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勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
第2章 イヴェール王国騒乱
38/135

王都到着

王都到着とは名ばかりで説明会になってしまってます。ご注意ください。

 900キロも離れた土地を出発してから、たった4日後の昼にはイヴェール王国の王都シャトーに辿り着いていた。

 煉瓦で舗装された道路、整備された町並、街路は人通りが激しく、魔導車は馬車を追い抜いて、城下町へと進んでいく。

 シャトーは巨大な王を中心に、その周りには閑静な貴族街があり、賑わいを見せる商店街や繁華街がその周りに広がっていた。

 ルーシュ達は巨大な農場を過ぎた後に平民の住宅街に入り、繁華街を抜けて、丘の上にある貴族街へと魔導車に揺られて入っていく。貴族街は聳え立つ城壁によって囲まれているが、特に検問も無くそのまま魔導車は入って行く。

「魔族の町はどのようになってますかね?」

 クリストフは興味深そうに町並を見渡すルーシュに訊ねてくる。

「魔族の町は…あまりかわらないと思うよ。大体、魔公の家は山の上だったり人里から少し離れて、その近くに取り囲むように集落があるんだ。こっちの町と比べると、貴族街がまるっと荒野になったと思えばいいかな。あと平民街の周りにある城壁とかも無いよ」

「それではどうやってモンスターから身を守っているのですか?」

「魔公はいるだけでモンスターは避けるし、強い魔力を使って自分の領地をぐるっと歩いて、魔力によってマーキングするんだ。すると、暫くは縄張りとしてモンスターが近寄らなくなる」

「ほほう。要するに魔公という特殊な魔族がいる点以外はここらと変わらないと?」

「そうだね。あと、国の形態が違うのかな。僕らは国や魔公の領地がたくさんあって、それぞれで同盟関係を持って領地を共有していたり独立していたりするんだ。例えば…有名どころだとベーリオルトさんは自領の王様で、たくさんの魔公を従えてる。僕は色んな王様や魔公貴族達と共和制を導入している上で魔公たちを取りまとめて1つの領土を形成している君主。まあ、規模はベーリオルトさんの方が上かな?」

 ルーシュは自分の領土に関する当たり障りない話をする。

「ほほう、200年前に人類を震撼させた四天王ベーリオルトはまだおるのですな。では、魔王はどのような位置づけに?」

「魔王様は人間に『政治を行なうな』と押し付けられて以来、象徴って形になってるね。まあ、僕らが決めた政策にハンコを押すだけのお仕事だよ。まあ、僕らからすれば抑止力って点もあるかな、うん」

 ルーシュはうんうんと頷きながら説明をする。

「変なことをする魔族を、魔王が取り締まると?」

「変なことする魔族が出ないように魔王が存在している、が正しいかな。魔公同士の内乱はあっても、市民まで巻き込む戦争は無いよ。市民は魔王の名の下で自由に居住する権利を持っているから、領主に愛想尽きたら出て行って良いんだ。基本、平和主義だから、魔公同士で喧嘩しちゃうと、一気に領民が去っていくね。そうすると、魔公は自分の収入が減るから、美味しくないんだ。魔公はたくさんの魔力を欲するから、魔力のある食費が嵩むんだ。食料的な魔力資源の確保は魔公にとって大事な意味があるんだ」

 ルーシュの言葉に得心がいったとクリストフは大きく頷く。

「なるほど。ようするに魔公という存在は金や土地を持つ資本家で、そこでの活動を望むものがいれば土地を貸し出し、その貸出料を税金という形で受け取る。魔公が一方的な雇用者という訳ではなく、互いに平等な関係が成り立っているのですな。貴族と民というより、商人のような利害関係を築いていると」

 クリストフは魔族の政治体系が思った以上にしっかりしたもので褒め称えていた。

 だが、暗黒世界は魔王がいなければ成立しない。独裁者によって領民を奴隷のようにこきを使う魔公が現れてもおかしくないからだ。



 ややすると、魔導車の進む先には大きい屋敷があり、門が開かれているので、そのまま魔導車は屋敷の敷地の中へと入っていく。屋敷に広がる大きい庭を進むと、そこには屋根のついている魔導車が入りそうな大きさのシャッターのついている建物があった。建物の手前で魔導車は止まり、ルーシュ達はそこで下ろされる。

