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勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
第2章 イヴェール王国騒乱
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勇者の弟子入り

今回は勇者回です。

 勇者諜報員が本業を忘れてアップルパイ屋に精を出している頃、勇者は勇者で自分の冒険をしていた。

 王都シャトーは巨大な漁港が城下に存在するのだが、その城下より南東には島が見える。

 島の名前はイル島、面積にして3000平方キロメートルはあるその大きい島は、冒険者達の活動場所となっていた。珍しい植物や鉱物が多く産出される一方で、凶暴なモンスターの群生区でもあり、クロードはその島でクエストをこなしていた。


 こなしていた、というのは語弊がある。

 何せ、巨大な猪モンスターに追われて1人逃げている真っ最中であったからだ。島のほとんどは森と山で出来ている。木々の間をすり抜けるように走って猪モンスターから逃げる。

 ブモオオオオッ!

 ドシンドシンと追いかけてくるモンスターの体長は実に4メートルほどもある。

 クロードとて、山によくいる人喰い猪キラーボアのようなモンスターなら負ける相手ではなかったかもしれない。だが、この猪の毛並みは鉄の針のように硬くて、クロードの持つ鉄の剣では攻撃は一切受け付けなかった。

 鉄猪<アイアンボア>と呼ばれるキラーボアの上位種で、その毛皮が素材として高価な半面で、とてつもなく強かった。

 ブモオオオオッ!

 クロードは鉄の塊のような猪に体当たりをされて大きく吹き飛ばされる。山道を転がり、木に衝突してどうにかそのまま転げ落ちるのを防がれた。

 だが鉄猪はさらに追撃してくる。

 クロードは慌てて避ける。

 地面が震えるような衝撃音が響き渡る。

 ミシミシと音を立てて、クロードの背後にあった木が倒れていく。

「のわあああああっ」

 とんでもない強さにクロードは慌てて逃げる。モンスターというのは基本的に理性と知性がなく、人間を食う種族の事を指す。ようするにクロードは現在、鉄猪にお昼ご飯と思われているのだ。

「じょ、冗談じゃない。ううう、そりゃ、そうだよね。色々と立場は変われど、基本的に強くなってる訳じゃないもんね。弱いですよ、僕は!」

 ルーシュ辺りならこの辺のモンスターもあっさりと勝てるのだろうか、などとクロードは頭の中に過ぎらすが、あの天然少年がモンスターと戦っている姿があまり思い浮かばない。

 クロードは逃げていくと、森を出て岩山へと出る。だが鉄猪はクロードを追いかける。ゴツゴツと岩が転がっており、クロードは大きい岩を避けるようにして逃げるのだが、鉄猪は岩を砕いて突進してくる。

「うそ?」

 2度目の攻撃で吹き飛ばされて岩に激突する。

「ガハッ」

 クロードは激しい痛みに襲われて、体中から悲鳴が聞こえてくるのを感じる。

(やばい…死んだかも…)

 巨大な岩を背にして、立てないでいるクロードは、自分の死を予感する。

 アルゴスを倒した英雄が、よもや鉄猪のような中級モンスターに殺されるというのはなんとも格好の悪い話だった。

 鉄猪はトドメとばかりに突進してくる。

 だが鉄猪は、急に目の前で走りをやめ、フラフラしながら歩き出し、力を失ったように横に大きい音を立てて倒れる。

 クロードは何が起こったか分からなかった。分からなかったが、目の前の鉄猪は絶命しているのだけは理解できる。

 クロードはどうにか体を起こして周りを見渡すと、1人の男が山を上がってきていた。

「鉄猪かー。素材としては今一なんだけど、まあ、良いか」

 白衣を着た学者然の男が肩を落としながらゆっくり歩いて現れる。茶色いボサボサ髪にライトブラウンの瞳をしており、クロードはこの人物に見覚えがあった。そこで思い出されるのは王から褒賞を貰える際に、一緒に並んでいたアレッサンドロ・デッラ・ロッカという男だった。

