スコールの幼少期
スコールの幼少期、というか、ルーシュ達がグランクラブに出てくるちょっと前の出来事です。
1章でちらりと触れた『先日、噴火したマグマに飲み込まれて死にそうになった魔人の子を助けたそうじゃけど、その際にマグマを凍らせてベーリオルト卿の領土の一部を冬にした』という事件です。
※章整理の為に、話の位置を変えました。(16/5/28)
僕の名はスコール。フェンリルの長男にして最強無敵の神狼種である。
これは僕が生まれたばかりの話だ。
生まれたばかりの頃、僕は既に神だった。
ママからタンサイボーシュッサンとかいうので生まれた僕とハティの兄妹は、母に匹敵する能力を身に付く事を約束されて生まれたのだった。そう、兄妹である。ここは重要だ。僕は兄だ。ハティが姉だという勢力があるが、そのようなものはニワカと嗤ってやろう。
僕が生まれた直近くにはママ以外に何だか良く分からない魔族の『構ってちゃん』がいた。
ママが言うにはママの友達らしい。だが神の子たる我らと対等になろうというには、軟弱そうな奴だ。
ねえねえ、ハティ、ちょっとアイツ締めね?みたいに誘ってみたら、ハティは神の子の癖に
面倒くさ~い。勝手にすれば~。
みたいな態度をとるのだ。酷い話だ。
と言う事で僕は、隙あらば僕の顎をなでて快楽に誘おうとする魔族の子供と戦う事にしたのだった。
「ほう、スコールめ。僕と戦おうというのか。生まれて1ヶ月のオコチャマが僕に勝とうなどもう数ヶ月早いわ!」
ルーシュと名乗った僕のライバルは指をビシッと立てて断言するのだが、僕は大人なんかには屈しないのだ。
僕ら神狼たるもの序列付けは大事だ。
ハティがちゃっかり僕より偉そうにしているので、界隈の序列は僕が一番低い状況になっている。なので僕はカモに見える魔族の子供を倒して序列を上げようとしていた。
『スコール、ルーシュに刃向かうのはやめなさい。ルーシュは大事なお母さんのお友達なのですよ』
ママは止めるけど、ここは止めないでほしい。そう、これは僕とルーシュと言う魔族との男と男の戦いなのだ。
僕とルーシュは距離を取って構えていた。
暗黒世界の冷たい風が吹き荒ぶ。あの無防備な弱々しい魔族にぼくが負けるなどありえない。ママは制止に入るが僕は止まらない。
くはははははっ邪悪なる魔族よ、僕に歯向かった事を後悔するが良い!
僕の攻撃は見事に決まった。
相手の魔族の首が綺麗に飛んだのだ!
勝利!僕の勝利だ!
首のとんだ魔族を振り返ると、魔族の子供の首は空に舞い、回転して、そして再び失った首に着地してくっ付く。
あれ?
「痛い!痛いよ!スコール、死ぬかと思ったよ!」
涙目で訴えるルーシュ。
いえいえ、むしろ何で死んでないんですか?僕は生まれて1歳だけど、多くの知識はママの腹の中でママから教わってるから超頭が良いのだ。
生物は首が離れたら死ぬ。
常識が今覆っているのですが?
もう一度挑戦だ!
僕は足元の大地をシュッシュッと掻いて、目の前にいる魔族へ向かって攻撃の準備をする。
さあ食らえ!スーパーミラクルボンバーサンダーエクスクラメーションアターック!
ところで語呂がよかったから適当に頭の中で考えたけどエクスクラメーションって何ぞや?
僕の突進は再びルーシュに炸裂した!
そう思っていた。だがルーシュは何と僕をキャッチしていた。
おかしい!?
僕の突進は巨木をもなぎ倒し、その前も子犬と勘違いして食おうとしてきたキングキマイラを一撃で殺した攻撃なのに!?
