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勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
第1章 勇者誕生
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勇者対勇者

 当然だが、戦闘中のルーシュは周りに被害を出さないように動いているので、周りの動きに敏感だった。

 クロードが何故か戦闘中に自分達の方向へ走ってくるのを察して眉根をひそめる。だがアルゴスはお構いなしに、口から灼熱の炎を吐きつけて攻撃してくる。

 ルーシュは、炎がクロードの方へ行かないよう、空を飛んで誘導しつつ、炎を掻い潜り、逆に光の魔法攻撃を放ってアルゴスに穴を開ける。

 だが、アルゴスはほとんど即座に体を復元させていく。


「いつまでだって付き合ってやる!勇者め!」


 ルーシュは再生能力の高いアルゴスに叫びながら、空を舞いアルゴス対峙する。とはいえ、クロードが近付いてきているのを察して、慌てて戦闘する場所を変えようと空を飛ぶ。

 ところでルーシュはいつまでアルゴスを勇者と呼ぶつもりなのだろうか?


 しかし、アルゴスは多少の知能はある。巨大な腕を伸ばして、ルーシュの嫌がる方向へ殴りつけるようにして吹き飛ばそうとする。

 ルーシュは触手によって殴り飛ばされ、地面にグシャリと叩きつけられる。勢いのままゴロゴロと斜面を転がり、巨大な岩山に体を打ち付けて止まる。

「ぐっ……折れたぁ」

 ルーシュは涙目になって、脇腹を抱えながら体をゆっくりと起こす。

 ルーシュは魔力で砕けた骨や、破裂した内臓を即座に治しており、通常の人類ならば既に致死状態である。



 だがルーシュは、さらに近くに走ってくるクロードの姿を見て、さすがに慌てる。戦闘パターンからして、動きを止めると、アルゴスは待ってましたとばかりに灼熱の炎を吐くのだ。

 ルーシュは慌てて背後から走ってきているクロードの方へ全力で飛行し、クロードを捕まえると空へと逃げる。

 飛んだ二人の後を炎が吐きつけられ砂利になっている山の斜面は一瞬でマグマの川へと変わってしまう。



「ななななな、何してるのさ!危ないよ!自殺志願!?」

 ルーシュはクロードの両脇を両手で抱えるようにして空を飛びながら、驚いたように口にする。

 クロードは、ルーシュが仇の親族だと聞いて、頭に血が登っていたのだが、当人の変わらぬ態度に、ルーシュの親族が何であろうとルーシュには関わり無い事を思い知らされることとなる。

 逆にルーシュの慌て様に、クロードは落ち着いていくのを感じたようで、ルーシュに対して落ち着いた口調で説明をする。

「その…ラフィーラ様のお告げがあって」

「何、そのお告げ!勇者に死刑宣告!?気まぐれなの、ラフィーラさん!」

「そうじゃなくて、その…僕の剣なら届くだろうって」

「えー、リーチ短いよ」

 ルーシュの言葉にクロードも同感とばかりに頷く。

 説明が端的過ぎて、ルーシュには物理的な距離でしか伝わっていなかった。

「そ、そうだけど、僕が戦わないとルーシュが死ぬって」

「あんまり変わらないような気がする。っていうか、僕が死ぬくらい長引かせれば、後は誰かがこの怪物に止めをさせるでしょ?」

 ルーシュはいつものような口振りで、簡単に自分の死を受け入れるような発言をする。


「え?」


 あまりにも自然すぎる言葉にクロードは一瞬だけ意味を理解できなかった。

「魔力的には僕のが上だけど、周りを気を使って動かないといけないから、多分僕の方が魔力のロスが大きなって、僅差で僕が負けると見た!でも相手も残り滓の魔力しか残らないんだから、僕が死んだ頃には、軍隊で総動員して戦えば勝てんじゃないのかなー?とか思ってたんだけど」

 ルーシュは普段どおりの様子で、1人で死を覚悟していた事をあっさりと語る。

 だが、残酷にもラフィーラのお告げでは、北の大陸を破棄する事になると言っていた。恐らくルーシュが死ぬまで戦っても軍隊は勝てないのだろうとクロードは考える。

「最初から死ぬ気だったの?」

「いや、まさか。でも、結果として魔族が命を賭けて守れば少しは魔族の評判もよくなるかもしれないし」

 当たり前のように他人に自身の命を使うことを考えているルーシュの視点は、自分以上に魔族全体を考えたものだった。


 クロードは、一時でも自分の村を滅ぼした存在の親族だと言う言葉で、頭に血を上らせて、見捨ててしまえば良いと思った自分をぶん殴りたくなる。

 逆に、何故、ラフィーラ神はそこまで全てを語ったのか理解できなかった。何も言わずルーシュのために戦えといえばよかったのだ。ルーシュの親族が、クロードの家族や村を滅ぼした存在である事までも、明らかにする必要はなかった筈だ。

「ルーシュが死んで、人類は北の大陸を見捨てるだろうってお告げだよ?」

「えー、無駄死に?それはやだなぁ。まー、ラフィーラさんが何を言おうとやるべき事は同じだけどさ。その時その時で、自分が思う最善をするしかないし。もしかしたら何かの間違いとかあるかもしれないし」

 ルーシュは珍しくアハハハハと作り笑いを見せる。

「だけど…僕の剣なら届くって言ってた」

「クロードの剣って安物の鉄の剣じゃん!短いよ!空も飛べないのに!?地面からあの魔石までどれだけ距離があると思ってるの!?ジャンプしても、投げても届かないじゃん!」

