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勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
第2章 イヴェール王国騒乱
41/135

褒章と報酬

 国王との謁見して、褒章を貰う予定日となる。

 ルーシュ、レナ、クロード、マリエッタの4人はクリストフと共に馬車に揺られて街道を進んで王城の正門へと向かっていた。

 ちなみに、スコールとハティは遊びに出かけており、不在だった。どちらにしても子狼は流石に連れて行けないので丁度良かった。

 今日も今日とてハティとスコールは暇なので、王城よりちょっと400キロほど北にある森の奥でモンスターの狩りでもして遊ぼうと、日帰り気分で軽く走り去っていった。だが、そんな彼らの遊びを知るものは誰もいなかった。



 アングレーム名誉侯爵の家紋が入った馬車で城に入り、国王の間に入る前に服装や装備のチェックを受ける事になる。

 そこではルーシュ達の他にも2名の男女がいた。

「これはこれは、アレッサンドロ殿にロセッラ様。御久し振りです」

「アングレーム卿、御久し振りです」

 女性の方が振り向いて、スカートを摘んで貴族らしい丁寧なお辞儀をする。対して男性の方はというと親しい小父さんに声を掛けるように手を上げて応える。

「お、ご隠居さん、久し振り」

「デッラ・ロッカ先輩!アングレーム卿に何と言う口の聞き方をしてるんですか!」

 女性の方は男の耳を引っ張って怒りの声を上げる。

「硬い事言うなよ、どうせ俺らはこの国の人間でもなけりゃ貴族でもないんだ」

 ヘラヘラ笑う男、ボサボサな茶色い頭髪、ライトブラウンの瞳、どこかひねた様な顔立ちの男で歳は20代くらいであろう。

 隣にいる女性はキチッと短く整えられた金髪、眼鏡をかけており、その奥にはバラのような濃い紅色をした瞳をした、真面目そうな女性である。

「どちら様?」

 ルーシュはクリストフの裾を引っ張って小首を傾げる。

「こちらはイヴェール国立魔導機関と共同研究をして、新しい魔導車を開発した派遣技師会社マギテックのエンジニアの方です。男性はアレッサンドロ・デッラ・ロッカ様、女性がロセッラ・リコルディ子爵令嬢、お二方とも西の大陸出身です」

 西の大陸と聞いて、ルーシュとレナは慌ててクロードの陰に隠れる。他所の大陸の人間は恐ろしいという事を知ってしまったので、自らの危機を感じ取ったようだった。

「って、僕を盾にしないでよ!」

 クロードは引き攣って呻く。

「別に、魔族だからって取って食ったりしねーよ。ウチの社員にも魔族いるし」

「ほ、ホントォ?」

 ビクビクと怯えるルーシュの姿にアレッサンドロと呼ばれた男はカカと笑う。

「可愛らしい魔族の子供達ですけど、こちらは?」

「人間の方はクロード殿、魔族の男性はルーシュ殿、魔族の女性はレナ様、そちらの女性はマリエッタ・R・メルクール様でございます。この方々は先日ボルカン山の問題解決に尽力してくださった方なのです」

 ……

「えーと、確か…ボルカン山に封印されていた数百メートルも体長があるモンスターを退治したって話ですよね」

 ロセッラは情報を思い出すように口にし、そしてチョコンと存在する弱そうな4人組の子供達を、眼鏡を持ち上げてジッと見つめる。

「何かの間違いではなくて?」

 ロセッラは不思議そうに首を傾げる。

 ルーシュ、レナ、クロード、マリエッタの4人を見ると、クロードがガキ大将で、その背後に隠れる3人の弟分と妹分という雰囲気を醸し出している。

 とてもじゃないが、噂に聞くボルカン山に封印されていたモンスターを倒した少年少女には見えなかった。

「討伐したモンスターの壊れている魔石は見た。あの魔石構造からして、瞬間最大魔力はチエーロ帝国の超魔導機関砲を持っても敵わない代物だと推測できる。アレを持つモンスターを倒したというのか?」

