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勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
第2章 イヴェール王国騒乱
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ヒキガエル(仮)が現れた

 ルーシュ達は国王との謁見も終わり、城の中を歩いていた。

先導するのはクリストフで、宮廷の回廊にある肖像画などを解説したりしてくれる宮廷のツアーコンダクターといったところだろうか。綺麗なお姉さんではなく、お喋り好きなお爺ちゃんなのは玉に瑕だが。


 マリエッタも興味心身に王城の中を見渡していた。

「クロード様、あれは預言者様の肖像画なのです」

 マリエッタは肖像画の並ぶ場所を見て指を差す。『預言者R』としか書いておらず、名前も無かった。

 青い髪と瞳を持った美しい女性である。ラフィーラ教の教祖という話なので、少なくとも500年以上も生きているはずなのだが、100年前に書かれたという肖像画は20歳程度の若い女性にしか見えないものだった。

「預言者って名前が無いの?」

「はい。預言者様は預言者様なのです。Rはラフィーラ神様のRを頂いているのです」

「ふーん。若い頃は綺麗だったんだね。うーん………あ、でも、レナに似てるかも」

「いやー、えへへへ」

 レナはルーシュから綺麗からレナという発想を受けて、嬉しそうに照れ笑いをする。だが、ルーシュは特に気にした様子も無く肖像画を見上げていた。

「そうなのです。レナさんにそっくりなのです」

 嬉しそうにマリエッタはレナを見上げるが、レナは懐かしそうに肖像画を眺めていた。

 ルーシュは過去に見たレナの母イザベラの肖像画に、預言者が似ていたので、懐かしんでいるのかもしれないと思い起こす。預言者の手紙によると、預言者の義理の子供がレナの母親だというが、本当の子供だったと言われても納得できるものであった。

 それほど似ていた。

「預言者様は青い瞳、青い髪をしたハイエルフなのです。ハイエルフは極めて精霊に近い存在といわれているのです。ハイエルフはとっても長生きで、預言者様に年齢を尋ねるといつもこういうのです。17歳と」

「嘘つきだ!」

 愕然とするルーシュとレナ。懐郷の念が吹き飛ぶようなでまかせを耳にして驚きの声を上げる。

「17より上は数えるのが面倒なのでやめたそうなのです」

「50歳くらいまで数えろよ!どんだけ年増扱いが嫌なの!?預言者!肖像画の書いた日が明らかに100年前だよ!」

 ルーシュは肖像画の下にある文言を指差して訴える。書いた日付がちゃんと記録されている。17歳の筈が無い。

「ルーシュお兄さん、女の人にそうやって年齢の事を追求すると怒られるのです」

「うぐっ」

 マリエッタ(10歳)に怒られるルーシュ(14歳)の姿がそこにあった。

「母親に年齢を尋ねて首をへし折られた事を忘れるとは」

「何で女の人は年齢に拘るのだろう。大事なのは年齢よりも若さだと思うんだよ」

 ルーシュは首をかしげて口にする。

「ほほう、若さですかな?」

 クリストフは首を傾げる。

「若さが大事だから年齢聞かれると怒るんだと思う」

 クロードがすかさず突っ込んでくる。ルーシュは首を横に振る。

「みてよ、このクリストフさん。お爺ちゃんなのにこの卓越した若々しさ。何事にも興味を持って研究するんだよ。新しい物を受け入れられなくなったら人間は終わりだよ。頭の固い古い人になっては駄目なのだよ。つまり、これが若さなのだよ」

 ルーシュは何だか熱弁する。

「よく分からないのです」

 結局、最も若い10歳児に理解を得られず、ルーシュは肩を落とす。


 一同は城内を歩いて外へと出ようとしていると、城門から男達の集団がぞろぞろとやってきていた。護衛と思しき軽装鎧をつけた4人の兵士、それに囲まれてやってくるのは3人の男達。貴族と思しきヒラヒラした格好の2人の男、それに白い祭服を着て金銀宝石をジャラジャラさせた俗っぽい神官と思しき男である。脂っぽいと感想を抱ける程度に肥えた3人組だった。