「ふはははは、この悪戯っ子さんめ。うりうりうりうり」
やめろ、頭をなでるな。腹をなでるな。顎の下は……うーん、もっと撫でろ。
結局、僕は撫で回されて、この日は敗退する事となったのだった。
だからもっと撫でろ。
後でママから聞いたのだが、どうやらルーシュは僕と同じ神の子なのだそうだ。
母の子である僕と同じくして、あのルーシュという子供はこの暗黒世界の3人いる魔神の1人だという。どうりで人知を超えた怪物だと思った。僕は狼だけど。
そう、僕が負けたのは仕方ないのだ。べ、別に負け惜しみとかじゃないし。次やったら負けないし。
こうして、生まれてから僕らを構ってくれて、妙に撫でテクの上手い魔族の子供はよく一緒に遊ぶ事となった。
たまに連れてくる筋肉達磨や青髪のパチパチ女や小柄な脳筋娘がやってくるが、いたって平和だった。やつらは一様に顎の撫で方が上手いのだ
そんな日々が続く中、ピクニックへと行く事になったのだった。
ママの言い分はこんな感じだ。
『ルーシュ達は北の方へ、ピクニックに行くらしい。そこであなた達も付いていって、魔族達との友好を結んできなさい』という事だ。
ルーシュ以外の魔族は一様にか弱いので、対応に困るが、つまり虐めないで遊んでやれよってことなのだろう。
僕ももう生まれて半年は経つ。つまり大人の仲間入りだ。サバはあんまり読んで無いよ?
って、そこのハティさんや。ぷーくすくすとかいって笑わないで欲しいんだけど。僕は大真面目で訴えているんだってば。くそう、なんで僕のほうがお兄さんなのに向こうのほうが歳上ぶるのだろう。
そこの所、今度はルーシュにはっきりさせてもらおう。どっちが年上っぽいかコンテストを開いて、僕とハティのどっちが上か明確にするのだ。
ピクニックは中々に楽しいものだった。
毎日400キロを走り、野生のモンスターを狩って野宿という遊びを繰り返していた。人類の癖に中々やるじゃないかと誉めてやりたい。まあ、僕なら1日で1000キロくらい…多分余裕だと思うんだけど…。ま、まあ、まだ子供だからね。きっと出来るけどやらないだけだよ?
「疲れたー。でもやっとこれでベーリオルトさんちの鉱山に辿り着いたね」
ルーシュは藁を敷いて1人でゴロゴロしていた。
その隣に立っている筋肉達磨がルーシュの隣に座る。
おい、僕を押し寄せるな。くっ…人の子はコレだから。
ここはルーシュの軽い頭の上に退避を…って思ったら、既に先約!?
ハティばっかりずるいよ!
僕はハティに続いてルーシュの頭の上を目指す。
「金山って聞いてたけど、巨大な金がもろに見えるんだな。すげーな、あの山」
筋肉達磨が遠くの山を見てぼやく。僕の毛のような色をした岩石がゴロゴロしている山が遠くに見える。
「元々、あれ、ルーシュのじゃなかった?」
そうたずねるのは小柄な魔族の少女だ。少女はルーシュと筋肉達磨の間に座ろうと小さな隙間を一生懸命こじ開けようとして座っていた。
ちなみにその逆隣は青い髪のピリピリ女が座っている。
「そう、あれは私と交換してあげた鉱山の1つ。つまり私はルーシュの所有物なの」
「くっ…レナの癖に勝手に既成事実が!?お兄ちゃん、レナが偉そうなんだけど!腹立つんだけど」
悔しそうに呻く小柄な少女。
「俺はそんなものより肉が食いたい」
だが、筋肉達磨は自身の筋肉をアピールするようにムキムキとポージングを取り、関係ない事をぼやく。
「えー」
そして、その妹はげんなりする。
だが、僕も肉が食いたい。ふっ、どうやらあの筋肉達磨、同じ兄属性で、気が合いそうな気がする。そう、兄属性である。重要なので二度言いました。
するとハティがクツクツと腹を震わせて笑っていた。何事かと僕がハティを一瞥すると、ハティ曰く、スコールも目先の肉ばかりを追いかける人類と同種ねとバカにするのだ。
この野郎、今度こそ決着をつけてやる!
僕はハティに掴みかかるのだが、頭の上でジタバタする僕らをルーシュが引き離す。
ルーシュ、離して。そいつを殺せない!じたばたじたばた
「ルーシュは人気者だな。これはレナだけじゃなくリンも許婚にしてしまえば良いのでは?」
筋肉達磨がよくわからないことを言い出す。その言葉で二人の雌が互いに睨み合う。
「えー、面倒だよ。僕、レナを養うだけでもいっぱいいっぱいだし」
ルーシュは心底面倒そうに口にする。ハティが呆れたように溜息を吐いていた。何故に!?
