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勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
第2章 イヴェール王国騒乱
61/135

反乱

 クロードは宗教裁判と化していた広場に紛れ込んで、アレッサンドロがセドリック救出に入った後に、直に道を開けるように前のほうに陣取っていた。


 アレッサンドロは広場を見渡せる貴族街側の丘の上から一気に飛び込める準備をしていた。

 背後にギロチン台があるので、ギロチン台に一度登らされる事が予測されている。その為、ギロチン台に拘束されて、兵士達がセドリックを抑えるだけに集中する瞬間に助けに入る事を最初から決めていた。



 しかし、ルーシュが介入したのはアレッサンドロにもクロードにとっても想定外だった。

 それはあたかも神のように現れ、全ての咎を引き受けると皆に訴えたのだ。


 必死になっているルーシュは余裕が無いのだろう。決意したような強い目は、まるでアルゴスと戦った時のような、普段のボケた様子が微塵も見られない。クロードは、それこそがルーシュの本質なのだろうと感じていた。

 だが、貴族達はルーシュを鞭で叩き続けそしてその首を切り落とそうとする。


 クロードは最前列にいるので、ルーシュの直近くに陣取っていた。

 作戦では、ここで助けに出て行ったら王を助けられなくなり作戦は失敗になる。クロードはあくまでもアレッサンドロ介入後に暴れて民衆の中に道を作ることなのだ。その為にロベールも合図をしたら飛び込んでくるように広場の近くに配置して準備をさせていた。ロベールの機動力と馬力なら騎馬隊に襲われたって軽く振り切れるだろう。

 大儀の前では、目の前の惨劇に目を瞑らねばならないのだ。



 クロードは必死に腰の刃を握って我慢するように自分に言い聞かせる。

 だが、王を助ける事に何の意味があるのかという思いも過ぎる。いや、セドリック・イヴェールがかの高名なる冒険者セイ・レ・ビスコンティならば、この場を修めるだけの力があるはずだ。

 救出後、再び引っ繰り返せるだろう。

 はやまってはならない。はやまってはならないのだが…


 聖白星騎士団の刃がルーシュの首に振り下ろされようとしたとき、クロードは何も考えずに飛び出していた。

 修行によって鍛えられた脚力によって一足飛びに飛び込んで、ルーシュへ振り下ろされた刃を、己の刃で振り上げて弾き返す。

 金属の弾かれた音が響き渡る。


 クロードは思わずやってしまったと半ばやけっぱちになっていた。

 広場を見下ろせる貴族街の方向にある階段の脇にこっそりと存在して、視界の隅で頭を抱えているアレッサンドロが見える。

「く、クロード?」

 ルーシュは目を丸くしてクロードを見上げる。

 結局の所、クロードは自身でも理解しているように英雄の器ではない。友達が危機なら、無力でもそこに飛び込む程度しか出来ないのだ。前回とは違う。ルーシュは争いをするつもりは無いのだから、アルゴスと戦った時のように都合よく勝利できる筈が無い。

