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勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
章外 イヴェール王国騒乱・前話
73/135

とある侍女の日記

前話に引き続き、今度はフランシーヌの侍女ポーラ視点で物語は続きます。

 私、ポーラはフランシーヌ様の侍従を務めて実に10年が経ちます。ですが、酔ってたといえど、10年であんなに激しく愚痴を口にしていたのは初めてだったと思います。

 フランシーヌ様は、人生初のバーで酒を飲み、前後不覚になるまで酔っていました。相手の殿方も目を白黒させてました。私も近くで控えてましたが。

 翌日には第一王子との婚約が発表されていましたが、二日酔いで宮廷の一室でぐったりしてました。フランシーヌ様にもこういう部分があったのだと知って、少しだけ嬉しくもありました。

 私の前でも、こんなにだらしない姿を見せた事なんて無い人でしたから。

 あるいは、あのセイ・レ・ビスコンティという殿方とは相性が良いのかも知れません。あの仮面舞踏会で出会っただけなのに、随分と仲が良くなったようでした。

 庶民出だそうですが、世界最大商社ダイヤクラブの幹部で、傭兵団オリハルコンとファルコン便の創始者として、西の大陸では王の証でもある『レ』の称号を持つ方だとか。ダイヤクラブの幹部は1つの大国を購入できる程の資金を持っていると聞きます。オリハルコンという傭兵団は一軍で大国を陥落させた事もあると聞きます。

 むしろ第一王子などより彼に嫁いだほうが、よほど良いのではないでしょうか?

 とはいえ、フランシーヌ様はこの国の民を誰よりも一番に考えてくれています。自分だけが逃げてこの国を見捨てるなんてことはしないでしょう。そして、そんな私もフランシーヌ様と最期まで共にあるつもりです。


 そして婚約発表翌日、王都は賑やかになってました。


『フランシーヌ様、婚約反対』

『我らがフランシーヌ様を側妃にする第一王子に天罰を』

『王国はフランシーヌ様を侮辱している』

 王都の城門前の道路に、ペンキで凄まじい落書きがされていました。


「何、これ」

 宮廷の窓からその光景を目にしたフランシーヌは、目を丸くして口にしていました。

「……フランシーヌ様は人気がありますので。今回の側妃に娶るというエリック殿下の行動は庶民の怒りに触れたのでしょう」

「初耳なんですけど」

 私の言葉に随分困った表情でフランシーヌ様は

「ウチの国に貴族に対抗しようっていう気概のある国民がいたとは初耳ね」

 王侯貴族に反抗なんて民がするという印象は全く無かった。堂々と反逆するのは初めて見ました。

 無論、私の知る国王様の時代の政治は、しっかりしていたので文句が出てこなかったというのもあるのでしょう。

「シャトーやセルプラージュでは、フランシーヌ様の人気は高いですよ。よくセドリック殿下と城を抜け出して色々と人助けをして足そうじゃないですか」

「別に人助けの為に外には出てませんよ。セイが息抜きに連れ出してくれて、街中で普通に妊婦さんが今にも生まれそうだったりしたら誰だって助けに入るでしょう?馬車に轢かれた子供がいたら医者を呼びに行くでしょう。スリや強盗現場を見たら助けようとするでしょう。それに、私は自分ではやってません。やったのはセイです。私が頼んだだけですから」

「それでも、貴族はそのような事に首を突っ込みません。私も含めて民に手を差し伸べていたフランシーヌ様は、民にとって希望なのですから。ちなみに第2王子が勝手に破談させた時はもっと凄い事になってたんですよ?」

「直に王都から離れていたので知りませんでした」

 とはいえ、他人の事より自分達の身の振りのほうが大事なのだと思うのですが。

「なので、実は宮廷でこそ阿呆で有名なセドリック様は、実は市井ではとても人気だったんですよ」

「そういえば、セルプラージュでもセイ様…ではなく、セドリック様がいなくなってからは民草は皆一様に随分と心配してましたね」

 婚約発表した後にセドリックが姿を消して、傷心旅行だの家出だのと言われたまま、本当に行方不明になってしまっていました。市井に人気があったといわれれば、あの人は宮廷でこそ阿呆の振りをしてましたが市井では普通に素を曝け出してましたから。

