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勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
第2章 イヴェール王国騒乱
48/135

ロベールが盗まれた

 あちこち冒険に出て行くクロードの動向だけは察知して、アップルパイ売りを続けるルーシュだった。

 この日もアップルパイを売り終わり、ティモとレナの3人で屋台の片づけをしていた。

 そんな中、豪奢なドレスを着ている少女がルーシュを見るとトテトテと駆け寄ってくるのだった。少女はいきなりルーシュにタックルを仕掛けるようにして抱きついてくる。

「お兄さん!久し振りなのです!」

「ゴフッ」

 体が小さい所為でルーシュの腹の鋭い頭突きが突き刺さる。いきなりの頭突きにルーシュは腹を抱えて涙目で頭突きの犯人を見る。

「…あれ、もしかしてマリー?」

 いつも白い修道服のマリエッタは珍しくドレス姿というおめかしをしていた。その為、最初は誰だったか良くわからなかった。

「はい、なのです。ルーシュお兄さん、クロード様をどうにかこの町から出て行くように勧めてくれないでしょうか?」

「何故、僕に?」

 一緒に移動するつもりであるが、別にクロードパーティという訳ではない。クロードパーティはむしろマリエッタの方である。

「というよりも、マリー、そのヒラヒラの服はどうしたの?」

 レナは不思議そうに訊ねる。

「ううう、この街は嫌いなのです。楽しくないのです」

 すると黒い服を着た男達が近付いてくる。

「お嬢様、下賎の者と話すのはいけません。急にどこに行くかと思えば」

 黒い服の男達はマリエッタの前に立ち、いぶかしむようにルーシュを見る。

「げせん…」

 ルーシュは背後に『がーん』と描かれるほどにショックを受ける様子を見せる。マリエッタはしぶしぶといった感じで黒い服の男達に連れ去られてしまう。

「うーん、一体なんだったんだろうねぇ」

 レナは不思議そうに首をかしげてぼやく。

「お嬢様って呼ばれてた。まだメルクールさんちだっけ?そこにいるのかな?マリーって……公爵家の娘さんだっけ」

「私も公爵家の娘さんだったんだけど…」

「げせんな魔族だからノーカンなんじゃない?」

「そうだね、げせんな魔族だから魔王の子孫もノーカンだね」

 互いに罵りあい、同時に2人のコメカミに血管が浮かび上がる。


 ガルルルルルル


 ルーシュとレナは額をぶつけて睨みあい、野犬の様に喉を鳴らして睨み合っていた。ティモは2人の間でオロオロとして困っていた。



 クロードはクエストを終えて宿に帰リ、宿屋の中に入ろうとして、そこで宿に外にある馬小屋においてあったロベールが行方不明になっていた事に気付く。

「!?」

 クロードはギョッとして振り向き、慌てて引き返し馬小屋の中を覗き込む。本当にロベールがいなかった。だが、驚いているのはいない事ではない。ロベールは非常に賢く、知らない人間に無理やり連れて行かれそうになれば、暴れて相手を殺しかねない馬だからだ。どっちかの死体があってもおかしくない。

 クロードは慌てて馬小屋の前で周りを見渡すと、そこには一枚の紙が置いてあった。

『貴様の馬は預かった。馬質を返して欲しくば、ルーシュの貸家に来るべし。馬誘拐の犯人より』


 ……


 とんでもない馬鹿な誘拐犯がいた。

「ルーシュ。犯人がバレバレなんだけど…。それと馬質って初めて聞いた言葉だな…」

 用があるなら、宿の主人に伝言でも頼めばよいものを…。わざわざロベールを連れ出す辺りが凄い頑張りようである。

 ロベールは賢い馬である。ルーシュに素直に従っている可能性はある。



 クロードはルーシュの貸家に辿り着くと、部屋の明かりの中に馬の影が見える。クロードはうんざり気味にルーシュの家のドアをノックして返事があったので中に入る。

「こんばんわー」

「あー、いらっしゃーい」

 玄関のドアを開けて迎え入れてくれるのはレナだった。

「ふははははははははははっ!良くぞ来たな、勇者よ!我こそが魔公王子ルシフォーン4世である!貴様の大事なロベールは我が預かった!返して欲しくば我を倒すが良い!」

 どこで買ったのか、黒いマントに鈍色の肩当、頭には金色の紙で作った王冠が被さっていた。そして馬に蹴られたのか左目の上に馬の蹄の痕のような青痣が残っていた。

 クロードは取り敢えずルーシュが何か一生懸命に急ごしらいで頑張った事だけは伝わった。

「……で、魔王ごっこはいいから、何か用なの?それより、ルーシュ大丈夫?痣」

「あっさり流された!本物同士のごっこ遊びなんて中々出来ないのに!」

 ルーシュは涙目で訴えるが、クロードは呆れたような目でルーシュを見る。

「そりゃ、出来ないだろうねぇ」

 レナはどこかで既視感を受けるが、阿呆な魔公王子との付き合いが長いと、それさえもスルーするスキルが生まれていたので、適当な言葉で流す。

 ルーシュは拳を握って悔しそうにして、クロードを見上げる。

「でもね、友達の内では評判が良いんだよ、僕の魔王役。最後は光の魔法によるフラッシュと巧みな声による効果音と共に、体を消滅させていく手際の良さ、断末魔の上手さとか、もう魔王になっちゃえよって言われるくらいに」