 だが、

「身近な友達を見捨てて、大きい利益を取るような真似をする位なら、死んだほうがマシだ!一生消えない罪を延々と背負って生きるつもりはない!」

 クロードはアレッサンドロにも聞こえるようにやけっぱちになって叫ぶ。

「き、貴様!貴様も背教者ならば…」

「友達を見捨てるくらいなら、ラフィーラ教なんてこっちから願い下げだ!背教者と謗れば良い! クソっ食らえだ!」

 コルベールの言葉を打ち消すように、自身からラフィーラ教を投げ捨てて叫ぶ。


 だが奇しくも、この言葉が大きい波紋を呼ぶ。

 クロードの言葉はあくまでもアレッサンドロとの作戦に対して失敗の言い訳をしたに過ぎない。ルーシュを見捨てて王様を助けるなんて本末転倒だといったのだ。

 それは、先日まで隣人であった魔族を見捨てて、神聖教団を含んだ多くの国々と友好を結べるという誘惑に惑わされた民衆達の心には別に形で深く突き刺さったのだ。


 クロードのただ純粋な友達を救おうとした姿が、民衆達に火をつけてしまった。

「そ、そうだよ!俺達は何をしてんだ!」

「あんな子供に何もかも押し付けて…」

「ラフィーラ様の神託が何だ!俺達は皆と手を取り合えるからラフィーラ様を信じていたんじゃないか!」

「魔族を庇って殺された?殺したのはあいつらじゃないか!」

「もうラフィーラ教なんて関係ねえ、かまうものか!」

「王様は俺達に色んな事を教えてくれたのに背教者ってだけで見殺しにするのか!?」

「もう、どうにでもなれだ!」

 広場に集った万を超える群集は、クロードの声に導かれたように一気に怒気を膨れ上げさせる。

「魔族達を解放させろ!」

「あのエセ聖職者どもを許すな!」

「やっちまえ!」

 所詮は壇上に立つ偉い王侯貴族は自身を守る為に配置された兵隊は千人ちょっとの聖白星騎士団だけである。万の群集による圧力は一気に騎士団を蹴散らす。群集は魔族達を救おうと十字架に吊るされていた人々を解放させていく。

「な、何が起きている!?」

「え、ええい!私は国王だぞ!貴様ら!全員国家反逆罪として打ち首にするぞ!」

 貴族達もあまりの出来事に混乱し、クレマン新国王は怒鳴り散らすのだが、もはやその声は民衆に届かない。



 凄い事になってしまい、クロードは呆然としていた。ルーシュに手を貸して起こして上げながらも、自分がきっかけで、もはや自身の手に負えない状況になっており、民衆の暴動を見るしか出来なかった。

「な、何か凄い事になってしまった」

「……ううう、背中ビリビリ痛いよぉ」

 ルーシュはと言うと涙目で起き上がりながら、背中をさすって呻く。既に傷が治っているのが相変わらず恐ろしい回復力だと感心してしまう。だが、今はそれ所ではない。

「どーすんの?」

「どーしよ」

 ルーシュもこの状況に理解がついていけず、クロードも困っていた。

 そんな中、2人の近くにいたクレマンら貴族達は走って貴族街の方向へ逃げようとしていた。

「しまった!あのメンバーを抑えておかないとこの暴動って終わらないんじゃないの!?」

 クロードは慌てて貴族達を捕まえようと考える。


 だが、アレッサンドロはこの暴動に紛れて、既にセドリックを開放していたようだ。貴族達の逃げ道を2人で塞いでいた。

「お前らが首謀者だろうが、逃げるなよ」

 アレッサンドロは刃を向けて立っている。

「グロス!奴を殺して道を切り開け!」

 クレマンは叫び、グロスと呼ばれた筋肉質の肉体を持った騎士は剣を抜いてアレッサンドロに襲い掛かる。騎士団長を何度となく輩出しているグロス伯爵家の嫡男は、その体に似つかわしい豪剣を唸らせてアレッサンドロを一刀の元に切り伏せようとする。


 だがアレッサンドロは左手の人差し指と中指でその刃を掴んで受け止める。

 そして剣の刃先を握ったまま、それを振り、グロスは吹き飛んで転がる。

 国でも屈指の剣士が簡単に転がされて、誰もが唖然としていた。アレッサンドロの斜め後ろにいたセドリックは肩を竦めて溜息をつく。

「この暴動、お前らがボコボコにされないと終わりそうにないぞ?勝手に逃げるなよ」

 セドリックは貴族達に睨みを利かせて尋ねる。

「くっ…お、俺はこの国の王だぞ!俺に逆らう者は皆殺しだ!ここに集まる民衆どもは俺に逆らったクズだ!軍を呼びつけて殺してやる!どけ、セドリック!貴様のような男爵家の売女のガキが偉そうに俺に刃向かうんじゃねぇ!」

 クレマンはセドリックに怒鳴りつける。

 だがセドリックは目を丸くしてクレマンを見返していた。

「カカカカッ、それを俺に言うのか?男爵家の令嬢を正妻にした兄上が?まあ、惚れた女のために何もかも投げ出すあたりは似たもの兄弟だが、惚れた相手が余りに違いすぎたよなぁ」

 セドリックはクレマンの斜め後ろに立つ女に視線を向ける。クレマンの妻は男爵家の令嬢である。元々、セドリックはイヴェール王家において、男爵令嬢の血筋である為に、血統の悪さから相続権にハンデがあったのだ。まさか男爵令嬢と結婚したクレマンに、自身の血筋をバカにされるとは驚きだった。


 逃げ場を失い絶望とする貴族達。アレッサンドロはセドリックにどうするか視線で訴える。さっさと殺して収めないのかという質問であるが、セドリックは目の前の光景を見て少しだけ口元を楽しそうに歪めていた。


