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勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
第2章 イヴェール王国騒乱
58/135

断罪の儀式

正午前の大広間へ場面は移ります。

 貴族街の下にある南の大広場には、1000の十字架が所狭しと置かれ、そこに老若男女問わず、魔族達が両手両足を縛り付け、口元にも布で縛られて喋れないようにして吊るされていた。

 それをやめてくれと懇願する民衆もいるが、聖白星騎士団によって強制的に黙らせられてしまう。


 多くの民衆が集まる中、国家の大御所がずらりと並んでやって来ていた。

 王冠を被った王兄クレマン・イヴェールとその妻ジョスリーヌ、皇太后にしてクレマンの母エレオノール・メルクール、皇太后の兄に当たるメルクール公爵領主ベルナール・メルクール、聖白星騎士団長のシリル・メルクール、代々騎士団長を務めているシルヴァン・グロス伯爵、そして大司教代行を務めるアンブロワーズ・コルベール枢機卿と錚々たるメンバーが並んでいた。彼らこそが貴族派のトップでもある。9年前に、第2王子派として第1王子派と戦っていた集団である。

 そんな中、罪人のように両手を木製の手錠で抑えられて、地味な囚人服を着せられて聖白星騎士団に連行されるのは先日まで国王だったセドリック・イヴェールである。みすぼらしい姿となったセドリックの姿は、それが国王だとは誰にも思えない姿だった。

 これは一種のデモンストレーションといえるだろう。

 神聖教団との友好を強調する為にラフィーラ教会もまた魔族を認めない宗教である事を国内外にアピールする場としており、多くの大衆の面前でかつての事を全て誤りであった事を認め、現国王に全ての責任を負わせて、新国王が新たにこの国の舵を取るという事を明確にする儀式である。


「これより、ラフィーラ教会における断罪の儀式を執り行なう!」

 クレマン・セドリックより魔導拡声器を用いられて放たれたその言葉はシャトーの広場に響き渡る。

 そして後ろの方に立っていた禿頭の男が前に進み出る。

 大司教代行に座るコルベールが、大司教の服装で国民たちの前に堂々と立って演説を始めようとしていた。

「ラフィーラ様は嘆いておられる!」

 その第一声に誰も注目する。

「我等ラフィーラ教会の教徒はこの世界に置いて異端とされていた。全ての者達と手を取り合うことを望んできた我々が何故このような立場に甘んじなければならぬのか?ラフィーラ様の嘆きは、私、ラフィーラ教会大司教代行を務めるアンブロワーズ・コルベールに神託として下さったのだ」

 コルベールの言葉に聖白星騎士団は槍を掲げて、喝采の声を高らかに上げる。

 広場に集められた民衆は状況を飲み込めず、見守っていたが、神託が下ったと耳にして盛り上がりを見せていた。神が導いてくださると。

「何故、我等がこの世界に置いて皆と手を取る事が出来なかったのか!?それは、我々が200年間、ラフィーラ様の声を聞く事が出来なかったからだ!ラフィーラ様は仰られた!魔族は…存在が悪であると!200年前の悲劇を覚えているだろう!数多の魔族に我々が蹂躙されたという事実を!だが、我が国の王はその事に目を背け、魔族を受け入れた!その結果がこれだ!神聖教団は我等ラフィーラ教徒を世界の輪の中からはじき出したのだ!既に察している者もいるだろう、我等ラフィーラ教徒は不当な扱いを受けていた理由、つまり本来あるべき姿に戻る必要がある。我らはこの手で魔族と言う人外の悪を裁き、世界の輪の中に入り、共に生きていく必要があるのです!」

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ

 盛り上がりを見せる。

 だが、主には聖白星騎士団の扇動によるもので、民衆は右往左往している人間が多くいた。だが強制的にそうしないといけない空気に押されて、手を合わせて祈り始める。

「ラフィーラ様の神託に従い、私は神の信徒として我等が世界中の全ての人々と共に歩ける道程を指し示す!これまで魔族を保護し、移民を受け入れる悪徳を続けていた国王は、ラフィーラ様に背く背教者として、この場で断罪する事とする!そして罪深き魔族達を処する事で、神聖教団と手を結び世界の輪の中に入るときがきたのです!世界のどこにいても、我等ラフィーラ教徒は決して後ろ指を差される事無く世界中の友人達と歩く日がやってきたのです!」