「そうだよ、リンちゃんなんて必要ないよ!」
「っていうか、養ってもらう気満々なレナちゃんは良くないと思うよ!僕ならルーシュを養えるよ。そして大人の女としてめくるめく快感の世界に」
リンちゃんと呼ばれた小柄な少女は平べったい胸を張って、レナと呼ばれた青髪のピリピリ女を見る。
レナはジトと視線をリンちゃんと呼ばれた少女の胸元へ向けて、
「…はっ」
と鼻で笑う。
「くうううう!でかいからって調子に乗るな!ルーシュは多分、きっと、僕の様に小さい方が好きな人だよ!将来、そうなるよ!友達だってレヴィアたんとかいるし、きっとそんな感じだよ!」
「息子は父親に似るという。バエラス小父さんは巨乳好き!」
「がーん!」
レナの言葉にリンちゃんとやらが驚愕して地面に臥す。
少女達の戦いは良く分からないが、言葉で負けてしまったようだ。残念ながら拳と拳で語り合うような熱いバトルはないらしい。
僕もハティと、ルーシュの頭頂部の主導権をかけて肉球と肉球で語り合うような熱いバトルを展開中だが、再びルーシュに引き離されてしまう。
ハティが舌を出して僕を挑発している。
くやしい!ルーシュ離してってば!
…ん?
そういえば僕らっていつも舌を出していたような。
僕らはここでキャンプをする事になったのだが、そこでルーシュ達はこの場を去って行き、僕達はお留守番となった。
そこで近隣の魔族の子供なのだろうか、1人の少女がやってきていた。
こんな所で子供が1人だと危ないのは周知の事実。僕のような神が如き狼ならいざしらず、あのようなお子様ではキマイラ一匹も勝てまい。
僕は紳士にも彼女に近寄ろうとすると
「わんちゃんだー。わんちゃん、可愛いね」
と近寄ってくる。
誰がわんちゃんか!?
僕は偉大なるフェンリルの…ってハティ、そんな人類に媚を売るな!
ハティは小娘に跪いて顎を差し出し撫でてもらっていた。何と言うプライドの無さだろう。同じ神狼族とは思えない。
ハティは気持ちよさそううに目を細めて子供に顎の下を撫でられていた。
だから…僕も構ってよー。
ルーシュ達は狩りに行って久しい。僕らがお留守番なのは、僕らがいるとモンスターが寄って来ないからだ。
王者とは悲しいものだ。
なので偶然通りかかった小娘の世話でもしてやっていた。
「わんちゃん、どこの子?ウチに来る?」
ふっ…その撫でテクには参ったが、お前の家になんぞいくものか。我こそはフェンリルが長男、スコールなのだから!
だから、今日は思う存分僕を撫でるがいい。ハティばっかりじゃなくて、僕もなでてください。
僕は首を持ち上げて少女に擦り寄る。だがしかし、少女よ。何でこんな山に来たのだ?貴様などただのモンスターの食料になるに違いなかろう。
僕の真摯な視線に気付き少女は自分の身の事を話し始める。きっと僕の心が通じたのだろう。お兄さんが相談に乗ってやろうじゃないか。
「お父さんが病気になっちゃったの。だからね、このお山の上にあるっていうすごーい元気の出る石を探しに来たのー」
よく分からんが、どうやらこの子はこの山に用があるらしい。僕の毛皮のような色をした山が遠くに見えるこのキャンプ地で、この少女は何をしているのかと思えば宝物探しをしていたらしい。
なるほど、しかし我らはここで番犬ならぬ番狼をしている身。
肉のご褒美があるので離れられないのだ。なので頑張って探してくるが良い。
少女は手を振って山の奥へと消えて行く。
僕とハティは小一時間ほど丸まって周りの様子を眺めていた。まあ、僕らがこの山にいるから、よくよく考えたら、あの少女もモンスターに襲われるようなことも無いだろうしね。
ふっ……何もせずにいたいけな少女を守る僕、格好良い!
え?あの少女よりも年下の癖にだって?いや、でも僕らは神狼の子だから生まれてまだ1歳に満たないけど、心はもう大人的な?