 今は普通の民として幸せに暮らしているのかもしれません。あの人に王侯貴族と言う枠組みは狭かったように感じます。

「4日後の結婚式では戦争になりかねないのですから、もう今の内に避難をして欲しいのですが」

「案外、民が妨害するのではないでしょうか?」

「無理よ。形だけの結婚式だろうけど、これを妨害する輩は排除されるでしょうから。第二王子派の貴族達は躍起になっているわ。彼らが第二王子派と間違われたらそれこそ困った事になるもの。悪意でなく善意なだけに、そういう事になってほしくはないわ」

 フランシーヌ様の言葉はどこまでも自分ではなく他人の心配でした。


 するとこの部屋にずかずかと第一王子と取り巻きの貴族や侍従達がやってきました。

「フランシーヌ」

「何でしょう?」

 私としては『王族だからって堂々と入ってくるんじゃねえ!女の部屋に入るのにノックも出来ないのかテメエは!』という心境でしたが、ここは堪えます。

 孤児出身は逞しいし、これでもセルプラージュでは戦闘教育も受けてます。スカートの奥にある太腿にしっかりと短刀が括りつけられているので、フランシーヌ様の指示があれば、いつだってこのエリック第一王子を抹殺してみましょう!現在、射程圏内です。

「予想通り、親父が死んだ」

 エリック王子は自分の父が死んだのに笑顔で教えてくるのであった。この人は本当に人間なのか怪しく感じてきました。

「!」

 フランシーヌ様はショックを受けた様子で言葉を失っています。

「全く、ペンと紙を渡して迫ったが、あの頑固ジジイは最後まで俺を王位に指名しなかった。挙句、玉璽を誰かに渡したようで…くそっ…まさかクレマンの奴が盗んでないよな」

 エリック王子は悔しそうに口にします。

 王侯貴族の文書は全て印璽が必要となり、玉璽は王の命令文を正式に出すものです。それがないというのは一大事では無いでしょうか?

「そんな…国王様が……」

 フランシーヌ様はそんな事よりも国王様の死の方がショックだったようです。

 それも仕方ありません。フランシーヌ様にとっては幼い頃からよく見知った方です。かつて、クレマン王子の婚約者という立場は、クレマン王子の妻ではなく、アドルフ国王の娘になるというほうが正しかったのですから。

「国王の葬儀で私は貴族達と共に新たな王である事を宣言する。葬儀が終われば直に結婚式を執り行う」

「そんな!どんなに重要な式典でも、国葬後1ヶ月は異なる祭儀は行わないのはイヴェールの慣習です。それを捻じ曲げるつもりですか!?国王様の死を弔う気が無いのですか!?」

「そんな者はどうでも良い!良いか、恐らくクレマンは葬儀において自分が王である事をアピールしてくるだろう。そんな状況で引く訳には行かない。私はさっさとネヴェルスとサヴォワを従えている王であると宣言する必要があるのだ!」

「…」

 フランシーヌ様は怒りを堪えるようにしながらも、しっかりと視線はエリック王子へ抗議するように向けていました。

「それと、葬儀の際にはその孤児出身の侍従を連れ歩く等言語道断だ!」

 エリック王子は私を指差して唾を飛ばして断じます。

「なっ……ポーラは我がサヴォワの教育を受けた立派な…」

「黙れ!側室だろうと私の妻になるのだからな。そのような穢れた従者を連れ歩く等ありえぬ!良いか?貴様の品位を欠く行為は一切認められない。これからは何一つクレマンに劣るものを見せるわけにはいかぬのだ!貴様のその態度1つが戦争となり、貴様の大事な民が殺されると思え!」

