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勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
第2章 イヴェール王国騒乱
37/135

車に揺られて

 翌朝、ルーシュ達は王都から迎えに来た馬車に乗るべく、ミレドと別れの挨拶をして、冒険者の館の前へとやって来ていた。

 ルーシュとレナは銀の子狼のハティと金の子狼のスコールの2人と2頭は、冒険者の館の前で馬車が来るのを待っていたのだが、馬車は存在しない。

 冒険者の館の前に置いてあるのは車輪のついている金属の大きな箱だった。


 王都から馬車がやってきた筈なのに、身元不明な金属の箱が置いてあるのである。車輪がついているので押せば動きそうだが、この大きい箱を見て王都からやって来た馬車は停める場所が無く困っているのではルーシュ達と感じてしまう。

 ルーシュはバカではない。いや、バカだ。バカではあるが流石に馬車くらいは知っている。馬車というのは馬に引かせる車だ。

「この大きい箱はなんだ?車輪がついているのだが馬がいないからこれは馬車ではないよね?」

 ルーシュはまるで難問を突きつけられたように首を傾げる。

 そう、冒険者の館の前には馬車はないが車はあるのだ。

 大きい弾力の高そうな黒い車輪が昆虫の足の様に6個ついている。金属製の箱は大きく、中には椅子が設置されていた。後ろの荷台の大きさは一人部屋程度の大きさはあろうかというほど広い。全て鉄で出来ているようで、重くて馬が引くには相当難しそうだった。御車台にはヘンテコなハンドルがついているのだが、馬の手綱は一切ついていない。

「ルー君クイーズ!さあ、このヘンテコ車は何でしょう!」

 ルーシュはクルリとレナの方を見て訊ねる。

 レナは不思議そうに首を傾げる。

「馬車…?でも馬がいないし、むしろ馬が乗れそう。はっ、これは馬車の荷車だ!」

「馬車乗ってないよ」

「だよねー。なんだろー、このずんぐりむっくり」

 レナは不思議そうにしていると、クロードがやってくる。

「おはよう、どうしたのルーシュ」

 クロードは眠いようで、あくびをしながらやってくる。クロードの相棒である黒い馬のロベールは背中に乗っているマリエッタを起こさないようにゆっくりバランスを取りながら歩いている。馬の上で寝るマリエッタも大概だが、馬も馬で凄かった。

 ルーシュはその様子にに驚いていると、

「馬車なんて停めてないよ?どこに馬車あるの?」

 レナはクロードに訊ねる。


「ふーむ、館の前にあるのは馬車のようで馬車じゃない車のみ。よーし、ここでクロード君クイーズ!さあ、この変な車は何でしょう!?」

 とクロードは開き直って逆にクイズ形式にして訊ね返してみる。


 するとレナは鼻で笑った。

「はっ…勇者がルーシュと同レベルとか笑止」

「え、何でそんな冷たい対応!?」

 レナもまさかクロードが、先程ルーシュのやった事をそのままやるとは思わず呆れてしまっていた。

「にゅー、眠いのです。クイズなのです?」

 クイズと聞いて、眠たい目を擦りながら、マリエッタは馬の上で体を起こす。お子様はクイズが大好きなのだ。

 だが寝ていたところからおきようとしたので、バランスを崩して落ちそうになる。しかし、ロベールという黒馬はマリエッタのバランスを支えるように体を動かして落下を防ぐ。

 マリエッタは落ちそうになって、どきどきして胸を押さえつつも、お陰で目が覚めたようであった。

 だが、それ以上に、この馬が凄いとルーシュはクロードの飼い馬に尊敬の視線を向けていた。

 するとスコールはルーシュの肩の上に乗ると、ルーシュの頭をポンポンと叩いて、『あれだよ、あれ。お前も見習えよ』と言わんばかりに、右の前脚でロベールの方を差す。

「ごめんなさいよっと」

 ルーシュは頭を下げると、そのままステンとスコールは地面に落ちてしまう。スコールは慌てて立ち上がり、ルーシュを見上げて睨み、ルーシュは両手を組んで上から見下ろし、ふふんと鼻で笑う。

