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レナの回想録

サブタイ通り、レナの回想録です。

レナが物心をついてからのレナ視点の物語です。

ポンコツ魔王を喧伝していた本編では語れない、魔王様の良い所が描かれています。

 私は2人のお母さんがいました。

 イザベラお母さんとメリッサお義母さんです。

 お母さんは体が悪いらしく、いつもベッドの上にいました。だからいつもメリッサお義母さんが私の近くにいてくれます。

 イザベラお母さんは、暗黒世界にいるみんなと少し違うらしく、暗黒世界では栄養があまり取れないそうです。私は他の人に触ると栄養を吸い取ってしまう体質なので、お母さんに近付くととっても悲しい事になるから触らない様にねと、メリッサお義母さんはいつも優しく教えてくれます。


 ベッドで寝ているお母さんに、最近知り合った年上のアーメイム君や同じ年のアーメイムちゃんと仲良くなった事を話しました。暗黒世界の魔族は名前が適当だから誰が誰だか分からないわね、って笑ってました。

 確かに、私も喋っていて良く分からなかったかも。

 ただ、アーメイム君はすごくやんちゃで、もう空を飛べるんだって話したら、お母さんは凄い凄いって誉めてました。なので、私も早く飛べるように練習をしようと思います。


 転んで膝をすりむき家に帰ると、お母さんはいつだって優しく頭を撫でて笑いかけてくれます。そして『痛いの痛いの飛んでいけー』と膝を撫でると痛みがなくなって擦りむいた傷が治ってしまいます。

 暗黒世界の人達には誰も出来ない魔法なんだよって教えてくれました。

「私も覚えたい」

 って言ったら、お母さんは困ったような顔で笑い、レナはお父さんに似てるから無理かもしれないけど、頑張れば出来る様になるかもねって言ってくれました。


 お母さんはよく昔の事を話してくれます。

 昔、大好きな人がいた事。大好きな人が狂ってしまった事。その人を助けたくて、もっとたくさんの罪を背負ってしまった事。そして大好きな人と、大好きな妹に裏切られて、真っ暗な世界に閉じ込められた事。

 メリッサお母さんは大事な人の命を奪った相手にも優しく手を差し伸べて、この世界で生きる方法を教えてくれた、とても優しくて慈悲深い人なんだよって教えてくれた。

 もちろん、私もよく知ってます。メリッサお母さんは少しだけ意地っ張りで、素直じゃないけど、とっても優しくて賢い事を。いつもバエラスさんちの小父さんを邪険にしているけど、本当はとっても仲良しなんだもんね。

 お母さんは、暗黒世界の人達はとっても良い人達ばかりだって言います。

 お父さんも、ちょっと情けなくて、少しだけおバカだけど、誰よりも優しくて200年もずっと隣で一緒に生きてくれた、とっても良い人なんだよって言ってました。

 きっとお父さんもレナに迷惑掛けるだろうけど、見放さないで上げてねって言ってました。

 メリッサお母さんがしっかり者だから大丈夫だよって言ったら、お母さんはコロコロと笑ってました。



 でもお別れは突然やってきました。

 朝起きて、お母さんを起こそうとしたけど、お母さんは目を覚ましてくれません。

 お寝坊さんなのかなって思ったけど、全然起きてくれません。

 メリッサお義母さんはとってもとっても泣きました。

 アシュタールお父さんもとってもとっても泣きました。

 知り合いの皆がとってもとっても泣きました。

 私はよく分からなかったので、1度も泣きませんでした。


 それからお母さんが突然いなくなりました。

 私はどこに言ったか聞いたけど、誰もどこに行ったか教えてくれません。一生懸命探したけどどこにもいませんでした。

 私はお母さんが2度と目を覚まさなくなったと知ってとってもとっても悲しくなって、ずっとずっと泣きました。


 それから暫くして変な男の子と一緒に遊ぶ事になりました。

 私が5歳か6歳かという頃だったと思います。メリッサお義母さんの子供だって言ってました。背中に赤ちゃんを背負ってる変な子でした。背中の赤ちゃんはシホちゃんというそうです。

 何だか変な男の子が勝手に赤ちゃんに名前をつけちゃったそうです。変わった子です。そうそう、変な男の子はルシフォーン4世って名前だそうです。長いからルーシュって皆が呼んでるから、私もルーシュって呼ぶ事にしました。


 とはいえ、ルーシュは別に一緒に遊ぶわけでもなく、一緒に異次元図書館と言う場所に行って、一緒に本を読むだけでした。

 私は異次元図書館という本棚が並び続ける螺旋階段の中を歩いて、お母さんのお話してくれた物語を探しました。よく分からない文字がたくさん並んでいてよく分かりません。絵本は何が書いてあるのか分かるので、主に絵本を呼んでました。

 私の読みたい本に手を伸ばそうとしたけど、高い場所にあるし、私はまだ飛べないので読みたい本が取れません。困ったなぁと思っていたら、ルーシュが空を飛んで本をとってくれました。

 変な子だけど、悪い子じゃないようです。


 私は次第にルーシュが何を読んでいるのか気になって、ルーシュの読んでいる本を覗き込んで見ました。覗き込もうとすると、ルーシュの背中にいる赤ちゃんがはしゃいで私の目の前を隠します。

 困ったけど、お母さんからは、『赤ちゃんはとっても無邪気だから何をされても仕方ないんだよ』って教わったので、ガマンします。

 やっとルーシュの読んでる本の中を覗く事に成功したけれど、難しい事が書いてあったのでよく分かりませんでした。ルーシュは生意気にも、それを読んでいるようでした。

 何で読めているかわかるかと言えば、書いてある文章を、手元の紙に何やらメモのように書き込んでいたからです。

「何やってるの?」

 私の問いにルーシュはぽややんと答えてきた。

「人を生き返す方法をお勉強しているの」

「!?」

 ルーシュはこともあろうか、人を生き返らせる方法を探しているらしいのです。

 そんな事が出来るの?