「ここが私の屋敷ですな」

 小屋の前から見える屋敷は非常に大きい。

「でっかい…」

 クロードは見上げてしまう。

 4階建ての館で、少なくともピドの街には存在しないものだった。城のような屋敷を前に見上げてしまう。

「クリストフさんは名誉侯爵で、やっぱり大きい家に住んでるんだ」

「いやいや、貴族としては小さいものですな。ここに来る途中にも見たでしょう?貴族街はこのくらいの家が立ち並んでおりますゆえ」

「言われてみれば」

 貴族街と平民街の間には大きい坂道があり、貴族街から下々を見下ろすような形になっている。坂道を上がってからというもの非常に大きい建物が並んでいた。

 クロードはこれらが家ではなく、何かしらの公共施設だと思い込んでいたようだ。

「ふっ…田舎者が」

「偶に世間知らず度で勝利すると、異常なほど図に乗るよね、ルーシュのくせに」

 ルーシュはしてやったりと笑うのだが、クロードは少しだけイラッと来て鋭く突っ込みの台詞を放つ。

「ま、ルーシュの家はちっこいけどね。今の当主はバエラスだけど、バエゼルブ領の中央に立っているのはバエラスの元本家であるバエゼルブ家の城で、ルーシュは独立するんだって、城の隣に小屋を建ててそこで暮らしてるし。あの魔導車を入れる小屋より小さいよ。私も同居してるけどね」

「主が城に住んでないのか…」

 レナの言葉にクロードは悲しく感じてしまう。クロードの同情篭った言葉に、ルーシュは凄く凹んでいた。

「そういえば、レナさんってルーシュの幼馴染で婚約者なんでしょう?」

「そーだよー。ルーシュはあんまりそういうの気にしてないけど。というか、私を婚約者に格上げすると、人類の友人枠が減るから、断固として阻止しているんだと思うんだよね」

「…」

 一同は友達のいない可愛そうな友人を生暖かい目で見る。

 ルーシュは不満そうにしていると、両肩に乗っている二頭の子狼がルーシュを励ましていた。だが、子狼は確かに友達であっても友人ではないのだ。

 クロードは黒馬ロベールを魔導車から降ろそうと魔導車の後部の荷台の降ろし口へと回る。ロベールはヒヒンといななきながらゆっくりと歩いてでてくる。馬にするには惜しいほど賢い馬である。

「あの、そういえば、宿にロベール…馬は置けるのでしょうか?」

「ええ、勿論。宿泊していただく場所はここですので。使用人に面倒も見せましょう」

 ロベールを降ろそうとすると、屋敷の方から使用人らしき男が出てくる。

「こいつ、人の好き嫌いが激しくて、暴れたりするから気をつけてくださいね」

 クロードは男にロベールを任せて、クリストフに付いて行く。



 屋敷の入口を開けると、そこにはたくさんの使用人達が迎え入れる。

「お帰りなさいませ、ご主人様」

 と本当に貴族なのだと思わせる迎え方だった。

「うわー、凄い。貴族って感じだ」

「ルーシュ殿は魔族の王家なんでしょう?」

 クリストフは不思議そうに訊ねるのだが、レナは複雑そうな顔をする。

「ルーシュの事情が特別すぎるから。昔、私が住んでたアシュタールの家はこんな感じだった」

 ルーシュは不服そうな顔をするのだが、レナはポンポンとルーシュの頭を撫でてやる。そしてハティとスコールもルーシュの頭を撫でるのだった。

 ルーシュ達は使用人たちに案内されて一人一部屋の客間に通される。



 ここに至るまで、ルーシュ達だが、クリストフは主に暗黒世界の事情等を興味深く聞いてくるため、色んなことを話していた。

 諜報員なのに、尋問されている気分だったのは言うまでもない。とはいえ、詳しい人間でもないルーシュとレナが答えられる範囲は少ないので、もっぱら逆にルーシュやレナが人間達の常識を色々と教わる時間となる。


