔の提案をしてくる。

 約束をした母もルーシュもいないのだ。ならば、ちょっとくらい暴れても、別に怒られないのではないかと。

 いやいや、ハティさんや。ルーシュはとっても鼻が利く。いや、物理的な意味でなくてね?絶対にばれるから。そしてお仕置きをされるんだ。腹を上にして降参するまで撫で回されるよ?僕らは偉大なる神狼の子。つまりそのような………

 えええ、ハティ。突っ込んで行っちゃったよ!なんて男らしい。

 いやアイツは雌だ!何で皆の見ている時は大人しいのに、僕と2人だと先走るのーっ!




 10分位して、ようやく僕達の戦いは終わったのだった。

 ふっ……やっちまったぜ。

 まあ、人を殺しちゃいけないって言われてたからね。殺してないよ。殺してないけど……。果たして生きて帰れるのかなぁ。

 僕は新たなる必殺技、ならぬ不殺技を使って人間達の着ている鉄の服を全て粉々にしてやったのだ。鉄の棒とか、木の棒とか、何だかよく分からないけど、それで僕らを叩こうとしたり、魔法を撃ってきた。多分あれは武器だと思ったので、その武器も粉々にしたのだった。

 ふはははははは、ここは遠吠えでもして勝利の雄たけびを…


 ワオーン


 そうそう、こんな感じで…ってまたハティに先を越された!?僕の役目じゃ無いの?

 え?私の方が2人ほど多めに潰したから私が雄たけびを上げるべき?

 バカをいうな!馬とかは僕の方がたくさん美味しく食べたよ!

 …はっ…馬を食べる事に集中させて、その間に人を倒したのだな?卑怯者!ハティの意地悪。転がりながら抗議してやる。

 ゴロゴロゴロゴロ…


 ところで、ハティ?あの腰布一枚で逃げていった人間の群れは大丈夫なのかなぁ?モンスターに襲われないかなぁ?

 え?とっくに襲われたって?

 一体いつ!?

 そういえば、僕らもモンスターカテゴリだったっけ。




 僕らがそろそろ帰ろうかとした頃に、東の方からワイバーンに乗ってやってくる大きい人間の男がいた。

「ミストラル軍が行軍していると聞いて駆けつけたが、これは一体、どういう事だ?」

 鉄の服を着た人間が不思議そうに首をかしげて現場に舞い降りる。背中には巨大な鉄塊を背負っている。

 僕とハティは僕らが切り裂いた鉄の服の残骸を転がしていると、ばったりと男と目があってしまう。

 ようっと僕は右足をあげて挨拶をして見る。どうだろう。人間っぽい挨拶だったように思われる。


 男は僕らを見る。男は顎に手を置いて考え込み、

「なるほど。お前ら、俺のペットにならないか?待遇は保証するぞ」

 と男は手を出す。

 待遇以前にペット扱いかよ!舐めやがって、今すぐハムにしてやろうか!?

 僕は怒りを露にして噛み付こうかとするのだけど、

 『いくぞ、スコール』……みたいな感じで僕の肩をちょいっとつついてから、顎をしゃくって、帰る方向へ歩き出すハティ。

 なんてこった、またもや格好良い部分をとられてしまった!?

 ううう、酷いよ、ハティ。待ってよー。

「やはりペット扱いは不満だったか。中々面白い狼だったな。どこの獣だ?」

 そんな独り言をぼやいて去って行く僕らを見送る大男。あの大男、僕らの事をちゃんと認識していたようだけど、何者なんだろう。気になるなぁ……って、また競走!?森の出口まで早い者勝ち!?だから、……

 だからそれはフライングだって言ってるじゃないかバカー!

 既にハティは地平の彼方、森の奥へと一頭で進んでいた。




 僕らが森を抜け出したのは夕方の頃だった。

 ふははははははっ!僕の勝利だ!初戦は雌よ!我が神の脚の前には敵うまい!


 ワオーンッ!


 勝利の雄たけびを上げてやるぞ!

 良い気持ちだ。

 久し振りにすかっとした。え?子供っぽい。スコールはお子様ね、だって?