 私はとっても興味を持ちました。

「出来るの?」

「わかんない。まおー様はできないって言ったけど、ぼくは諦めたくないから。大好きなお姉さんが死んじゃったんだ。だから僕は」

 ルーシュはとってもとっても悲しそうな顔で、ルーシュの後でじゃれている赤ん坊のシホちゃんをあやしながら口にします。

「……」

「それに赤ちゃんにはお母さんが必要だと思うの」

 ルーシュが生き返したい人が誰なのか分かった気がしました。

 私にも生き返したい人がいます。イザベラお母さんともう一度お話がしたいです。たくさんたくさん話したいことがありました。

「じゃあ、私も手伝う」

「いーの?」

 ルーシュは目をパチくりさせて驚いた表情をしました。

「その代わり、分かったら、私のお母さんも生き返らせて」

「いーよ」

 こうして、私はルーシュと出会い、そして2人で一緒に人を生き返らせる方法を探しました。


 でも、所詮は子供の浅知恵です。

 簡単に見つかる筈もないのでしょう、魔王様だって無理だと言っていたのですから。

 ですが、ルーシュはなんだかよく分からない魔法を身につけようとしてました。エネルギーを相手に分け与える魔法だそうです。

 死んだ人は魔力がなくなっちゃうから、魔力を補ってあげれば生き返るはず。そんな感じのお話でした。でも簡単に身につく事ではありません。そもそもそんな魔法は聞いた事が無かったからです。

 でも、そういえばお母さんが『痛いの痛いの飛んで行け~』の魔法で傷が治ったのは他の魔法にはないモノでした。

 ルーシュはどうもその『痛いの痛いの飛んで行け~』の魔法をどうも調べているようです。




 私たちは毎日のように異次元図書館に籠って本を探しました。

 そんな生活が続きました。

 ルーシュは毎日たくさんの本を探してたくさんの本を読みました。私もこれと思う本を見つけてはルーシュに渡しました。主に人体について書かれているような絵柄のついた本です。

 毎日何冊もの本を読む生活が毎日続きました。

「むー」

 ルーシュはたくさんの本を枕にして寝転がり悩んでいるようでした。いつも背負っている赤ちゃんはルーシュのお腹の上に赤ちゃんを乗せてました。

 赤ちゃんは随分と成長して、ルーシュの上でハイハイして、時にその上でピョンピョンと暴れルーシュを苦しくさせてます。

「ルー君、まだ諦めずに頑張ってるの?」

 そこにやって来たのは大きいルーシュみたいな人でした。どこかで見覚えがあるなぁと見上げていると

「魔王様はあきらめるのが速すぎるんだよぉ」

 膨れ面のルーシュは責める様に相手を見ますが、相手は苦笑してしゃがみこみ、ルーシュの頭を撫でました。

 魔王様…今、魔王様って言ったような気がします。

「えーと、誰?」

「ん?……魔王様だよ。僕の叔父さん」

 私の言葉にルーシュはさも当然のように応えます。

「えええええ」

 何と、この大陸で一番偉い人がやってきました。ビックリです。どうしましょう。

「イザベラ様とアスの娘のレナだね。イザベラ様が亡くなった際には何度か会ったけど、ちゃんとした挨拶は出来なかったから知らないよね。私がルシフォーン3世、この暗黒世界で魔王をやらせてる者だよ。よろしくね」

 何とも腰の低い魔王様でした。私の好きな絵本の魔王と言えばあくぎゃくひどうでとっても悪い人だったという印象があります。

 でも、目の前の魔王様は、人のよさそうなお兄さんという感じです。

 魔王様はルーシュのお腹の上にいる赤ちゃんを抱えてあやすと、赤ちゃんはキャッキャキャッキャと喜びます。

「懐かしいね。ルーシュが小さい頃は僕がこうして毎日ここに篭って育てていたんだよ。ルーシュはとってもヤンチャでね、何度となく暴れて大変だったんだ。ルーシュは大丈夫?」

 魔王様は懐かしそうに赤ちゃんを抱き上げてルーシュに訊ねる。

 ルーシュは首を横に振り、

「大丈夫だよ。シホはとっても良い子みたい。暴れた事なんてほとんど無いし」

「そっか。………ん?」

 ルーシュの言葉に私も魔王様もそれは良い事だとうんうんと頷くのですが、同時に始めて耳にした名前に首を傾げます。

「「シホ?」」

 どうやら同じ感想を持ったようです。それは一体何の言葉なのかと。

「ほえ?その子の名前だよ」

「な、何で勝手に名付けてるの!?」

「だって、アイリーン様が亡くなる前に言っていたんだ。『人間界には個人に名前をつける慣習があるらしいと友達のイザベラちゃんが言っていた。だから私も子供に名前をつけたい』と」

 ルーシュはペラペラと説明します。そういえば魔族には名前をつける慣習が無いみたいです。お母さん曰く『魔族はこじんしゅぎしゃがおおく、それぞれに役割を持たせて仕事をしないから、名前をつける慣習がなく、種族や役職名が名前になっている』らしい。

 実際、お店の主人はお店の名前で、お店の奥さんも実家の称号名と嫁ぎ先の称号名で決まっています。

 私はお母さんが外の世界の人だったので名前は当然のものと思っていたけれど、どうやら暗黒世界全体ではマイナーらしいです。

 例えば、長く続く八百屋さんのご主人になるとベジマート105世などという名前が存在していて、1000年前、魔神シャイターン様がジャガイモを買った由緒正しき八百屋さんらしいです。奥さんはミーティス・ベジマートという名前なのだけど、実家がミーティスという肉屋だったからだとか。