「待っておったぞ、マリエッタ」 

 一番先頭に立つ肥えた男が腹を揺らして前に出て、クロードの影に顔だけ出して隠れるマリエッタを見下ろす。

 一歩前に出て声を掛けるのはクリストフであった。

「これはこれは、メルクール卿。それにコルベール枢機卿まで。どのようなご用件で?」

「そこのそれは我が家の娘だ。王都に来ていると聞いて引き取りにきたのだ」

 そこのそれ…とメルクール卿と呼ばれた肥えたヒキガエルを連想させる男はマリエッタを指差して口にする。

 だが、マリエッタは怯えた様にクロードの背後に隠れたまま父親を名乗る男を見上げる。

 マリエッタの事情はルーシュもクロードも聞かされていた。認知されずに家を追い出された母親がマリエッタを市井で産み、母も若くして死んだ為に孤児院に預けられた。その後に孤児院で預言者の養女となったと。

 いくら親と疎遠のルーシュでも親に『そこのそれ』呼ばわりされたことはない。数少ない精霊を見える友人であるマリエッタをバカにされたようで、珍しく腹を立たせていた。そもそも…ルーシュには、マリエッタが目の前のヒキガエルのような男の子供にも見えなかった。

「あ、あの、マリエッタは預言者様の命を受けて僕と一緒に行動しているので引き取るのは…」

 クロードはマリエッタを自分の冒険に付き合わせたくは無いが、目の前の貴族を怯えている以上、前に出す事もできず、メルクール卿という貴族相手にマリエッタを引きとめようとする。

「これは公爵家の決定だ。冒険者風情が口出しして良い事では無い」

 メルクール卿と呼ばれた男は、葉巻に火をつけると、煙をクロードに吹きつけながら口にする。

「ですが、預言者様の…」

 すると白い祭服を着た男が前に出る。コルベール枢機卿と呼ばれた男であることは理解する。

「預言者にそのような命令権はありません。ただの教祖にそのような権限は全く無いのです」

 枢機卿はジャラジャラと首飾りについている宝石の数々を指先で弄りながら、一行に言い切る。

「それに法律上、そこのそれは私の娘だ。そして、この国は子供を学校に通させねば、親が罰せられる。つまり貴様らの行為は私を違法者にさせようとする行為になる」

 法律を持ち出されてしまい、困り果てる。確かにこの国には子供は教育を受けねばならず、子供に教育を受けさせない親は罰せられてしまう。親には教育を受けさせる義務が国によって課せられていた。

「で、でも…」

「それ以上、言うならば貴様らを全員牢にぶち込むが?ん?」

 ギロリとメルクール卿は全員を睨みつける。

「まあまあ、メルクール卿。落ち着いて欲しい。別に拉致している訳でもないのですから。マリエッタ様は今、私の邸宅に預かっております。確かに学校にも通わせねばなりますまい。こう見えましても私は学者であり、そして教師免状を持ったれっきとした教育者でもあります。必要であれば教育も受けさせ」

「必要ない。侯爵風情が私に意見をするな。その娘は私の子供だ。私がどう扱おうと貴様らには関係のないことだ。シリル、それを引っ張って来い」

 メルクール卿はにべもなくクリストフの言葉をさえぎって拒絶する。

「こっちに来い」

 メルクール卿の隣にいた男はヌシヌシと歩いてマリエッタの腕を掴むと無理やり引っ張っていく。メルクール卿に凄く似ているが息子か何かなのだろうか。ヒキガエルの息子といった印象を持たせる。

 マリエッタはあきらめたように俯いて、それに付いて行く。

「あ、あのクロード様」

 クロードも助けてあげたいようで、口をパクパクさせて何か言おうとするが何もいえなかった。相手は公爵、王族の血さえ引く大貴族ある。しかも法律を盾にされてしまっている以上、刃向かう事もできず困り果てるしかなかった。