 うううう、ハティが虐めるー。


 ゴロゴロゴロゴロと僕は屈辱に塗れて大地に転がってハティに無言の抗議をしていた。

 まあ、僕らは喋れないんだけどさ。


 さて、僕らは大森林を抜けてすぐの町でたむろをしていた。

 そんな中、何やらモンスターの群れが、ルーシュ達の住んでる方へと移動しているのが見られる。

 黒い巨大な豹、羽根の生えた大蛇、鉄のような猪、巨大な蝙蝠、頭の大きい鰐、巨大蟷螂、怪しげなモンスターがまるで大移動をするかのように町の方へと歩いていた。



 ねえねえ、ハティ、あれってモンスター達のツアーかな。集団で何遊んでんだろうね。

 え?今朝のヘンテコな人がモンスター襲撃事件を画策してたから、それじゃないかって?


 言われてみれば、奴ら、僕らが近くにいるのにお構い無しにお城のほうに向かっている。

 つまり

 僕を無視しているという事か!?たかがモンスター風情で!?

 まあ、僕らはモンスターカテゴリなんだけど。

 ハティ、ハティ。どうしよう。なんだか、僕らの近くにはモンスターが寄らないっていう、僕らの大事なあいでんてぃてぃが奪われている気がするよ。

 は?……あいでんてぃてぃの意味を述べよって?

 …………

 ハティさん、ハティさん、こんな時にいじめるのはやめて下さい。分からない言葉(?)を適当に使いました。ホント、まじすんません。

 でもでも、どうするの?

 たくさん獲物がいるけど勝手に狩って良いのかな。ルーシュは、やりすぎたらメッ、て言ってたよ?

 ほえ?モンスターはセーフ?セーフなの?人間に迷惑を掛けなければ大丈夫なの?うーん、じゃあ、やっちゃう?ちょろっと狩りとかしちゃう?

 でもあんなモンスターじゃ狩りになるかなぁ。ママ…じゃなくて、母と初めての狩りだってもうすこし強いモンスターだったよ?


 僕の問いに対してハティは鼻で笑う。

 ハティ曰く、モンスターと言うのは人間の外敵であって、やっつけてあげれば感謝されるものらしい。確かにあいつらは僕らの話とか全然聞かないで食べ物なら何でも食べようとする危険な連中だ。小さい頃にも、寝ている時にうっかり耳をかじられたことがある。以来、寝る時は威嚇してから寝ている。


 いつの間にか村の中は騒がしくなっていた。人間はよわっちいから、モンスターを見て驚いて逃げているのかもしれない。大変だなぁ、人間種族は。

 あれ、そういえば超強い僕らを見ても逃げないくせに、どうしてこいつらはよわっちいあいつらを見て逃げるの?もしかして舐められてるの!?

 え?そこは私が可愛いから人間達は恐怖に感じない?

 あはははは、ハティ、熱があるなら家に帰ったほうが…痛い痛い痛い、この、いい加減にしろ。嚙み嚙み嚙み、僕だってやられてばっかりじゃないんだぞ。じたばたじたばた。


「我こそは東の勇者ハヤトだ!義によって参上した!助太刀する!」

 ええい、邪魔だ、人間。僕はハティとの喧嘩に忙しいのだ。

 こら、痛い痛い痛い、耳を嚙んだな、ハティ。この、尻尾嚙んじゃうからな。

 このっ、このっ、このっ

「って、何だ、この犬コロは。こんなモンスター襲来でも子犬同士でじゃれあって、直近くにモンスターが来ていると言うのに気付いてないのか?スキル・鑑定」

 僕とハティの激闘が続く中、今朝方に見かけた勇者ハヤトとやらが僕らの近くにやって来ていた。何やら悪意ある目で見てくるがそんなものはどうでもいいのだ。

 無害そうだし。

 モンスター退治なら勝手にするがいい。だが僕らの喧嘩をじゃまするな。ええい、ハティめ。一度締めてやる。

「なっ…な、何だ、この犬のステータスは!?HP測定不能!?MP測定不能!?AGIもSTRも測定不能!?……そ、そうか、い、犬だからバグッているんだな。犬……犬!?神狼族?何だ、この犬!?『神狼族』……『通常の魔狼に転生した神の魂によって、神にフェイズシフトした伝説の種族。遥か古来における犬人族の祖とされている。』…こ、こいつらは一体?グランクラブオンラインにこんな設定は……そうか、俺の知らない隠しイベントだな?この世界に転生したんだから、俺の知らないイベントがあったっておかしくは……」


 さっきから、ぶつくさ五月蝿いわ、人間!