 スコールとルーシュの間に火花が飛ぶ。いや、比喩ではなく本当に飛んでいた。ルーシュとスコールの間に凄まじい魔力が膨れ上がり時空が歪み出す。

 仲良しであるが、たまには喧嘩もするのだ。

「こら、男達、喧嘩しない。ピドを出て行く前にピドを滅ぼしかねないんだから」

「発つ鳥、跡を残さずだよ!」

「全て消す気か!」

 レナがルーシュの後頭部を叩き、ハティがスコールの後頭部を叩く。2人は悔しそうに涙目で振り向いて見るのだが、レナとハティの鋭い視線に黙らされてしまう。



「まったく、スコールまでルーシュと同レベルとか笑止」

「わううっ!?」

 レナの失笑にスコールは愕然とした鳴き声を上げる。

「ところでクイズって何なんなのです?」

 マリエッタは目をパチパチしながらクロードのほうを見る。

「あれは何かって事だけど」

 クロードは車輪のついた鉄の箱を指差して訊ねる。

「ああ、それは知らなくて当然なのです。勿論、王都にいた事もある私は答えを知っているのです。なのでクイズは知らない人が答えるべきなのです」

 マリエッタは納得したように首を縦に振る。

「ようするにこの巨大なヘンテコボックスは王都では見かけるものなんだな?」

 ルーシュは唸るように箱を見る。

「そうなのです。主に偉い人が使う事が多いです。その理由は高価だからなのです」

「そりゃまあ、高いだろうね」

 ルーシュもこれだけ巨大な金属の箱がこの形に意図して変形されて作られているのを見た事が無い。つまり、それほど高価なのは明らかだ。

「うーん…馬車の入れ物じゃないとくれば、……はっ…王都の人達が泊まる為の家だ!」

 誰も泊まってないのにとんでもない発想をするレナであった。

「いや、これが馬車なんじゃないの?実は見た目と違って軽くて引きやすいとか。たくさん馬が後からやってくると見た!」

 クロードは自信有りげに口にして、箱を押して動かそうとするのだが、びくりとも動かなかった。

 ルーシュはどれもピンと来ないので、さらに首を傾げる。確かに家にも見えなくもない。しかし、鉄の塊はどう考えても風通しが良すぎる。ガラス戸のついていない窓はこの季節だから良いが、冬場は外気にさらされて寒い事請け合いだった。さらに馬車だという声もあるが、誰がどうやって引くか謎だった。そもそも引っ張る為の引き手もないのだ。

「なーんか、大きい魔石が組み込まれてるし、魔法で勝手に動いちゃうとか?」

 ルーシュはそんな事をぼやくと

「あははははっ!ルーシュ、それは考えすぎだよ~!暗黒世界のバカ四天王と呼ばれるだけはあるよ」

「こんな車が勝手に動くわけ無いじゃん!これだからルーシュは頭が残念な子って思われちゃうんだよ」

 レナ、クロードは腹を抱えて大笑いする。そこまでバカにされると思わずかなりショックを受けるルーシュがいた。

 だが、マリエッタは拍手する。

「正解はルーシュお兄さんなのです。そうなのです。これは世界的にもまだまだ多くは無いのですが、魔導車という魔石を組み込んでエネルギーを供給して、魔導機関で車を回すという画期的な車なのです。まだ、王族や貴族、有数の商人しか持ってないものですが、馬車よりも速くて長く走るのです」

 マリエッタの解説に大きくクロードは驚く。

 だが、レナはというと「ルーシュ如きに負けた。ルーシュなんかに負けた」とうわ言を口にしながら放心状態になっていた。

「マドーシャ」

 ルーシュは新しいもの好きなので興味深そうに、目を輝かせてその車を眺めていた。

「ルーシュお兄さんは機械が好きなのです?」

「よく分からないけど、なんだかすごいっぽいよ。かっこいー。……魔力を入れたら動くのかな?」

「ルーシュ!ルーシュが魔力を入れたら間違いなく爆発するから駄目だよ!」

 レナは慌てて止めに入る。ルーシュはそういわれてショボンとしてしまう。

 魔導機器は暗黒世界にも存在する。代表的なものは暗黒世界を明るく照らしてくれる魔導灯と、魔族が食事や風呂などに使う魔導窯に代表される加熱機器である。他にも毒の沼地を家の中に引き込んで浄水して飲み水にする設備にも使われる。

 だがルーシュは使用を誤って壊した事があるので、レナは使い方も分からない魔導機器にル-シュを触れさせないようにする。

 ハティはルーシュの頬をなめて励ますのだが、喧嘩中のスコールはルーシュの肩に乗ってもツーンと丸まったままだった。喧嘩してても肩に乗ってるあたりが余り、喧嘩しているように見えないのだが。


 一行が話していると、見知った老人が2人の連れを従えてやってくる。調査団のリーダーを務めていた老人と直にルーシュは気付くのだが…その男の名前を覚えてない事に気付く。