 エリック王子は激しくフランシーヌ様を罵ります。フランシーヌ様は拳を強く握って震えていました。

「分かりました。フランシーヌ様、これまで長らくお仕えさせて頂きありがとうございます。ポーラはお暇を戴きたく存じます」

 私は深々とお辞儀をしてフランシーヌ様に頭を下げます。申し訳なくて顔を見れないというのもあります。

「ポ…」

 フランシーヌ様は何かを言おうとしますが、私は顔をあげて首を横に振ります。

 私は従者じゃなくても絶対にフランシーヌ様をお守りすると決めているのです。ならばフランシーヌ様の為に、去る必要があるなら喜んで去りましょう。


 私はその場を去ろうとしますが、フランシーヌ様は酷く悲しい瞳で私をずっと見ていました。そんな目で見られてしまうと引き返したくなってしまうじゃないですか。

 でも、あのエリック王子は絶対に引く事はないでしょう。

 それに、私の命はフランシーヌ様の物なのですから、遠くからでも絶対に守り続けます。幼い頃に拾って頂き、全てを与えてくれました。だからこそ、断固としてフランシーヌ様をあの者達に好きにさせたりはしません。近くにいなくても出来ることはいくらでもあります。

 しばしの別れをお許し下さい。




 私は宮廷を放り出されると、情報を手に入れるべく冒険者の館へと向かいました。

 ドアのない大きい館の奥には荒くれ者が多くいるのですが、今回は傭兵と思しき人達が多くいます。

 私は、実はこういう場所で情報収集をして少しでもフランシーヌ様のお役に立とうとしていたのです。内緒ですが、冒険者ランクもDランクまで上がってます。

「今は小競り合いが続いているよ。北西にはメルクール軍が陣取って、南西にはネヴェルス軍が陣取ってる。王都の末端でも何度か内乱があって焼けている」

「そんな状況ですか」

「ああ。ただ……、今、オリハルコンの連中が状況把握の為に偵察に来ているみたいでな。彼らが焼け落ちた難民の保護なんかをやってる」

「何で傭兵が戦わないで難民の保護なんでやってるんですか?」

 それは初耳ですね。むしろ難民からむしりとるのが傭兵じゃないのでしょうか?

「オリハルコンは傭兵って言うか無国籍の正規軍隊に近いからな。しかも今は、規律の厳しい副団長の私兵が滞在している。どんな荒くれ者でも怖くて何も出来ねえよ」

「規律の厳しい…ああ、あの…」

 凄く紳士っぽいレ・ビスコンティというオリハルコンの副団長ですか。

「オリハルコンは自由な半面で、一度、作戦に入ると並の軍隊では叶わない練度を誇る無敵の部隊だ。略奪行為なんてしたら、鬼の副団長に殺されてしまう。実際、作戦無視して略奪行為を行なった反逆部隊500人を当時14歳の子供だったセイ・ビスコンティは裏切り者500人を全て斬り殺したって話だ」

 あの優男がそれをしたと言うのはあまりにも想像がつかないのですが…。ですが、その噂は過去にも聞いたことがあります。オリハルコンの副団長は冷血漢で、鬼の副長などとも呼ばれている。軍略にたけているが、どこまでもえげつない手を平気で使ってくる為、血が凍っているに違いないと噂されることもしばしばでした。

「最近、ここに来てたんだぜ。普通に一番下っ端とビール飲んで盛り上がってた。若いながらも上に立つ冷徹な男だって聞いてたけど、どこにでもいる若造って感じでさ。仲間にも慕われて、年上にも尊敬されている、かわった人だったな」

「仮面舞踏会でフランシーヌ様と仲良さげに話していたので、どんな素性の人なのか興味があったんですよ」

「素性ってもなぁ。有名な所じゃ7年前に冒険者として頭角を現して、バスティアン・ツァイヤーらと共に傭兵団オリハルコンを設立。オリハルコンの資本を元にチケット制会社を考えて、ファルコン便を創設。リヴェルタに拠点を移して莫大な富を気付きあげ、世界最大の傭兵団へと運営した起業家って所だな。これは誰でも知ってる有名な話だ」

「東の大陸出身なんですか?」

「さあな。見た目だけならイヴェール王族に似ているけど。市民の中にはこういうバカを言う奴もいる。失踪したセドリック様が、傭兵になって一旗上げたに違いないって」

「セドリック様…ですか」

 私はセドリック様を見た事があるのですが……確かに似ている気もします。

 ですけど、セドリック様は見た目が『お転婆な女の子』と称するような小柄な少年で、セイ・レ・ビスコンティのように背が高く筋肉質ながらも知的な雰囲気を持つ男らしい感じではなかったと思います。

