表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
章外 イヴェール王国騒乱・前話
64/135

侯爵回想録①

ブクマ、評価、などなどありがとうございます。

番外編です。アングレーム名誉侯爵の回想録です。

そういえば「~なろう」で一人称書きは初めてだった気がします。

 私の名前はクリストフ・アングレーム。若き日にアングレーム侯爵家の家督を継いでから、王国の財務相や産業相を歴任し、現在は王国学士団の団長を務めている一介の貴族です。

 最近は、いい加減に爵位を譲れと甥が五月蝿いので面倒ごとが国の中で起きそうになったらさっさと譲ってやろうと策略を練っておるところです、はい。

 我が国の貴族は王国に隣接して南西、北西、北東に公爵家があり、国境越しに辺境伯家、そしてまばらに伯爵家、子爵家、男爵家が点在しており、その数は数百以上もあり領地貴族の権限は非常に大きいものとされております。

 我等侯爵家はというと、基本的には国家の要職を歴任しており、私のように様々な大臣をする事は非常に珍しいのですな。実は、これ、学問の世界に身を置きたいために色々と動いているのですが、上手く行ってないだけで、特別にマルチな才能があるとかそういうわけでも無いのです。やっと学士団長という職場に着いたもののただの管理職だった時にはあまりにも悲しくて一晩中一人でこっそり泣き明かした事ですな。それでもあの方の教育係を勤めたときは楽しくもありました。あれは智暦197年の頃でしょうか?


 当時、私は財務相と産業相の繋ぎとしてセイドリック第3王子殿下の教師を務める事になりました。宮廷ではバカ王子の名で鳴り響く有名な方で、周りからは「ご愁傷様」と哀れまれた役職でした。


「アングレーム卿は学術に優れていると聞く。どうか息子に勉強を教えてくれないか?あの子はどうも勤勉さに欠ける。王位継承権は低くとも第3王子がバカだとあれば王族としては風聞もよくない」

 という国王陛下からのお言葉を頂いての第3王子の教師を務める事となりました。

 帝王学ではなく、読み書きや算術といった最低限必要な学問を教えに来たのですが…

「12+43+23+32=」

 という質問に対して

「4度数えているから4だろう?」

 とんでもない答えが返ってきました。セイドリック殿下は一体どういう頭の構造をしているのか一度見てみたいくらいで、何度教えても間違え続けました。


「まあ、私の頭が悪いのが仕方ないのだ。父上にはお前の所為ではない事をとりなしておいてやるから許せ」

 いつも不機嫌そうな顔の殿下は、それでも私の立場を慮ってか発言をする。

「そういう気遣いができるなら、もっと勉強頑張ってください」

「そこは責任をもてないな。だいたい、私が優秀だったら優秀だったで誰の得にもならぬではないか」

「…」

 セイドリック殿下は肩を竦めて笑いました。その時、何となく察したのは、この人は回りに望まれていないから勉強をしないようにしているのだと。頭の作り事態はどちらかというと良い方にも感じました。

 第2王子のクレマン殿下などは他人の気配りもできない上に自分が白と言ったら黒でも白にしてしまうような方です。その方と比べれば自分がバカであることを理解している方がましというものですな。

「ところでセイドリック殿下。そちらの本棚の本は?」

「ん?ああ、枕に丁度いいから、重たい本を置いてるだけだ」

「高価な本を枕に使わないで下さい!」

 殿下はとんでもなく恐ろしい事を言い出しました。この時は流石に殴ってやろうかと本気で思うレベルですな。

 魔導力学の実用書、語学辞典、専門用語辞典、物理学辞典、魔導船設計理論書、軍略史、魔法理論書、王国法辞典などなど、一部の専門家しか読まないような実用書とそれを調べる為の細かな辞典の数々。私ならばあの本だけ与えられれば10年は勉強し続けてしまえるようなラインナップですな。

 むしろ、働かずにこの部屋で過ごしたいくらいですな。その本を読み解けるまで自習しろと言いたくなる様なレベルでした。

 無論、王族に必要な読み物ではないのが玉に瑕ですが。

 そんな中、いつものように教えてもほとんど無駄に終わる勉強の時間が終わると、この日は同じ年頃の少女が殿下の部屋を訪ねてきました。

「セイ様、お勉強は終わりましたか?今日はお庭をご案内していただけると聞いてきたのですが?」

「フランか。今終わったぞ。さあ、行こう。今行こう」

 珍しく笑顔で返す。

 やはり子供同士で遊ぶのは好きなのだろうかと思う。

「もしかしてそちらはサヴォワ様のご令嬢のフランシーヌ様でしょうか?」

「ええ、初めまして、アングレーム侯爵閣下。おうわさはかねがね。殿下がしつこくて面倒くさい奴だと珍しく誉めていたので」

「それは誉められているのでしょうか?」

「殿下は気に入った方以外は、どちらかというと眼中になくいないときには頭の中から忘れてしまうような方なので、私と2人きりの時でも話される方と言うのは評価していると言う事ですわ」