「だからって人の娘に勝手に名付けないでよ!」

「えー、だってアイリーン様と2人でどういう名前が良いか一緒に考えてたんだ。ル「シホ」―ンから取った名前の候補の1つだよ。アイリーン様も候補の1つに入れてくれたし」

「他に候補は無かったの?却下されたのでも良いけど」

 私も親に無断で名前をつけるのはどうかと思ってジトとルーシュを睨みます。

 魔王様はと言うと、アイリーン様が候補に残している名前なので却下も出来ずに困り顔でした。

「他の候補?僕のお気に入りは『ゴンサレス』ちゃん、『サルトゥイコヴァ』ちゃん、『ダッキ』ちゃん、大穴で『サダコ』ちゃんだ」

「どれも選んじゃいけないような気がするのは私だけだろうか?」

「シホちゃんだけはアイリーン様から候補として認められたんだけどなぁ」

 むうとルーシュは首を横にしてどんな名前がいいのか真剣に考えているようでした。

 本来であればアイリーン・ルシフォーンになるのが暗黒世界の慣わしだと思うのは気の所為かな?たしか、昔、アイリーンは魔公ガエネール家の女の子に与えられる称号だったと聞いていた。その子供の女の子だからアイリーン…でいいんだよね?

 自信ないけど。

「いや、慣わしで言えばこの子は魔公王女だよ!」

 魔王様直々に、私の考えを否定しました。良かった、口にしなくて。

「えー、そんなごっつい名前やだよ」

「ルー君だって魔公王子でしょ!あるいはルシフォーン4世だよ!」

「むー」

 ルーシュは頬を膨らませている。確かに、ルーシュの本名はルシフォーン4世で、ルーシュは愛称でしかない。確かにルーシュの本来の名前は魔公王子で間違いないかもしれない。

 ルーシュが王子様。

 それはそれで何か違うような気がします。私の読む本によれば、王子様というのは白い白馬に乗っている格好いい男の子のはずです。どうやら暗黒世界の王子さまはこんなのみたいです。

「でも、シホが育って僕より魔力が高くなるようなら、この子はルシフォーン4世を継ぐけど、僕が既に名乗らされちゃったから、ルシフォーン5世だよ。どうするの、叔父さん。僕達永遠とみんなルシフォーンだよ。僕もシホも叔父さんも、『おーい、ルシフォーン』って呼ばれたら3人で振り向いちゃうよ?」

 さすがに魔王家の人達が3人いる中で、そんなに気軽にルシフォーンと声をかける人はいないと思うのですが、ルーシュは賢いけど感性ちょっと困ったちゃんみたいです。

「もう、僕なんてルーシュを愛称ではなく本名にしてしまおうと画策しているくらいだよ!」

「…そもそも、ルー君は魔王を継がないなら本来あるべきシャイターン様の後継を名乗るべく、シャイターン4世になっても良いんだけど」

 いきなりルーシュは王子様から神様に変わってしまいました。魔神シャイターン様は3世がちょうど初代ルシフォーン様なので、次は4世だったはずです。

「えー、それじゃあ、僕、シャア君になっちゃうの?ルー君は失業?」

 ルー君の名前が変わることは失業ではないとおもうけど、よくよく考えたら名前は役職名だから失業で良いのかな?

 言葉が難しいです。

「何故、本名よりも愛称のほうが重要視されちゃうのかな?」

 魔王様は残念な子を見る視線でルーシュを見ます。

 私も最近分かってきたけど、ルーシュは賢いけど残念な子だと思います。大人になったらメリッサお母さんみたいに格好良い人になるのでしょうか?どうにも想像つきません。

「むう、しかしシャア君か。……思っているより悪くない響きだな。そういえば、ここの図書館の本にそんな名前の人物がいたような。確か仮面をつけて赤くて…」

「ルー君ストップ。何故かは知らないけど、私の直感が、それ以上触れてはいけないものの様に感じるよ?っていうか、大体、それ人間じゃないよね?赤い人間って、それは鬼か何か?」

 確かに私もそんな絵本が、この異次元図書館の回廊のどこかで見かけたような気がします。魔王様は見た事が無いのかな?鬼みたいなものかもしれません。神話に出てくるゴブリンみたいな角がついていたような覚えがあります。

「その絵本、私も見たような気がする。どこにあったっけ」

「持ってこなくていいから!」

 私は立ち上がると、魔王様は慌てたように私達の行動を止めようとします。何がいけないのかサッパリです。

 大人の事情なのでしょうか?

「全く、何て危なっかしい子供達なんだ。まあ、良い。ルー君、見るが良い。この子に相応しい名前がなんなのかを」

 魔王様はシホちゃんを螺旋階段の踊り場に置くと、少し離れました。

 赤ちゃんはハイハイしながら周りを見渡しています。1人になって寂しそうな顔です。

「ほーら、こっちにおいで。魔公王女よ」

 魔王様は手を広げてシホちゃんを呼びます。

「ぬ、つまりそういう事か。だが、血縁の濃さが決定的差でないという事を教えてやる!」

 ルーシュは魔王様の意図を理解したようです。

 つまり名前を呼ばれたら返事をする。シホちゃんが魔公王女という名前にちゃんと返事をしている姿を見せつけようというのでしょう。

 何て汚い大人の作戦なのだろうとも思います。相手は犬猫じゃないのに。

 だけど、魔王様の思惑のようにシホちゃんは一向に魔王様に呼ばれても魔王様の方へ行きません。

「シホちゃーん」

「だー」

 ルーシュに呼ばれると、シホちゃんはプイッと父親に顔を背け、ルーシュへ向けてハイハイで移動します。そしてルーシュに嬉しそうに抱きつきます。

 さすがの魔王様が愕然とした表情で、そのまま膝を落として両手を地面について惨めに俯きました。

 どうやら魔公王女ではなくシホちゃんになりそうです。というか、私もいつの間にかシホちゃんって心の中で呼んでました。

「ふふふ、認めたくないものだな。自分自身の幼さゆえの過ちと言うものを」

 ドヤ顔のルーシュが、とってもとってもうざいです。

 親に先んじて子供に名をつけるのを幼さのせいにするのはどうなのかな?