「ん?…おー、勇者か。確かクロードだっけ?こんな所で何寝てんの?」

 まさか伝説の勇者に指名された男が中級モンスターの鉄猪に殺されかけていた等とは夢にも思っていないようだった。



 クロードはアレッサンドロと山を下りてイル島の北東にある冒険者達が集まるキャンプへと戻っていた。

 2人は冒険者の館に入り、テーブルでこれまでのことを話していた。

「あははははは!嘘、マジで?鉄猪なんかに死に掛けてたのかよ!」

 アレッサンドロはさも楽しそうに大笑いしていた。

「だから、勇者ってのは誤解なんですよ。僕、最近まで田舎村の牧場にいて、のどかに暮らしていたんですから」

 クロードは訴えるのだが、アレッサンドロは腹を抱えてゲラゲラと笑っていた。

「でもなぁ、あの巨大な魔石を壊したのはお前なんだろ?」

「99.9%、ルーシュの力ですよ?上手く攻撃が通らなかったから、最後に僕が一押ししただけって言うか…一押しだってルーシュに助けられたからだし」

 クロードは両手をばたつかせて訴える。

「なるほどな、魔公は化物染みてるが、その上位にいる魔王の子孫だって話だしな。そんくらいやるか」

 アレッサンドロは呆れるようにぼやく。

「魔公って…王様やアレッサンドロさんは普通に口にしてましたけど、一般的なんですか?」

「いーや、多分、大国の古くからいる王侯貴族でなきゃ、その存在は知らないんじゃないのか?まあ、俺はそういうんじゃないけど」

「そう…なんだ」

「魔公つっても能力はマチマチだって話だ。俺の村の村長が魔公だったんだ。年齢は500歳くらい。並の魔法攻撃は魔法使わないで防ぐし、時速100キロくらいで空飛ぶし、戦闘中だって瞬きしたら一瞬で背後に回りこむようなデタラメな生物だったからな」

「そ、それはデタラメですね」

 クロードも流石に引き攣ってしまう。スコールあたりがそのくらいやりそうだ。逆にレナがそんなデタラメな生き物かといわれても悩みどころだ。

「まー、ありゃ莫大な魔力があって、普通の魔族とは次元が違うからな」

「…そうなんですか…。僕は魔法が使えないから羨ましい限りです」

「魔法が使えない?そりゃ、訓練しなけりゃ使えないだろ。とは言っても強弱はあっても人間は魔法が使えるはずなんだがな。使えないってのは鍛えていないだけじゃないのか?」

「うーん、小さい頃から、魔族の小父さんに教わってきたんですけど……全く才能が無いと」

「才能が無い?」

「魔力が変だ…といわれました。ルーシュにも、かわった魔力をしていて、精霊や魔法が逃げていくようになってるって」

「あのガキは化物だしな。化物が倒せない敵を倒す為に必要って事はよっぽど特殊なんだろう」

「ばけ…」

 アレッサンドロはいきなりルーシュを化物扱いしている。化物振りを見た事は無かったはずだ。魔公というのは化物だと存外に行っているだけにも聞こえる。

「魔族ってのは自分より高密度な魔力を知できないんだ。だから強い魔族は自分より弱い魔族を理解できる半面で強い魔族はどの程度強いかサッパリ分からない」

「…そ、そうなんですか。そういえば、そんな事を…」

 ルーシュは淡々と戦いながらもアルゴスがどの程度か把握して戦っていた。レナはルーシュが本気なら物の数じゃないが助けるべき人間が近くにいすぎて本気が出せない事を憂いていた。つまり、ルーシュはアルゴス以上の魔力を持っていることを差す。

「俺は特殊な資質があってな、魔族でもないし、俺自身も大きい魔力を持ってる訳でもない。だが、自分より高密度の魔力を感知できる。あのレナって子がウチの村長に匹敵する魔力があったのも感知した。だが……ルーシュってガキの魔力はまるで無限にあるかのように読めなかった。アルゴスの魔石さえ、どの程度のポテンシャルか感知できたのにだ。だから魔王の子孫と言われても、まあ納得したって所かな」