「やられ役の上手さで魔王になっちゃダメでしょ!魔界の未来は大丈夫か!?」

 クロードは暗黒世界(魔界)を心配してしまうのだった。

「はっ…言われてみれば………。迂闊だった。勇者に指摘されるなんて…。言われてみれば魔王は負けるものって印象が」

「私もリンちゃんもアームもすっかり乗り気だった。ルーシュの負けたときの演技の上手さに…」

 ルーシュ同様に、レナも初めてそれに気づいて、2人同時に両手両膝を地面につけて項垂れていた。

 ハティとスコールが2人を励ますように横に座って肩をポムポムと叩いていた。

 どちらにしても犬に同情される魔王の子孫というのはどうだろう、とクロードはルーシュを哀れむ視線を向けていた。


「で、ロベールを攫って何をしたかったの?まさか勇者ごっこをやりたかったわけじゃないでしょ?」

 本題に入りたいのでクロードはロベールの件を突く。ロベールは話が終わったかと理解すると直にクロードの方へと歩いて行ってしまう。

「うん、いつシャトーを出て行くのかなって思って。聞いておきたかったんだよぉ」

 ルーシュはポンポンとそふぁーを叩いてクロードに座る事を進めながら、ルーシュも自分のソファーに座る。レナはルーシュの隣に座ると、スコールとハティはルーシュの両膝にそれぞれ乗っかる。

 クロードも話が長くなるのかなと思って、ソファーに座る事にする。よく見ると既に客人接待用にお茶の準備が出来ているようで、ティーカップからは湯気が昇っていた。

「シャトーを出て行くタイミング?うーん、でもマリーを置いていくのも忍びないしなぁ。冒険に帯同したくはないけど、ラフィーラ教的に連れて行かないとまずそうだしさ。マリーは今、家族の元にいるみたいだから、出て行くのもかわいそうな気がするし」

「今日、マリーに会えたんだ。当人は早くシャトーを出たがっていたみたいだからさ」

 ルーシュは事のあらましを説明し、クロードは自分の顎に手を置いて少し考える。

「そうなの?言ってくれれば良いのに…」

「どうも、周りにガードされてるみたい。……でも、何で必要なの?マリーは預言者の養女で神託の巫女とかなんだっけ?」

 ルーシュは不思議そうに首を傾げる。

「僕もよく分かってないんだよ。貴族でも教会関係者でもないんだから」

「確かにそうだ」

 ルーシュはクロードの言葉に頷く。忘れがちだがクロードも結構な世間知らずである。ずっと山奥にいたので人間社会の貴族や教会の事なんて知るはずも無いのだ。

「マリー自身、預言者様の言いつけに従っていただけらしいし。あの貴族の人達に言われるまで変だって思わなかったくらいだよ?」

「マリーはメルクール邸から出て行きたいみたい。クロードが街を出るなら一緒に出て行けると思ってたみたいだけど……雰囲気的に言えば、貴族達は、クロードについて行かせる積もりはなさそうだった。無理に連れ去ったら、僕は誘拐犯になっちゃうんだろうね」

 ルーシュは困ったように口にする。マリーの要望には沿わせてあげたいが、それをすると犯罪者になってしまうのだ。

「勇者なのに幼女誘拐犯」

「おぉ…………勇者と呼ばれる以上に嫌な汚名が……。それだけは死んでも受けたくない…」

 レナの呟きに、クロードは激しく引き攣る。ちなみに、勇者は汚名ではない筈である。

「で、どうするのって聞きにきたの」

「でもさ、僕が貴族相手に出来ることなんて何もないよ」

「勇者の威光とか」

「いや、そもそも知名度0の勇者だから。しかも神聖教団に名乗らされているのがバレたら勇者詐称罪で捕まるから、間違っても勇者呼ばわりされたら困るし」

「切ないなぁ」

 何でこんな無名無実な勇者の諜報活動をしろと言われたのか、流石のルーシュもとても悲しくなっていた。

「一応、クロードはマリーに一緒に行けるのかどうかメルクール邸に行って確認してみれば?無理に連れ出すんじゃなくて、同行者として家が出すつもりがあるのか無いのか確認するだけって感じで。無理するとクロードが捕まっちゃいそうだからお伺いを立てる感じで」

 レナはクロードに訊ね、クロードは頷く。クロードが頷くとレナはグリンと首をルーシュの方へ回して案を出す。

「あと、ルーシュは疑問に思ったことは答えられそうな知り合いがいるんだし、そっちを当たろうよ」

「あー、そーか。クリストフさんに聞いてみるかー」

 ルーシュは、レナが意外なリーダーシップを張り感心して頷く。

「そして私は家で何か食べる!」

「台無しだよ!一瞬前まで危うく尊敬しかけてたよ!」

 しっかり上げて落としてくれる相方だった。

 シリアスモードの続かないメンバーだなぁと残念そうにクロードは二人を眺めていた。

 同情するようにハティとスコールの両名はポンポンとクロードの足を前脚で叩いて励ましてくれていた。

 元気出せよと。

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