「ほっほっほっほ、久しいのう。魔族の少年に勇者殿」

「ゆ、勇者は辞めてください」

 クロードは慌てて否定していた。その言葉に老人の後ろにいた男女の2人が興味深そうにクロードを見る。

 クロードよりも老人の後ろに入る男の方が強そうである。ルーシュの胴体より太い腕をしており、身長はざっと2メートルほど。以前の勇者ボリス・ノイバウアーよりも屈強な体をしているのだから驚きだ。

 ルーシュはこの人を何故に前回の調査任務で連れてこなかったと突っ込みたい気持ちでいっぱいだった。

「改めて自己紹介をしましょう。私はクリストフ・アングレームじゃ。まあ歴史学や考古学をしておる学者じゃな。イヴェール王国に仕えておる」

「えと、もしかして…貴族の方ですか?」

 クロードはおずおずと尋ねると、クリストフは軽く笑い流す。

 するといつの間にかマリエッタはロベールから降りていて、クロードの裾を掴んで横に来ていた。

「アングレーム家は侯爵の家で、お爺ちゃんは後継者に継がせて、名誉侯爵号を持って世界の古い事などを研究している人なのです」

 マリエッタが追加で紹介する。そこでルーシュは背中に背負ったリュックの中から本を取り出す。

「まさか、ただの学者のお爺ちゃんだと思ったら実は偉いとかビックリなのです」

 ルーシュは微妙にマリエッタの口癖が移っていた。マリエッタは真似をされて少しだけ不服そうな顔をする。

「ま、ただの隠居じゃよ」

 クリストフは首を横に振って謙遜する。

「えーと、僕はクロードで。家名はないです。イヴェールの北の山奥にあるアルベール村の牧場の手伝いをしてました」

 とクロードが言う。

「僕の名前はルーシュだよ」

 とルーシュは手をあげる。

「預言者様に使わされたマリエッタなのです」

「えと、ルーシュの仲間のレナです?」

「わん」

「わおーん」

 一通り自己紹介をするルーシュ達。まあ、ちゃんと自己紹介してなかったよなとは全員の意見の一致である。そこでクリストフの後の人間も自己紹介をするのかと思っていたのだが、自己紹介もせずに、

「それではどうぞ、中へ」

 魔導車の中へと通される。偉い人の護衛は付属品みたいなものなので、一々、自己紹介とかはしないらしい。



「他の人たちは?」

「彼らは運転手と護衛ですな。まあ、盗賊に襲われる事はまず無いので、護衛は必要ないのですが……念の為という奴ですな」

 とクリストフが言う。先日、火山で殺されかけていたこともあったからだろう。

「ウンテンシュ?御者さんじゃないの?」

「馬を御するから御者でしょう?これは御するものではなく、明確に機械を操作して運転するので、運転手なのですね」

「というと、このマドーシャは既に御されている?」

「というよりも魔導機器が御されてなかったら大変ですな。暴発しまくりでしょう?」

「その通りだ!」

 ルーシュは自分の迂闊さに大笑いする。相変わらずマイペースで気の向くままに話をしていた。

 そして、この飄々としたクリストフという男なのだが、このマイペースが微妙にルーシュとマッチしているようで、火山探索の時も世間話をしていたように、ルーシュと気が会うのか、仲良さげに話し合っていた。

 レナはこの2人を見て確信する。クリストフも変人の部類だと。



 魔導車には左右に2つの乗車口があり、後に荷物を入れる台があり、そこには引いて開けるタイプの開閉式ドアがある。

 左右の入口の前方は御車台ではなく、運転席に続いており、クリストフの連れてきた2人の男が左右から乗り込んで、片方が中央の運転席に、もう1人の男は運転席の左側にある座席に座る。

 奥のほうの入り口から、荷物を入れるような大きいスペースにルーシュ達はリュックを置いて、最後にクロードの連れてきた黒馬ロベールが中に入る。ロベールは従順で、休むように魔導車の荷物置き場に座る。

 中央の入口にある客席は広く左右各5人ずつは乗れそうな広さだ。クロードは中央の左側の入口に回りこんで、ロベールに近い場所に行く為、一番奥の座席へと向かう。その隣にマリエッタが座り、クロードの前にルーシュ、その隣にレナが座り、そして全ての入口を閉めながら、マリエッタの隣にクリストフが座る。


