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勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
章外 イヴェール王国騒乱・前話
71/135

公爵令嬢物語④

前回の侯爵回想録から続きます公爵令嬢物語。

 全くもってお父様にしてやられました。

 まさか、私が必死に準備を整えていたパーティが、結婚相手を探している高貴な方々の合同パーティみたいな形にされるなんて。

 クリストフ先生まで巻き込んでこのような事をするなんて何を考えているのでしょう。

 確かに王国の社交会から追放された私ですから、結婚なんてするつもりも、ましてや殿方と付き合う積もりも無いのですが。こんな会に参加させられる身にもなってください。

 参加対象20歳未満とその保護者とで行なう仮面舞踏会(マスカレード)なんて…。

 西の大陸の王族、西部諸王国の王族、ダイヤクラブの幹部の方や、我が国のサヴォワに組してくれている貴族の方々が男女問わず多く参加している。

 身分などに大きく差があるので、互いに堂々と離せるようにするために仮面を付けるとか。

 父に至っては、「良い男がいたら身分なんて関係なく捕まえて来るんだぞ」などと言う始末。普通は男親というのは「私の娘をきさまなどにはやらん」とか言う立場ではないのでしょうか?

 信頼されているのか、心配されているのか分からない態度でした。

 私が平民を連れてきたらどうする積もりなのでしょう?

 いや、案外、平民であろうとどうにかしてしまうのでしょうね。お父様はあれで親バカですから。

 関税対策や税金対策で仕事をした私を母のような天才だなどと褒め称え、領民に触れ回るなど狂気の沙汰とも思えません。お陰で外を歩くと感謝されてしまって困ります。

 ちょっと頭をひねればだれだって気付きそうな、我が領地独特の抜け穴があるでしょうに。

 王都に物が入らなくなっている状況があれば、王都だってバカじゃないから、このような頭の悪い関税策は直に解くと思っていたのですが………物が入らなくなっても気付かずに自分の首を締め続けているのです。

 むしろ私としては王国そのものが心配になっている状況です。

 国王様は大丈夫なのでしょうか?




 国際サミットに私は参加してはいませんが、とても話は順調に進んでいるようです。

 お父様は自分の苦しい事情と、面倒くさい諸手続きをしてもらっている状況を皆さんに説明して一定の理解を得られています。流石に周りの国もイヴェールが内戦状態で、セルプラージュがそのツケを払わされている状況に同情的だったようです。

 いっそ独立してしまったら?我が国はバックアップしますよ?

 などと恐ろしい事を口にするのはリヴェルタ民主共和国の外相でした。かの国は領土こそ小さいですが、イヴェール以上の国力を持っているとも聞きます。お父様もさすがにひやひやものだったようです。




 さて、仮面舞踏会が開かれて、私も結局参加する羽目になりました。

 顔が隠れている上に、見知らぬ国の方々も多いので、確かに身分とか関係なく話せそうです。とはいえ、髪や瞳の色、肌の色が見えるので、私を見れば王国貴族であれば何となく察するようで男の人が湧いてきます。

 ちょっと勘弁して欲しいですね。黒い肌をした方は西の大陸の南部方面から来ているという噂の王太子の方でしょうか?イヴェール以上の国力を持つ王太子とあって、側妃に納まっても大出世なので多くの女性が群がってます。


「はあ、疲れました」

 私は壁の花になりたかったのですが、多くの誘いが来てしまい、それに応じてダンスを興じながら、どうにか抜け出してテラスへと逃げてきました。

 やっと1人で息を吐けると安堵していると1人の先客がいました。

 男性のようです。

「先客がいたようですね」

「申し訳ありません。リヴェルタの大臣の息子の付き添いで参加させられていただけなので、下手に目をつけられるとまずいと思って」

 仮面を付けてはいますが、金髪碧眼は隠せません。イヴェールの王侯貴族の特徴ですが、リヴェルタの方のようです。口ぶりからすると庶民にも聞こえますが、振る舞いは非常に礼儀正しく見えます。