 暴動は終わる様子を見せないのは助けるべき魔族を救うものと聖白星騎士団を制圧する人間に分かれてしまっていて、取り留めなくなっている点がある。また、混乱が混乱を呼んでいる上に、統率者がいないという状況に問題があった。この暴動に指導者がいないのだから、どこまでがゴールなのか誰もわかっていない状況にある。

「さて、問題は俺が首を取って、果たしてそれでOKなのかと言う点だ。彼らは魔族を助ける為に立ち上がったが、国王様を助ける為に立ち上がったわけではないからな」

 セドリックも国民の気持ちがどこに向いているか理解している。

 民衆は、中には王を助けようとするものもいるようにも見えるが、本質は隣人を生贄にして、他に良い顔をしようとしていた自分達が許せなくなったから行動に出たのだ。クロードの叫びに彼らは勇気をもらって行動に出たのだ。

「確かに…」

「とはいえ、敵を全て殲滅するまで、待つ訳にも行くまい。どうしたものかなぁ。本来であれば軍隊で制圧してしまうのだが…今はそれを握っている人間がいないのだ」

 アレンサンドロとセドリックは凄まじい怒号の中であっても落ち着いて話し合っているあたり、元傭兵の人間であることがうかがわせる。対して、クロードは困惑してオロオロしていた。

 するとルーシュはセドリックの方に歩み寄る。

「あの、僕、風の精霊に頼んでセドリックの声を皆に届ける様に頼んでみようか?」

 ルーシュの提案にセドリックは目を丸くする。

「そんな事が出来るのか?」

「まあ、風の精霊は音を運ぶから。ただ、僕が頼むとどこまでも伝えそうで怖いけど…この場を収めるには仕方ないよね?」

「どこまで飛ぶんだよ?」

「大陸中くらいは覚悟してもらえると」

「それはそれで大問題だが、まあ……背に腹は変えられないか」

 セドリックは他国に聞かれても問題ない程度に民を説得させる言葉を考えて、ルーシュの提案に頷こうとする。

 だが、それより早く、広場にいる人間達全員に、異なる声が届くのだった。

『イヴェール王国の皆さん、戦いをやめて下さい。イヴェール王国の皆さん、戦いをやめて下さい』

 暴動が起こっている中において、まるで荒波だった海面が一瞬で静寂になったかのように静まる。


 広場より貴族街に続く階段の一番奥に青く長い髪を伸ばした女性が現れる。

 民衆達はその姿を見て一瞬で誰が現れたのか、全員に戦いをやめる事を訴える声の主が誰なのかを理解して、その声に耳を向け、現れた人物に視線を送る。


 ラフィーラ教会の教祖、預言者である。

 預言者の横にはマリエッタとレナ、それにディディエ大司教も立っている。

 コルベールは驚きに声を上げられなかった。そして何で預言者がここに到着しているのかと問う様にメルクールを見るが、メルクール公爵は理解が及んでいなかった。預言者が来ても殺すように街の周りには検問を張っていたのだ。

 それを突破したのかと不思議に思ったのだろう。


『私は預言者と名乗るラフィーラ様の声を届ける者です。先日、神託があったとの話ですが、残念ながらその神託はラフィーラ様の声ではありません』

 その言葉に民衆は「え?」と疑問が過ぎり、一気に暴動が小さくなっていく。それどころか刃向かっていた聖白星騎士団も何を行っているのか理解できずに固まっていた。

 聖白星騎士団とて全員が全員コルベールの預言を虚言だと知っている訳ではなく、本気で教えに従っていたものも多い。そうでなければ、このような大人数が、こんな民を虐げるような行動に対して簡単に従うはずも無かったのだ。

「ば、バカをいうな!ラフィーラ様は私に確かに神託を下さったのだ!貴様、私が神託を賜った事を嫉妬し、それを否定するとは無礼者が!この背教者が!」

 コルベールは怒鳴り散らす。

『あら、コルベール様は随分と面白い事を言うのですね。遥か昔、ラフィーラ様の教えを広めた私が背教者だなんて?ラフィーラ教会とは、つまり私が伝えた言葉なのですから、私が背教者なら、信者全てが背教者じゃないですか?』

 クスクスと笑う預言者には明らかに余裕があった。民衆達も預言者の様子を見て、何があったのかと問うまでもなかった。今回の神託が最初から怪しかったのも事実で、預言者の否定はそのまま信託の虚言だったのだと直に気づかされる。そして嘘で民を謀った男に対して、殺意に近い視線が一気に向ける。