 僕とハティの回転毛玉ダブルアタックにより人間は昏倒した。

 まったく、こっちのシリアスな状況を察して欲しいものだ。あ、そうだ、狩りをしないと。


 僕らはこの街に襲ってきているモンスターの群れに視線を送る。

 だけど、僕らよりも早く、どこかで見たことのある男が単身で細長い鉄の武器を持って駆けていた。


 武器を振り回されると、男の近くにいた一瞬でモンスターの群れが吹き飛ぶ。

「やっぱりこっちの方が性にあうな。どこのバカが魔物の笛を吹いて呼び寄せたかは知らないが、政務の滞りを忘れて今日は暴れてやろう。ふはははははは、このタイミングで俺の国の領地にやってこさせられた笛の主を恨むがいい」

 僕らが参戦する前に、何か憂さ晴らしでもしているかのように、金髪碧眼の男がモンスター狩りを始めていた。


 ハティ、ハティ。

 まずいよ。あの人間、かなり出来る。僕らの獲物が奪われるよ!

 ハティも同様の気持ちで確かに頷く。

 ここは停戦して僕らもモンスターを狩りに遊びに行かねばならない。このままでは地平の奥より雲霞の如く湧き出る僕らの獲物が、1人の人間に狩り尽くされてしまうではないか。



 それから1時間弱が経った頃、荒野にモンスターの死骸が大量に転がっていた。


 もうお腹いっぱいだよう、食べられないよう。

 食べられるだけは食べていたが、もうお腹いっぱいだ。僕のお腹はそんなにたくさん入らないのだ。早くマ…母のように大きい体になりたいものだ。そうしたらルーシュ達を乗っけてもっと素早く旅が出来るのに。

 僕とハティはとりあえず狩りつくして満足といった顔で地面に体を臥して休んでいた。

 そしたら一緒に狩りをしていた男が近くに腰を下ろす。

「お前ら、どこかで見たと思ったらルーシュと一緒にいた双子の子狼だな。ルーシュは一緒じゃないのか?」

 ほほう、ぼくらを狼と分かって話してくるとは中々に学があるやつとみた。だが僕らは別にルーシュとワンセットという訳ではないのだ。

「ま、友達といつも一緒という事も無いか」

 分かってるじゃないか。

 確か、この男はルーシュに『セドリック』とか呼ばれてた男だったような気がする。

「それにしても……、事前にギルドから兆候を耳にしていたが、集団で移動する習性のあるモンスターが多かったな。ここまで大量発生する事は無い筈だ。昔、東の大陸でモンスターの群れを操った神聖教団の司祭がいたな。それを魔族の所為にして教えを広めた奴がいた。今回、同じ傾向を、より大規模にされた可能性がある。 極秘裏に派遣した部隊から、森の中にある固有モンスターの住処が荒らされていた。モンスターを集めて、我が領土の街をモンスターに襲わせようとした存在がいる可能性があるな」

 セドリックは独り言のようにブツブツと口にする。


 ねえ、ハティ、この人間、賢いそうだよ?

 って、僕がハティに同意を求めようとすると、ハティはまた勝手に動き出していた。

 ハティはセドリックのズボンを引っ張って、街のほうに着いて来いといった感じで顎をしゃくる。

 ハティはそのまますたこらさっさと街の方へゆっくりと走って街の方へと向かっていったのだ。

 僕も仕方なくハティにゆっくりと付いて行く。

 セドリックは僕の後ろについて来て、一緒に街の中に入る。


 ああ、まだ僕らの喧嘩の横でグダグダ口にしていた変な男が寝ていた。

 たしかユーシャハヤトとか自分の事を言っていたような気がする。

 ハティはハヤトのポケットを鼻でゴソゴソと漁っていた。するとポロリと小さくて細長くて穴の空いた変な棒切れが出てきた。

 ハティはそれを咥えて、セドリックに差し出す。

 セドリックは「ほう」と口にしてその棒切れを右手に取ってジロジロと眺める。

「こいつ、東の大陸の勇者だな。確かハヤトとか言っていたな。聞いたことの無い地方言語の名前、異常な能力と、フトゥーロの賢者達以上に高度な知識を持つとか言われていたが……、どうやらコイツが企んだ事か。ダイヤクラブの幹部にも似たような奴がいたな。天界に住まい、世界のバランスを崩そうとするメタトルス神の手先という事か」