「ああ、なるほど。リヴェルタの方なのですか?かの国は貴族などおらずとても栄えていると聞きます。どういう国なのでしょう?統治者がいないのでは大変だと思うのですが」

「はははは。確かに。そうですね、統治者が1人で、代々継がせるから意見が変わる事も無いから、北の大陸では王政や帝政が支持されていますね?ですがリヴェルタは民が賢い。成人した民は皆が政治の政策を理解している。ですから民の思想が繁栄させられない政治家は無能者として排除される」

「民が政治を理解?」

 政治を身に着けるには並々ならぬ学問が必要ですが、民がそれを身に着ける余裕がどこにあるのでしょう?この国は王族さえも政治を理解できていないのに。

 それを可能にする国力があるという事なのでしょう。噂には聞いていましたがリヴェルタとは本当に凄まじい国のようです。

「ですから投票で政治家を選出しているのです。そして…そういう人気取りや国を豊かにするのは金の力が圧倒的なのです。なので金の亡者が多いのですよ。今の大総統など生まれはスラムの孤児だったのですが、あらゆる知略と商才で国家代表に上り詰めた方ですからね」

「冒険者なのに、そのような頭の良い国のお付としてこの場に来ているという事は、とても優秀な方…という事なのでしょうね、貴方も」

 少し懐かしさを感じる碧色の瞳をした男性は淡々と語っているが、とても博識のように感じました。適当そうな雰囲気の中に知性を感じさせる…幼い頃、大好きだったあの人を思い出させます。 

「とんでもない。傭兵上がりの冒険者ですからね。商売はしても専門でもありません。世界中を渡り歩いているので幅広く知識はありますが、大臣閣下の御曹司のほうが遥かに頭が良い。あんなのが普通にいるリヴェルタとは…まあ、末永くお付き合いしなければ生きていけないからこそ、こうして恐ろしくも王侯貴族の会合に参加しているという訳です」

「ですが、この場にくるという事はそれなりの立場にあるという事でしょう?」

 そう、アングレーム卿やお父様は私の結婚相手をベースに仮面舞踏会という名のお見合い大会を画策しているのです。貴族か貴族相当の方しかいない筈です。

 冒険者であってもここに居るという事はかなりの所得を持つ方なのは間違いありません。

「どうでしょう。偉いのか偉くないのかよく分からないですね。ただ……昔、この地に初恋の女性がいまして、再会できたら嬉しい…という程度で来ています。もう随分昔なので互いに変わり過ぎているでしょうし。会っても分からない上に、この仮面ですから」

 確かに変わっているうえに仮面までつけられたらもう分かったモノじゃないでしょう。

「それに気付いてテラスへ逃げ出したと?」

「ええ。貴方もこんな所にいない方が良いのでは?婚約者探しの場に出されているという事はそういう事なのでは?」

 ああ、やっぱりこれが大お見合い大会であることを察していたようですね。聡い方です。

「ふふふ、お父様方は私の身を大変心配していますが、私はそういう事に興味が無いので」

「なるほど」

「それよりも、世界中を回っているとの事ですね。どのような事をしていたのですか?私はイヴェールより出た事が無いので凄く興味があります」

 男性と話すのは気を遣って苦手なのですが、何となく話しやすい方だったので、つい話を続けたくなってしまいました。目の前に立つ仮面で顔を隠した男性が、どこかあの人を思わせる雰囲気があったからでしょうか?

 それに我がセルプラージュが生き残っていくには知識は必要です。彼の知識は後学として興味深くあります。

「傭兵上がりなので少々血生臭いですよ?」

「あら、貴族社会だって意外と血生臭いんですよ?」

 私の言葉を冗談ととったのか、相手の男性は楽しそうに笑って話してくれました。


 私も自分の事を気付かれないようにする為に色々と隠して話しました。

 ろくでもない周りの事や、友人のように接してくれる民の愛しさ、ウチの侍女が勝手に私の日記を盗み見ている事など。ですが、彼の話もまた、とても興味深いものでした。


 頭が回るので冒険者になって意外に簡単に伸し上がれた事。

 学問を身につけて傭兵になってみたが、軍学なんて現場では何の訳にも立たなかった事。

 傭兵運営が意外に性に合っていたようで、どんどん組織が大きくなった事。

 組織が大きいと派閥が出来て大変だった事。

 他国の人種差別が非常に激しい事。

 リヴェルタの発達具合と周りの人間達の事。

 戦争を生業にしているが戦争をする前に決着がついている事。


「まあ、つまり戦争の内容や勝利条件を吟味して、傭兵として勝って欲しくて勝つ側につけば負ける事はないという事ですね。常勝不敗とは言われても政治で戦争なんてしなくても勝てる側につけば良いだけです。なのに一矢を報いて戦争に踏み切る愚かな領主がいるから我々は食っていけるのですが」