 魔導車は直に魔力が入ったようで、音を立てて魔導車が振動を始める。

「何か揺れてるよ?大丈夫?」

 レナは少しおっかなびっくりな顔で呻く。胸元が特に大きく揺れてクロードはついついそっちの方へ視線を向けてしまうので、むううとマリエッタは膨れっ面を作る。

「この魔導車はスベルディア機関と言いまして、スベルディアという西方の技師<エンジニア>が開発した魔導機関によって動くのです」

「マドーキカン!どういう構造なの?魔力も精霊も動く力を出してないよ?」

 ルーシュは目を輝かせてクリストフに問う。

「簡単に言えば、魔導車についている車輪は、魔導機関から生み出される回転力を受けて動くのですな。この魔導機関というのは魔石によって発する火の魔法と水の魔法を交互に使わせて、特殊な油を圧縮と膨張を繰り返させる事でピストンを上下させ、その上下運動を回転力に変換するという方式ですな。詳しいことを言うともっと難しい理論がありますが、それはもっと勉強しないと分からないでしょうし、私も構造はしってますが、それが他の機関と比べてどのように優れているかは知らないのでなんとも」

 とクリストフはさらっと説明して終わらせる。

「ほおお。すげー。スベルディア恐るべし!」

 そんな揺れても、動じていない黒馬ロベールもかなり恐るべしだが、大人しいので誰も気付いてなかった。


 魔導車が動き出す。動き出すとそれがまたかなり速かった。ルーシュ達の飛行速度には劣るが、その速度は騎馬で普通に走らせている速度である。結構ガタガタと揺れる。

「この魔導車ならば20日掛かる移動も、5日くらいですな」

「わうう」

「この程度が速いとは笑止、俺が走れば1日で軽いだと?」

 スコールは得意顔で訴える。ハティは座席の中央にあるテーブルの上に寝転がり尻尾を振りながらうとうと始める。

「ふはははは、スコールめ、負けんぞ。僕が飛べば30分だ」

「ルーシュとスコールは勝手にどこか行けば良いよ」

「冷たいよ、レナ。魔導車に乗ってちょっとハイテンションになっただけじゃないか」

「いや、いつものルーシュのテンションだよ」

 クロードがすかさず厳しい突込みを入れる。

 そうだろうかと、ルーシュはコメカミに指を当てて首を傾げる。

「でも、思ったよりゆれが小さいのです。こんなに速いとガタンゴトン大変なのですよ?ここは王都のように道路は舗装されていないのです」

 マリエッタはクリストフに尋ねる。

「さすがはマリエッタ様。よくぞお気づきで。これは西の大陸で発売された旧式モデルでして、車輪に柔らかい材質をつかい、車体と車軸の間にに揺れを抑える構造を取り付けていて、快適になっているんですよ」

「前に乗った魔導車は凄く気持ち悪くなったですけど、これは意外と大丈夫なのです」

 マリエッタは嬉しそうにしていた。

「前は何でこれを使ってこなかったの?」

 馬車でやって来たのは記憶に新しい。

「山に入るのは分かってましたし、他国の勇者にこんな大事なものを見せられませんから。彼らは普通に奪いかねませんし」

 話を聞けば、他国人の勇者にはこの存在を隠していたようで、帰り道は馬車で連行させていたが、クリストフらは途中の町に置いておき彼らより先に返っていたらしい。クリストフ曰く、連行中のボリスを追い抜いて王都に到着するだろうとの事だった。

「ふはははは、勇者より良い扱いか。よきかなよきかな」

 ルーシュは嬉しそうに笑っていた。狭い箱に入れられて移動するのが果たして厚待遇と呼べるのかは謎であるが。

「まあ、我が国としても、どう扱えばいいか困っている点はあるのですが、少なくとも国家を救った英雄として最高の待遇で迎える準備はあります。申し訳ないのですが、公には出来ませんので」

 クリストフが申し訳なさそうにする。

「何で公に出来ないんですか?」

 レナはそこら辺の詳しい事情から聞きたかった。神聖教団との兼ね合いはあっても自国内なら何やってもいいように感じてしまう。

「そうですな。まず、我が国では王家がラフィーラ教を信仰していますが、神聖教団の教会もあるんですよ。我が国は信仰の自由を認めておりますから。魔王信仰だって認めてますよ」

 とクリストフが言う。

「そんな信仰は魔族にもないよ」

 ルーシュは呻く。昔は魔神信仰が存在していたがが、今はないというのが暗黒世界における常識だ。だが、その魔王信仰という言葉がつぼに入ったのかレナはブフッと噴出して笑い出す。