そう、見た目は子供、頭脳は大人って奴だ。
え?何か版権に引っ掛かる?ハティ、僕は君の言っている意味がよく分からないよ。…今度母に異次元図書館に連れて行ってもらって調べてみよう。
本に書いてある文字、読めないけど。
僕らがキャンプ地でゴロゴロしているとルーシュ達が帰ってきた。
アームとか呼ばれている筋肉達磨が、自分の体よりも遥かに大きいタイラントを抱えて、ズシズシと足音を立ててやってきていた。
今日はタイラントか。何でそんな小物を連れてくるかなぁ?
ジャイアントキマイラとかワイバーンとかが良かったのに。お前達にはがっかりだよ。
僕とハティはがっかりといった感じで眉根を垂れさせ、尻尾を下げる。
「そんなガッカリしないでよ、ハティもスコールも。何にもいなかったんだよ。鈍感なタイラントだけが見つかったんだ」
ルーシュは言い訳をするが、僕もハティも納得しないぞ。ってハティ、何で納得した顔でルーシュに擦り寄ってるの!?
そこは怒るところだよね?
「やっぱり、ルーシュに加えてそこの2頭がいる所為でモンスターが散ってるんじゃないのか?移動中ならともかく拠点にして足を止めたら、集落の結界を張ったようなものだからな」
アームは諦めるように僕らを見る。事もあろうか僕らの所為にまでしやがった。
「でも、僕もハティやスコールも気配は極力消したよ。今回はそういう修行じゃないか」
ルーシュはピョンピョンと跳びながら筋肉達磨に訴える。
そうだ、僕らの所為じゃないやい。
僕もハティもルーシュと一緒にピョンピョン跳んで訴えてみる。
「やはり、僕とルーシュの熱いラブラブパワーがモンスターが熱がって逃げたのかも」
「一方的なパワーは発散しやすいもんね」
「うにゃーっ!レナは五月蝿いの!ルーシュの婚約者面しないでよ!」
「いやいや、私は正式なルーシュの婚約者だから。しかも購入されて所有物だし。もはやリンちゃんと私とでは格が違うんだよ」
「くううっ……ルーシュ~。レナがいじめるよ~」
リンとかいう小女とレナとかいう青髪パチパチ女は相変わらず仲が悪いみたいだ。
え?ハティ。なんだって?メスとメスがルーシュの番をかけて争っているの?…くっ…ルーシュがなんだかまぶしく見えてきたのは気のせい!?
ルーシュのモテ疑惑が発覚して僕は戦慄していた。
「でも、なんとかパワーはともかく、熱がって逃げているのかも。何か足元から土精霊と火精霊がピョンピョン湧き出してるんだよ」
ルーシュは周りを見ながら口にする。
「親父が言うにはここは火山帯らしいんだよ。その所為じゃないかな?だから、ポーションの材料になる希少な薬草や岩石とか取れるらしいぜ」
「へー。……おかしい、アームなのに言ってることが賢げ」
ルーシュはジトとアームと呼んだ筋肉達磨を見上げる。確かに頭悪そうだけど賢げだ。しかし、ルーシュには言われたくないだろう。アホの子筆頭のルーシュにだけは。
「失礼だな!アホの子筆頭と歌われたルーシュだけには言われたくないよ!」
「誰がアホの子筆頭だって歌ってんだよ!呼んで来い!」
「ルーシュ、世間の常識に何を言ってるの?」
アームに噛みつくように訴えるルーシュは背後から刺されたかのようにレナの一言で崩れ落ちる。
「がーん」
どうやら我がライバルは人類におけるアホの子筆頭だという事に気付かない程度にアホの子だったらしい。
え?
神狼の中でもアホの子筆頭はスコールだって?誰がそんなの言ってるのさ、ハティ!?
え?3分の2の神狼が言ってるって!?そんなバカな!全ての神狼族が何頭いると思ってるのさ!?
僕とママとハティの3頭だけじゃん!
