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勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
第2章 イヴェール王国騒乱
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魔王の代弁者

場面はルーシュの方へと戻ります。

 ルーシュは慌てていた為、ダンタリウスとの約束を破って空を飛び現場に翔けつけるのだが、もはや約束云々の話ではなくなっていた。


 阿鼻叫喚、そう呼ぶに相応しい地獄のような景色が目の前に映し出されていた。


 広場には千にも上る木でできた十字架が立ち並び、そこには魔族達が磔にされていた。その十字架に炎が付けられ大量の火が立ち上り、劫火によって泣き叫びたくも布によって口が塞がれている。

「な、何て事を!」

 ルーシュはその光景を目にして体を恐怖に震わせる。

 たくさんの民衆が見ている前で、魔族達は公開処刑をされているのだ。彼らは何かをしたわけではない。

 自分の大事な弟子でもあるティモまでも何故か魔族側に放り込まれて火のついている十字架に括りつけられていた。


 ルーシュは救う方法を考えるのだが、状況が非常に悪かった。

 人が多すぎる。あの炎を消すだけなら簡単だ。だがルーシュがそれをすれば間違い無くこの国は滅びるだろう。


 水の精霊に頼んで火を消すように言えば、間違い無くこれだけの量の炎を処理する為に多くの精霊が現れ、彼らはルーシュの意思に従って火を消し、そのまま調子に乗ってこの街を沈没させるだろう。

 風の精霊に頼んで火を消すように言えば、街の建物ごと吹き飛ばし、魔族を救えても周りにいる人間は風に飛ばされて死ぬ事になるだろう。


 魔王家は基本的に何もしないというのは理由がある。自身の能力は迂闊に使うと人類の存亡に関わるのだ。

 どうにかする?

 どうにか出来るものではないとルーシュは酷く困っていしまう。

 だが火の精霊達は魔族達を燃やしていた。彼らにそういう善悪がないのをわかっているから、彼らを責めるわけにも行かないのだ。だが、今回ばかりは文句の一言も言いたくなる。

「あああ、もうお前ら、そんなに遊びたいなら後で遊んでやるから、今はどこかにいけよお!」

 ルーシュは頭を抱えて火の精霊に対して愚痴るように訴える。

 だがその一言が、まさに最も簡単な対処法だった。ルーシュの事が大好きな精霊達は、どこかに行けといわれて、彼らはルーシュの声を聞いて、一斉にルーシュへ振り向いて理解したとばかりに、手を振ってここから消えうせたのだった。


 バッと十字架の炎が消えうせる。

 だが炎が消えても体中に火傷を負った魔族達は無事ではない。広範囲になるがルーシュは莫大な魔力を1000の十字架に向けて光の魔法で火傷した魔族達を癒す。中には小さい子供もいて、死に掛けている存在も確認されており、もはや躊躇う余裕さえもない。


 だが、それを下から見ていた人々は異なる。

 突然炎が消えて、空から眩い光を放ち黒い翼を持つ魔族が降臨したのだった。

 しかも穏やかで優しい光に照らされた魔族達は体中に負った火傷が一瞬で治っていく。それはあたかも神が遣わした聖なる使徒が起こした奇蹟の様だった。



 ルーシュは周りが自分に注目しているのを見て、確かに光の魔法は派手すぎて、注目が自分に向かってしまうことが仕方ないと感じる。

 空を飛んで翼を見せている姿を目撃されてしまい、後で酷く怒られる事を自覚する。だが自分がどのような目にあっても、彼らを守るのが魔公である自身の責務なのだから仕方ないと割り切る。

 だが、注目されているのは逆に言えばチャンスだと感じる。ルーシュは自分の声が皆に聞いてもらえるチャンスなのだと。


「僕の名前はルーシュ・バエラス3世!大魔王ルシフォーンの末裔にして、暗黒世界バエゼルブ連邦王国の君主である。ここに集まる皆、僕の声を聞いて欲しい!」


 民衆はルーシュの声を聞いて、大きくざわつく。魔王の末裔が魔族を燃やす自分達に何をするのか、恐怖を感じるのは当然だ。


「200年前、僕はこの頃を生きていないから戦争で何が起こったのかを知らない。このグランクラブの事情を僕達は詳しく知らないし、ここに集う人間達が、そしてラフィーラ神が、なんで当時の事さえ知らない僕達を咎人だと訴えている理由もよく分かってない」