「ぱーぱー」

 シホちゃんはさらに止めを刺すように何やらルーシュへ喋り掛け始めました。

 パパ?

 ルーシュに向かってパパと呼んでしまいました。

 魔王様の絶望しきった顔と、ルーシュのドヤ顔がとっても印象的でした。もはや、シホちゃん争奪戦において決定的な差をつけた事になったようです。

「何故だ……。私の娘が勝手に名前を付けられて、さらには従兄を父親と勘違いしてしまった。何故だ!?」

 魔王様はルーシュへ問う様に嘆きます。

「赤ん坊だからさ」

 ルーシュはそれに対して簡潔に一言だけ返し、勝者の余裕を見せつけました。

 そりゃ何も知らない赤ちゃんがずっと面倒を見ていたお兄ちゃんに呼ばれていた名前が、自分を呼ぶ名前だと思うのは当然だし。そもそもシホちゃんはルーシュといる方が長い筈。

 ルーシュが言うように理由は相手が無垢な赤ん坊だからに決まっています。




 私がルーシュと出会ってから1年ほどが経過しました。アーメイムさんの家の兄妹とも最近あってないけど、また一緒に遊べるよね?これでお母さんが生き返ったらこれまで通りになるのかな?

 そんな事を思い出していた頃、私達はルーシュのお父さんと一緒にお祭りにやって来ました。バエラス小父さんはルーシュのお父さんだったんだなぁとイザベラお義母さんのお葬式以来1年ぶりの再会でした。とっても端正な顔立ちで、凄く凛々しいお兄さんで、どう見てもちんちくりんなルーシュのお父さんには見えません。

「久し振りだね、レナちゃん。最近は魔王城で暮らしているんだって?アシュタールの奴が城勤めになったって聞いたけど、全然会えないって嘆いていたよ」

「お父さん?お仕事大変そうだし、いつもルーシュと一緒だから」

「ほう、ルーシュもさすがに俺の子か。やるじゃないか」

「?」

 ワシャワシャとバエラス小父さんはルーシュの頭を撫でます。ルーシュはというと周りをキョロキョロと見渡してました。

「あの、お父さん。お母さんは?」

「ん?……あ、あー、その…なんだ。今日は、仕事が忙しいらしくてこれないらしい」

「そうなんだぁ」

 ルーシュはソワソワしている姿から一転して、しょぼんと俯きます。

「何、変わりに良い女を見つけてやるから気を落とすな」

「!?」

 バエラス小父さんは相変わらずの調子でした。

「旦那様、ルシフォーン4世殿下はメリッサ様に会いたかったのであって、旦那様のようにフラフラと見栄えの良い女の尻を追いかけているわけではありません。反省して、そこで死んできて下さい」

「さらっと凄い事を言われた!?くっ……ウチの使用人は恐ろしい…」

 突っ込みを入れるのはクールなメイドさん。

 私がイザベラお母さんやメリッサお義母さんと一緒にいるとき、いつもメリッサお義母さんと一緒にいるメイドさんだったと思います。優しい印象しかなかったけど……バエラスお義父さんは女の子にフラフラしているから監視に来ているのかも知れません。

 しょぼんとしている2人の哀愁漂う背中は、理由は違えど、確かにこの二人は親子なのだろうと納得しました。

「メリッサお義母さんはお仕事なんだぁ。一昨年は一緒に3人でお祭りを回れて楽しかったのに」

 私もちょっとがっかりです。でも、仕方ありません。メリッサお義母さんはとても忙しいのですから。それに今日はとってもたくさんの人が来ています。

 お父さんも今日はお仕事が無いので一緒です。バエラス小父さんもいるし、魔王様も一緒で今日ばかりは魔王様がシホちゃんをだっこしてあやしていました。そしてルーシュも一緒です。今日のお祭りは賑やかになりそうです。アーメイム君達とも会えるかもしれません。

 私はとっても楽しそうにしているとルーシュはさらに肩を落としてました。

「嘘吐き…」

 ボソッとルーシュは口にして、眼をウルウルさせてバエラスお父さんを睨みます。どうしたのかなと私が思っていると

「一昨年、お母さんはお仕事でい忙しいから僕の誕生日を祝え無かったっていってたじゃない!どういう事なの?……やっぱりお母さんは僕が嫌いなの?だから会いたく無いの?」

 ルーシュは騙された怒りと、メリッサお義母さんと会えない悲しさで困惑したようにバエラス小父さんに問い詰めます。バエラス小父さんもしまったという顔で凍り付いていました。どうやらメリッサお義母さんはルーシュに嘘を吐いて私達とお祭りに参加していたようです。

 そういえば、今日は毎年行なわれているシャイターン誕生記念祭はルーシュの誕生日でもあるそうです。何でもルーシュはシャイターン誕生記念祭1000年目に突然生まれた子供だそうです。

 だけど、魔王様は急に怖い顔でルーシュの頭を両手で掴みました。

「ルー君。泣いたら怒るって言ったよね?皆が楽しみにしていたお祭りが、ルー君がなくだけで中止になるかもしれないって分かってるよね?ならば僕は相応の処置を取る事になるよ?」