 こんなのが?という含みがある問いをするアレッサンドロに、クリストフは苦笑で返す。そしてちゃんとした説明を加える。

「ここにいるのは公には出来ませんが、ラフィーラ教のお告げにあった勇者様と預言の御子、それに魔公の方々ですから」

「魔公?あの神喰らいの魔族か?」

 アレッサンドロが驚いたように口にする。

「何それ、変な恐ろしいものにされた」

「うううう、人間怖い」

 ルーシュとレナは更にアレッサンドロ達を恐れる。

「いやいやいやいや、あんな魔石を持つモンスター倒した魔族に怖がられたくねえよ!」

 アレッサンドロとしても、ルーシュ達が変な怖がり方をするので抗議する。

 クロードも当たり前だと言わんばかりにウンウンと頷く。

「倒したのは僕じゃなくてクロードだし」

「まった、ほとんどルーシュだよね?ルーシュ1人で戦ってたじゃん。最後の一押しを僕にやらせておいて、全責任を僕に押し付けるの!?」

「手柄を譲ったと言って置こう。僕はそのつもりだぞ」

 ルーシュはフハハハハハハと笑い飛ばすがクリストフはそれをあっさりと諌めてしまう。

「既に全てを報告済みですので、責任逃れは出来ませんぞ?」

「なぬ?そーなの……?」

 ルーシュはショボンと肩を落とす。

「まあ、悪い事をしたわけじゃないんだから、諦めなよ」

「目立つなとか、余計な事をするなとか言われてきたのに、いきなり王様に呼び出されちゃうんだもん…。絶対に、向こうに帰ったら母上に折檻されるよ。ダンタリウス先生が母上から手紙を持ってくると聞いているけど、一体何を書かれているか、恐ろしくて見たくもない」

 ルーシュは元々目立たないように生きようとしているのだが、何故か大騒ぎになってしまうのだ。それは暗黒世界でもずっとそうだった。

「そうそう、ルーシュ殿。我々が乗ってきた魔導車の設計をしたのが、このアレッサンドロ・デッラ・ロッカ様とロセッラ・リコルディ様なのですよ」

 クリストフはルーシュに世間話程度に話を振る。

「え、…あの魔導車を設計したのが?おおおおお」

 ルーシュは途端に目をキラキラと輝かせて2人を見上げる。

「つーか、魔公なんだろ?魔公なら、あんな魔導機関なんざなくてももっと早く走れるんじゃないのか?」

「違うよ!良いかい?精霊だけにお任せして何もしないのが魔法だ。魔法は僕は見れば何が起こっているのか分かる。でも魔導機関はサッパリ分からない。謎なんだよ。すごいよ!どういう構造がばらしてみたいし!ばらしたら怒られそうだからやらないけど」

 ルーシュは興奮気味に説明をする。

「ルーシュが気にして好きな事をしないなんて……成長したのね」

 レナはハンカチで目元を拭いながらルーシュの頭を撫でて成長を称える。

 クロードはルーシュの好奇心旺盛さに少し呆れてしまう。

「そういえば、王様から何かもらえるって聞いたけど…」

 ルーシュはクリストフに訊ねる。

「まあ、今回の功績において…例えば爵位を与えたいという話になってもおかしくないのですが、我が国においては冒険者には領地や爵位を与える…という褒章は用いてないのです」

「まー、領土上げますよ、貴族にしますよって言われても、僕は暗黒世界でイヴェールくらいの大きさの領土で君主だからねぇ。いらんですよ?」

 そもそも暗黒世界の大領土の君主であるから、格がどちらが上かは分からない。

「まあ、そもそも冒険者は我が国で教えている最低限の知識さえないから、貴族にしても法律以前に識字能力が無いケースもあるんです。そんな人間に領土の管理なんて任せたら国が滅びます。それに国王様の方針で、貴族は縮小傾向にありますから」