 という傭兵理論を展開しているのですが、この人は傭兵と言うよりも領主の方がよほど向いているような気がします。

「貴方は領主向きなのかもしれませんね」

「まさか。他人の生活を守るとか面倒なんですよ。今の立場は非常に気楽でいい」

「なるほど。確かに……成し遂げるべき事の為には重い立場にいるべきとは思いますが、重責を担うのは厳しい事です」

 ただ、他人の生活を担う立場になるのが面倒だというのは、きっと彼がその立場になったらそれに応えようと頑張らざるを得ないからなのでしょう。

 その立場になったのをいい事に好き勝手にする人達が多くいる世界にいたので感銘を受ける言葉でした。

 すると男性は遠くで談笑をしているリヴェルタの外相を横目でにらみ、

「全く、あいつらは私を何だと思っているのやら。気付けばこんな場所にやってきてしまった。まあ、さっさと結婚して身を固めて欲しいと思われているのは事実だろうけど。私も傭兵だから命はいつ消えるかも分からないものの、資産が凄いから」

 という愚痴をこぼします。

「心配されているのですよ」

「そうかぁ?確かに…相手もいないというのに、子供が出来たらウチの娘と結婚をなんていっているからな。資産目当てだ、きっと」

「それは酷いですね」

 意外と興に乗り、気付けば2人で会が終わるまで話し続けてしまいました。

 終わりの合図である鐘が鳴り、参加者に解散の挨拶をしているお父様が、ニヤニヤとこっちを見ていました。

 今日一番腹が立った瞬間でした。




 舞踏会が終わり、閑散とした会場の撤収を侍従達に指示していました。

 そんな中、お父様は私の方に近寄って着ました。

「随分長く話していたようだが」

「………黙秘します」

「そう言うな。彼のことが気になったりしたのか?」

「いえ、共に婚約者等糞食らえだと、アンチ結婚話で盛り上がっていただけですので」

 私は腹が立ったので思い切り下品な物言いをして、お父様を困らせる事にしました。

 実際、そんな話をしてましたし。

 無論、彼自身とはもう少しお話をして見たいとは思いました。

 互いの立場を明かした上で…ですが。

 私の周りにはいないタイプで、野心家で頭が良く、懐が広くて世間をよく知っている人でした。あのような方がセルプラージュの公爵になれば、民はより豊かに生きていけるでしょう。

 とはいえ、自由が好きな人のようでしたし、こんな場所に繋ぎ止めるのは申し訳ない気もします。

「とはいえ、お前が異性とあんなに長く話すなど無かったからな。彼が何者か知りたいか?」

「……別に。何となく予想はつきます」

「ほう?」

「ダイヤクラブの幹部でオリハルコンの副団長閣下ではないでしょうか?冒険者ながら西部大陸連合から王の称号を授与されたレ・ビスコンティ卿ですか?」

 傭兵団の運営をして、リヴェルタの大臣と友誼を持ち、莫大な財産を持っているといえば彼しかいないでしょう。

 とはいえ、まさかあんなに若い方だったとは思いもしませんでしたが。大傭兵団の副団長なので、30代か40代くらいだと思っていたのですから。仮面で顔が隠れて分かりませんでしたが雰囲気的に私と同年代にも見えました。何歳から戦場にいたのでしょうと言う話になってしまいますが。

「ああ。サミットでも様々な施策の提案をし、リヴェルタの行き過ぎた提案を諌めたり、グランクラブ全体の貿易事情にも非常に明るく、多くの国家の重鎮も彼の一言に注意をはらっていた。噂には聞いていたが、あんなに若い人物だとは思わなかったな」