「ひうっ……ご、ごめんなさい…」

 ルーシュは眼元を拭いながら、謝ります。そして顔をパチパチと叩いて

「僕は泣かない。悲しくない。大丈夫。元気」

 自分に言い聞かせるように自分に喝を入れてました。頬が赤くなる程一生懸命に叩いて、我慢しているようでした。

 それを見ているお父さんは私の頭を撫でながら教えてくれます。

「ルシフォーン4世殿下は精霊に愛されていてね。感情を乱すと、それに呼応して精霊が暴れ出すんだ。泣いたら水の精霊が大暴れして雨が降って、この祭りは雨天中止になってしまう」

「……」

 そういえばいつもヘラヘラしてた印象があるような気がします。

「魔王家の人間で、特に魔力が高い方は精霊を見る素養を持っている事があるんだ。恐らくシャイターン様の遺伝なんだろうね。シャイターン様は全ての精霊を見る事が出来た。シャイターン二世様は風の精霊、ルシフォーン陛下と3世陛下は火の精霊。4世殿下はシャイターン様に色濃く似ていて全ての精霊を見れる。シホ様も物心がついてくれば、精霊が見えている事に気付くかもしれないと期待されている」

 お父さんは詳しく教えてくれます。

「?……シホは土の精霊さん達を見えてるよ?」

 ルーシュは何気なく大人達に報告して、大人達は眼が点になっていました。

「え?」

「だって、土の精霊がシホの目の前を通ると目線で追ってるし、ダダを捏ね出すと土の精霊が暴れようとするんだもん。僕がメッていつも押さえ込んでるけど。じゃなかったら、魔王城は大地震で潰れてたと思うけど」

 ルーシュは何気なく説明します。

「そ、それは本当!?土?土の精霊が見えるって!?それは大事件じゃないか。確かにルー君がいれば必要ないかもしれないけど、これまで暗黒世界がやせ衰えていたのは土の精霊が活発に動けない環境だったからだ。無理に彼らを動かせて、火山帯の暴走を収める事が出来るのは土精霊を見える存在が必要だった。何てこった。ウチの娘はとても大物だ!」

 大喜びの魔王様はシホちゃんを誇らしげに抱えあげるのだが、そうするとシホちゃんはぐずり出します。

 ルーシュは慌てて地面に向けて強く睨みつけます。

 もしかしたらシホちゃんがグズって土の精霊達が暴れようとして、ルーシュがそれに視線で牽制したのでしょうか?

 見えないから分からないけど、ルーシュが次に恨みがましい視線を魔王様に向けて、魔王様も自粛してシホちゃんをあやしているので、見えない一連の流れが何となく分かった気がしました。

 そして、魔王様たちが特殊な存在だというのだけは理解しました。


 それから私達はお祭りを楽しみました。ルーシュも楽しそうにしていたのでよかったです。

 今日は随分とお食事をして無かったのでお腹が空いてきてました。お祭りではたくさんの出し物も出ていて、屋台や出店では食べ物もたくさん売ってました。

「うー、何で僕はこの日に生まれちゃったんだろう」

 ルーシュは愚痴るようにぼやきました。この日は年に一度のシャイターン様の追悼記念祭。

 1000年前、自分の命を捧げた魔族もいた為、シャイターン二世様が、捧げ物は身につけている小物や髪の毛や爪など体の一部だったりを神に捧げる風習を取り付けたそうです。

 1年間髪を延ばして、その分だけを捧げるという人もいるらしいです。イザベラお義母さんがそうでした。

 私はこのお祭りでアクセサリを買ってもらい、今つけているものをシャイターン様に捧げるのが毎年の事です。

 実はそういう子がとても多いみたいで、子供は皆、来年シャイターン様に捧げる為のプレゼントをねだるのです。まあ、だから誕生日の子供がプレゼントをもらえないのです。だって、シャイターン様に後々捧げるものを買ってあげるだけなのですから。

「ルーシュはいつも何をシャイターン様に捧げてるの?」

「?……いや、僕は別に」

「何で?まさか、プレゼントをもらえない腹いせ?」

「いやいや………。僕達魔王家はシャイターン様の子孫だからそういうのはしないよ。仮にも神を名乗るシャイターン様が子供から何か供物を貰うってのは情けないでしょ?お祖父ちゃんにお小遣いを上げるというのも孝行の1つではあると思うけど、稼ぎの無い僕から貰うってのは違うと思うんだ」

 魔王様も誕生日なら祝いもするけど、命日だからねと苦笑してました。

 魔王家は私達とちょっと違うらしいです。


 この日ばかりは魔王様も普通に庶民に混じって祭りを楽しんでいました。

 だとすると、メリッサお義母さんのお仕事は一体何なのだろう?そういえば、ルーシュと最初に出会ったとき以来、ルーシュとメリッサお義母さんが一緒にいるのを見た事がなかった。


 私はそんな事を考えながら歩き続けていると、1人の魔人の子が親とはぐれて迷子になっている様子を見かけた。大泣きして顔を歪めた魔人の子だ。

「ふえー、おとうさーん、おかあさーん、うえー」

 とはいえ、魔族はこじんしゅぎしゃが多いというだけあって、知らない子供を気に掛ける人は少ないようです。私としては、自分よりも年下の子供なので、お姉さんとして助けてあげようと義憤に駆られたのですが…まさかこれが大事件を引き起こすとは思いませんでした。

「大丈夫?おとうさん達とはぐれちゃったの?」

「ううう、うん~」

 グシグシ泣いている少年は目元の涙を拭いていました。

「じゃあ、お姉ちゃんが探してあげるよ。一緒に行こう」

 私は少年の手を取って探しに行こうと提案します。

「ひっく、ひっく。う、うん……。ひっ……ありがとー、お姉ちゃん」

 すると、少年は涙を必死に拭いて、少しだけ安心したのかちょっとだけ泣き止み、私の手を取ろうとしました。


 ですが、少年が私の手を取った瞬間、少年は苦しそうに息を吐き、いきなり後に倒れてしまったのです。

 私は凄くびっくりして固まってしまいました。

 それには近くにいたお父さんもルーシュも魔王様もバエラス小父さんもビックリしていたようです。

「れ、レナ。何をした?」

 お父さんは困ったように私に強い語気で尋ねてきましたが、私には何が何だかさっぱりわかりませんでした。

「え?わ、私、何もしてないよ?」

「…今、レナちゃんが急激にこの子の魔力を吸いきったぞ!医者だ!医者を呼べ!」

 魔王様は慌てて周りに指示を出します。

 私に触れた少年が突然倒れて、血色の良かった顔が真っ白くなり、まるで死んだかのように動かなくなってしまいました。

 そう、まるでお母さんのように。

 何で?どうして?