 国王との謁見だが、3日後に行なわれるという事になった。

 元々、魔導車で迎えに行く予定も無かったので、随分先に予定を立てていた。色々と前倒して入れて、丁度3日後という事らしい。

 通常ならば、大陸を救った英雄に対しての扱いとしてはかなり不遇であろうが、ラフィーラのお告げは正式なものではないし、事故現場を西ボルカンの町の市民しか見ていない。とんでもないモンスターであった事は報告を受けているが、1000キロ以上の距離がある場所で起こった災害等に実感が起こらないのは仕方ない事だった。

 何よりこの国は国王もラフィーラ教徒であるが、国自身は国教を持っておらず、他の宗教でも受け入れる柔軟性があった。ラフィーラ教の勇者が、神聖教団の勇者の悪行から大陸を救った、という話は、ラフィーラ教徒からすれば嬉しい話だが、どうやらそれを公にするのは聊か問題だったようで、世界でも最も信仰の厚い神聖教団からイヴェール王国が圧力を受ける羽目になる側面を無視できなかった。

 魔族を迫害するのを当然とする宗教なんかに何故臆するのだ…という言葉をルーシュからはでてこない。そもそも魔族種が人間種を恐怖しているからだ。他人を貶めるのを厭わず、狂信的に人を殺し、権力で他人を蹴落とすのをよしとする、そんな恐ろしい種族と対峙しようなどとは露にも思えないのが、戦後に生まれた魔族達の総合的な思いだった。



 ルーシュとレナだが、流石にずっとお世話になるわけには行かないと考えてしまう。客として来ているものの、レナの食費は1日小金貨1枚分というのは普通に考えても高すぎる。

 クリストフはレナの食費くらい持つと言ってくれたが、ルーシュとしてはそれにかまけて働かないのは良くないと、レナの食事は自分で稼ぐと張り切っていた。

 『女の飯も稼げない男はクズだ』という母親からの教育が一番であるが。


 ルーシュはここに宿泊する間、銀の林檎屋台を再開する事にしようと思い立つ。

 その旨を伝えた上で、ルーシュはレナと一緒に、アングレーム邸にある大きい庭を見回しながらクリストフにお願いをする。

「銀の林檎を植えたいですと?」

 提案したのは、この広い敷地に銀の林檎の種を植えて育てようという事だ。

 レナはそんな話をするルーシュを眺めながら、今日の食料とばかりの銀の林檎を生で食べていた。

「お庭が広いしダメかなぁ」

「まあ、否定する法律もありませんし、王都の中にあるからモンスターも湧いてこないでしょうし、構いませんよ?」

 とクリストフは考えながら口にする。

「やったー。ありがとー」

「ですが、種を植えても、育つまでに時間が掛かると思うのですが」

 クリストフは首を捻る。

「えへへへへー。まあ、見てて」

 ルーシュはレナが食べ終えた銀の林檎の食べかすを貰う。当然だが種が残っている。

 その種を庭に植えると、ルーシュは大地に手を当てる。

「じゃあ、銀の林檎の木、育て~」


 ルーシュが大地に光の魔法を使うと、大地から芽が出て、それが大きくなっていき、樹は育って大きい枝葉を揃えた銀の林檎の樹が出来る。さすがにピドの北東にあった林檎林ほど大きくは無いが、普通の林檎より大きい樹がしっかりと根を下ろしていた。

 青々と繁る葉の中には、銀の林檎が光り輝いている。


「おお、これは凄いですな」

「最初はちょっと魔力を使っちゃうけど、太陽の光を浴びる事で、大気や地面から吸収した養分を魔力に変換して林檎を作るらしいんだよ。これ、中央大陸に畑を作って、暗黒世界に供給したら、もっと食事が豊かになると思うんだけどね」