 結局、一同は釈然としない気持ちで、貴族達に連れて行かれるマリエッタを見送るしか出来なかった。



 アングレーム名誉侯爵邸にて、ルーシュ達は状況をクリストフに聞くこととする。

「メルクール家は現存する2つの公爵家の1つです。シャトーに隣接する海沿いの大都市セルプラージュを領地にするのがサヴォワ公爵家、山沿いの穀倉地帯を領地にするのがメルクール公爵家です。サヴォワ公爵家は現王妃の家で積極的に王政を押しております。対するメルクール公爵家はその対抗勢力ですな。王は将来、平民も政治に関わらせる為に義務教育制度を立ち上げました。対して平民などに政治をさせるなど言語道断だという貴族派筆頭として訴えております」

「うーん、どこの国でも派閥ってあるんだ」

 ルーシュも今でこそ諜報員だが、元は君主、つまり政治家である。

「…って、じゃあ、あの公爵は義務教育制度に反対しておいて、それを盾にして連れて行ったの!?」

 すごくおかしい事を、彼らが行っていたことに気付いて、さすがのルーシュも驚きを露わにする。

「ええ。正直絶句しましたからな。ですが、彼のいう事は一理ありますし、私にはどうしようもありません。王国の国籍名簿でも、マリエッタ様はメルクール家の人間になっておりますから、誘拐になってしまいますし」

「むう、難しい話だな」

 ルーシュは渋い顔をする。

「あのメルクールとかいう公爵は明らかにマリーを娘とは思ってないようなのに、娘として引き取ろうとしているの?」

 レナが本質的な部分を質問する。その言葉にクリストフは目を伏せて渋い顔をする。

「マリエッタ様は血筋で言えば非常に低いでしょう。公爵家の血を引くとはいえ、母親は貴族でもないただの使用人。政略結婚にも使えない娘です。ですが現在は立場が大きく違います」

「立場が違う?」

「ユグドラシルにて、マリエッタ様はミドルネームにRの文字をつける事を認められた正真正銘の聖女です。聖人認定されている人間は過去には幾人かいましたが、現在は預言者様とマリエッタ様のみとなります。メルクール公爵家とコルベール枢機卿はその聖女が王国派閥にとられるのを良しとしないのでしょう。とはいえ、彼らもマリエッタ様をただの私生児と見下しているので、何かに利用するとは考えにくいですが」

「ま、マリエッタって偉い人なの?聖人認定って…」

 クロードは目を丸くして訊ねる。無邪気な少女という印象しかなかった。

「枢機卿の言葉を使わせていただければ、預言者は聖人であって、絶大な影響力を持っていますが、偉くはないし何の権限も持たない、ただ多くの民に尊敬を集めているだけですね」

「な、なるほど」

「しかも…マリエッタ様は2度の神託を受けています。神託は民の支持を多く集めます」

「神託なんかに?」

 ルーシュは不思議そうに首を傾げる。

「神託なんかにですよ」

 クリストフは苦笑する。

「あほらしい。人やら神やらに言われたからって、自分のやるべき事が変わるわけでもあるまい。僕は魔王様に何を言われようと、正しいと思ったことはするぞ!」

「だよね。皆に止められてたのに、ベーリオルトさんの所の火山噴火で残された民1人を救う為に、マグマを凍らせて救出に言っちゃったもんね。お陰で領地の鉱山の奥まで氷付けにしちゃって、とんでもない金額の賠償金を請求されて、バエゼルブ領の皆からもベーリオルトさんからも怒られたもんね。小母様にも」

