公爵令嬢物語②
フランシーヌ公爵令嬢物語続きます。
ちょっとのつもりだったのですが、一段落つくまで番外編を続けます。
第三章が全然進んでないので……
私が王都のサヴォワ公爵邸に帰ってから、暫くすると父は慌てた様子で王宮から帰ってきました。
「フランシーヌ!頭が腫れているではないか、一体何があったのだ!?」
父は私の頭の腫れをみて取り乱し、そして侍従たちに治療をするように指示を出しました。
別にこのくらいなら、私の水魔法で治せるのですが、魔法に頼ると良くないのでそのままにしていただけなのです。
どうやら父はかなり取り乱しているようでした。そもそも父は宮廷魔導士も輩出した事があるサヴォワ家の現当主ダビド・サヴォワ公爵なので、当然ながら水系の治療魔法はそこらの魔導士よりもよほど得意としている人なのですが。
私は一度父を落ち着かせて、事のあらましを説明します。
父もまた、婚約破棄の文書を早馬で受け取って驚いたとの事。王子からの殴り書きのような文書だが、王子のつかう印が推されており正式文書として受理せざる獲ないという事らしい。クレマン殿下も意外に行動力がすごいです。もう少し考えてから行動できれば良いのですが。
「何を考えているんだ、あのバカ王子は……」
父上、取り乱しが限界を超えてますよ?さすがに王家の方に対してバカ王子は、下手に聞かれると首が飛びかねません。どうやらまだ取り乱しているようです。
「その言葉は流石にどうかと」
どうどうと私は父上を宥めます。
「これが怒らずにいられるか!」
「やはり、まずいでしょうか?申し訳ございません、私が至らぬばかりに…」
「それは政治家の領分だ。お前が謝る事はない。そんな事よりも、……私こそ望まぬ婚約を押し付けておいてこのような仕打ちにあわせてしまって……こんな事になるなら陛下に頭を下げられようとも断るべきだった」
もしかして陛下は、クレマン第2王子と私との婚約をさせる為に、父に頭を下げたのでしょうか?あまり想像つかないのですが。
「元より、あのバカ王子の噂は耳にしていたのだ。王位継承権では上にあるが、第一王子派が大きく内乱の可能性があるからと私はお前に無理を行って押し付けたのだ。長く続いたサヴォワ領を私の代で最後にする覚悟を決めてだ。それがこの体たらくか!」
バカ王子という意味なら同年代にもう1人、物凄いバカ王子がいたから噂が小さくなっていたのかもしれません。バカ王子の代名詞とまで言われた第3王子で、私にとっては初恋の男の子です。
「では婚約破棄は正式に受理されたのですね?」
「王族からの勅書を私が跳ねつける事が出来るわけないだろう。あんな適当に書き殴られた手紙を勅書として叩きつけられただけでも腹立たしいと言うのに……」
父は、もしかしたら私以上の仕打ちを受けたのかもしれません。
「父上はどう致しますか?」
「どうもしようがない。お前が言っていた第1王子派の女達だって問い詰めたくても問い詰められないだろう。我々が騒ぎ立てれば、彼女達は急に病気になってしまうだろう。口を封じられない保証もあるまい。そして我々の所為にさせられるのは目に見えている。お前に泥をかぶらせてしまい申し訳ないが…」
「いえ、構いませんわ、お父様」
しかし、これでは、セイが出て行った意味さえも分からない事になってしまいました。
ですが、私にも落ち度はありました。国の為にと望まぬ婚約を受けておいて、国の為、民の為と言いながら、このような状況に陥っているのですから。覚悟が足りなかった。どんな手を使ってもあの立場を保持するのが私の仕事だったはずです。それが反吐が出るほど嫌な婚約であっても。
「まさかとは思うが……わざと見逃したとかないよな?」
父の疑惑の目が刺さるのですが、私は断じてそのような事は致しません。確かに第2王子の振る舞いは良いものとは思えず、破談にならないかなぁとか偶に思っていたこともあります。セイと逃避行したほうが良かったなんて思う事も、5日に1度くらい…いえ、3日に1度、いや………ほぼ毎日ですね、申し訳ありません。
ですが、国のため、王家のため、仕方ない事と受け入れてました。貴族の娘として、そして公爵家の子女として生まれた以上、平民のように愛する男性と結ばれるなんて言う御伽噺は存在しないのです。
あ、先程、見事にそんな良い話がありました。私が貶められない場所であったなら素直に祝福できたでしょう。
「嫌ですわ、父上ったら。断じて、神に誓って」
私は手を上げて宣誓する。
「ですが、お嬢様が毎日のように『縁談が破談にならないかしら』と口にしていたのは事実であります、旦那様」