 セドリックが笛とハヤトとかいう男を交互に眺めて溜息をつく。


 ねえ、ねえ、ハティ。何だか万事解決みたいな空気になってるよ。

 ハティ、何でドヤ顔なの?まさか、私は全てお見通しなのよ、みたいな乗りなの?僕のほうがたくさんモンスター倒したのに!


「う、うーん……はっ、貴様!何者だ!」

 ユーシャハヤトはいきなり目を覚ます。慌てて起き上がり武器を持って構える。

 鉄っぽい金属の棒切れで、何やら黒光りしている。刃先がついているから何か切れるのかな?もうモンスターはいないけど、モンスターの死骸なら落ちてるし肉を食べるなら切って行くと良いよ。

 するとセドリックは

「君の持っていたこの笛について少々事情を話してもらいたい。今回のモンスターの襲撃について、君に疑いを持っている訳だが?」

 と、笛といわれた小さくて細長い棒切れを、男の目の前に突き出して尋ねる。


 小さい時に、ルーシュの呼んでいた絵本にあったような気がする。

 そう、つまり「犯人はお前だ」って奴か!?

 ああ、ハティが楽しそうに尻尾振って見上げている。そうか、人間劇を見る為にこの前振りをしていたのか。

「くっ……どこの誰かは知らないが、知られてしまっては仕方が無い。貴様の口を封じてしまえばすべては…、スキル・鑑定!」

 バッと手をあげて男は僕らにも仕掛けた何かをセドリックにしてきた。


 あれは何なんだろう?母に聞いたら教えてくれるかな?ハティ、ハティ、あれ、なんだか分かる?

 ほえ?神様のオンケー?神ってどこの神様?天界の誰か?

 異次元図書館の回廊を利用した転生者召喚をする神様がいて、たまに時代にそぐわない知識や能力を授けられた人間が送られてくる?言葉を神様によって補正されるから、きっとメタトルスかウリエレンのどっちかじゃないかって?へーほー……母、そんな話ってしてた?

 僕が難しい話になって寝てた時に?

 ……うううう、何だろう、双子なのに僕、頭の悪い子扱いされてるよ。

 くそー。


 僕とハティが勝手に二頭で盛り上がってるのだが、いつの間にかセドリックとハヤトの間では進展があったようだ。

「なっ……HP…MP…AGIもSTRも俺より上だと!?そんなバカな!チート能力を貰った俺が……NPCなんかに!?『名前:セイ・レ・ビスコンティ、人の身において人を超えた事で、ダイヤクラブの幹部となり、冒険者の王となった男』……な、何だよ、これ!こんなのチートじゃねえか!グランクラブオンラインにこんな設定はなかったはずだ!」

 ハヤトは驚愕してセドリックを見ていた。

 だけどセイドリックはその言葉を耳にして楽しそうに口元をゆがめる。

「鑑定?グランクラブオンライン?ははーん、さてはお前、ダイヤクラブの幹部『アマガセ』と同郷の転生者か。メタトルスかウリエレン辺りに特殊能力を授かってこの大地にやってきた口だろう?」

「!?」

「シナリオと違ったか?小僧。そりゃ、そうだろう?世界の理をアマガセの前に来ていたハギワラとかいうクズが散々壊したらしいからな」

「アマガセ?ハギワラ?……ま、まさか俺と同じ転生者が他にもいるって言うのか!?」

「よく分からないが、アマガセが言うには、ハギワラの所為で東の大陸が暴走に暴走を重ねて、世界が制御できなくなったと言っていた。まあ、だから、お前らの世界で言う所の支配者階級がこっちに来ちまったんじゃないのか?神の遣いである預言者、神狼の子、魔神の子が、こうも歴史の流れに関与し始めている。さてと、我が国を害そうとした罪は牢獄で償ってもらおうか。勇者ハヤト・トウドウ。ネタは上がってる」

 セドリックは何か偉そうに語って、笛と呼んでいたものをプラプラ見せていた。


 言葉の意味がほとんど判らないよ、ハティ。ハティは分かる?だよね、分からないよね?え?ちょっとだけなら?ちょっとってどの辺!?何でずっと一緒にいた僕とハティの間に知識の差があるの?