もう、ガッカリって感じで僕は俯いていると1人の魔族がさらに歩いてきた。
何だろう。人がたくさん現れるな、今日は。ルーシュだけでも手一杯なのに。
アームとかいう筋肉と、リンとかいう小娘と、青髪ピリピリ女のレナ。
さらに追加人物なんていらないんだけど。
僕らが振り向くとそこには魔族がいた。
小物だったので僕は無視する事にするのだが、小物はなんだか偉そうな物いいをしてきたのだった。
「こんな所に魔公が来ていると思えば、人の領地で何してやがるんだよ、バエゼルブのクズ共が」
男は偉そうに上から目線でモノをいっていた。
「えーと…キャンプするって通知はとっくに送って、そっちも了承してたんだけど…。ベーリオルトさんの所の息子さんは聞いて無かったの?」
「ぐ……言われてみればそのような事を…」
ルーシュの率直な物言いに、男は顔をゆがめて考え出す。なんだか三下臭がハンパなかった。
ベーリオルトさんとやらの息子さんらしい。
魔公という種族は基本的に名前をつけないらしいので結構適当だ。ルーシュなんてルシフォーンの子供だからルーシュなのだ。
なので、僕はここでこの男をベリツーと名付ける事にした。我がネーミングセンスのすばらしさが伺えるというものだ。
ベリツーは僕らを値踏みするように見て、そしてフンと鼻で笑って去って行く。
ねえ、ルーシュ、あいつ嚙んで良い?僕はルーシュの脚にしがみ付いて訴えるが、ルーシュに却下されてしまい、ハティ共々肩の上に乗せられてしまう。
すると大きい震動と共に音が鳴り響く。
僕も何だか良く分からない感じなので耳を澄ましてみる。何か揺れている。よく感じ取ってみると地面が揺れているようだった。
ハティ、ハティ、何が起きてるの?
地震?何それ?美味しいの?
え、バカじゃないのって?酷いよ!
地面が揺れる自然現象?……ウーン揺れてるねぇ。なんか……炎が降ってきてるよ!?何あれーっ!?
空から火の玉が降ってきた。誰かが魔法でも唱えているのだろうか?その割にはそういう感じがし無かったよ?
僕は慌てていたのだけど、ルーシュ達は翼を広げて飛んで近くの集落の方へと逃げる様に向かっていた。僕達はルーシュの肩に乗ってたから、そのまま連れ去られてしまうのだった。
ルーシュ達が街に辿り着くと魔族の集団が、何だか慌しそうに人が集まっていた
だからこれ以上、人数を増やさないで欲しい。100人くらいいるだろうか?僕はもう人類ばかりでうんざりだよ。ルーシュ、もう帰ろうよぉ。
僕はルーシュの耳を甘嚙みして訴える。
「まあまあ、スコール。火山が噴火して彼らは弱いから僕ら魔公が守ってあげないといけないんだよ。ここの土地はベーリオルトさんの土地だけど、急なことだから彼らが来るまで僕らが助けてあげないとね」
よく分からないが人類と言うのはどうも弱者を助ける習性があるらしい。
ルーシュは避難の為に街を出ている人達に声を掛けていた。
「さっきベーリオルトさんの息子さんがいたから多分大丈夫だよ。誰か困ってる人はいる?」
周りの人間達は何故かルーシュを拝む様に手を合わせていた。何故奴が敬われているのだ!?僕を敬ってよ。僕の顎の下をもっと撫でてよ!
「娘が…娘がいないのです」
顔色の悪いやせ細った魔族の男が現れる。
「娘さん?どこかお出かけ?」
「それが…ごほっごほっ……薬を持ってくるといって…出て行ってしまい…」
「薬?」
ルーシュは首を傾げる。
「そういえばあの山は貴重な薬草や石があるって」
レナが思い出したように山のほうを指差す。
「「「やばいじゃん」」」
ルーシュ、リン、アームの3人は悲鳴のような声を出す。
するとベリツーが山のほうから戻ってくる。
「何だ、貴様ら。生きてたのか。火山に飲み込まれれば良かったものを」
凄く無礼な男だった。
山の頂上からはゴンゴン火を吹いて、たくさんの煙がもくもく湧き出していた。
あのけむりはカサイリューと言って超熱くて人間は死ぬんだってハティが言っていた。
ふっ…あの程度の熱さに負けるなどやわい人類だ。え?僕らも生きていられない?何で?
息ができない。それは苦しいね。死ぬね。
僕がハティと分析しているとルーシュは山のほうをずーっと眺めていた。
「ベーリオルト様。娘が山に…お助け下さい…お助け下さい」
男は跪いて頭を下げていた。僕らの真似だろうか?人類なのに四本足で座っていた。
「…なんだと?だがあの火砕流ではもはや我らとて生きて救出は困難だ。諦めろ」
ベリツーはきっぱりと断言する。
その言葉に父親らしき顔色の悪い男は膝をついて嘆き悲しむ。
人間は死ぬらしい。残念な話だ。どの娘っ子か知らぬが…
ん?何?ハティ。……えと……あの時僕らをなでてた女の子?