 ルーシュは空を眺める。

「さすがはバエラス閣下といった所ですな。それにしても、魔族が使えないとされている聖なる魔法を使えるとは驚きですが…」

「んー、昔ねー、死人を生き返す研究をした際に覚えたのー」

「ルーシュ殿は確か14歳でしたよね?」

 魔族は子供のような大人がいる。ルーシュは精神年齢的にも14歳という年齢は合致するが、クリストフは何故そんな子供が死者蘇生の魔法を研究したのかと驚いていた。

「4つの頃にね、大好きだったお姉さん、えーと王妃様?が亡くなった時にね、研究したの。魔王様はそんな無駄な事をするよりは、他の事をしようって言ってたんだけど、どうにも納得いかなかったんだ。で、死者蘇生魔法の存在がないのは分かった変わりに、聖なる魔法?って人間には呼ばれているけど、まあ、魔族が使えないとされている光の魔法を覚えたんだよね」

「ほほう。それは凄いですな」

「前にクリストフさんが言ってたでしょ?魔族は魔族特有の見えるものがあるって。僕は特に魔力に対しては鋭敏な感性を持っているみたいでね。精霊も見えるし、魔力も見える。魔法だけで構成されているものであれば、何が原因で何が起こるのか予想できる」

「ルーシュは魔法を禄に使えないくせに、魔法の解析だけは凄いよね」

「分からなければ精霊さんに聞けばいいのさ」

 ルーシュはキラリと目を輝かせる。全員が、それは自分で解析して無いじゃん、と心の中で突っ込む。

「そもそも魔力の加減が出来ないから魔法が使えないんだよ。僕の使用魔力に対して、皆が使ってる魔法は余りにも適応可能な最大魔力量が少なすぎる。何やってもオーバーヒートしちゃうんだから仕方ないでしょ」

「魔力が大きすぎて加減が出来ないと。確かに、そんな高い魔力でもない限り、あんな巨大な生物と戦うなど無理でしょうな。今回ばかりはルーシュ殿に感謝でしたな」

 クリストフはうんうんと頷いてニコニコしていた。色んなものに興味があるようで、クリストフは歳をおいても精力的である。なので、ルーシュという未知の存在は彼の知的好奇心を揺さぶるのだろう。

「そういえば…ルーシュも私もクロードも普通にクリストフさんと話してるけど、敬語じゃなくていいのかな?」

「ルーシュ殿達は他国民ですし、クロード様は我が国の英雄ですし、構わないのでは?むしろ国家がバエラス領と対等の立ち位置になった際には、国王と対等であるべきでしょう?」

「言われてみれば…ぼくは君主だった」

 ルーシュは自分でもすっかり忘れていた。バエゼルブ領の君主な筈なのだが、誰にも敬意をもたれず、最近は仕事もほとんどしてないので、うっかりと忘れていた。

「1年前に父親が蒸発した所為で、繰り上がっただけの君主だけどね」

「小さい頃から、民草には敬遠されてたし、勉強を打ち切って、仕事が忙しくなっただけだし、放置しても普通に回っちゃうからすっかり忘れてたよ」

 魔族は大丈夫なのだろうか、という心の声がどこからとも無く聞こえてきそうだった。


 予想以上に説明が長々となってますが、元の内容はこの3倍以上になります。一生懸命削りました。

 質問魔であるルーシュとクリストフのコンビはあまり組ませてはいけない、というのが今回の結論ですね。

 ルーシュが光の魔法を使える経緯は才能ではなく努力によるものです。魔族は光の魔力=生命力なので、魔力を体外に大量に放出する事が苦手です。

 魔法は、魔法陣は少量の魔力で描けます。呼び出された精霊は無理やり動かされるのを良しとせず、魔法行使者から魔力を受け取って魔法を実現します。

 これは第1章でルーシュがクロードを空に飛ばす際に精霊に魔力を与えた原理と同じだと思ってもらえればよいと思います。

 神聖教団がは聖なる魔法を魔族が使えないのは邪悪な所為と表現しますが、体質的な問題なんですね。なので魔公は文系理系体育会系とで比較すると意外にも体育会系が多かったりします(笑)。

 この章では、ルーシュの回復魔法無双伝説が幕を開けますので、ここら辺でちょっと触れておきました。。

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