「何でまたそんな噂が?」

「ま、近隣住民はセドリック様が好きだったし、あの人は愛称がセイ様だった。セイ様がいなくなってから、他所の大陸でセイ・ビスコンティが頭角を現した。あの子が元気で生きていて一旗上げてやったって思うと嬉しいからだろ?」

「なるほど。まあ、よくありますよね。なくなった偉人が、他所の大陸に移住して別の偉人として活躍しているという与太話は」

「そうそう。ま、理由はもう1つあるんだけどな」

「もう1つ?」

「セイ・レ・ビスコンティって人は、目元は亡きシモーヌ側妃様に、見た目は20代頃の国王様にそっくりなんだよ。生き写しと言って良い」

「…」

 私はそこで思い出しました。あのセイ・レ・ビスコンティという男が、懐かしそうにフランシーヌ様をフランと略して呼んだのを。

 フランシーヌ様をフランと呼ぶのは肉親とセドリック様だけだったと思います。

 まさか……という思いを感じます。



 それから私はセイ・レ・ビスコンティと連絡が取れないかと動き回る事にしました。

 ですが時間がありません。結婚式はもう4日後に迫っているのですから。

 フランシーヌ様が幼き頃から今日にかけてまで、日記に後悔を綴り続けていた想い人です。いつだって困ったらなんでも解決してくれた人だったと。小さい頃、どれだけ優しい方なのか褒めちぎられて耳にたこが出来る程だったのですから。如何にかならないでしょうか?



 結婚式前日、私はやっとセイ・レ・ビスコンティを見つける事ができました。

 北西部の王都で紛争のあった地域で復興の為の土木工事をしていたのです。

「フランシーヌ様の従者の方が私に何の用でしょうか?」

「いや、天下のダイヤクラブ幹部様がどうして土木作業なんてやっているのでしょうか?」


 大きい丸太を仲間と一緒に背負っている彼は、どう見ても傭兵上がりの一般人にしか見えません。

 国王様に似ている?絶対に嘘です。

「そもそも大金持ちの起業家が何でこんな事をやっているのでしょうか?」

 私の問いに対して簡単に説明してくれました。

「良いか?第二王子派はここの門から攻め込むだろう。噂では今日の夕方にはここに到着するという。そうなれば再びこの城門を突破し、町を焼いて、結婚式を台無しにするだろう。ここで止めるか止めないかは、国内の内戦が泥沼になるかどうかの瀬戸際となる。今日中に早急に。金でどうにかできる問題で無いのだから、働き手は必要だ。時間があるなら、俺は俺のすべき事をやる。だがこれは全員で大急ぎでやらなければならない仕事だ」

「は、はあ…なるほど」

「アングレーム名誉侯爵経由で、サヴォワ公爵からの依頼だ。かなり多額の金を貰ったからな。失敗するわけにはいかぬのだ」

「……それにしても、傭兵が土木工事なんて…」

 傭兵が土木工事何て聞いたこともありません。というよりも、本職の土木工事職人集団にしか見えません。本当にこの人たちは、鎧を着て槍を持ち戦ったりするのでしょうか?土木作業着の方が似合っているように見えます。

「俺も基礎は学んだが、ウチの傭兵団は様々な業種の人間がいる。後方で戦わず、城を短期間で修復するプロとか、魔導車を修理させたら右に出るものがいない者とか、軍事に使うあらゆる人材を持っている。急いでいるからどいてくれ。話があるなら後で聞こう」

 ビスコンティは急ぎ足で巨木を担いで去って行きます。

 千人近い人数で半壊していた城門と城壁が既に形を取り戻しています。魔導機関の力で動くといわれる魔導車が何台も置いてあり、車の荷台の上には大量の煉瓦や木材があります。

 この傭兵団、下手をすると宮廷の建築家や土木作業員よりも遥かに優れているのではと思ってしまいます。城壁が壊れ、修復に1月は掛かると耳にしてましたが、もうある程度の形は修復しています。