「そうですね」

「さすがは我が娘だとも思ったよ。お目が高い」

「だから………」

 そんな積もりは無いと断言しようと思ったのですが…よくよく考えてみれば別にそんな真面目に結婚などを考える必要も無いのです。

「……まあ、確かに………魅力的な方だったのは否定しません。むしろ、こちらがつりあわないと思う程度には、国際的な発言力の大きい方でしたし。西の大陸では王の称号を与えられているので、イヴェール王族の末である我が領の公爵に納まるにはむしろ向こうの方が格上過ぎる気もします」

 そこは認めましょう。

 彼と話をするのはとても楽しかったのです。それに国を思えば、あの知識はこの国に必要なものです。婚約者として不足なんて何も無いのは確かでした。

「確かにな」

 私の冷静な分析にお父様は逆に納得したようです。

「彼はこれまでも、そしてこれからも世界で皆に多くの利益を与えられる方、こちらが望んでも、向こうに熨斗をつけて返されてしまいそうです。そもそもあの自由さは国のしがらみが無いから出来る事です。私を妻にすれば国のしがらみが出来てしまいましょう」

 私の断言によって、お父様に次の言葉を次がせる積もりはありません。

 お父様は何かを言いたげでしたが、諦めた様に肩を落としました。

 あの人にとって、私のほうがむしろ足手まといになるのが目に見えているのですから、こんな婚約話をお父様からさせて、彼を困らせたくはありません。

 ん?

 なんだか私が彼に気を使って、去って行くのを耐えているみたいじゃないですか。




 国際会議が終わって一段落と言う頃、内戦は第二王子派が有利になってきていました。

 元々、第2王子派は王妃様の派閥でもあるのです。

 第2王子の婚約者であれば、第1王子派を吸収させるように提案して、戦争を無くすように奔走もしましょうが、今の私には何も出来ません。このままでは国の半分が潰れてしまうでしょう。どっちかの派閥の勝敗が決まった時点で止めたくても、第三派閥であるサヴォワの言葉を聞くとは思えません。

 せめて当事者であればと思ってしまいます。




 そんな折、第1王子自らがサヴォワ領セルプラージュへとやってきました。

「急な訪問ですな」

 お父様は苦言を呈すように第1王子殿下に訪ねる。その背後には偉そうにネヴェルス公爵閣下は前に出て語り始めたのでした。

「ふん、何事も急なのは当然だ。サヴォワよ。王太子たるエリック殿下がこうして足を運んでいただいただけで感謝すべきだな」

「傘下の伯爵閣下の領地が取り潰しになったとお聞きしましたが、それ所ではないのでは?」

 お父様はこんな状況で海を越えた王都を挟んで真逆にあるうちにやって来ている彼らの方がおかしいと断じています。

「だまれ!エリック殿下の御前だぞ!」

 王太子でも無い王子が公爵よりえらいなど聞いた事もありません。無論、王族は尊重すべきですが、そもそも公爵家は王族に連なる血筋です。

 都合が悪くなると大声を張り上げて黙らせようとするのはどこの貴族も同じです。正直、この茶番には飽き飽きします。

「よい、ネヴェルス卿よ。サヴォワ卿、急な事だが早急に推し進めなければならぬ国事があってやってきた。貴様らはそれに従ってもらう」

「国事?」

 お父様は怪訝そうな顔をしてます。

 現在、国の政治なんてまともにしている人がいたとは思ってません。戦争の費用を他領から税金で踏んだくって、各軍系貴族が内戦にぶち込んでいるのは、小さな子供さえ知っている事です。

 王位争奪戦を内戦でやろうとして、第1王子派は窮地に立たされていると認識していましたが。

「このまま我らが負ければ貴様らは第二王子派に食いつぶされるだろう。あいつらは逆恨みしているからな。このような争いになったのは全てお前らの所為だと思っている」

「……ですからこそ、中立を保っているわけです」

「生ぬるい。あの阿呆は平気でサヴォワの取り潰しをして、領民を惨殺し、貴様らを気分に任せて処罰しかねない連中だ。知っているか?負けた我が傘下の貴族は火刑に処されたぞ」

「!」

 噂には聞いてましたが、まさか本当だったとは。

「奴ら、隙を乗じて王都への占領を始めようとしている。我等もそれに対抗してどうにか拠点を確保しているが状況は思わしくない」

「……そ、そんな事をしては王都が焼けてしまう!正気ですか!?」

 お父様は声を荒げてネヴェルスに訴える。

「王都が焼けようと後で立て直せばいいだけだ。そこは瑣末な問題だ。問題はあの腐った第2王子が王位につく事だろうが」

 焼けた時に死ぬ領民、建て直す費用の税金、全て泣くのはイヴェール王国の国民です。もしもシャトーが焼け落ちたら、間違い無く混乱を極め、国は崩壊するでしょう。

 北部の辺境地方は孤立し、諸王国軍に攻め込まれかねません。我が領地は本当に独立するしかなくなりますが、それではこの国の大半の国民はどうなるのでしょう?