「ぷふっ……ま、魔王信仰…。あの魔王様を信仰する集団?だめ、我慢できない。ぷふふふふふ」

 凄い失礼な魔族だった。ルーシュも言われてみて微妙な顔をする。

「そんな不幸な信仰があったら、止めないと。自由だからって何をしてもいいものじゃないよね」

 ルーシュの叔父である魔王は、魔公たちにポンコツ魔王とさげすまれているような存在だ。すなわち、魔王信仰はポンコツ魔王を信じ仰いでいることになる。何とも悲しい話だ。

「魔族の偉い人が凄い事言ってるよ…」

 クロードは頭を抱えて呻く。

「実際にありますぞ。魔族達が、自分達をいつか解放してくれるだろうことを願う魔族の信仰が魔王信仰と呼ばれているのですな」

「魔王様に何を期待しているのだか」

 ルーシュは、暗黒世界の魔王はポンコツなので、何か凄い事を期待されても困ってしまうのだった。一応第二王位継承者なので、代理をしても良いが、崇められてもちょっと腰が引けてしまうだろう。


 そんな頃、魔王城では魔王ルシフォーン三世はクシャミを連発していた。だが、娘に『バカは風邪引かないから早く仕事をするのじゃ』と冷たい言葉を受けて、悲しい気持ちになっていたという。


「話がそれてしまいましたな。まあ、信仰の自由を認めているが故に、イヴェールの神聖教団の立場が悪くなるので、ここで裁く訳にはいけないのですな。勇者は中立国のミストラル王国で裁かれる事になるでしょう」

「そっかー。政治の問題だね。面倒だよねー」

 ルーシュは納得したとばかりに頷く。一応、ルーシュはバエゼルブ領の君主、つまりは政治家である。

「まあ、私が来たのには理由がありまして、この魔導車の所有者であったので迎えるのが速いというのもありますが、私は自ら進んで買って出たのですな」

「そーなの?」

「ルーシュ殿はバエラス三世だと聞いております」

「んー、そういえばあまり公にするなって言われてたけど、もうバレちゃってるよね」

 ルーシュは後頭部を掻いて笑い飛ばす。

 こんな軽い子供が上に立っていて魔族の明日は大丈夫なのだろうか、とクロードは本格的に魔族が心配になってしまう。

「当然、魔族事情もくわしいとおもいますので、是非とも魔族の事をお聞かせ願いたいと思ってました」

 クリストフは興味を持った様子でルーシュを見る。歴史学や考古学を先行していると言っていたが、まさか魔族の歴史にまで興味があったとは驚きだった。

 だがルーシュとレナは互いに目を合わせて、微妙に困ったような表情を見せる。

「おしい、惜しいなぁ」

「専門家がお出かけ中じゃなかったらよかったのに」

「専門家がおいでで?」

 惜しがる2人に、クリストフは不思議そうに訊ねる。

「僕らと帯同していたダンタリウス先生は1000年前から、王家に仕えている、魔族の記録をとってきた記録員さんなんだよ。僕らのような魔公に対してこれまでの歴史の教えてくれる先生だし」

「僕ら?ルーシュはダンタリウス先生の話とか寝てたじゃん」

「うぐ。ま、まあ、僕は歴史に詳しくないけどレナは授業を聞いてたから説明くらいは出来るよね」

「んー、できるけど、本当に詳しい事情はダンタリウス先生が詳しいからなぁ」

 レナも困り顔だった。

「それでも構いませんぞ。5日も話す時間はあるのですから」

「おおう」

 5日間も質問攻めは厳しいとルーシュとレナは少しうんざりする。

「まあ、そんなに長々と話すつもりもありませんぞ。暇になるでしょうからその合間にと思ってください」

「暇な時間は本でも読むつもりだけど」

 レナはハンドバッグから何冊かの本を取り出す。レナは相変わらずの本好きだった。

 だがそこでレナのバッグから子供向けの本が現れる。題名は『怪盗バエラス少年』という子供に人気な、バエラスの孫が悪い貴族から金や宝物を奪って市民に配るという義賊活劇である。

「この創作物語、バエラスさんの孫が華麗にお宝を盗むのを音読しようかと…」

「やーめーてー!バエラスの祖父ちゃん、人間に好かれすぎだ!何だ、このバエラスの孫の創作とか、本物の前でやめてー」

 ルーシュは頭を抱えて呻く。

 一同は本物のバエラス三世がいるのに、その創作物がたくさん出ている事実に気づかされる。レナは大笑いしていた。ルーシュ・バエラス三世という存在はある意味で貴重だった。

「こういうのも歴史の醍醐味ですな」

「絶対に嘘だぁ」

 苦悶するルーシュを、クリストフは笑って眺めていた。


 魔導車登場。そもそも魔導機関で動く魔導船があるのだから、魔導機関で動く車があってもおかしくないのです。

 そのうち、馬の代わりに魔導二輪車を登場させたいとは思ってるけど、クロードにはロベールがいるので、乗る機会を作ってません。

 そのうち、ロベールの賢さがわかる話も組み込みたいですが…はたしてそんな機会があるかどうか。

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