 私は全く理解できないでいました。まさか、私が触ったからお母さんが死んじゃったの?目の前の子もその所為で死んじゃったの!?

 私は自分自身に恐怖を感じました。

 もしかして私は人に触れることが許されない化物か何かなのかと本気で恐怖しました。

 バエラス小父さんは倒れている子供の様子を見て

「医者じゃない!極度の魔力欠乏症だ!魔力結晶でもエリクサーでもマジックポーションでも銀の林檎でも何でもいい。魔力の回復するものを持って来い!大至急だ!」

 と大きい声で回りに言います。

 ですが、誰も困って動こうとしません。そんな高級なものを持っている人が周りにいるはずも無いのです。今、挙げたアイテムは全て魔公の食料となる高級品で魔人達が購入できるようなものではないからです。

 私自身、よく分からなくなり涙が溢れてとまりません。誰か助けてって喚いても、誰かが助けてくれるはずがないのだから。

 お母さんが死んだときを思い出してしまいました。

 どうしよう。どうしよう。

 私が泣いていると、ポンポンと私の頭を撫でてくれる手がありました。私は横にいる人物を見ると、ルーシュが立っていました。

「大丈夫。ずっと勉強してきたから」

 ルーシュは私を励ましてから、小走りで倒れた少年の下へ駆け寄りました。

「ルーシュ、いくら何でもお前に何かできるようなことは…」

 ルーシュはバエラスお父さんの手を払いのけて少年の額に手を当てます。すると…私達が見た事ないようなとってもきれいな白い光が輝きだしました。

 白い光に包まれた魔人の少年は、やがて血の気を取り戻し、ゆっくりと目を開けます。

「う、うーん…あれ?」

「大丈夫?」

 ルーシュは少年が回復したようなので手を離します。

 すると周りの見ていた人達は物凄い大騒ぎでこの状況に興奮しているようでした。

 騒動を聞きつけたようで少年の両親が子供の名前を呼んで駆け寄ってくる姿が見えます。

 まさか騒動の中心となっているのが自分の子供だとは気付いていなかったようで、ルーシュが救ってくれたのだけを見たそうでした。なのでご両親はルーシュや魔王様たちに頭を何度も下げて感謝をしめしてました。

「る、るーしゅ…その…ありがと」

 まるで絵本に出てくる王子様のように、ルーシュは私の困った状況を助けてくれたのでした。ルーシュは少しだけ複雑そうな顔をしてたけど、両親の両手に繋がれてこちらを見ながら去って行く少年に手を振って見送っていました。

 でも、周りの大人達はそれを見て、何やらとっても騒いでました。


 やっぱりルシフォーン4世殿下は……

 シャイターン様と同じ……


 そんな声がそこかしこから漏れるように聞こえてました。




 私達はお祭りが終わるとそのまま解散して再び魔王城の方へと飛んでいきます。私はまだ飛ぶのが苦手なのでお父さんに抱えられていました。ルーシュは浮かない顔でシホちゃんを肩車しながら空を飛んでました。

「小さい翼は女の子にもてないぞ」

 こんな事を、自領のお城に帰るバエラス小父さんとの別れ際に、翼について弄られていた所為でしょうか。




 バエラス小父さんは自領に帰り、お父さんも一度アシュタール領に戻るみたいで、私はルーシュとシホちゃんと魔王様の4人で魔王城にお泊りする事になってます。

 魔王城についてから、ルーシュはしょぼくれた顔で私達に言いたい事があるそうで呼び止めました。

「どうしたんだい?」

 魔王様は寝ているシホちゃんをルーシュから受け取りながら訊ねました。

「ごめんなさい。レナ。それに魔王様も。ダメだったみたい」

「「?」」

 とはいえ、いきなり謝られても困ってしまいます。

「何が?」

 ルーシュは顔をぐしゃぐしゃにして、泣きそうになるのを必死に我慢して目元を手で擦って、首を振って泣くのを必死に我慢していました。

「やっと人を生き返す魔法が出来たって思ったの。だけどね、ダメだったの」

 ルーシュから出てきた言葉はこんな言葉でした。

 人を生き返す魔法が出来たと思ってたけどダメだった…と聞こえました。

「人に命を入れれば生き返ると思ってた。だけど…実際に使ってみて分かったの。この魔法は人の命を増す力であって、なくなったものが元に戻るものじゃないって。ううん、僕達の使う魔力はあるものを変えたり動かしたり、遠くにある何かをつなげたりする事は出来るけど、無くなったものを元に戻す事なんてできないって。そういうものだって、使って分かっちゃったの。ごめんなさい。ごめんなさい。生き返らせられなくてごめんなさい」

 ルーシュは泣くのを必死で堪えて謝りました。

 でも私は…お母さんが2度と戻ってこないと知っても不思議と悲しくありませんでした。

 ううん、当然、悲しいは悲しいんだけど、きっとこの1年でなんとなくお母さんの死を受け入れちゃったんだと思います。でも、ルーシュだって大好きなお姉さんが生き返らせる事が出来なくて、凄く悲しい筈です。でも…無理に私がお願いしたのに、わたしのお母さんを生き返らせられない事を先に謝っていました。