「……ま、まあ、ルーシュはちょっと規格外っていうか、面白い子だけど」

「俺の計画に手を貸してもらいたいところだが…ふーむ、無用な争いになりそうな気もするしなぁ」

「計画というと…飛行艇の開発って奴ですか?」

「ああ」

 アレッサンドロはテーブルにおいてある茶を飲みながら頷く。

「飛行艇の開発に何で王国の許可が必要なんですか?お金と素材があれば出来ると…」

「空を飛ぶ方法を開発する事を全ての国が法律で認めていない」

 アレッサンドロの言葉にクロードは口をつぐむ。初耳だったからだ。

「空を飛べたら楽しいと思うけど」

 ルーシュのお陰で風の精霊の加護を使ってクロードは飛ばせて貰った。あれは凄かったと思い出す。

「だろう?あれは最高だ。だが…それを気に入らない存在がいる」

 アッレサンドロはチラリと空を見上げる。

「存在?」

「天界があるとか言われてる。俺も真偽はわからねえ」

 アレッサンドロは遥か空をまるで親の仇のように目を細めて睨む。

「でも、飛行艇を作ると天罰が起きるとか…何とか言っていたような」

「あれは天罰じゃない」

 クロードの言葉を否定する。王に言われた時もアレッサンドロはそれを否定した。

「天に届こうとする人間を疎む何者かがそれを阻止しているのさ。俺はいずれ、空を飛びそいつらを廃して、自由に人類が空を飛べる世界を作る。それが目標なんだ」

 アレッサンドロの壮大な話にクロードは感心してしまう。

 自由に人類が空を飛べる世界が出来たらどれほどの事か、想像するだけでもすごいことだ。一介の技術者の野望を越えている。

 とはいえ、アレッサンドロは憎々しげに空を見ているので、クロードは少し怖く感じてしまい、話を変えようとする。

「それよりアレッサンドロさんはどうやってあの鉄猪を倒したんですか?見た所、僕の剣とそこまで代わった武器に見えないのですが」

「ん?武器や魔法を使っても楽勝ではあるんだが、そこまでする必要も無かったからなぁ。軽く撫でただけだ」

「はい?」

「単純に剣に魔力を通しただけだが…」

 アレッサンドロの言葉に、クロードは頭の上に大量のクエッションマークが飛び交う。

「そ、それって特殊な技術なんですか?」

「意識してやってるやつがいるかどうかはともかく、戦を生業としている人間なら皆使える。俺は技術屋だから、それを理論的に理解して、コントロールしているけどな」

 アレッサンドロはポケットから鉄の塊を取り出す。鉄のインゴットといえるのだろうか、机の上にゴトリと音を立てて置く。

「鉄の剣で切れるか?」

「いや、無理ですよ」

 クロードは首を横に振り、腰にある片手剣ではなくナイフを取り出してインゴットに刃を立てる。だが逆に刃の方がダメになりそうなのでクロードは直にやめてナイフを再びしまう。

 アレッサンドロは紅茶をかき混ぜていたスプーンを取り出すと、スプーンがうっすらと光り出す。ストンとスプーンによってインゴットが真っ二つになったのだ。

「え?」

「世の中の物質ってのは全て小さい粒子によって出来ている…と考えられている。その粒子と粒子の間には結合する力が働いている」

 アレッサンドロはお茶をテーブルの上にスプーンを使って少しだけ零す。

「水をぶちまけても水溜りが出来るのはこの結合力によるものだと考えられている。水同士がくっ付く力が働いていなければ、重量にしたがって広がって地面に落ちていくはずだろう?」

「そ、それって当然の事なんですか?」

「西の大陸の最先端自然科学ではそう言われている。その理論を提唱したのが俺の育った科学都市フトゥーロだ」

 アレッサンドロの言葉にクロードは驚きを感じる。初めて聞いた理論だが、納得してしまう説得力があった。

「で、魔力ってのはその粒子間に干渉して、様々な力を変化させる効果を持っているんだ。ただの鉄でも魔力を通して調整すればアダマンタイトのような硬さにもなる。体に通せば強い筋肉になる。結論的に言えば、それだけで空も飛べるというのが魔公の連中だ。ようするにクロードは魔力のコントロールが出来てないんだろう」

「ううう、そんな裏技があったのかぁ。そういえば…」

 ルーシュは似たような事を言っていた。魔族、いや、魔公にとってはそれが常識なのだろう。だが人間にとってその常識はない。

「当時の勇者は魔公と互角に戦ってたそうだしな、魔力という物量で勝てないのだからこの技術を圧倒的に極めていたのだろう。勇者もこの技術は西の大陸で身につけたというし、俺のこの能力は正統な勇者の技術を継いでいた場所で身につけている」

 アレッサンドロは説明しながら、インゴットを道具入れの中に突っ込む。さすがに技術者らしく技術的な説明は饒舌なようだった。

「あ、あの、俺に教えてもらえませんか、その魔力の使い方を!」

「まあ、確かに…勇者様が鉄猪に殺されかかるのはちょっと笑い話にもならないよな!」

 ゲラゲラ笑うアレッサンドロにクロードは項垂れてしまう。

「強くならないとまずいかなとは…思ってるんですけどね」

「強くなる?まあ、冒険者ならな」

「いや、だって………。僕の村を滅ぼした存在は、僕の手には余るから、ちゃんと王国にどうにかしてもらおうと思ったんだけど……結局、最後は友達の手を汚させるような話に流れちゃって…」

「なるほど…」

 アレッサンドロは、ショボンとしているクロードを見て何となく納得する。

 王国軍では手に負えないだろうというのがルーシュの意見。そして戦うなら自分がやるといった。王国法で言えばあの魔族は死罪、つまり最終的にはどうにか出来るルーシュが魔族を殺さねばならなくなる。

 クロードからの視点でいえば、自分の村を滅ぼした魔族を、年下の友人に殺してもらう事になり、さすがにそれだけは避けたかった。

「どうせなら、ここのクエストしている間、レクチャーしてやろうか?その代わり、俺のクエストにも付き合え」

 アレッサンドロはクロードを見て言う。

「あ、ありがとうございます」

「いやー、1人じゃ厳しそうだったから、丁度いい囮が欲しかったんだよな」

「囮!?」

「よろしくなー、クロード」

「何か、凄く喜べないんですけど!?」

 アレッサンドロはポンポンとクロードの肩を叩いて嬉しそうに笑うのだが、弟子入りしたクロードは激しく引き攣っていた。

戦いはどんどん佳境に入らないといけないのに、勇者が超弱いので頑張ってもらいましょうってことで。

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