「…イヴェール以外の国とか冒険者って文字も禄に読めないで生きてるのか、凄いな…」

 ルーシュは額の汗を拭う。

 少なくとも暗黒世界では魔族全員が文字を読めるし、魔法も使える。暗黒世界における基本的な歴史は皆が知っているし、地図も読める。各地の状況や地理もある程度把握している。暗黒世界の子供達は、あらゆる仕事へ対応できるよう、その可能性を育てる為に、15歳までに最低限の下地を身につけるように教育が施される。ルーシュのような魔公は早い内に色んな事を身に付けさせるので通常の魔族と同程度の知識は身についているのである。

「お金であるとか、ものであるとか、権利であるとか、様々ですね。まあ、願っても無理なものは無理と言ってしまうのですけどね」

「うーん、欲しいものかぁ。基本的に無いんよねぇ。土地も権力もあるし、お金や食料だってねぇ。ルーシュのものは私のものだし」

「何そのジャイアニズム!?」

 レナの言葉にルーシュは戦慄する。

 ジャイアニズム…とは、かつて存在したといわれる伝説の巨人族が強奪の限りを尽くし、この世のすべては自分達のものである、という言葉を残して世界中を敵に回して滅亡した種族の思想である。決して青い猫型ロボがいる世界のガキ大将の名言から来た言葉ではない。

「ルーシュは何か欲しい物はあるの?」

 レナはルーシュの方を見る。

「うーん、欲しい物はたくさんある。でもそれって、王様がどうにかできるようなものじゃないしなぁ。試しに頼んでみようかな」

 ルーシュはうんうんと頷く。

「まあ、何を言われても驚きはしませんよ。何せ、この国の王は大量の冒険者や移民を受け入れて、統治している方ですからな。変人や冒険者などから無茶な褒美の要求を笑い飛ばせる度量を持ってます。こんな老骨が遊び歩いていられるのもそれが理由ですし」

「ふーん。ウチの王様みたいに?」

「ルーシュ、魔王様なんかと比べたら不敬罪で死刑だよ!」

 レナは慌ててルーシュを揺さぶる。おっといかんとルーシュも口をつぐむ。

 どれだけ魔界の魔王は扱いが低いのだろうかと、クロード、クリストフ、マリエッタの3人は引き攣って聞いていた。

 決して暗黒世界における魔王の立場は低く無い。一般庶民からすれば雲の上の存在(暗黒世界の雲の上は直に天井だが)である。ただ、ルーシュは魔王と親しいので、レナもまた魔王の人となりを知っている。すごい人ではあるが、残念な人でもあるのだ。

「デッラ・ロッカさんとリコルディさんは何かお願いするの?」

「いえ、ただお金を貰う為の儀式みたいなものです」

 ロセッラは淡々と答える。

「お金、大事だよね」

 うんうんとルーシュは頷く。

 1年6ヶ月、1ヶ月60日のこの世界<グランクラブ>において、月給というものがある。北の大陸の紙幣で言う所の1日1万ピースが4人家族の家計になる。レナは1日1万ピースの食費を使うので、ルーシュは1所帯を養っていた。


「新型魔導車の開発と技術提供というのが今回の仕事でな。それが晴れて終わったから国家から表彰を受けるというだけだ。英雄と一緒というのはこっちも肩肘を張るがなぁ」

 アレッサンドロは肩を竦めて笑う。

「英雄?」

 ルーシュは首を傾げてから、周りを見渡すがどこにも英雄はいなかった。

 この子は分かってないなとルーシュを覗く全員が互いに目配せして頷きあう。

「そういえば…魔公って一般的でないと認識してたのですけど、デッラ・ロッカさんはご存知なんですね」

「む。まあ……ガキの頃に育った町の長が魔公だったんだ。ひっそり隠れ住んでたから魔族達も気付かなかったんだろう」

 アレッサンドロは目をそらして口にする。

 ルーシュは、良いなぁ凄いなぁ、と目を輝かせてアレッサンドロたちを見ていた。

「ルーシュ殿は魔導機械に興味ありますか?」

 クリストフはルーシュに訊ねるとルーシュは思った以上に食いついてくる。

「あるよ。僕ね、小さい頃は暗いのが怖かったんだ。だから魔導灯の光が大好きなの。人の知恵によって生み出されたんでしょう?それを生み出すような技師さん達は凄いよ」

 ルーシュは嬉しそうに語っていた。

「あー、そういえば、ルーシュってフラフラと魔導灯に集まってたよね、蛾みたいに」

「悪意ある言い方をしないでよ!」

 レナはうんうんと納得するように頷く。

(レナさん、本当にルーシュの婚約者なのかなぁ…)