 泣かないで、そう言おうとしたけど、いつの間にか私も涙が出て、喉が渇いて、声が出てきません。結局、2人で一緒に泣いてました。

 泣かないで、ルーシュ。私はお母さんが生き返らなくても泣いたりしないから。

 そう伝えたかったけど、ルーシュが泣くのが悲しくて、胸が強く締め付けられて、それが伝えられなくて、誤解が誤解を呼んでもっとルーシュを泣かしてしまいました。


 魔王城はこの日、大雨に覆われて、たくさんの雷が降り注いだそうです。


 私とルーシュとシホちゃんは魔王様の部屋で、4人で大きいベッドに並んで寝そべってました。シホちゃんはすやすやと寝息を立てて眠っていました。

「ルー君には言わなかったけどね、僕も200年前に人を生き返そうと本気で研究した事があるんだよ」

 魔王様は自嘲するように私達に淡々と話してくれました。

「そうなの?」

 ルーシュは泣きはらした所為で真っ赤になった目で魔王様を見ます。

「でも…無理だった。ううん、結局ね、ルー君と一緒で命の本質に辿り着いて、人間が生き返るなんて出来ないって事が分かったんだ。もし同じものを作って同じように動かしたとしても、それはきっとお祖父様じゃないんだってね」

「お祖父様?それって先代の大魔王様?」

 ルーシュは首を傾げて問います。

「うん。私は生まれて直にお母さんが死んじゃってね、お父さんは僕なんかに興味が無くて…。お祖父様だけはずっと私の面倒を見てくれた。メリッサはお母さんがいたから良かったけど、私はお母さんがいなかったからね。だからお祖父様とレヴィア様、それにリズ婆くらいしか家族って呼べる人間がいなかったんだ」

「あ」

 ルーシュは思い当たるように声を出します。

 ルーシュも両親にはほとんど会えないので、もしかしたら似たような境遇なのかもしれません。今は私が一緒にいるけど、魔王様以外と一緒にいるのをほとんど見た事がありません。

「だから、お祖父様を生き返そうとずっと調べてきたんだよ。ルー君の方が早くそれに気づいたけど、まあ、そういう事なんだ。ただ、その時調べたお陰で、魔力を使わなくて生きていける方法が分かったんだけどね。皮肉なものだよ。…お祖父様は暗黒世界で私と共存できないから、私を生かすために地上への進出をして、でも人間達と共存できないから自分を殺させて私を生かすという選択肢を取った。もしも私がこの方法をもっと早く見つけていたら、きっとお祖父様は地上への進出なんてしなくても私とお祖父様は共存できたのだから」

 悲しそうに魔王様は教えてくれます。

 でも、それはルーシュも同じです。人を癒す魔法があれば、シホちゃんを生む事で体力を失って死んだというアイリーン様をルーシュは助けられた筈なのですから。

 ルーシュは凄く共感したようにうんうんと頷いていました。

「アイリーンはね、200年間ずっと私の隣にいてくれた。彼女はどうしても私との間に子供を残して人生を全うしたいって言ってたよ。私は少しでも長く生きて欲しかったからそれには賛成しなかったけどね」

「う、うん」

「それに魔王継承権を持つような力の子どもは暴走して災厄を撒き散らせ易い。そういう存在は親として責任を持って殺さなければならないんだ。魔王を殺せるのは魔王だけだからね。アイリーンが命を賭して生まれた子供を、私が食い殺さなければならないなんて死んでも嫌だった」

「う、うん」

 シホちゃんが悪い子に育ったら魔王様が食べちゃうの?という私の疑問を持つけれど、シホちゃんはスクスクと成長しているし、ルーシュによく懐いている。悪い子になるとは思えないから大丈夫だって思いました。

「だからね、ルー君を育てる仕事は私の仕事で、ちゃんと良い子に育ってくれたルー君がいたから、アイリーンは安心して自分の子供を私達に預けて、自分の人生に悔いなく終えられたんだって思ってる。だからルー君が謝ることなんて何も無いんだよ」

「……でも……」

「理屈は分かっていても、悲しいことは悲しいよね」

 魔王様の言葉に私もルーシュもうんと頷きます。

 いつかは死ぬ。それは誰もが訪れる事なのは分かっています。それでも死んでしまうのはとってもとっても悲しいのです。

「イザベラさんだってそうだよ。彼女はレナちゃんを残したかったんだ。彼女も暗黒世界では長く生きられない事を知っていたけど、地上に戻ろうとしなかった。彼女はエルフだからね、地上に戻ればもっと生きられた筈なんだよ」

「そうなの?」

 初耳だったので私は首を傾げます。エルフは暗黒世界では寿命を縮めてしまうらしい。

「うん。……彼女達はとても誇り高く、未来を皆に託していったんだ。それに我ら魔王家は誰よりも長生きだから、人の死に慣れないといけない。だからこそ、死に行く人達に感謝をして新しい命を尊んで生きて行くんだ」

「でも一人は寂しいよ。皆と仲良くしたいよ」

 ルーシュはふてくされたように頬を膨らませて訴えます。

 ルーシュはどこか回りに敬遠されているように見えます。ルーシュはいつも寂しそうに感じられます。でも、それはルーシュが怖いのではなく、魔人達はルーシュを崇拝しているからのようにも見えます。でも、それはきっとルーシュにとって関係ないことなのかもしれません。