 その事実を、目の前にいるネヴェルス公爵や第一王子殿下は……恐らく露ほどにもおもってないようです。

 正気の沙汰ではありません。

「第2王子派閥が王位につけば貴様らも破滅であろう。戦争を終わらせるために貴様らは我らに付け」

「第2王子殿下に刃を向けろと?」

 ネヴェルス公爵の言葉にお父様はエリック殿下を鋭い視線を向けます。

「サヴォワがつくなら辺境伯が全てこちら側につく事を約束した。これで奴らを潰せる」

 エリック殿下は勝利の確証がサヴォワの転身によって得られると断言しました。

「で、ですが…」

 元より第一王子派閥がわざとフランシーヌを貶めようと動いていたのは、父も知っています。まさか知られていないとでも思っているのでしょうか?負けて形振り構わなくなっているのでしょうか?

「私は、フランシーヌ、貴様を側妃にしてやる」

「正気ですか?」

 私は思わずエリック殿下を見て口にしてしまいます。それはサヴォワを堂々とネヴェルスの下に置くといったようなものだ。元々、正妻が決まっているからそういう事を出来なかったのだが、まさか堂々とサヴォワを側室に置くと言い出すとは思って無かった。ネヴェルスよりサヴォワの方が遥かに力が強いのです。サヴォワを正妃に置けないから、婚約の話が無かったはずです。

「国王の妃になるのだ、文句はあるまい。お前が来れば確実に私が王位に立つ。王位を継ぐのも全てネヴェルス公爵家に連なる者になるがな。それで国も安泰だ。貴様らとて、第2王子派の連中が王位に就けば困る事になるのだろう?」

 さすがに無礼すぎる物言いにお父様がかなりご立腹ですが、一応王族なので怒鳴るのを堪えているようです。

 正直、この出来の良し悪しはともかく、第1王子は第2王子以上に腐っていそうです。何せ権力を使って中途半端な頭で行使して他人を虐げる事を何も思っていないのですから。

「断った場合は?」

「海軍がこちらに向かっている。セルプラージュに魔法と矢の雨が降る事になるだろうな」

 第一王子は当然のように言い切る。

「ふざっ「分かりました。お受けいたしましょう」」

 お父様は完全にぶちきれて、顔を真っ赤にして怒りをあらわにしようとしたので、私は慌てて止めに入ります。

 お父様の口を手で塞ぎ言葉で王族に無礼を働く前に私が間に入ります。間一髪でした。

 私の対応に、お父様は顔を真っ青にして私のほうを見ます。ですが、彼らの横暴を止めるにはもう手は無い筈です。

 実際、第2王子派は気分で一般人を罪人に仕立て上げて殺すような連中です。黒と言えば白でも黒にしてしまう連中なのです。それは私も身をもって知っています。

 目の前の人間達は、人間性はともかく体裁だけは整えるので白を黒とは言いません。白を黒と言えば、白を黒く塗り替えるのです。

 どっちも最低なのは確かですが。

 何よりも、ここで怒鳴り散らして、敵の襲撃に遭えば我々の町は酷い事になるでしょう。そして我らの領土が戦場になれば、間違い無く第2王子派も介入し、第二の戦場はセルプラージュになります。

 そして、内戦の舞台がセルプラージュになり、セルプラージュの経済が破綻すれば、この国は潰れます。

 それを分かっているかどうかはともかく、ここが戦場にするか自分に付くかどちらかにしろと脅しかけているのでしょう。

 国を人質にとって国王の座を手にしに来たのです。

「但し、条件があります」

「条件だと?貴様ら風情が第1王子殿下に…」

「あら、もしも我々がここで断って、第2王子殿下の尖兵になったらどうなるのでしょう?我々は立てる次の王がいないから中立を保っていたのです。ネヴェルス公爵の手の者達が何をしていたか、我々が何も知らないと思っているなら非常に不愉快です」