 クロードは呆れる様に心の中で呟くのも無理は無かった。

 ルーシュを最も蔑んでいるのは間違いなくレナである。

 すると奥の方から兵士が小走りでやってくる。

「クリストフ卿、マギテックの方々、それと冒険者の方々、国王陛下がお呼びです。ついて来てください」

 兵士は声を掛けるとゆっくりと行き先の方へと向かう。



 魔導灯に明るく照らされた石造りの回廊を歩き、2人の門番が守る扉の先には赤いじゅうたんが敷かれていて、その奥に玉座があった。

 玉座には30代前後の男が足を組んで座っている。

 金髪碧眼の甘いマスクをしているが、体は若干横に大きい。太っているのではなく、筋肉質といえるだろう。

 白いスラックスにワイシャツを着ているのだが、シャツをスラックスの中に入れておらず外に出していた。王衣であるローブを着ずに肩に引っ掛けている。男は右手の人差し指で王冠をクルクル回して遊ぶようにしてルーシュ達が前に来るのを待つ。


 あれが王様なの?


 誰もが尋ねたくなる傍若無人振りだった。

 アレッサンドロやロセッラは片膝をついて玉座に続く階段の下にひざまずく。クリストフも同様にしており、マリエッタとクロード、レナはそれに倣う様にして膝をつく。

 ルーシュはどうしたものかと立ったまま困っていた。

「何をしている。王の御前だぞ!」

 兵士が咎める。

「ルーシュ殿」

 クリストフは慌てて顔を横に向けてルーシュを諌めようとする。

 兵士達はルーシュが何か変なことをするのではと危険を感じて、ジリジリとにじり寄る。

「何故、跪かぬ?」

 国王と思しき玉座に座る男はルーシュに尋ねる。

「えっと…王様は僕の事をあらかたご存知で?」

「うむ。聞いている。暗黒世界の住人であり並々ならぬ血族だとな」

「でしょ?だったら、僕が跪く必要ないよね?」

 ルーシュの言葉に、参列していた貴族や閣僚の人間達は激怒する。兵士達は刀を抜いて足を前に出す。

「魔族の分際で生意気な!」

 そんな言葉を吐きつける大臣もいた。

 騒然となる国王の御前において、国王は両手を叩いて大笑いする。

「その通りだ!ははははははっ!頭の悪い子供だと聞いていたが、存外に分かっているじゃないか。ルシフォーンの血脈を継ぎしルーシュ・バエラス。俺はセドリック・イヴェール12世だ。ルーシュよ、俺の事はセドリックと呼べ。この俺自らが許そう」

 傍若無人な国王は、ルーシュを見て凄く嬉しそうに笑っていた。

「こ、国王陛下!いくらなんでも……。それでは周りに示しが…」

「他の連中はともかく、目の前にいる男は、暗黒世界の君主であり、かつてルシフォーン四世を名乗った王子でもあるのだろう?大体、俺はそんな格式ばった事は面倒で大嫌いなのだ」

 あっさりと言い切ってしまう国王に、周りの閣僚と思われる人間達は渋面を作る。どうやらこの国王自身、元々こういう人間なのだろう。

 暗黒世界は確認されておらず、確認されていない国家の王を、王として迎えるのは問題が残るが、この国王はそれを認めたのだ。

「アングレーム卿、これまでの彼らの案内、大儀であった。皆のもの、面を上げよ、これより褒章を取らす」

 王の言葉に全員が頭を上げる。ルーシュは立ちっ放しなので微妙な感じである。

「まずマギテックのアレッサンドロ・デッラ・ロッカとロセッラ・リコルディには褒章として金一封を与える。また、アレッサンドロ・デッラ・ロッカは新型魔導炉の開発への貢献もあるので追加で褒章を取らせようと思う。そうだな、何か欲しい物はあるか?」