 クスクス笑うフランシーヌ様ですが、それが悪口と言うのは些か問題のような気がします。

「う、五月蝿いな。フランは一々そういう事を口にするな。さっさと行くぞ」

「はい、殿下」

 セイドリック殿下は珍しく顔を真っ赤にして、フランシーヌ様の手を握ってエスコートするように部屋を出て行きました。

 しかし、あれは止めなくても良かったのでしょうか、と私は悩んでしまいます。

 フランシーヌ様は首都シャトーを越える大都市セルプラージュを治めるサヴォワ公爵領の一人娘。サヴォワ家はもはや王都を食うかの勢いになっており、内乱を回避する為、一人娘のフランシーヌ様を次期国王に嫁がせて、セルプラージュを王国直轄地へ変え、サヴォワ公爵家に王都に大きい屋敷と宰相の座を与える事が決まっていたのです。そして王位継承順で言えば正妃の息子であるクレマン第2王子殿下に嫁ぐだろう事は予想が付いてました。

 とはいえ、いつまでも仲良しという事も無いでしょう。幼い子供に変なかんぐりは良くないでしょうし。

 私はそんな2人を微笑ましい気持ちで見守る事に決め、私はこの部屋から出る前に、王子殿下の持つ本棚にある本を手に取ります。

 軍略史、こういうものは過去に読んだ事がありませんので少しだけ興味があったのです。軍略もまた私の専攻である歴史の1つなのですから。

 本を開いて私は酷く驚きました。その内容に驚かされた訳ではありません。何度もページを捲ったと思われる跡、そしてそれぞれの理論に対して書に乗っていない弱点なども手書きで追記してあり、戦術をしかけるのに必要な人数、補給線の伸ばせる距離や戦略が使える行軍距離など、気付いた事、おかしい事、分からない事が、軍略史の本にびっしりとメモとして書いてあるのです。

 これは、高等学校を卒業するレベル以上の学力をもった軍略家が本気で検討したようなメモ書きです。この本は一体誰に借りたのかとも思いましたが、出版日が昨年の春なので、まだ1年半も経っていないのです。ですが1年半でこれを読み込んだとすればよほどの軍略マニアでしょう。もしかしたら軍務相辺りから枕代わりに貰った可能性がある…と思った所で本の文字がどこかで見覚えがあったと感じました。

 そう、その書かれている文字は、セイドリック殿下の筆跡にそっくりだったからです。

 まさか……



 数日後に私は宮廷の庭を歩いているとセイドリック殿下とフランシーヌ様が仲良く肩を並べて話をしていました。何を話しているのかと思いゆっくりと近付いてみると…

「フラン、そこは分数の割り算だ。その計算だと分数の掛け算だよ。5個のケーキを6分の1切れで割ったら普通に30個取れるだろうに。なんで6分の5になる?5個のケーキが減ったぞ」

「あ、言われてみれば。さすがセイ様、凄く賢いです」

「ちゃんと教えてやるけど、この事は誰にも言うなよ」

「何故でしょう?皆がセイ様の事をバカだといわれるのはとても嫌です」

 寂しそうにフランシーヌ様は頬を膨らませて訴える。

「前にも言っただろう?私が賢いと皆が困るのだ。国の為にも私はバカを演じる必要があるのだ。前にも言っただろう?納得しろ」

「おっしゃることは何となく分かりますが、好きな人が馬鹿にされるのは嫌なのです」

「貴族達は我等兄弟を争わせて利権を得ようとしている。エリック兄上とクレマン兄上でさえ良いように貴族達の神輿になっているのだから。俺まで神輿になったら面倒この上なかろう」

 肩を竦めてセイドリック殿下は苦笑する。

「エリック様もクレマン様も民を無碍にしそうで好きではありません」

「貴族など皆、そんなものだろう」

「ですけど、……私に友達が出来たんです。ポーラという孤児の子ですが、領地では色々と世話を焼いてくれる、とっても頑張り屋な子なんです。彼女まで平民だからと馬鹿にされるのはガマン出来ません」

「そんなに頬を膨らませるな。可愛い顔が台無しだぞ」

「ほわっ、だ、台無しですか?」

 慌てるフランシーヌ様にセイドリック殿下は冗談だよ、可愛いよと慰める。

「ほほう、ですが、殿下が勉強が出来たとは初耳ですな」

「ひぎゃあっ!」

 ビクッと驚くセイドリック殿下。フランシーヌ様と一緒にいて気を抜いていたようで、私が近付いていた事に気付いていなかったようですな。

「なななななっ…い、いつの間に!な、何のことだ、アングレーム!わ、私は別に…」

「分数の計算をサヴォワ家の才女と歌われたフランシーヌ様に丁寧に教えている所からですな」

「ぐっ…き、貴様、王族の私生活を覗くとは不届きな!」

「誤魔化せませんよ。……はあ、やっぱりセイドリック様は、勉強が出来たのですね。しかも……同年代の中では飛びぬけたレベルでとはさすがに思いもしませんでしたよ。普通以上の学力はあっても隠しているのでは…という程度には察していたつもりですが」