「ちょっと、副団長!そこ違いますよ!」

「すまない!設計図ではどうなってる!?」

「あと1メートル左に立ててください!」

「オーライ!おい、第13班!冒険者で図画の得意な奴探して、修復用の図面のコピーを2時間以内に4枚書かせて来い! 金に糸目はつけるなよ!」

「うーっす」

 どたどたと本当に忙しそうに城門と城壁の修復を行なっていた。

 世界最大最強の傭兵団オリハルコンは、派遣土木事業団と言われても信じてしまいそうな集団だった。



 夕方になった頃には崩壊していた北西部の城門も城壁も見事に戻っていました。

 傭兵団員達は大喜びで酒場のある歓楽街の方へと消えて行きます。

「ありがとうございます」

 城門から護衛の兵士を連れてやってくる方がいました。我が主の父親、ダビド・サヴォワ公爵、つまり我らが領主様だった。

 私が直に話を聞こうと駆け寄ろうとしますが、遅かったようです。

「仕事を果たしただけです、閣下」

「まさか本当に2日で終わらせるとは…」

 領主様は驚いた様子で口にします。私も同じく驚いていました。

「数年前の攻城戦で、城の目の前に、一夜でもっとでかい城を作って、相手を降伏させた事もありますから。ウチは勝敗による契約をしてるケースが多いので、戦わないで敵を倒した方が儲かるんですよ。だから土木工事は得意なのは当然ですね」

「な、なるほど。世界一の天才軍師とは耳にしてましたが…」

「買い被りですよ」

 彼は首を振って謙遜する。

「是非、今回の仕事の礼も兼ねて食事でもと思っていたのですが」

「ありがたい申し出ですが……先約が…」

 その先約って私ですか!?ご領主様を押しのけて私とか勘弁してください!

「!?……ポーラ、ポーラじゃないか。お前、どうしてここに?」

 ですよね?変だと思いますよね?

「実は…」

 とはいえ、説明しないわけには行きません。

 私はフランシーヌ様の周りで何があったのかを説明するのでした。

 結局、私も連れて食事に連れて行っていただけるとの事。さすがに領主様と一緒に食事とか怖くて出来ないんですけど……。


「遠慮するな、ポーラ。こんな食事は早々出る機会はないぞ?」

 寛大な事を仰られる領主様なのですが、流石に私は困ってしまいます。

「フランシーヌ様の従者たる私が領主様とご同席なんて…」

「立っていられたらこっちこそ食事が進まぬ。良いと言うのを拒絶する事こそ無礼はないだろう。そも解雇されている以上、主のいない一人の人間たるポーラが遠慮するな」

「貴族の方と食事自体が恐ろしいのでうが…」

 堂々と食事をするビスコンティ様が大物過ぎるのです。いや、まあ、もしもセイドリック様ならば、王族だったのだから公爵との食事なんて臆するもの等無いのでしょうが。

「それにしても………くそっ…忌々しい、あのネヴェルスが…」

「随分と煮え湯を飲まされたようですね」

 悔し気に口にする領主様にビスコンティは苦笑して話に乗って来ます。

「国を人質にして、倍以上の収益を持つわがサヴォワ領の者を下に敷こうなど、もはや奴らは礼儀も体裁も何もかも無視し始めている」

「勝たなければ首が飛ぶから形振り構っていないのでしょう」

 というビスコンティ卿の言葉は、半分以上が正しく感じる。ただ、フランシーヌ様からすれば、彼らはそれが平常な状態だそうだ。

「……あんなのに我が娘が奪われる等……エリック第一王子もクレマン第二王子も、結局はただ権力を求めるだけの石潰しに過ぎない。あんな奴らにこの国を好きにされる羽目になるなんて…」