 ルーシュは、自分の無知を赤裸々に語る。だが実際、200年前の事をその目で見た人間もこの場にはいないのである。

「でも、このグランクラブでは何度となく同族同士で戦争をして殺しあっっていて、だけど、魔族のような仕打ちを受けていない事は知ってる。だからきっと200年前に、よほど酷い事をされているんだろうなとは分かってる積もりだ。先祖代々恨みに思っているくらいなのだろう。でも、僕は確かに無知な子供だけど、僕は魔族の代表者の子孫だから知らぬ存ぜぬですまない事は分かっている。だから魔族の代表として皆に謝罪する。そして、僕ら以上に何も知らない彼ら魔族達を、罪無き彼らを虐げる行為を辞めて欲しい」


 ルーシュの言葉は広場にいる民衆に響き渡る。


 天より降臨した聖なる魔法を使った魔王の子孫を名乗る少年は地面に降り立ち皆に謝罪する。このまま魔族達の復讐劇でも始めるのかと恐れている中での行為だったので、民衆はそれが邪悪な存在には全く見えなかった。

 それに流される事を恐れたコルベールは慌ててルーシュの言葉に扇動されないように叫ぶ。

「だまされてはならない!それは邪悪な魔族だ!ラフィーラ様は仰った!魔族の罪は決して許してはならないのだと!儀式は続けねばならないのだ!貴様らは背教者としてこの愚かな国王と共に未来を進むのか!」

 コルベールは慌ててセドリックを指差して叫ぶ。背教者という言葉に全員が黙ってしまう。ラフィーラ神の神託があったのだから、魔族は裁かなければならないという意識を植え付けられる。

 だが、ルーシュはすぐさまに切り返すように訴える。

「ラフィーラ神が何と言おうと、いつか僕ら魔族種が他の種族と手を取り合う未来が来ると信じてる。ラフィーラ神は皆と手を結び合う中に魔族を必要ない者として除外したのは分かった。だけど、僕達魔族はその輪の中に入りたい!入りたいんだ!仲間はずれは寂しい。凄く寂しい。200年前に何があったのかは知らない。だけど僕は輪の外からでも、ずっと僕たちも含めて皆で仲良くしようと訴え続けよう。その輪の中に僕達の同胞を入れて欲しいと!僕らをラフィーラ神が見放したとしても、皆と共にありたいと強く願い続ける積もりだ。その為なら何だってする!罪を償えというならいくらでも償おう!お願いだから彼らを虐めないで欲しい。殺さないで欲しい」

 ルーシュはコルベールの言葉に対しても決して引かずに訴える。

 そしてコルベールがそれに反論する前にさらに言葉を紡ぐ。ルーシュはコルベールの言葉には全く感じるものを持たないのだが、その言葉はまるで呪いのように大衆を扇動している事を理解する。出来るだけ自分の思いを皆に伝える為には彼に喋らせないようにしないとダメだと極力多くの言葉をつむぐ。

「200年前、この場にいる魔族達は元々僕ら魔族の指導者に連れられてきた、ただの民間人に過ぎない!彼らの祖先は何も知らず、僕ら指導者達に導かれてグランクラブにやって来た。彼らは決して人類に対して攻撃はしてない!彼らは弱いから、海を知らない暗黒世界の民は、中央大陸の外に出る術を持ってなかった!大陸の外を攻めたとするならそれは僕ら翼を持つ指導者だけだ!もしも罰する必要があるなら僕らだけであるべきだ!我らが眷属たる魔族達は何も悪くない!この見知らぬ大地に連れられて、戦争に巻き込まれて他大陸に隷属させられた哀れな子供たちだ!彼らには罪なんて何もない!もしも、それでも魔族と言う種すべてに罪を問うなら、僕が全て償う。僕は魔王の血を引く者だから!だから…魔族の皆を嫌わないで。お願いします」

 ルーシュは壇上に降り立ち、そして膝をついて頭を地面に擦り付けるようにして謝罪する。

 ルーシュの説明は、知恵のあるイヴェール国民にとって理解できるものだった。船を持たない魔族が大陸の外に侵攻する事が出来ない。翼を持つものだけが罪だというなら、ここに吊るされている魔族達は罪を問う事自体が間違っている。

「邪悪なこの者の言葉に耳を傾けてはならない!良いか!ラフィーラ様は魔族の罪を問うたのだ!そも200年前の惨劇を忘れたわけではあるまい!ラフィーラ様の信徒がラフィーラ様に対して疑問を持つというのか!魔族に組する者は全て背教者だ!忘れるな!我らは魔族をここで罰し、そして世界中の皆と手を取り合える世界を作らねばならないのだから!」