 私はジトとセイドリック様を睨む。セイドリック様は観念した様に手を上げる。

「分かった分かった。認めよう。但し条件がある。これは他の貴族には勿論、父上にも絶対に話すな」

「何故ですか?」

「厄介だからだ。私の頭が良いとなれば王位継承権はさらに面倒になる。そしてその面倒になる具合が大きければ大きいほど、国が割れてしまう。戦で死ぬのは民だ。戦は将軍に指揮をさせ実際に戦うのは兵士。貴族なんぞ後ろでふんぞり返っているだけの愚物ではないか。だがお家騒動は貴族の所為で始まる。こんな馬鹿な話があるか。そして私の頭がこの国の火種になるなら、それは墓場まで持って帰るべき事だろう」

 恐ろしいくらいに頭の切れ、そして民を慮るセイドリック様に、私は恐ろしさを感じました。たった8歳の少年がこの事に気付いて自重しているという事実は末恐ろしいといえましょう。もしも継承権が高ければこの国は変わるのでは?そう思わせるほどの才気が感じられました。


 それ以降、私に頭が良い事がバレた殿下はというと、開き直って積極的に物事を聞いてくるようになりました。

 発覚したのは既にこの幼い殿下が、兄上達の誰よりも頭が良いという事です。世には、稀に天才と言う人種が現れたりしますが、殿下はまさにそれで、既にアカデミーの学生に負けない知識を持っていました。

 私も不敬ではありますが、知識欲を満たす盟友が出来たようで少し嬉しかったりします。何せ管理職はあまり面白くないので。




 それから1年とちょっと経った智暦198年の水の月の事でした。

 転機は直にやってきました。第2王子クレマン殿下とフランシーヌ様の婚約発表でした。

「何故、フランシーヌが兄上と婚約となる!?サヴォワ家は一人娘だろう?次期国王の婚約者になったらサヴォワ家はどうなる?セルプラージュのような大都市の領主が消えるなどありえぬだろう!?」

 ああ、やっぱり殿下はお気付きになられていなかったのだ。いくら賢い秀才といえど、殿下はたった9歳の子供でしか無いのです。国の事情を詳しく知っている方が可笑しいでしょう。

「セルプラージュを王家直轄地にする為ですな」

 私の言葉に殿下は眉根をひそめる。

「召し上げると?」

「つまりフランシーヌ殿下を王家に入れる事でサヴォワ家は王家と合併するという事です。サヴォワ領は非常に儲かってまして、貿易による収入を含めるとサヴォワは王国直轄地よりも収入が大きいんです」

「……」

 私の言葉を聞いて、殿下は自分の爪を嚙み、何かを必死に考えるようにしてました。

 ですが、簡単に結論の出る話ではありません。

 そもそも、残念な事に、殿下はこれまでの悪評は有名で、次期国王へと望まれる事は厳しいでしょう。ただでさえ優秀な第一王子エリック殿下でさえも、第2王子クレマン殿下の血筋の前には次期国王の座は難しいのですから。いくら頭脳をこれからアピールしようとしても国が割れるだけでしょう。




 それから数日後にフランシーヌ様が泣きついて来た事で殿下の家出が発覚しました。

 セドリック殿下はどうやらサヴォワ公爵に取り次いで状況を打破しようとしたものの、今更不可能であることが言い渡されたそうです。さらにはフランシーヌ様に一緒に駆け落ちを誘って断られた事でそのまま1人で家出したらしいとのこと。想像以上に凄まじい行動力を見せたそうです。

 自分が断った所為でセイ様が出て行ってしまったとフランシーヌ様は随分と落ち込んでいらっしゃったが、それでも国の為に望まぬ婚約をしなければならず、一緒に駆け落ちなんて出来ないとキッパリ断ったフランシーヌ様も中々どうして、次期国母として期待させられる方でした。

 直に捜索隊が出る事になりましたが、さすがは殿下です。既に船で大陸の外へ密出国していたようでした。元々駆け落ちの完璧なシナリオくらいは描いていたのでしょう。あの天才児を無能な貴族たちの指揮で早々捕まるとは思えません。


 とはいえ、失恋のショックで国を飛び出すような幼稚な方ではないのはこの1年で嫌と言うほど理解させられてました。果たしてこの方は何の為に国の外に出たのか、それは非常に楽しみな所です。そして…国の外に学術研究をしに出て行けない私にとっては、殿下の自由気ままな姿はやはり羨ましかったのです。


 再びセドリック殿下にお目に掛かる事になったのは随分と先の事でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