 私はわざと厳しい視線をネヴェルス公爵に向ける。第一王子派閥の人間が我々と第2王子派が切れるように根回ししていたのは知っている。その為に私を貶めた事も。

 偉そうな口を叩いているようならば全部封殺して見せましょう。

 ネヴェルス公爵は口を噤んでくれたので私もそのまま畳み掛けます。

「メルクール公爵派はかなり無茶をしているのは存知上げております。そして我らは自発的に彼らの味方をする事は出来ますがしたいとは思いません。我らにその対抗派閥が喧嘩を売ってくるという話でも無い限りは」

「……条件とは?」

 苦しそうにネヴェルス公爵は尋ねてきます。

 王子を戴いて格上だと思っているようなので少し現実を見せてあげるしかありません。

 別にサヴォワは武力が無いわけではありません。むしろ武力は王都に次ぐ力があります。他国の軍勢をサヴォワ領の軍隊がほとんど退けてきた事を忘れているようなら思い出させてもいいでしょう。

 無論、それで泣くのが貴族の彼らだけなら良いのですが、戦となれば貴族以外の多くの命が失われます。ですから、私達政治家は戦にならないように話し合う必要があります。

 武力と言うのは政治のカードの一枚でしか無いのです。

 傭兵団の副団長さんでさえ知っている事実を、何で彼らが知らないのでしょう?

「我が領地では当然ですが奴隷なんていませんし、人種差別もありません。第2王子派のように犯罪を押し付けるような真似もしません。余計な関税を押し付けて人の家から金をふんだくるような真似はしません」

 私の言葉にネヴェルス公爵の顔色が変わります。第2王子と言うよりメルクール公爵とは折り合いが悪いだけで、貴方達が国に住むつく寄生虫である事実は同じです。

 一度は終わったと思っていた事ですが、再びその機会を得る事が出来るならば今度は間違えません。

「側妃とするならば、そういった自分の懐を守り他人を虐げる事をよしとする政策を全て撤廃させて頂きます。そして、第1王子派が勝利しても、第2王子派の多くを占める貴族は上の事情に従っているだけの者も多いはずです。彼らにまで波及するような処罰は認められません」

「!………」

 国の半分を破壊して、主導権を握り、自分の子飼いの次男坊三男坊をあちこちの領土に撒こうとでも考えていたのでしょう。ですが、それでは国がその前に消える事になります。

 ネヴェルス公爵の顔を見る限り、そこまで考えはいたっていないのでしょう。

「第2王子派が勝てば第1王子派の貴族派皆殺しでしょうね。彼らはそういう人達です。それを是正する為に私は第2王子の婚約者だったと思ってます。そして…私がエリック殿下の側妃となりサヴォワに殿下を支えろというならば、現国王様陛下のように我らが支えるだけの行動を示していただきたい」

「ぐ…ぬ…」

 今度、怒りに震えるのはネヴェルス公爵の方です。

「良いだろう」

 さすがエリック第一王子殿下は即答します。

 それも当然でしょう。なにせ彼らは元より命が掛かってます。負けそうな雰囲気が出てきて、他の貴族が掌を返す前に我らの手助けを欲しいのです。

 考えている暇がありません。

 それに、どうせ側妃になったらなったで無視をしようとするのでしょう。ですが、後宮にあがるならそれなりのやり方はあります。戦後、刺し違えても正して見せましょうとも。

「このタイミングで父上が亡くなったら、我らは終わりだ。そして…奴らは父上の命を握っている状況にある。何をおいても婚約の確約を貰わねばならない」

 エリック王子は優先すべき事を明確にする。彼はネヴェルスを後ろ盾にしてますが、そもそも我々も後ろ盾になれば、我々を優先せざる得なくなるのです。

 正妃とか側妃とか関係ありません。

 北の大陸最大都市セルプラージュを統べるサヴォワが中小都市を統べる公爵に負けるなんてありえないのです。


公爵令嬢物語は多分これが最後です。

次回、傭兵団副団長視点に移ります。あと3~4本くらい番外編やったら第三章始めます。

……意外と長かった……。

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