 王はアレッサンドロに尋ねる。

 アレッサンドロは急な提案に言葉を窮する。だがそれは言いたい事を言えない…という顔だった。

「何でも言って見ろ。無茶な事でも出来る限りの事はしよう。畏まる事はない」

 王はかなり適当な感じだった。確かにこんなフランクな王では悩むのもあほらしいと考えたようで、アレッサンドロは自身の望みを口にする。

「飛行艇の研究許可が欲しい」

「…飛行艇の研究だと?」

 王はヘラヘラしていた軽薄そうな顔がいきなり真剣な表情へと変わる。

「まだそんなことを…」

 王は小声でつぶやき、そして相手を見下ろす。

 飛行艇…空を飛ぶ乗り物だ。ルーシュは何でそれが嫌なのか首をかしげる。だが国王以上にその取り巻きにいる大臣達はざわついていた。

「それ以外に無いのか?」

「それ以外ならば特に褒章は必要ありません。まあ、ボーナスを追加していただければと」

「分かった。金を追加で包もう。飛行艇の研究はこの国では許可できない。いや、許可できる国はないだろう。東西の大国が、近年でも……科学都市フトゥーロ、いずれも飛行艇の開発によって天罰によって滅んだのは知っているだろう」

「あれは天罰等ではございません」

 アレッサンドロはこわばった顔できっぱりと王の言葉を否定する。

「そんな事はお前に言われなくても知っている。この国をどこだと思っている。だが、我が国を不用意に焼かせるわけにはいかぬのだ。アレッサンドロ・インペラトーレ・デッラ・ロッカ」

 王の言葉にアレッサンドロは顔を激しく歪める。そしてアレッサンドロは悔しそうな表情で俯く。

 2人のやり取りに何があったのか、ルーシュやレナ、クロードにはさっぱり分からなかった。

「さてと、それじゃあ、ボルカン山の件だ。こっちに関しては……公にする事は出来ないと言っておく。理由は簡単だ。これを公にすると神聖教団から戦争を売られる事になる。対外的には封印された古代モンスターを無理やり復活させた勇者に対して、ガイスラー王国に対して厳重抗議をして、中立国で裁判するようにミストラル王国へ勇者を送り返した。とはいえ、国家を救ってくれた事実までもみ消すような野暮はしない。口止め料も兼ねて褒章を与えよう。勇者クロード、何かほしいものはあるか?今回、あのアホ勇者を我が国に渡りをつけたアホ貴族が失脚したから領地が余ったし、欲しいならくれてやるぞ?」

「い、いえ、というか、特に欲しいものとか無いのですけど。そうですね、敷いて言うなら…僕の故郷、アルベールを焼いた犯人を捕えて適切な刑罰を処して欲しい…という所です」

 クロードは言い辛そうに訴える。

 その言葉に王は頷き、そしてチラリと近くにいる閣僚と思しき男の1人、物々しい鎧を着込んだ偉丈夫の方へ目を向ける。

「僭越ながらその件に関して報告させていただきます。ボルカン山より東にあるアルベールの村ですね。犯人は目下調査中です。必ずや犯人を見つけ出し適切な対処をいたします。しばしお待ちを」

 鎧を着込んだ偉丈夫は正しく答える。既に王国は把握していた事にクロードは驚いていた。

「あのさー、犯人見つけるのは良いけど、ラフィーラのお告げを聞いた限りじゃ僕の親戚なんでしょ?だったら犯人を見つけたら僕に報告してよ。捕まえるにしても無力化にするにしても」