『それに…ラフィーラ様は神託なんて下せません。200年も前、人間が魔族を虐殺した悲しみに泣き付かれて喉を壊して喋れませんし。念話は天界からグランクラブに届かないのですから、神託なんてそもそも不可能なのです。コルベール様は一体どこの神様の神託を聞いたのでしょう?』

「!?……な、ならば貴様はどうやって神託を聞いていたというのだ!」

『私はユグドラシルの頂上にて祈りを捧げる事で、数十年に1度ほど、直接ラフィーラ様に天界に呼ばれるのです。私の神託とはつまりそこでラフィーラ様に賜った言葉であって、確かに私の解釈がなされています。マリーに落とされている神託は単純に風の精霊との親和性の高いマリーを介して私の声を届けているだけです。つまり…神託なんてものは存在しないのです』

 教祖によって神託を否定されてしまい、誰もが言葉を失う。

「じゃ、じゃあ、我々は…」

「とんでもない事を」

 神託が嘘だったなら、民衆もまた、自身の罪を気付き、一気に混乱を来たす。

 騙されて魔族を虐げたという事実だけしか残らなかったからだ。いま、彼らを解放させようと動いているが、罪が失われるわけでは無い。

『ラフィーラ様は罪を憎んでも人は憎みません。悪い事をしたのならば真摯になって相手に謝り、そして許す事から始めましょう。きっとラフィーラ様も喜んでいるでしょう。悲しい過去はありましたが、神に逆らっても隣人と手を取り合う未来を選んだ貴方達は、誰よりもラフィーラ様の望んだ姿なのですから』

 おおおおと民衆はありがたがるように両手を合わせて祈る。



「ルーシュー」

「レナ」

 階段をパタパタ下りてくるレナはルーシュの方へと駆け寄る。

 レナが抱きつこうと駆けつけてくるので、ルーシュは受け止めるべく手を広げるのだが、レナを追い越してハティとスコールがルーシュの懐に飛び込む。

 レナは駆け寄り先を失ってルーシュの手前で足を止め、複雑そうな顔をしていた。

「大丈夫だったの?」

 レナは不満そうな顔であるが、心配するようにルーシュを見る。

「痛かったけど、まあ、なんとか」

 ルーシュの様子にレナはホッとするように息を吐く。


 既に国民達は聖白星騎士団を制圧し、貴族達も彼らに囲まれて逃げ場を失っていた。

 暴動は収まったが、戦いの結果は非常に厳しく、武器も持たず人数と言う圧力で聖白星騎士団を叩きのめした民衆達は少なからず大きい傷を負っていた。

「ルーシュ、申し訳ないのだが、我が民が今回の戦いで傷を負ってしまっている。治してやってくれないか?君の同胞を救うべく、無手でありながら武器を持った騎士に立ち向かった勇敢な私の同胞だ」

「うん。分かったー」

 セドリックはルーシュに頭を下げて頼み、ルーシュも騎士団に斬られて、仲間に介抱を受けている男達の方へと向かう。ルーシュが駆け寄ろうとすると多くの人々が道を開けて全員が跪いて祈るようにする。

 えええええとルーシュは皆に避けられて露骨に悲しそうな顔をするのだが…。


 その様子に預言者は苦笑し、セドリックも同様に肩を竦める。

「暗黒世界と同じような状況になっちゃった」

 レナは哀れむようにルーシュを眺める。

「向こうでもああなのですか?」

「問題児である半面で、常に大衆の味方であり、かの大魔王の血を引く魔公王子だから、神のように皆が敬っていて、友達が全然出来ないんです。メリッサ様からすれば、それこそが正しい魔王家の子である証なのだから仕方ないと諦めてますけど」

 レナは呆れるようにルーシュを見る。

 ルーシュはというと、それでも傷ついた人々を癒そうと走り回る事になる。それは大怪我をした聖白星騎士団も同様にである。

「シャイターンは少々頭のねじが飛んでるような人だとは聞いてましたが、そのやさしさはラフィーラ様よりも深く広いと聞きますから。間違い無く、あの子は神の子なのでしょう。私のように、可愛い我が子を虐めてくれた家を焼き討ちにするような心の狭い子ではないのでしょうね」

