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勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
第2章 イヴェール王国騒乱
63/135

エピローグ

これにて第2章最終話です。

勇者諜報活動報告書


所属:バエゼルブ連邦領君主兼魔公王子

氏名:ルーシュ・バエラス三世


【背景/目的】

 ラフィーラ教の預言者により、人間クロードに対して勇者の預言が行なわれた。約200年前の戦争において同様に預言された勇者は魔王ルシフォーンを殺害した経緯があり、新たに誕生した勇者による暗黒世界侵攻及び魔王殺害の意図があるのかを探る必要が生じている。

 本諜報活動は、預言された勇者クロードの行動及び地上界への影響について、諜報員によって調査されたのでその結果を報告する。


【報告概要】

 現時点では、クロードは魔法無効化体質がある為に、魔王家に対する人間族の切り札である事が考えられる。その事実を知っているのは預言者を含む一部の人間だけである事が把握されており、クロードに対する知名度はイヴェール王国内だけに留まっている。イヴェール王国にてクロードは勇者と呼ばれる様になったが、イヴェール王国以外では勇者を名乗ることが許されておらず、未だに勇者である事を否定している。イヴェール王国において勇者と呼ばれるようになった仔細については以下の詳細報告にて記載する。


【詳細報告】

 イヴェール王国国王から褒章を受ける為に、クロードは居をピドからシャトーに移した。

 冒険者としてはEランクからDランクへと上がったらしくシャトーで精力的に冒険者活動としてモンスター討伐による素材集めを中心に続け、生計を立てている。

 智暦216年風の月51日にイヴェール王国コルベール伯爵によって魔族追放の神託が発表され、それが理由として、後に魔族亡命者を保護していたイヴェール国王を逮捕される事になる。

 智暦216年風の月59日に魔族の火刑が行なわれる。諜報員は魔族への刑罰を見逃せないため、魔族解放への要求をすべく介入する。その際にクロードの言葉によって、民衆はコルベール伯爵らへ暴動を起こし、魔族は解放される。

 本刑罰による死亡者はいなかったが、魔族を逮捕する際に魔族を庇う住民を含め45名の死傷者が出たことが報告されている。※イヴェールでは魔族を特別な住民として計算しない為、住民の数は把握されているがその人種に関しては不明である。

 以降、イヴェール王国シャトーにおいて、クロードは信仰と地位に抗い、魔族を救った勇敢な者とし、勇者と呼ばれるようになった。

 また、預言者との接触があり、勇者になりえる可能性があるものとして預言を下しただけであり、具体的な未来は未定である旨を齎されている。

【備考】

 預言者の言葉によるとバエラス2世及びアシュタール2世もグランクラブにいるとのこと。アシュタール2世はユグドラシルで暮らしているらしく機会があれば追って連絡する事とする。





 イヴェール国民による暴動から実に13日後、レヴィアはルーシュの書いた報告書を持って暗黒世界へとやって来ていた。

 闇に閉ざされている暗黒世界において、魔王城の中にある宰相室の中は魔導灯によって明かりが燈されている。鼻腔をくすぐるような爽やかな香りが漂う。宰相室の花瓶には、いつものように新しい新鮮なラベンダーの切り花が飾ってある。

 宰相室のデスクに向かって豪勢な椅子に座っているのは絶世の美女とも称される氷の美姫メリッサ・ルシフォーンである。彼女はその部屋で息子ルーシュの書いた報告書を読んでいた。手紙を持ってきたレヴィアはというと、客が寛ぐ為に備えられたソファーの上でゴロゴロしながら、メリッサが読み終わるのを待っている。直にルーシュのいる場所へ戻る為だ。

 メリッサは報告書を読み終えると、封筒にしまって回覧ボックスへと放り込む。

「そういえば、ルー君に手紙を寄越していたというが、何を書いておったのじゃ?」

 レヴィアは自分よりも随分年下だが、見た目は全く逆転している我が子にも等しいメリッサに訊ねる。

「余りよそ様に迷惑を掛けない事、それと赤書きした報告書でしょうか?」

 メリッサのそっけない解答に、レヴィアはメリッサを睨む。

「いい加減にせぬか。そういう態度だからルー君はいつまでも母親に怯えておるのじゃ。甘えたい年頃に甘えられず、嫌われていると思っているのだぞ!」

「別にバエラスとして支障はないでしょうに」

「そんなんだからお主は……」

 レヴィアは文句を多く持つが、それを飲み込み、不満そうにメリッサをにらみつける。

「ルー君はルシフォーンによく似ておる。下手をすると早死にするだろう。あの子は最後まで母親に嫌われていると勘違いして死ぬ事になるやもしれん」

「……それはあの子が選んだ事でしょう?仕方ない事ですよ」

「この分からずやめ!ジジイはそんな事の為に手紙を催促したわけではないというのに」

「先生が亡くなったのは痛いことです。そして…銀翼の魔公ですか」

 メリッサは目を伏せて、過去にない異常事態に思いを向ける。初代魔公のダンタリウスを退ける魔族なんて存在する筈がないが、実際にそれは起こってしまった。

「……グランクラブにいる以上、処分はルー君しか出来ぬ。我の能力では太刀打ちできぬからの。問題は……本当にルー君で太刀打ちできるかと言う点じゃ」

「あの子が勝てないのであれば、我々は銀翼の魔公に対抗する方法はありません。魔王と魔王をぶつけるなど、グランクラブを崩壊させうる状況ですから。そもそもあの子の潜在能力はお祖父様以上ですし、お兄様やルーシュ、シホの3人は、魔神の子孫の中でもかなり魔神に近いですから」