「きっとルー君にも、私にアイリーンがいたように、いつか来る別れがあっても共に一緒に歩いてくれるだけで嬉しい、とても大事な人が出来るから」

「出来るのかなぁ。みんな、僕の事嫌わないかなぁ」

 ルーシュは不安そうにしてました。

「これからはシホがいるからね。アイリーンは私と一生一緒にいてくれる存在を作ってくれたし、それはルーシュにとっても同じ事なんだよ」

「そっかぁ…」

 シホちゃんが2人にどれだけ大事な存在なのか分かった気がしました。

 でも、そんな魔王様と最後まで一緒にいたアイリーン様はとっても格好良いと思いました。

 そしてもう1つ思った事があります。このとってもとっても優しくて、いつも他人の事ばかり気にしている、だけど凄い寂しがり屋さんなルーシュとずっと一緒に楽しくいられたら良いなって思いました。




 この騒動から暫くして、私はメリッサお義母さんと会いました。

 というか、こっそり私を見て、誰かがいないのを確認するとこそこそと私の前に現れるのはなぜでしょう?ルーシュを避けているのかと思っていたけど、どうやら本当に避けているようにしか見えません。

「レナ。最近、会えなかったけど、元気にしていた?」

「う、うん」

 メリッサお義母さんは私の青い髪を撫でながら心配そうに訊ねてきます。

「お祭りでは大変だったみたいね」

 メリッサお義母さんの言葉に私も頷きます。

 祭りが終わった翌日に知った事ですが、どうやら私は魔族の特徴でもある胸に有機魔力核が備わっていて、『魔力=生命』という点から魔族であることには変わりないそうです。ですが、お母さんに似た為、エルフの特性である『魔力を放出しやすく吸収しやすい』という体質の両方を受け継いでしまったようです。

 淫魔族や吸血鬼族と同じ体質だと言ってました。

 だからまだ魔力コントロール出来ない私は、お腹を減らした時に抵抗力のほとんどない子供を触れたら、無意識で魔力を奪ってしまったようです。

 私が魔力のコントロールを覚えない限り、普通の魔人の子供と触れ合うことは出来ないという事を指します。もちろん、魔王家の皆さんの莫大な魔力ならば、私がいくら吸っても問題がないので、寂しがり屋のルーシュと一緒にいるのはどちらの都合にとってもよいのかもしれません。

「でもルーシュがなんとかしてくれたから」

「そう……。その…レナちゃんはルーシュをどう思う?」

「どう?うーん……」

 どう?と聞かれてもルーシュはルーシュだと思う。

「取りあえず…ルーシュは良い子だけど寂しがり屋さんだし、私も他の子と一緒にいられないからずっと一緒にいる」

「?……ずっと?」

「うん。魔王様もルーシュも寂しがり屋さんだから。魔王様にとってアイリーンさんって人みたいに、私もルーシュと一緒にいて、シホちゃんみたいな存在を与えられたら良いなぁって思うの」

 私はそんな事を口にすると、メリッサお義母さんは苦笑して私の頭を撫でてくれます。

「それじゃあ、ルーシュと結婚する事になっちゃうよ?私としては……そうなると嬉しいって思ってたけど、強制するつもりはないわ」

「けっこん?」

 ……

 言われてみて気付きました。そういえば魔王様とアイリーン様は結婚しているのです。ルーシュにとってのアイリーン様になるという事はつまりそういう事です。言われて顔が熱くなり、とってもとっても赤面してしまっているのが分かります。

 でも、ルーシュは自分より他人を大事にしてしまう困った子です。自分の思いより他人を大事にしちゃう子です。

 だから私はやっぱりルーシュの隣で、ルーシュが寂しくないように、一緒にいられたら良いなあって思いました。

「んー、でも、多分大丈夫だよ」

 私はメリッサお義母さんに返しました。




 この日から私はルーシュの婚約者という事になりました。

 偉い人はエルフなんかの混血と魔王様の血筋が交わるなんてダメって言う人もいました。

 メリッサお義母さんはだからこそ価値があるのだって言ってたけど、意味は良く分かりません。

 その年の末頃に、ルーシュは第二魔王継承者に格下げしてシホちゃんが第一魔王継承者になりました。

 そして、ルーシュはルシフォーン4世からルーシュ・バエラス三世になりました。自分で名前をつけちゃって良いのかなって思ったけどルーシュは皆がそう呼んでいるんだし、その方が呼びやすいでしょって笑っていました。




 そしてさらに数年の月日が流れても、ルーシュはいつだって皆のために奔走し、時に空回ったりしているけれど、私はルーシュが寂しくないように一緒にいて、何となく楽しい暮らしをしています。

 あの日抱いた、ルーシュへの気持ちが何だったのか、自覚して、メリッサお義母さんに返した言葉が『多分大丈夫』なのではなく、『絶対大丈夫』っていえる位の確信を持てるくらい、その気持ちは大きく膨らんでいます。

 まあ、ルーシュはあの頃から背は伸びても心はお子様のままなんだけど。

 お父さんとイザベラお母さん、魔王様とアイリーン様のような素敵な関係になるにはもう少し時間が掛かりそうです。

 シホへ付ける予定だった名前の候補が明らかに。

 この名前は、ルーシュ達の世界ではなく、こちらの世界でいう所の知る人ぞ知るシリアルキラーや悪女の名前と一緒です。なぜかルーシュはそれを選定しました。偶然の一致というやつですね。

 さて、お気付きの人もいましょう、ルシフォーン4世改めシャイターン4世にしたらどうかという意見に対して、ルー君からシャア君へと変貌を遂げようとしましたが、ルー君のままでいきます。

 彼らが異次元図書館で何の本を読んだのか、非常に気になりますが、大人の事情で深入りしません。ルーシュの発言のあちこちに、その片鱗が見えますが、これも多分偶然です。すべての次元がつながる異次元図書館にある本は数多の世界の書物があります。偶然そういう本があったのでしょう。

 我々の知る某ロボットアニメとは一切関係ないはずです。作者が悪乗りしたとか、ルーシュが勝手に乗っかったとか一切ありません。たぶん。

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