 母の話をよく聞かないからだって?うううう、それを言われると辛いなぁ。


「くっ………、ちょっとレベルが俺より高いからって調子に乗るなよ!魔剣デュランダルと、失われた古代魔法・召喚を使える俺が、お前らNPCキャラなんぞに負けるかよ!」

 ハヤトは右手の剣を構え、そして左手を空に向ける。

「世界の理に外れし神威の力よ、契約に従い姿を現せ。我が名はハヤト・トウドウ。出でよ!ダークボーンドラゴン!」

 ハヤトが何やら呪文みたいな言葉を口すると空に大きい黒い穴が出来る。


 あの黒い穴、僕達が地上に来る時に通った穴に似てるよね、ハティ。ほえ?同じ類のものだって?へー、そうなんだぁ。そりゃ、作れる人は作れるよね。

 え?

 母も使えるって?そうなの?

 だったら穴を使って毎日会いにきてくれれば…………ほえ?

 ママが恋しいのね、だって!?

 だだだだだだだっ誰が!?僕は雄だよ!母なんて恋しくないよ!


 僕は理不尽なハティとの問答をしている間にも黒い穴から何か巨大な生物が現れたのだった。

 生物と呼ぶにはちょっと怪しげだ。母よりも大きい体をしたドラゴンに見える。だけど、肉がない。あれでは食べられない。骨だけだ。ボーンドラゴンという奴か。巨大な魔法生命体だからどこかよく分からない場所にしまってたのかな?


 グオオオオオオオオオッ

 巨大なボーンドラゴンが咆哮をあげて街の家を踏み潰して現れる。


 ねえねえ、ハティ。あれは狩っても良いのかな?良いのかな?

 食べられないからやめようって?

 確かにあれは美味しそうじゃないね。腐ってるくらいが美味しいけど腐るも何も肉が無いもんね。


 僕達が尻尾を振ってハヤトとセイドリックを眺めていると、セイドリックは盛大に溜息をつく。

 ハヤトはドラゴンに飛び乗って勝ち誇ったように哄笑をあげる。

「ふははははっ!殺してやるぜ!勇者たるこの俺に刃向かった事を後悔させてやる!」

「刃向かうも何も……人の領地で暴れたりモンスターを手配したり、……ったく、神聖教団の勇者って奴は、どいつもこいつも人の国を何だと思ってんだ。神聖教団の派閥に入ってないからって、やって良い事と悪い事も分からないのか?」

「黙れ!テメエら弱小国はオレを崇めてれば良いんだよ!やれ!ダークボーンドラゴン!あの男を殺せ!」

 ボーンドラゴンは口元に赤い炎を集中させる。

「ちっ」

 セドリックは舌打ちして防御魔法を展開する。

 凄い炎がドラゴンの口から吐き出される。


 僕まで熱い思いをしそうだ。

 ハティ、ハティ、ここは防御をしよう。ほえ?負の魔力で熱いのを寒くすれば良いって?じゃあ、二頭で一緒にやろう。いっせーの…


 僕達は負の魔力を使って炎の精霊達を一瞬で大人しくさせる。

 ドラゴンから吐き出された炎は一瞬で消し飛ぶ。


 ぽかーんとするハヤトとセドリック。セドリックは僕らの方を見る。僕らがやったって分かるの?

 うーん、この人間、本当に侮れない。

 まさか、これが勇者なのだろうか!?え?勇者はあのよわっちいクロちゃんとあの骨の上に乗ってるハヤトって奴だって?