「シャイターン二世様はそこまでの能力は無かったが、ルシフォーン様はシャイターン様に良く似ていると聞いておったからな。そのルシフォーン様と双璧を成す現魔王様、そしてルー君たちは確かに…異常なのかも知れぬ。……ルー君は能力上、魔王家の中でに戦える子じゃからの」

 レヴィアは酷な事をルーシュに押し付けねばならない事を察して俯く。優しい子供に人殺しを命じなければならない。

「銀翼の魔公はどうする?」

「説得して匿うのは不可能です。勇者の啓示があった存在に睨まれています。ルーシュの報告では、簡単に殺せそうな勇者ではありますが、それがどう化けるかは定かではありません。200年前を知るレヴィア様も存じているでしょう?他愛も無い子供だったクラウディウスが、グリフィスの暴挙に怒り、覚醒したのを。今思えば……あの時も叔父様、銀翼の魔公王子でしたね」

「不吉な状況なのは確かじゃな」

 レヴィアは珍しく陰鬱な顔でぼやく。

 グランクラブにいるルーシュに頼らざるを得ない状況が出来つつあるのだが、未熟な子供にこの状況を任すには非常に厳しかった。

 魔公の力は非常に強大だ。しかし、200年前に人間達に敗北した過去がある。過去も現代も魔公の圧倒的な力に対して人間達の力は非常に微弱なのは理解している。それでも、何が起こるのか彼らもまた全く分からないので、慎重に動かざるを得ないのである。

「レヴィア様、直に次の指示書を書くから、ちょっと待っていてくださいね。ルーシュの事をよろしくお願い致します」

「…」

 レヴィアはこの不器用で厄介な女に余計な事を頼んでも、禄でもない事しかしないのは分かっいる。なので、ダンタリウスのようにおせっかいはしない。

「ルー君が可哀想じゃ」

「仕方ありません。あの子は能力はお兄様程に高くなくても、精霊の親和性だけなら神そのものですから。本来、親しいもの等、作ってはならないのです」

「……」

 レヴィアはメリッサの頑固な姿に口をへの字に曲げる。

 悔しいので「可哀想なルー君」の歌を歌って、最大限嫌がらせをする事にする。しかめ面でメリッサは指示書をレヴィアに渡すのに、実に1分と言う早業で書き終えたという。




 そんな頃、イヴェール王国の地下牢へ、国王セドリックと王妃フランシーヌが衛兵と共にやって来ていた。

 暗く冷たい地下で一人の男が喚き散らしていた。

「くそう!離せ!私はこの国の王になるべき男だぞ!高貴なる血をもつこの私が何故にこのような場所でされねばならぬ!」

 やってきた衛兵に対し怒鳴り散らす王兄クレマン。

 セドリックの腹違いの兄は、アレから10日以上経っても、あまり様子は変わらなかった。この活力を他に生かせなかったのかとセドリックは呆れてしまう。他の貴族たちは絶望して声も聞こえてこなかった。

「久し振りですね、兄上」

「セドリック!貴様!このような仕打ち!絶対に許さぬぞ!貴様は絶対に殺してやる!私の玉座を返せ!」

 クレマンは牢屋にしがみ付き怒鳴り散らす。

「……全く…自分から放り投げた玉座ではないですか。何故、そこまで王に拘るのですか?私は玉座に興味が無かったので、こんなやり方をせずとも、交渉次第ではいくらでも玉座など与えたというのに」

「な、貴様!愚弄する気か!貴様のような下賎の血を引く王子の分際で!殺してやる!王命であるぞ!誰ぞ、その下賎の屑を殺せ!」

「下賎下賎とわめき散らすな。男爵令嬢の母を下賎と罵れば、それ以下の衛兵達は気分も悪かろう」

 セドリックは呆れたようにぼやく。

「クレマン様に1つだけお聞きしたく参りました。お久し振りです」

 フランシーヌが前に出て頭を垂れる。

「…はっ……売女が。コロコロと男を変えて王妃に成り上がった屑が。何の用だ」

 クレマンは軽蔑した目でフランシーヌを睨み付ける。

「そう蔑まれるのも仕方ありません。全ては民が苦しまぬ為に選んだ事ですが、結局は2度も婚約者を作り、セドリック陛下と結婚した身ですから」

 その言葉をフランシーヌは肯定するしかなかった。

 フランシーヌが幼い頃より想っていた相手はセドリックだった。だが国の為にクレマンに嫁ぐと決め、そして婚約破棄をされれば、戦争回避のために第1王子エリックと婚約に至った。だが、最終的には自分の思うままにセドリックの手を取ってしまった。許される事ではないと知りながらも。