「それを止める為にフランシーヌ様は自らを犠牲にしたのでしょう?」

「分かってる。…あの子は………。くそっ……国王様の無念が偲ばれる…」

「病床の身になって以降、国は傾き始めましたからね。税率が上がり苦情の声が多く聞こえてきます。王子殿下たちは、毎晩、競い合うように夜会を開いているそうで」

「その金は我が領地の税金だ。このままでは破綻してしまう。……ダイヤクラブの幹部に上り詰めた貴公は良い案でもありましょうか?」

 領主様は救いを求めるようにビスコンティに尋ねます。確かに金の話に関しては彼は専門家でしょう。

「税対策は厳しいでしょうね。税と言うのはそもそも上げれば収入がはいるわけじゃない」

「ほう?」

「彼らが税収を国のために使うなら良いのですが、海外の希少品購入等に当てている事が多い。そうすると国はやせ細るばかりです。この国は経済が貧弱なので、セルプラージュという都市はもっと有効利用するべきです。私ならセルプラージュの基盤を使い、北の国最大等といわず、グランクラブ屈指の大都市に育てられる自信はありますけどね。制裁と目先の利益狙いでセルプラージュとシャトーの間にバカみたいな関税引いた連中は政治家をやめた方が良い」

「全くです」

「俺ならば……セルプラージュとシャトーは近いので、都市境を無くすほどに街道を大きく整備し、領間の関税をなくします。それで、シャトーの港を漁船や人の輸送に集中して、セルプラージュ港で大規模貨物を卸し、安くシャトーに物を入れさせる。逆に国内からシャトーに集まる物をセルプラージュで海外に売る。莫大な金の流れを作り人間が通るようになれば、町が出来、街道の防衛を必要としない程の人の流れが出来、モンスターがよらなくなる。というか、俺は第2王子の下にフランシーヌ様が嫁ぐというのはそういう事なのだとばかりに思っていたが、どうもセルプラージュをシャトー以下にして、併合と言う非合理的な事しか考えていなかったようですね」

 ……

 一瞬、私も何を話しているのか分からなかったのですが、サヴォワ公爵の顔を見る限り、素晴らしい都市計画案だったようです。

「貴殿のような賢明な方が王族であったならば…」

「ご冗談を」

「冗談ではありません。………民を第一にと娘に言ってきました。娘もまた我が妻によく似て誰よりも民を思う良い子に育った。ですが……見て分かるでしょう?もはやこの国の王族は民の事など一切省みていない。娘はそれでも内部に入って頑張るつもりでしょうが、絶望的です。無駄死にさせるくらいなら、もう逃げて欲しいのですよ。貴殿なら…娘を守れるのではないのですか?私はもう多くを望みません。娘の幸せだけが……私の望みです。民とてあの子の幸せを願うでしょう」

 領主様は弱気になって口にします。

 私も気持ちは同じです。フランシーヌ様だけでも幸せになって欲しい。民も葬儀で王子同士の騒動などを見て大きく王子たちに落胆しています。

「仮面舞踏会の時、フランシーヌは随分と貴方と楽しげに話していました。あの子が異性とあれほど仲良くしていたのは8年も昔、幼馴染だったこの国の第3王子殿下以来でした」

「……」

「無理を承知でお願いしたい。貴殿にあの子を、この国の外に連れ去って頂けないでしょうか?」

「また、難しい事を。イヴェール王国の側妃になろうとする方を誘拐しろと?確かに王の称号を受けたものですが、私は冒険者ですよ?金も武力も土地もあっても国相手に何か出来るような力はありません。それに…そういうやり方でフランシーヌ様は絶対についてこないでしょう?」

「……あの子がどうすれば幸せになる道を選んでくれるか……この年にもなって全く分からないのですよ」

 領主様は弱音を吐く。

 全くです。フランシーヌ様は自ら退路を立って、ただ人の為に何かをなそうと1人で頑張ってしまうのです。

「ふむ、ともあれ、閣下はつまり、フランシーヌ様が幸せになれるなら、私に嫁がせるのも吝かではないと?」

「ええ。そもそも…イヴェール国王よりもダイヤクラブの幹部の方が国際的な権力は強いでしょうから。イヴェール王国の民は知らずとも、国際情報に理解のあるセルプラージュならば皆が知ってる事です」

「…」

「こちらの諜報員を宮廷に忍ばせましたが、国王様が倒れて以来、どうやらフランシーヌは牢屋に入れられているそうです。逃がさない為に。そして第二王子派の暗殺を避ける為だそうです。正直、今の人質に取られているような状況でなければ、私は全軍率いて王都のエリックに対して宣戦布告したいくらい腹が立っています」

「怖い事を言いますね…」

 恐ろしい事が発覚し、私はめまいを覚えました。

 領主様も私と気持ちは同じようです。城下町の民もまた似た気持ちを持っているのでしょう。

 まさか私が離れてから、フランシーヌ様が牢屋に入れられるとは…。もはや我慢も限界です。どうにか城に再び侵入し、あの腐った第一王子を亡き者に出来ないでしょうか?