 拡声器によって町中に声を響かせるコルベールの声によって民衆を扇動する。この場所だけでなく、このシャトーという都市全体において一種の宗教裁判が行なわれていた。


 世界中の友人と共に歩く。ラフィーラ教徒にとって悲願である。

「他国ににらまれる事がなくなるの?」

「異教徒呼ばわりされたりしないの?」

 最も古い時代より、神の信徒の正教会でありながら、神聖教団の規模の大きさと比べて少数のラフィーラ教とは異端呼ばわりされていた。そんなイヴェール王国の民衆に、確かな希望が生まれる言葉となり、その魅力が見守っている人々に伝播していく。

「ラフィーラ様、万歳!」

 コルベールの言葉に大衆の誰かが喜び両手を上げて万歳をし、それが徐々にだが波紋を広げるように万歳万歳と声が大きく広がっていく。


 そんな中、白い騎士達は荷車を押しながら小石を民衆達に渡していく。


 誰もが何だろうと首を傾げているのだがちゃんと持つ様にいわれるので、全員がそれを手にして次の言葉を待っていた。


「今、聖白星騎士団によって皆に石が渡されていると思う。ラフィーラ様に、そして世界の同胞達に、我々は多くの友と手を取り合うために、魔族達に石を投げつけるのです!魔族を守ってきた我等の罪は彼らに石を投げ、彼らを否定する事で皆さんの罪は許されます。そう、許されるのです」


 許されるのか?

 だけど…

 本当に?

 投げて良いのか?


「そうする事で魔族達もまた背負った罪が少しずつ許されていくのです。心を鬼にして石を投げつけるのです。そして祈りなさい!ラフィーラ様は貴方達が確かに魔族へと石を投げつけた事を見てお喜びになるでしょう!魔族達もまた、我々に石を投げつけられ消える事のない人々を苦しめた罪を少しずつ確かに許されて行く事になるのです!」

 コルベールの演説に全員はそうすべきなのだと理解する。

「前の列から石を投げて、投げ終わったら後ろに下がりなさい」

 コルベールの斜め前にいた20代後半くらいの神職者が大きい声で民衆へ指示を出す。


「やめろ!このようなこと、許されないぞ!魔族もまた民だ!民を傷つけるような行為を助長する国王がどこにいるか!貴様ら、このような事をして恥ずかしくないのか!」


 そんな中、怒鳴り声が響き渡る。拡声器も使わずに広場に声を届けたのは両手に手錠をつけて聖白星騎士団に押さえつけられているセドリックであった。

「この者は神に背きし、背教者です!声を耳にしてはなりません。この者が王だったために、貴方達は神聖教団たちに異端と蔑まれていたのです!ラフィーラ様の声を聞くのです!このような背教者の声に耳を傾けてはなりません!」

 コルベールは民衆へと訴える。

「考えるんだ!俺は王として民に考える術を与えてきた積もりだ!神の言葉じゃない!偉い人間の言葉じゃない!自分の良心にに問いかけろ!これでいい筈がな…」

 叫ぶセドリックだが、そこで聖白星騎士団団長シリル・メルクールが槍をセドリックの右足に突き立てる。


 セドリックの悲鳴が上がり、血が噴出す。


 王冠を頭に掲げたクレマン・イヴェール新国王はセドリックの頭を足で踏みつけて、全員に宣言する。

「背教者に唆され、神に背くような行なってはならない!法律に照らし合わせれば確かに民を傷つけることは罪だろう!だが我は国王クレマン・イヴェールの名においてこれから行なう魔族への行為は善行である事を認めよう!これから行うことは全て善行なのだ!魔族どももこれによって神に許されて召される事が出来るのだ!さあ!やるのだ!」

 兵士達はセドリックに猿轡を加えさせて喋れないようにする。

「この断罪の儀式によって、我らはイヴェール聖王国として、初代国王に正しき神の信徒であるクレマン・イヴェール聖王様を迎えてラフィーラ様と、そして全ての大陸の信徒と手を繋ぎ会える世界へと旅立つのです!」

「さあ、石を手に!投げなさい!」


 号令によって石は魔族達に投げられる。口を縛られて喋られない魔族達は泣いて懇願しながら体中に石をぶつけられる。恨み言を言いたくても、悲鳴を上げたくても、許しを請いたくても、その言葉を放つ権利さえも奪われ、十字架に磔られて痛めつけられていく。