 だがずっとクレマンに対しては理解ができない部分が多くあった。

「ただ、ずっと分からなかったのです。何故、私と結婚すれば玉座が手に入るというのに、貴方の蔑み続けてきたセドリックの母親と同じ男爵令嬢と結婚する為に私との縁談を斬り捨てたのでしょうか」

「それは貴様が私のジョスリーヌを貶める非道をしたからだろうが!」

「私はそれをした記憶が全く無いのですが…まあ良いでしょう。ですが、男爵令嬢を下賎下賎と罵って来た方が、男爵令嬢であるジョスリーヌを貶められてお怒りになった理由もよく分からないのです」

「それは……ええい!貴様のような下女の相手をするヒマ等無いのだ!」

 地団太を踏んで怒鳴り散らすクレマン。その姿を見て呆れるように肩を竦めるセドリック。

「フランシーヌ。前にも言っただろう。その男は自分の思い通りに行けば何でも良く、脳の許容量を超えると王家の血を盾にして、考える事を放棄するバカだと」

「…」

 フランシーヌは哀れむようにクレマンを見る。フランシーヌは賢い女である為、セドリックの言葉ですべてが分かってしまう。

 クレマンは王となるべくして生まれた為に、公にいる分には見栄えや品はよく育てられたものの、周りの人間からは背後から操り易いように無能に育てられていた。フランシーヌの問いに対しても結局は自分の行なっていた矛盾さえも、考える事さえ放棄していた。阿呆である事さえ気付いていない阿呆であるのだから始末に終えない。

 フランシーヌからすれば、クレマンが他に好きな女がいようと婚約に問題は無かったのだ。自分を正妻にして、サヴォワ家にご機嫌をとりながら、側室のジョスリーヌと仲良くやれば良いのだ。そもそもフランシーヌはクレマンとの婚約はそういう、契約だと最初から割り切っていた。

 それに気付かず好きに振舞ってしまったのだから、滅ぶべくして滅んでしまったとしか言いようがない。無論、クレマンの妻であるジョスリーヌが、サヴォワ家と王家との関係や国家の情勢も知らない田舎貴族の娘で、公爵家の令嬢を追い落として妃になろうとしたのが元の問題でもあるのだが。

「兄上、近々牢から出れますから待っていて下さい。貴方の推していた貴族達の現行法に従って処罰を下さねばならないので、その前のあれこれが忙しいのです。申し訳ありませんが」

 そう言い残してセドリックはフランシーヌを連れて去る。

 セドリックらの背後から、クレマンの喜ぶ声が聞こえているのだが、哀れ過ぎて聞くに堪えなかった。

 死刑執行が確定している国王反逆罪の犯人が牢屋を出るときが、いつなのかなど分かっている筈だが、それさえも彼は理解してなかった。都合のいい方向へ、都合のいい方向へと考えるポジティブ思考は最悪なものに至っていた。


「…私は結局、この国に何もしてあげられなかったような気がします。民の為、国の為にと身を捧げてきたつもりですが、クレマン様の暴走も止められず…」

 フランシーヌは大きく溜息をつく。

「フランシーヌ。君がるたから俺はこの国から出て、国外の知識を得た。そして君がいたから戻ってきた。今、イヴェールの民は確実に自立し始めている。君はいつまでも国の母として民を保護していなくても良く、そろそろ子離れする頃になりつつある」

「民を育てたのは他ならぬ貴方でしょう?」

 フランシーヌは民の為に身を尽くす覚悟でいたが、民を育てたのは他ならぬセドリックだった。数多の知識と情報を使い、イヴェールを劇的に変えた。戦ではなく、政治家として。

「俺はフランシーヌがいなければ、当にこんな国、見捨てている。昔から言っていただろう。貴族だの王族だの面倒だと。つまり、お前は民の為になったんだろ」

「そういう事にしておきます」

 励ましてくれる愛する男に、フランシーヌは素直に頷いておく。


 彼らもまた、1つの時代を終わらせたのだった。




 それから数日後、法律通り、国民の目の前で見せしめの様に、ギロチンという刑罰によって反逆した貴族達の首が落ちて行く。

 この恐ろしい法律を目の前に見せる事で、近代的な法律へと移行するようにセドリックは演説をし、こうしてイヴェールは貴族社会から民主社会へ舵を取る事となる。


 読んで頂きありがとうございます。

 第3章ですが、大筋は出来ているのですが、細かい部分が出来ておらず、構想を練る為、しばらく休載させていただきます。(1月くらいをめどに考えてます。4章まで2日に1話程度のペースをめどに考えていたのですが、やはり追いつかなくなってしまいました…)

 3章に入る前に、本筋と関係ない過去話などをちょこちょこと挟みますが、こちらも不定期更新になります。

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