 ルーシュは挙手する。

「どういう意味で?」

 怪訝そうに偉丈夫はルーシュへ鋭い視線を向ける。

「僕の親族で1つの村を焼けるような魔族っていうなら、それは間違いなく魔公でしょ?別に処罰に関してケチを付けようとか、捕まえる人達の能力に対して文句があるってんじゃなくてね。最悪魔王クラスの化物の可能性だってあるんじゃないのかな?それで被害が出ると僕としても困るんだよ。無駄に人死にを出して、また嫌われたくないし。やるなら僕が責任を持って無力化するよ?付近一帯の住民の避難とかしてくれればそれで良い。 身内の尻を拭くようなものだし、そこは何の褒章もいらない。むしろ、僕の領土から調査協力として何か献上しても良い」

 ルーシュは提案する。

「ふむ」

 偉丈夫は不審そうにルーシュを見る。それはルーシュが国の警備をなめているのかとも取れる言葉だからである。そこでクリストフは挙手をする。

「クリストフからは何かあるのか?」

「はい。魔公の能力は我が国においてはよく存じているはず。犯人が魔公であるならば、1個大隊で迎え撃つ気構えが必要でしょう。ですが…ルーシュ殿の能力からすれば魔公さえも物の数ではありません。辺り一帯の避難をしてしまえば、恐らく誰一人失う事無く犯人を無力化出来るでしょう。警備隊としての誇りはありましょうが、たかが不埒な犯罪者に軍隊で挑むような危険を冒すのは得策ではありますまい。無償で協力して頂けるなら、これほど頼りになる存在もないでしょう」

 クリストフはルーシュをフォローする。

「うむ。確かに警備隊としての誇りもあろうが、友好を願う魔族にとっては、こちら側の人死にさえ死活問題だ。我が国とて、1人の犯罪者を捕える為に多くの警備兵の命を賭して戦うのは得策でもない。出来るというならやらせてやればよい」

「はっ」

 偉丈夫は恭しく頭を垂れて下がるので、王は鷹揚に頷いて満足そうな顔をする。

「ふむ、とはいえ、それではクロードには褒章が無いな。他に何かないのか?であるなら、まあ、相応の報奨金を出そう」

「お、お金…ですか。ですが、……大金を渡されても…」

 クロードは使い道が無いのだ。幼い頃より小さい村で自給自足をしていた牧場主の息子が、いきなり大金を渡されても使い道が無くて当然なのだ。

「あったらあったで困る事もあるまい。受け取らないようなら冒険者ギルドに直接振り込んでやる」

 王は意地悪でもするかのようにニヤニヤ笑って言う。

「あ、ありがたく頂きます」

 クロードは慌てて頭を下げる。

「そしてレナ嬢、君には多くの調査員を救ってもらった恩義がある。これに関しても少なくはあるが報奨金を支給しよう。後で各々に大臣から受け取ってくれ。さて、最後にルーシュなのだが」

「ふんふん」

「何が欲しい?これは褒章じゃなくて、礼だ…とでも言っておこうか?」

 王はまるで楽しむかのようにルーシュを見る。

「ちゃんと考えてきたよ。そう、欲しいもの。魔族の皆も苛められないですむ世界、とか」

 ルーシュは子供の夢想のように具体的でない言葉を発する。だがそれと同時に全員が眉根に皺を寄せる。

「魔公ルーシュ・バエラス君主殿は世界平和がお望みか?そりゃ、俺の手には余る仕事だな」

 ケラケラ笑う王、ルーシュはしょぼんと肩を落とす。

「んー、じゃあ、……ツーショー」

「?」

「正式に暗黒世界と通商を結ぶってのは?それが今回の報酬って事で」

 ルーシュの言葉に閣僚達はざわめき立つ。

 あえて褒章と呼ばず、報酬と言った時点で、王もまたルーシュの言葉を聞いて面白そうに口元をゆがめる。

「難しい話だな」

「難しいかな?冒険者の中には物を運ぶ人もいるし、僕ら魔公が誘導すれば暗黒世界との行き来も対して難しくは無い筈だし。あるいは…僕ら魔公がここの物を公式的に暗黒世界に持って帰り、僕らの物をこちらに売り込む。それだけだと思うけど」