 つい先日まで、同じ学校で一緒にいた獣人の子供に石をぶつけられる魔族の子供。

 飢えて困っていた貧しいエルフは、手を差し伸べてくれた親切な魔族に石を投げつける。

 その前まで共に暮らしていた人々は一斉に石を投げつけて魔族達を痛めつけていく。

 魔族達は石をぶつけられ体中に痣を作る者、血を流す者、様々であった。この場に訪れた魔族達への絶望は深く刻み付けられる。そして石を投げた人間達もまた、魔族排斥運動をした共犯者として心を縛り付けられ、もはや聖白星騎士団と同じ共犯者であるという意識が植え付けられていた。


 そんな中、1人の白い兎耳を持った少年、ティモが順番となって石を持たされて前に突き出されるティモの手には石を持たされているが、彼は魔族が悪だとはこれっぽちも思っていない。自分達を虐める人達から救ってくれたのは魔族である。今、一緒に暮らしていた教会の神父様も魔族で、アップルパイを教えてくれた師匠も魔族なのである。

 一緒に暮らしていた教会の神父様が目の前にいて辛そうな顔で十字架に吊るされていた。

 ティモは石を握ったまま泣いてしまう。

「無理ですぅ…」

 泣いてその場でへたり込んでしまっていた。

「何をしているんだ、貴様!」

「早く投げぬか!貴様も背信者として処罰するぞ!」

 聖白星騎士団がやってきて怒鳴りつけてくる。

「ぴぃっ」

 騎士団の威嚇により、ティモは恐怖で竦んでしまう。

「無理なものは無理ですぅ」

「貴様!」

 ゴッ

 ティモは殴られて地面に叩きつけられる。

「早く投げろ!投げるんだ!」

「この背教者が!早くしろ!」

 聖白星騎士団は何度も何度もティモを殴る蹴るの暴行を加える。

 ティモはグッタリとその場所で気絶してしまう。強く殴られた為、あちこちに血が飛び散っていた。気絶して石を投げる事さえ敵わなくなった兎人族の少年は引き摺られてそのまま魔族達が吊られている十字架の方へと投げつけられて転がされる。つまり石を投げつけられる側におかれたという事だ。

 誰もが恐怖する。背教者は幼い少年であっても罰せられてしまうのだという恐怖が大衆に刷り込まされる。

 だが、中には魔族に恨みを持って石を投げる者もいた。

「あんた達、魔族の所為よ!私の亭主はあんた達なんて庇ったから殺されたのよ!返しなさいよ!」

 そんな怒りの声は同情をも誘い、魔族達へ石を投げる事に罪悪感を薄れさせてくれる。

 逆恨みだという事、そんな行動は魔族を庇った亭主への裏切りになる事も棚の上に上げているのだが、この状況は皆が都合の悪い事実に目を背けさせるのに十分な事だった。



 長々と続く投石の儀式により、ボロボロになった魔族達は絶望の縁にと追い詰められ、悲しみ悲嘆にくれるもの、許せないと石を投げる人々を睨み続ける者、もはや心を閉ざして空ろになる者、様々な魔族達がいた。



 正午が近付くと、たいまつを持った聖白星騎士団の面々はそれぞれが歩いて十字架に貼り付けられている魔族達の周りに配置される。

また、松明を持たない騎士団は油を十字架の周りに撒いて行く。

「これより断罪の儀として、魔族達を火刑に処す」

 その言葉に、更にセドリックはムームーと喋れなくても必死に声を出そうとして暴れる。だが両手が封じられた取り押さえられているセドリックがまともに反抗できるはずもない。恐らく、この儀式についても火刑についても聞かされていなかったのだろう。

「そして火刑が済んだ最後に、この偽りの王をギロチン刑に処し、儀式を終わらせる!全員、聖火を掲げよ!」


 聖白星騎士団は松明を掲げてそれぞれの十字架に集っていく。民衆の中にいて、松明を持たない聖白星騎士団達の全員が軽くまたげる程度の柵と民の間に陣取る。

「さあ、祈りなさい。人は千年の後に生まれ変わると言われます。千年の先に出会う友の為に、今は罪を償いあの世でラフィーラ様に許される事を祈るのです!」

 コルベール枢機卿の言葉に全員が疑う様子も無く祈りを始める。


 ゴーンゴーンゴーン


 正午を示す鐘の音が広場に響き渡る。

 そして広場では、多くの民衆が祈り続ける中で、魔族の縛られている十字架に一斉に火が灯される。


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