「あー、ポーラ、裏切ったわね」
「きっとそんな心構えでいたから隙を突かれたのでしょう。お嬢さまは次期王妃たる人間として常に高潔な態度を志していましたから。完璧なお嬢様に近寄りがたい印象を第2王子が抱いていたのは否めません。逆にあのジョスリーヌという男爵令嬢はとても可愛らしく、そしてどこか抜けた所があり、男性は庇護欲をそそられるのでしょう」
ポーラ、私の斜め後ろで立っている同じ年の侍従は手厳しく進言する。
「メルクール家とグロス家、それにコルベール家の御曹司たちも彼女とは顔見知りだったようですし、随分と人気があるのですね。確かに可愛い人でしたが」
「ですが、腹の内はどうかと。いじめに関しては協力者達を使った自作自演なのは明白ですから」
「怖いですわね、女って」
「お嬢様は女なのに男らしすぎるのだと思います。お嬢さまが殿方だったら、私は全力で妾の座を狙ってましたから」
私とポーラは笑いあう。
ポーラは幼い頃から私と一緒にいる侍従ですが、元々は教会の孤児院にいた孤児として育っており、ボランティアで通っていた頃に出来た幼い頃からの友人です。
孤児院でも頭の良い子や見込みのありそうな子などは侍従として雇う事があり、彼女はそういった縁で私の身の回りの世話をしています、いわば幼馴染といった所でしょう。
人の隠している日記を勝手に読んでいる不届き者ですが、私が包み隠さず本音を打ち明けられる唯一の相手なので文句も言えないのです。
「まあ、過ぎた事は良い。問題は今後の事だ。お前には暫く領地に戻って自粛してもらう。私も同じくそうなるだろう」
「父上、いっそ私を国外に追い出してみては!?」
「…………」
ジトと父上から責めるような視線が突き刺さります。ポーラからもです。政治カードとして使われない為にはこれが一番いいと思うのですが。下心が無きにしも非ずですが。
「お嬢様、鳥篭で育った鳥は、大空では飛べません」
ポーラは小さい頃から皮肉がとても上手い子だった。この突込み力が私の侍従として買われたのでしょうか?
ですが、彼女は天然な部分もあって、何かの本に影響を受けて、お嬢様の身を守るメイドとしては武術も学びたいとか言い出して早5年。今では父の護衛の騎士でも中堅レベルなら倒せるまでになってました。侍従にそんな技能は必要ないというのに。庶民では、どうやらメイドは戦うようです。
「まさかとは思うが、あのバカ王子をまだ想っているのか?」
父は真剣な顔で訊ねてきます。
おそらく父上の口にしたバカ王子は第二王子の方ではなく、私の初恋の第三王子でしょう。
私は思わず頬が熱くなるのを感じて、ついつい手を頬に当ててしまいました。これでは質問を否定しても肯定していると受けかねません。
「そういう運命があったら素敵だとは想いますが……。ですが私の動きで国が左右されるなら私はいない方が良いでしょう?そもそも、私が彼と結ばれれば更なる混乱を招きますから、絶対に共になる事はありえません」
「そうだな。こうなった以上、我等も中立に立って、国家が安定するように務めるしかないだろう」
我らがイヴェール王国は貴族によって運営されてます。
国王を頂上に、宰相とそれを支える外交関連を引き受ける外務相、内政や財務を支える財務相、軍を組織する軍務相、農業や商工業を受け持っている産業相という計5名の大臣がます。
そして軍とは独立して宮廷に存在するのが宮廷魔導士団と親衛騎士団、そして国の東西北の三拠点を3人の辺境伯が騎士団を支えているという状況になっているのです。辺境伯は基本的に独立しているので中立した立場にあります。
さて我らがサヴォワ家の派閥ですが、父が財務相を勤めており、ルテル侯爵の産業相、元々父がいた宮廷魔導士団、そして中立なのですが我が領土は東方騎士団のあるサヴォイア領とは膨大な貿易をしており彼らはいざとなればサヴォワ側につく事が暗黙の了解となっています。
元々、第1王子と繋がっているネヴェルス公爵家でしたが、第2王子派閥はメルクール公爵家と我々サヴォワ公爵家がついており、これまでずっと沈黙をしてました。第1王子を押そうものなら周りの派閥に潰されてしまいます。しかしサヴォワが第2王子側からはなれるとどうなるでしょうか。
恐らく五分五分にまで持って行くでしょう。最近、陛下は病床の身となり、王太子問題が出て来ている最中なのです。
結局、父は財務相の地位を辞任し、自領に集中すると言う理由で私共々王都から遠ざかる事になりました。こうなってしまった以上、残念ながら、私達はこの国に貢献出来る事は一切ないのですから。