 預言者はクスクスと笑う。

 だが、どうやらメルクール家は既に焼き討ちされていたらしい。いつの間にか貴族街のメルクール邸のあるあたりから黒い煙が登っている。

 セドリックも言葉を失って預言者の顔を見る。この女は絶対に聖職者じゃないとジト目になっていた。

 それを耳にして顔を青ざめているメルクール公爵がいるが、そもそももうそこに戻る事さえ許されないだろう。


「さてと……ルーシュだと私の声は大陸中に飛ぶので困ってしまうらしい。まだこの国には魔導拡声器が無くてね。申し訳ないが預言者様の精霊術を貸して頂けないだろうか?」

「混乱を収める訳ですね?」

「ここで貴族を捕らえて勝手に帰る訳にも行くまい。この状況の混乱は終わっても結論が出ていない。傷ついた民にも申し訳が立たぬ」

「分かりました」

 預言者は空中に浮かぶ風の精霊に声をかけて送り出す。

「ところで、何故ルーシュだとそんな事になるんです?」

「……精霊は善悪を持たない半面で、好き嫌いはあります。例えるなら…私が頼めば精霊は1~2体が適当な感じでいう事を聞いてくれます。ですが、ルーシュともなると、憧れの異性に声を掛けられた男性の群がこぞって誰よりも良いプレゼントを渡そうと競い合うような状況になるのです。その際に起こる現象が万を超える精霊群によるプレゼント攻勢となり、それはそのまま天変地異に等しいものとなるのです。あれほど魔力と精霊に愛されてしまうと大変なんですよ。神々がグランクラブから去ったのはまさにその所為ですから」

「!」

 それはつまりルーシュは神々と同じなのだという意味にもなる。

「もしかしてだが……この国は滅びかけていたのか?」

「さあ、どうでしょう?」

 預言者は目をそらす。

 だがそれは肯定を示している。正しくある方向へ導かなければ滅びを迎えていたと知り、さすがのセドリックも冷たい汗を流さざるを得なかった。

「声はもう届きますよ。どうぞ」

 預言者はセドリックに声をかけ、セドリックは鷹揚に頷く。

「聞け!我が民よ!」

 響き渡るその声に民衆はセドリックの方へと視線を送る。

「私はセドリック・イヴェールである。我が声に耳を傾けよ!神託を捏造し、我が民を惑わし、多くの同胞を傷つけ、国を転覆せんとした者共は全て捕らえた!」

 セドリックの言葉に民衆達もその場で慌てて国王のいる方へ向かう。囚人服の上だが法衣を被っており、数人の騎士が武器を持って貴族達を取り囲んで逃がさないようにしていた。

 民衆も自信を先導していた悪しき貴族たちとの戦いは終わったのだと理解する。

「ラフィーラ神は人を憎まぬように訴え続けた。許す事を教え続けてきた。だが、我々は法を作る事で犯した罪には相応の罰を与える事を決めてきた。我らは愚かで、何度でも失敗を繰り返す。その失敗を繰り返さない為に法を定め、互いが互いを許す世界を作ってきたのだ。魔王の末はわれらに許しを請い、真摯に訴えてくれた。我等もまた同じように頭を下げねばならない。彼らは我らの同胞でもある。この度の騒動、王として余の不在であった事を全ての民に謝罪する。申し訳なかった」

 セドリックは公衆の面前で大きく頭を下げる。

 セドリックもまた散々貴族に叩かれ、民に石をぶつけられた存在でもある。その男が頭を下げたのだ。多くの民もまた、自分達の愚かさに慌てて跪いて頭を下げる。

「さて、これより…我らに虚言を吹き込んだ者共がいる。ラフィーラ様は彼らをも許すだろうが、我らは彼らを法によって裁き、それを持って許すべきだとおもう。不満に思う者も多くいるだろう、許せない者達もいるだろう。石を投げられた方も傷ついたが、投げた方もまた友を傷つける事を強制された心の痛みは計り知れないだろう。だが我らはそれを許す為に法を作ったのだ。さて、その法についてだが…」

 セドリックは法衣の懐から法典を取り出す。

「我が国では法典によってその罪が定められている。悪行をしたのであれば、法の下で王であっても裁かれるべきである。しかし、我が国では王を裁ける者はおらず、貴族を裁けるのは王だけで、民が領主に対して反乱を起こせば一族を殺さねばならないという法律がある。今回の事例では、これは反逆罪になるのだが……この反逆は国王を簒奪せしめんとした男達を王命によって下されたものである為、処罰には当たらぬ」