 ルーシュの言葉に閣僚達の1人が挙手をするので、王が発言を許可する。

「通商は国家間における問題ですが、貴殿にそのような権限があるのですか?」

 ちょび髭の太った男がルーシュに尋ねる。

「僕は社会勉強中と言えどバエラスの君主で、仮ではあるが穏健派のトップ。母は暗黒世界の宰相をしているし、魔王は叔父だ。魔族の中にも人間サイドを快く思っていない派閥もあるけど、僕の領地は暗黒世界の入口だから、彼らが口出ししてくる事はないだろう。ゆっくり個人で友好を深めていけば、いずれは人間を滅ぼせという意見を言う魔族もいなくなると思ってる」

「……人間を…」

 ルーシュの言葉にこの場にいた人間達は大きく反応する。

「そこは隠すつもりもないよ。何せ彼らは200年前からの当事者だ。大恩人であり尊敬していた主を人間に殺されている。恨み辛みは残っていても仕方ない。でも、戦争を知らない魔族も増えてきてるし、仲よくしたいという意見が多いのも事実だ。実際、僕は戦争なんて知らないし」

 ルーシュは内側の問題も包み隠さずに話す。隠さなくたって分かりきっているだろう。

「だろうな。そこまではっきりと聞いた事は無かったが、多くの魔族が恨みを持っているのも知っている。我が国に亡命する魔族達を見れば、むしろ、うらまないほうがおかしかろう」

 イヴェールの国王もまたルーシュ同様に、他大陸における魔族の扱いに関しては理解していた。外務相は渋面を作る。

「でも…誰よりも大好きだった祖父を人間達に殺された母は、200年前に勇者と共に祖父を殺したというエルフと親友だった。種族間におけるわだかまりはともかく、個人と個人との関係であればゆっくりとでも仲直りできるものだと思ってる。その為にもまずは友好的な接触とは行かなくても経済活動として必要な接触をしていきたいと思ってる。だめかなぁ」

 ルーシュは意外にも賢そうな事を言う。

 レナは口をパクパクさせてあの少年は誰なのという風にクロードに訊ね、クロードもまた知らないとばかりに首を横に振る。

「だが問題は残っている。それは、そっちの問題ではなく、どちらかというと…アレッサンドロに対して飛行艇開発の許可を降ろさなかった、それと同程度に面倒くさい問題がだ。魔族と手を組んだなどと知れたら、グランクラブで除け者にされてしまいかねない。その際に起こる我が国の衰退は厳しいものとなろう。その際にわが国は魔族達を保護する事も出来る能力を失い、引いてはグランクラブに散っている多くの魔族達を保護できる土地さえ失い、暗黒世界の魔族達にとっても厳しい事になろう」

「うーん…なるほど。そりゃ、困る。こっちの世界の魔族の人数は暗黒世界ほどでなくてもたくさんいるって聞いてるしな。そもそも僕だって暗黒世界の1人勝ちなんて嬉しくない。皆仲良くしたいだけなのに、どうにも難しいな」

 ルーシュは考え込む。

「希望する報酬を我々にはどうも与えられない、というよりは自分の破滅に繋がるような報酬を求めるのはあまり頂けないがな」

 王はそう言って、そしてチラリとアレッサンドロを見る。元々、飛行艇開発の許可を出せなかったのは自国の為もそうだが、それによって滅びるのは報酬を貰って開発するアレッサンドロ自身だからだ。

「じゃあ、こうしよう。セドリック様に一筆書いてもらう。そうだね、グランクラブの情勢が許される状況になったら、暗黒世界への通商を結ぶと同時に、もしも暗黒世界が窮地に陥っていたら、国を救ってくれた感謝相応の保証をしてあげて欲しい」

「なるほど。というか、他人事だな」

「暗黒世界が窮地になって、そっちの国に助けを求めるような状態ならば、僕はこの世に生きてはいまい。何百年後か分からないし、その頃にはイヴェールの国家事情が変わっているかもしれないから、あってないような報酬かもしれない。でも、僕らにとってそれはきっと希望になるだろう。東西の大陸で虐げられている魔族達が、この大陸に渡れば助かるかもしれないと思わせる希望と同じ程度の」