 コルベールは叫んで、民の意思を『背教者』という呪いの言葉によって善悪や理論を超越させた説得力を持たせる。

 そんな中、それを補強するように声が上がる。

「そうよ!私の夫は魔族なんかを庇った所為で死んだのよ!魔族は神敵よ!そんな子供1人が謝って許せるものじゃないわ!」

 どこかで女の声が響き渡る。そうだそうだと聖白星騎士団は同意するように声を上げて盛り立てる。

「ごめんなさい。親しい人を殺された悲しい気持ちは分かります。僕らを庇ってくださった旦那さんには感謝の気持ちと申し訳ない気持ちで一杯です。ですが……僕は罪無き同胞を見捨てる事は出来ません。もしも許せないなら、それは全て僕へ向けてください。僕は魔族でもかなり頑丈なので幾千幾万の責め苦を味合わされても生きるでしょう。貴女が許してくれるまで、いつまでも僕はその責め苦を受けます。だから彼らに怒りを向けないで下さい、お願いします」

 ルーシュは再び頭を地面に擦りつけて謝る。そして今度は魔族達の方にも体を向ける。

「魔族の皆も、たくさん苦しい思いをさせてごめんなさい。僕らが不甲斐ないばかりにとっても辛い思いをさせました。許してなんておこがましい事は言いません。だけど…君達を傷つけた人達を許してあげて欲しい。恨まないで上げて欲しい。僕は皆が共に手を取り合える日が来るまで、いつまでもその罪を背負うから。不甲斐ない僕ならいくらでも恨んで良いから、皆は人々を恨まないで許してあげて、そして皆で手を取り合ってください。お願いします。そして…ごめんなさい」

 そしてルーシュは魔族の全員にも頭を下げる。

 200年前、ルシフォーンは全ての罪を償うべく、自身の死を持って戦争を終わらせた。その積もりだった。だが恨み辛みを向ける場所が魔族になっていたというのが暗黒世界の見解である。だから再び恨みを向ける場所を正す必要があった。

 ルーシュは、魔王からそう教わった。魔公達はそれを否定するが、魔王からすれば可愛い子供達を苦しめているのは自身の先祖の過ちであると理解しているので彼らに頭を下げなければならない。

 だが魔王は他人に頭を下げられる場所にいけない。ならばそれを成すのは自身であるべき、それがルーシュの考えていることでもある。だから苦しめられている魔族に感謝されると困ってしまうのだ。


 ルーシュの姿に民衆達も魔族達も言葉を失ってしまう。

 こんな子供にすべての罪を押し付ける事に、人としての良心が激しく軋み出す。


「ならば、貴様が言う通り、貴様の罪を裁いてやろう。貴様が生きているまで魔族の罪を問うまい!聖白星騎士団よ、鞭を持て!」

 コルベールは高らかに宣誓し、セドリックの周りにいる鞭を持った騎士団の人間がぞろぞろとルーシュの方へと歩いてくる。

 セドリックは何かを訴えているが、口がふさがれていて何も口に出来なかった。


 鞭を持つ男達は、頭を地面に擦りつけているルーシュの背を鞭で叩く。

「みぎゃっ…ひぎっ…」

 ルーシュとて幾度となく痛い思いをしてきたが、痛みに鈍感な無痛症でも、ましてマゾヒストでもない。顔を引き攣らせて必死に痛みに耐える。

 鞭によって叩かれる背中は黒い翼を傷つけ、背中からは皮が引き裂かれて、やがて叩かれる度に血が飛び散る。

 10代も半ばになる少年が責め苦に合うという凄惨な現場を見せられ、民衆達は恐怖に目をそらす。


 コルベールの近くにいた、王冠を被るクレマンの靴に血が飛び散り、新たなる国王は汚物を見る視線でルーシュを一瞥する。

 そして、メルクール公爵を介してコルベール枢機卿へ命令する。

「あのような魔族、さっさと殺して進めろ。魔族を殺さねば神聖教団のバックアップは受けられないのだろう?」

 メルクール公爵はコルベールに事を急かす。

「そうですな」

 瑣末な問題だったかのようにコルベールは頷く。

 そして、聖白星騎士団の男達はルーシュを押さえつけ、そして一人が横に立って剣を握り締める。

 これから起こる惨劇を思わせ、それを見ていた民衆はもはや見てられなかった。目をそらすもの、俯くもの、申し訳無さそうにルーシュを見上げるもの、様々だった。


「さあ、生きているまで責め苦を変わりに受けるのだろう!首を落とした後、儀式を再開する!さあ、この者に天罰を下すのだ!イヴェール王である我がその穢れた魔族を殺す事を許す!」


 クレマンが大きい声で号令を出す。


 それに従い、剣を持つ聖白星騎士団の男は刃をゆっくりと高々に掲げる。

 そして地面に這い蹲るルーシュの首に向けて、刃を鋭く振り下ろしたのだった。

 むずかしい……。

 ルーシュと敵集団の暴走のぶつかり合いとなりました。

 もっと書きたいこともあれば、書くべきでない事もあり、シーンのライブ感を考えると、あまり長々と説明文を入れることも出来ず。


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