 もはや王族とか貴族とか関係ありません。

「まあ、でも……フランシーヌ様は絶対に引く事はないと思いますよ」

「わかってらっしゃる。そう、あの子は……誰に似たのか頑固なんですよ」

 領主様は大きく溜息をつく。

 そこで私も聞きたいことを聞く事にしました。

「ところで…その…ビスコンティ卿。聞きたいことがありました」

「私に?そういえば私に用があるという話でしたよね?」

「ある程度の用事は既に領主様の問いと同じだったのですが…1つだけあちこちで噂が流れていた事です。……あなたはもしかしてセドリック・イヴェール殿下なのでは無いのですか?」

 ダイレクトな私の問いに、ビスコンティ卿は目を丸くして私を見ました。領主様は少し驚いたような表情で凍り付いてます。

 ですが、楽しそうにビスコンティ卿は笑い返してきました。

 そのまま流されそうなのでさらに突き詰めてみます。

「例えばビスコンティ卿は7年前に傭兵団を設立していると聞いてますが、セドリック様が出奔したのは8年前ですし。調べてみれば年齢も誕生日も同じ。セドリック様の愛称はセイでした。それに……若き日の母君と国王様によく似ていらっしゃるとも。何より…セドリック様以外に異性とまともに話さなかったフランシーヌ様が、何故かあなたとだけは普通に話せていました」

 私は見落としなきようにビスコンティ卿を見ます。

 ビスコンティ卿はさらに大笑いしました。

「面白い事を言うね。だけど、その問いはあまりにも無意味な問いだよ」

「な、何でですか?」

「例えば…じゃあ、私がセドリックだったとして何か変わるのかい?」

「!?」

「セドリックは8年前にフランシーヌ様に振られているのだろう?彼は王族であっても後ろ盾になる貴族もいない。彼が今現れても、何かが出来るのかい?」

「そ、それは………」

「何かに縋る気持ちは分からないでもないがね。大体、ダイヤクラブは冒険者の組織だ。つまり王様になってしまえばダイヤクラブの地位を捨てなければならなくなる。普通に考えて、滅び行くイヴェールとダイヤクラブ幹部の立場を天秤にかけて、イヴェール王になるような男がいたとすればそいつは大バカ者だ。セドリックという男はそこまで大ばか者だとは思えないけどね」

「…」

 私は言葉も出ません。ありもしない希望に縋ろうと何の計画も無く、ただフランシーヌの思い人であるセドリック様ならばという思いがあったのは事実です。

「それに…計画するにしても結婚は明日だろう?会議や飲み会の誘いならともかく、戦争のお誘いを前日にするとかありえないだろう。1年の準備期間と、莫大な報酬を用意して頂ければ、イヴェール程度、軽く買えますけどね」

 恐ろしい事を平気で言いますが、事実なのでしょう。

 ですが、私はそこで思い返してみます。


 なぜ、この人が8年前にセドリック様がフランシーヌ様に振られて失踪したことを知っているのでしょうか?事実はそうですが、それは国王様とサヴォワ公爵家のみしか知らない事です。私もサヴォワ公爵家の人間以外に話したこともありませんし、噂として外に流れている事は一切に無かったはずです。


「そういう……事ですか」

 領主様は大きく溜息を吐いて、俯きました。

 どういう事なのでしょう?

 領主様とビスコンティ卿の間で何かが分かり合えたように見えました。ですが……私には良く分かりません。


 結局、私は蚊帳の外なのでしょうか?

 明日、我が主の結婚式が行なわれてしまいます。


補完する意味ではルーシュの魔法についてを書いたら3章に入ろうと思います。次回は新国王物語…とでも銘をつけさせてもらいます。

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