 ルーシュの言葉に国王は頷く。

「それにしても…ルーシュ。お前は自分の事ではなく魔族のことばかり考えているんだな」

「ふーむ、そもそも魔王継承権ってのは魔王としての能力に加えて、自分より魔族を第一に考えられるかどうかで決まる。実際、ルシフォーン様の子供はルシフォーン二世を名乗った人もいたし、魔公としては高い能力を持っていたけど、彼らは王位継承権を持ってなかった…って言えば分かるかな?」

「なるほど。それはしかし、窮屈そうだな」

 国王はあまり窮屈そうに見えない。だが、その民の事ばかりを考えているような人物に心当たりでもあるような口ぶりであった。

「僕ら魔王一族からすれば、もっと強大で押さえつけないと世界を滅ぼしうる力を持って生まれているから、それを押さえて生きる事自体が窮屈だし、その力を自分の意思で使うという恐怖を考えれば、魔族全体を考えて使うという考え方でないと、むしろ自分で自分を滅ぼすと思うけど」

「なるほど。あの魔公たちが心酔する筈だ」

 ルーシュはうーんと考えていると王は玉座から立ち上がりゆっくりと歩いて階段を下りてくる。そしてルーシュの前にたち、手を差し伸べてくる。

「あ、うん、よろしく?」

 ルーシュはそのままその手をとって握手を交わす。

「ルーシュ・バエラス三世。いずれ機が来た時には、わが国は暗黒世界とも友好を結ぶ事を誓おう」

 どちらも王としては無茶苦茶だった。要求は非常に漠然としていて、何となく気のあっただけの2人が仲良く握手をする様にも見える光景である。だが、後にこれは魔族の王家と人間の王家が始めて友好を示した行為であったとして歴史に名を刻む事になる。



 褒章の授与式が終わると、イヴェール王セドリックは玉座を立ち去り、自分の執務室へのある方向へと帰って行く。

 そこに1人の大臣が近付いてくる。

「陛下。あのような魔族の子供に対して…」

 セドリックは、王の高貴さを貶めるような男ではあるが、威厳を貶めるような事をする王ではなかった。たかが14歳の魔族の子供を自分と対等に扱う等論外だったはずだ。

「レヴィア殿より聞いていただろう?魔王家の第2王位継承者ルーシュ・バエラスがイヴェールに来るかもしれないと」

「それは聞いてましたが…」

「あれは間違いなく王族であろう。魔族と我々の王としての定義は分からぬが、あれこそが魔族を己の双肩に乗せている事を自負した男だった」

 セドリックは大臣の諫言に対してあっさりと否定する。

「奴はただの子供だが、自身が魔王の子として、人の王に対して跪かず、褒章を報酬と言い換えていた。ならばこそ魔王の子孫でありバエラスの君主として対等に接するのは当然だ。間違っていたか?」

「……いえ」

「案外、歴史的な瞬間だったかもな。何せ魔王の子と人の王が対等の場に立ち握手をしたのだからな」

「それは、今後、魔族が今の状況を抜け出して、国際的に国家として暗黒世界が認められて、初めて言える事でしょう」

 大臣は首を横に振る。そしてその未来はありえないと思っている。

「子供でありながら、あれほどの傑物を育てている魔王族が天に屈するとは思えぬがな。彼が出てきた事で、世界情勢が動くかも知れぬ。今回、討伐者を無視してしれっと巻き上げたアルゴスの魔石を軍事転用させろ。魔族の支配を目論む神聖教団が再び動く可能性は高い」

「はっ」

 大臣たちは王の執務室の前で礼をして去っていく。

 新しい登場人物の追加です。

 技師のアレッサンドロとロセッラ、国王セドリックといった所ですね。

 元々、アレッサンドロは随分前に書こうとして没になった、天空を目指す技師の物語の主人公をそのまま移籍しました。セドリックは元々、冒険者だったので、その物語でも重要な役割を持ってました。なので上記3名は、実は勇者よりも遥かに設定や素性がしっかりしています(笑)

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