 セドリックの言葉に国民達は少しだけドキリとしたのは間違いではない。まさか自分達が犯罪者になるのかと一抹の不安を抱いたからだ。

「そう、このような法律は誤まっている。国民が何故貴族や王族に反旗を翻すか?無能な統治者が悪いのに、その罪を民が受けるのは間違っている。故に、私はこの法律を正す必要があった。しかし、残念ながら、この法律は我が国の議会制度上で覆す事が出来なかった。そして王だからとて、勝手に自分の気分で法律を勝手に書き換える事は許されぬ。そうだろう?気に入らない男が些細な罪をしたのに、その男が犯したら勝手に死刑に変えて、再び戻す等あってはならない。故に法律とは過去に遡って変えることもまた許してはならないのだ」

 セドリックは国民に教育をするように訴えかける。国民達はセドリックが何を言いたいか今一伝わらなかった。だが、法律制度に問題があり、セドリックはそれを直そうとしていたが、直した法律ではなく、昔の法律で現在の処罰を実行しなければならないという事実だけは伝わった。

「故に、彼らはこの法典に記載されたとおりに処罰する。さあ、メルクール卿よ、口にしてみろ。貴殿が私の意見を散々否定し続けたこの法律の刑罰を。王に反旗を翻した貴族の行く末を語って見せろ。私は、貴公らが必死に守り続けた法律によって裁いてやると言っているのだ」

 セドリックはニヤニヤと笑って貴族達を見下ろす。

 悪辣な国王は凄く良い顔で貴族達を見下ろしていた。貴族達もやっとセドリックが何を言わせたいのか理解する。メルクールら貴族派は、自分達の身を守る為に必死に守ってきた法律である。民が貴族や王へ、貴族が王へ、反旗を翻した場合どうなるか、彼らは必死のその法律を守ってきたのだ。

「ふ、ふざけるな!俺が王なのだ!貴様こそ、貴様が反逆者だ!」

「バカをいうな。私は、手続きどおりに王になったではないか。王が次の王へ継承する場合、継承のサインと玉璽による承認印を要する。私は父上からそれを頂いて王になったが、さて、私はいつ兄上にそのような手続きをしたのだ?王冠を被って法衣を着て、囚人姿の王に対して、王様面する男爵殿の姿は実に滑稽であった」

 法典を右手に持って嘲るようにクレマンを見下す。

「わ、私は国家反逆罪などしていない!わ、私は神託を確かに受け取ったのだ!それをただ伝えただけではないか!勝手に神託で動いたのは貴様らの勝手だ!そうだ、わたしは何も悪くない!」

 コルベールはこの期に及んで神託を使って逃げようとする。神託など無いと預言者が言ったにも関わらずである。だが絶対にないという証拠も無く、それを確かめる手段もないのである。とても上手い言い逃れだった。

 セドリックは少し感心したようにコルベールを見る。この都合の良すぎる神託という言葉は非常に有効といえるだろう。

「あら、神託はともかく……大司教を暗殺未遂したのは貴方でしょう?先程、お医者様がはきましたよ?毒薬で衰弱させて、国家転覆と共に大司教を毒薬で殺すように、専属医に毒を渡していたと。その毒薬は……イヴェール11代国王にも使われた由緒正しい毒だと仰ってたのですが?」

 預言者はさらっと突っ込みを入れて、コルベールは言葉を失う。

「ほほう。父を殺した毒薬?それは……聞き捨てなりませんな。なるほど、聖職者である枢機卿閣下は、大司教の座を得ようとせんが為に、大司教を殺害していたと?しかも国王陛下の殺害した容疑者にもなった訳か」

「な、何を根拠に…」

「死帽茸の毒薬は、微細ですが胞子が混ざっていることが多く。聖なる魔法を使うと死帽茸は生えてくるんですよ。ディディエ大司教の食事管理は全てコルベール卿だったと窺ってます。言い逃れは出来ませんよ?貴方の手配した医者は全て自白しました」

 預言者はコルベールをジロリと睨みつける。

「さてと国王簒奪の罪は何か?そんな者は私に説明されるまでも無く、貴様らはよく知ってるはずだ。貴様らの守った法律で裁かれるが良いだろう!貴様らがいなくなった後に、私はこの法律を改定し、人が人として生きていけるための法律へと変えて行く!このような悲劇が2度と起こらぬようにする為にだ!」

 セドリックは高らかに宣言する。

 それに賛同する民の声が響き渡る。


 こうしてこの大きい騒ぎは終結を迎えるのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] なんか盛り上がってるけど、俺なら、昨日まで友人だった人達を、あいつは敵だと神が言ってた、って言われて殺しに行くようなサイコ系民衆の方々とは1ミリも関わりたくないなぁ。
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