何てこった。そういえば山に入っていった。あの撫でテクの娘が死ぬのは神狼界にとっての損失だよ。助けに行こうよ、ハティ。今すぐ。
だけど、ぶんぶんとハティは首を横に振る。
何で?ハティ?この人で無し!僕たち人じゃないけど!
死ぬ?僕達が?…だ、大丈夫じゃない?熱い場所から逃げれば…無理なの?
「見つけた!まだ生きてる」
ルーシュはクワッと目を光らせて山奥を見る。
「え?」
「あの煙の奥!ちょうど谷になって火砕流が回ってないみたい!」
「確かに…魔族の魔力がまだあるのう」
ルーシュの言葉に全員が頭の上にクエッションマークを浮かべる。
「仕方ないか……。ふっ」
ルーシュは手を翳す。
僕らが竦むほどの凶悪な魔力が渦巻く。
すると、上から降り注ぐどろどろと流れてくる炎と煙が一瞬で凍りついた。それどころか、山の周りが一気に冬になった。
炎に溢れた山は一瞬で氷山になっていた。
僕も流石に開いた口が塞がらなかった。……まあ、いつも舌を出して口を開けてるけど。
ルーシュすげー。
ルーシュってあんなに凄かったの?今日から敬語使った方が良いの?
ルーシュはお母さんと同格の神に近い魔族だからあのくらいの天災は簡単に止められちゃうの?ほえー、初耳。え?前にお母さんが話してた。…ぼ、僕だけ聞いて無かったんじゃなくて?
ハティは呆れたように溜息をつく。僕だけ話を聞かないヤンチャボーイみたいな言い方に僕は納得いか無かった。
暫くしてルーシュは氷山の奥から女の子を抱えて山から飛んで下りてきた。
ただ……山は氷山になって、木々は凍り付いて、あたりは冬になっていた。
これは良いのだろうか?
「き、貴様!よくもやってくれたな!我が領土にこのような事を!」
怒鳴り散らすベリツー。
「まー、人命優先的な?」
ルーシュは少女を下すと、少女は病弱そうな男に泣きつく。
「訴えてやる!あの山は重要な我々の資源だったのに、それを台無しにしやがって!」
「えー。そこは人の為に深い懐を」
ルーシュは相変わらずゆるゆるな感じで、いきり立つベリツーを諌めようとするが、ベリツーはプリプリと怒っていた。
「ふざけるな!小娘1人の命と山の資源とでは資産価値が違うわ!鉱山1つ分の請求をしてやる!バエラスのクズが!」
ベリツーはビシッとルーシュを指を差して怒鳴りつける。
まあ、人間のことはどうでも良いや。助かったなら僕らをなでてー。
僕とハティはルーシュに助けられた少女のいる方へ、撫でて貰いに足元へ駆け寄る。
「ルーシュ、やりすぎ」
「あれはベリオールトさんちの息子さんじゃなくても怒ると思うよ」
「だねぇ」
一気に寒くなったこの土地で、体を震わせてぼやくレナとアームとリンの3人が同意する。
ルーシュは困った表情で山を見て、でも助かって喜んでいる男と少女を見て
「ま、いっか」
ホッとした様子で口にする。
こんな感じで僕らのピクニックは幕を閉じたのだった。
それから暫くして、僕はママに説明を受けていた。
『つまりルーシュは魔族の創始者、我が友シャイターンの後継者の1人だから、彼らを守る習性がある。前世の私もそういう習性があった』
ふーん、そうなのかぁ。だから人類は食べちゃ駄目っていうの?
『それとは別。人類は非常に団結して敵に向かおうとする。我々は種の一体を食料にするだけで種そのものを敵に回す事になる。故に望まない戦いになるからです』
よくわかんないや。
『つまり、ルーシュの友達を食べたら、ルーシュが怒るという事です』
それは怖いね。むう……まさか我がライバルがあのような力を持っていたとは…恐ろしい。
って、何で僕を見て笑うのさ、ハティ!?誰が誰のライバルだってとか言わないでよ!
プンプン
この頃は、まだスコールは母親の事をママと呼んでいました。
魔族の内政事情も書ければと思っていますが、暗黒世界が絡むにはクロードがもうちょっと頑張ってくれないといけないので難しいですね。