 世の中はよく分からないねぇ。


 炎が掻き消えて、戦いは振り出しに戻る。

 セドリックはニヤリと口元を吊り上げて

「ありがたいな。お陰で我が臣民の財産を守れた。後でルーシュ経由で褒美を渡そう。で、目の前のクズには早急に退場を願おうか」

 セドリックはポケットから透明な丸い石を取り出す。

「世界の理に外れし神威の力よ、契約に従い姿を現せ。我が名はセイ。出でよ、亡き同胞の遺した刃サウザンド・ブレイブス・ブレイド


 いきなり世界が暗くなり空にたくさんの鉄の塊が現れる。色んな形をした古びた鉄の塊の先端が尖っている。

 あれは人間達の使っている武器に見える。数え切れないほどの武器が空を舞い、ダークボーンドラゴンの周りを飛び交い、鉄の尖った側が全てドラゴンの方へと向く。


「勇者を名乗るなら、勇者らしい事をし給え。この程度の大道芸で顔を青くしてどうした、勇者ハヤト君?まさか召喚魔法が自分だけの特権だとでも思っていたのか?ダイヤクラブの幹部である俺が世界の秘奥を知らないとでも思っていたら大間違いだ」

「…なんでこれ程の魔剣が……ありえない!」

「誰かが作ったり、どこかに眠っていた魔剣とかってワケじゃない。オリハルコン時代より私と共に生きて、そして野望の道半ばにして朽ちていった、我らが同胞達の遺した剣だ。確かに…その無念と執念が染み付き、召喚と言うプロセスを踏む事で強化された魔力の刃は、確かに魔剣といえるだろうな」

 セドリックは一本一本を懐かしそうに見上げる。

「や、やめ…やめろ!こんな…」

「朽ちろ外道」

 セドリックが空に左手を掲げ、そして振り下ろす。

 同時に、数え切れない武器の雨が降り注ぐ。

 ボーンドラゴンもハヤトという人間も一瞬で穴だらけになって、そして肉片も骨も残さず朽ちて行く。


 ……あ、あの人間、やっぱりやるね。僕とどっちが強いかな。あの剣の雨を全部避けるのは難しそうだね。当たったらチクッとして痛そうだし。

 え?僕が引き付けてハティがあの人間をやっつければヨユー?

 そっかぁ……って、僕だけ痛い思いするじゃん!

 ハティはいつも美味しい所だけ奪っていくのだから。

 むー。



「また犯罪勇者が出たかぁ。どうするかなぁ。ったく、神聖教団の連中は喧嘩を売っておいて、被害者面するからなぁ。ダイヤクラブもいい加減にあの選民思想にはうんざりしてたしなぁ」

 セドリックは溜息をつき、僕達の近くで座り込んで僕らの頭を撫でる。

 どうやらセドリックもモフリストだったようだ。僕のモフモフ感は世界を制すらしい(ルーシュ談)。ハティは首を差し出すので、セドリックはハティの首元を撫でる。気持ち良さそうに目を細めていた。

 僕も撫でてもらうべく首を持ち上げた。




 今日もいつもと変わらない、平凡な散歩が終わって、ルーシュの家に帰る。

「おー、スコール、ハティ。お帰りー。どうだった?散歩」

 ハティは相変わらず構ってちゃんでルーシュに擦り寄って撫でてもらっていた。

 今日もいつもと変わらない普通の散歩だったよ。ちょっと楽しいイベントがあったけど。

「ふーん、何だか楽しそうな事があったのかな?」

 ルーシュは優しく僕の毛皮をなでる。

 うーん、やはりルーシュの撫でテクは一枚上手だ。微妙な強さがまたまた…うとうとしてきた。

 こうして僕らの一日が過ぎていく。

 世界は大きく動いているみたいだけど、僕はいつだって平和で楽しい毎日を送っていた。

 スコール無双と見せかけて、普段のスコールの周りに振り回され感を描いてみました。

 ちなみに、大森林を横断してガイスラー王国へ到着してましたが、シャトーから悠に2000キロ以上の距離があります。この二頭、実は音速を超え、衝撃波を放ちながら、森林を掻き分けて駆け抜けてます。


 世界の裏側で、異世界転生とか色々あるようですが、本編とは全く関係ありません。まあ、異次元図書館とか出しているし、ルーシュの知ってる物語でイソップ童話が何かと混同してたりしている時点で、そういうのもあると予測していた人がいるかもしれません。


 ただ、この物語を私が頑張って続ける事が出来れば、東の大陸編で異世界転移した人間らしき大犯罪者の名前は出てくるかもしれません。

 実際、未来都市フトゥーロの賢者、ダイヤクラブの創設者の幹部など、この世界に少なからず影響を与えています。

 番外編だからこういう裏話を適当に書けるというものです。

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