「うー」

 レナの突っ込みにルーシュは揚げ足を取られたとばかりに口を窄めて反論できなくなる。

「まあ、一般人にそのような決断力を求めるのは酷でしょう」

 クリストフは苦笑を見せる。

「そういうものかなぁ」

「ですが、まあ、今の王政はまさに、その決断力を民に求めさせようというものです」

「全員に政治をさせるの?」

「ええ。政治的な知識を民に身につけさせて、民の意見を政治に取り入れようって事です。その為には民全員がそういう知識を身につけさせる必要があり、義務教育制度とは、まさにその為の手段です」

 クリストフの言葉にルーシュは首をかしげる。暗黒世界ではそのような制度はないが、子供に教育を受けさせるのは当然だという認識がある。

「……義務教育を制度として持ってるのか。僕らの場合、子供にも良い教育を施したいから、教育制度の充実した領土に大人が行きたがるから、すべての領土に教育制度が充実しただけなんだけど」

「順番は逆ですが民の意思を尊重するという意味では現王政と暗黒世界の政治は似てます。だから驚いたのですよ。暗黒世界の魔族は、話だけならば野蛮で頭の悪い集団だといわれていたのですが、実際はルーシュ様やレナ様のように子供であっても知的レベルが非常に高いという事ですし」

 クリストフは純粋に暗黒世界教育制度が計画がなくとも自主的にイヴェールよりも高いレベルで行われているという事実を称賛していた。

「る、ルーシュの知的レベルが高いだと?……だ、大丈夫なの、イヴェール人」

 レナは愕然とした表情で呻く。

「い、いえ、その…常識能力とかではなく、単純な学力レベルですよ?」

「ああ、そういう事」

 クリストフの言葉にレナは理解するのだが、ルーシュは何故か自分が凄まじい侮辱を受けているような気がして釈然としない表情となる。

「まあ、ルーシュの頭の良さはどうでも良いんだけど、つまりマリーは政治の道具として使われるために引取られてしまったという事?」

 クロードもどさくさに紛れてルーシュを蔑ろにして尋ねる。

「どちらかというと、政治の道具として敵にしない為に手元に置きたい、というのが正しいでしょうな。そして我々にはどうする事も出来ません。預言者様が王都に来て、直接マリエッタ様に関して抗議でもすれば、大きく情勢は変わりましょうが、あまり表に出ない方ですし」

「そっかー。でも…僕も預言者にはいつか会いたいとは思ってんだよね。でも、ダンタリウス先生と合流する為に待ってないといけないし」

「その方には是非会いたいですね」

(気が合いそうなコンビになりそうで嫌だなぁ)

 ルーシュとレナは同時に心の中でぼやく。クリストフとダンタリウスが出会ってしまったら、うんざりするほど話が合いそうで、面倒くさいという思いしか残らなかった。

「まあ、でも…マリーがいないと、そもそもユグドラシルに行っても面会希望が通らないような気がするんだけど」

「うぐっ」

「どちらにしても、しばらくはここに滞在するよ。マリーも心配だし。最悪、何かあったら国外に逃げればいいんだし」

「幼女を連れて国外逃亡か。勇者は犯罪者…っと」

 ルーシュメモ帳にとんでもない事を書き足し始める。

「ちょっと待った、ルーシュ!今の話の前後、分かっているでしょう?僕の名誉を著しく貶めるようなメモはやめてよ!どんな悪名を背負わされたとしても、その悪名だけは断じて聞き捨てならないよ!」

 クロードは慌ててルーシュのメモ帳を叩き落して抗議する。

 地面に落ちたメモ帳を慌てて拾おうとするルーシュだが、レナはそんな2人のやり取りを笑って見ていた。

 パーティからマリエッタが外れた…。そもそもこの集団、戦闘能力皆無な事に気付いたのですが。強すぎて戦えないルーシュ陣営と将来性だけで戦力0のマリエッタ。弱小勇者だけで何ができるのか?

 さらに気付いたのですが、16歳のクロード君は、来年には預言者と年齢が並びます(!?)

 ですが、この物語が来年の展開があるかはわかりませんが。


 次回、スコール(子犬)の武勇伝が明らかに。

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