 さすがにクロードも、まさか天然ボケのルーシュに突っ込まれる日が来るとは思わなかっただろう。

 クロード自身も勝てるといわれて出来てきたが、勝てるつビジョンが全くなかったのだから致し方ない。

「あきらめてこの辺一体滅ぼせって訳でもないだろうし……役に立たない奴だなラフィーラは。きっと年寄りだから耄碌してるんだな、うん」

 ついにルーシュの言葉の中からラフィーラさんからラフィーラに格下げされてしまっていた。

「ラフィーラ教徒の前でそれ言ったら凄い怒られると思うけど」

「大体、スコールの攻撃が届かないのにクロードの刃が届く訳ないじゃん。精霊が暴走情愛にあるってことは精霊にお願いしても話は聞かないんだから。それこそ、風系魔法の空間そのものを制御した魔法障壁を抜ける程の特別な………」

 ルーシュは口にしてハッとした様子を見せる。

 魔法と口にして、とある事実を思い出したようだった。

「クロードって、何故か魔法や精霊が避けるような変な体質だったよね」

「?」

 ルーシュはクロードに突拍子もない質問をする。クロードは今その体質を問われる意味が分からず首をかしげてしまう。

「そういう事か。そういう発想はなかった。とはいえ、クロードじゃ届かないのは何も変わってないしなぁ」

 クロードはルーシュが何かを思いついたようだったので、ルーシュを見る。ちょうど、自分の両脇を背後から持って空を飛んでいるので自分の頭の上にルーシュの思案顔が存在していた。

 ルーシュはアルゴスから距離を取って攻撃の効果範囲外へと逃げる。アルゴスはルーシュの方へ攻撃をするのだが、その攻撃が届かない上にルーシュが逃げに入ったと勘違いして、逃げる冒険者達の進む方向へと侵攻を始めようとする。

「ルーシュ、勝手にモンスターが皆の方へ行っちゃうよ!」

 クロードは心配するように訴える。

 ルーシュは空を飛んだままクロードの首根っこを左手で掴み直して、右手でちょんちょんと何もない場所を突き風の精霊に声をかける。

「おーい。精霊さんや。精霊さん」

 ルーシュが声をかけると風の精霊がひょこりと現れる。

 なあに?という感じで半透明な拳大の小ささで、2頭身の小人風な存在が首を傾げていた。

 クロードはギョッとする。以前にも見たが、こうも簡単に魔法の究極形である精霊召喚を行なうので驚くのも当然だった。ちなみにこれは精霊召喚魔法ではなく、単純にルーシュが呼びかけているだけなので魔法ではなく精霊術と呼ぶ方が正しいのだが。

「非常に申し訳ないんだけど、この人間が思っているように飛ばさせて欲しいんだけど」

 ルーシュは声をかけると「やだぁ」とばかりに精霊は首を横に振る。

「よーし、じゃあご褒美上げるから。僕の魔力吸うか?」

 すると精霊は諸手をあげてピョンピョンと飛んで喜ぶ。ルーシュは風の精霊と人差し指同士を合わせると精霊は光り輝きクロードの周りを包み込む。

「今のは?」

「精霊を呼んでみたの。にしても…クロードって本当に精霊に嫌われてるんだね。魔力を分けないと嫌がるなんてよっぽどなんだけど。あいつらは気のいい連中だから、僕が頼めばなんだって聞くのに。僕、初めてお願いを断られたよ」

「何か、色々とショックなんだけど…。そっか、精霊にはそんなに嫌われてたのかぁ…」

 クロードはフワリとルーシュと一緒に空を飛ぶのだが、ちょっと虚ろな目である。そんなにショックだったのかとルーシュはクロードを眺める。

「で、あのアルゴスってモンスターの核となってる魔石は…精霊が封じられてる。だから…クロードの刃なら、確かにラフィーラが何か言ってた様に、魔法の障壁を貫くかもしれない」

 ルーシュの提案にクロードは理解する。

「僕が極力攻撃を引きつけて、魔石の近くまで誘導するから、そのあと一気に飛び込んで魔石周りの防御障壁と魔石に攻撃して!」

「分かった。分かったけど…」

 クロードは理解したが、あの精霊の嫌われ方を見てしまうと、自分が攻撃しようとすると魔法が避けた場合、エンガチョとばかりに精霊が逃げている姿をダブらせてしまいそうで悲しくなってしまう。

「いくよ!」

「お、おう!」

 ルーシュが先頭を飛んでクロードがそれに付いて行く。

 するとアルゴスもルーシュに気付いて再び攻撃をしてくる。ルーシュはアルゴスから放たれた風の刃を魔法障壁で受け流し、炎の息を消滅<イレイズ>の魔法で吹き飛ばし、その爆発を迂回してクロードを背後に守りながら空を飛んで、アルゴスの魔石へと近付く。

 だが、アルゴスは最後の防衛として、触手を伸ばしてルーシュとクロードの両方を潰しにかかる。

 ルーシュは自らの体を放り投げるようにしてクロードの盾となり、右半身が千切られてもクロードへ触れられないように、アルゴスの攻撃を受け流す。

 即座に魔法で腕を復元させるのだが、アルゴスはさらに大量の触手をルーシュとクロードへと襲わせる。

 ルーシュはクロードへの攻撃だけは優先的にバリアで排除する。拍子に右足が触手で奪われ潰されてしまったが、意に返さず更に奥へと突き進む。

 ルーシュから飛ぶ鮮血は、クロードの目の前に降ってくるがそれらは障壁によって弾かれる。クロードはルーシュがどれだけ苦しい思いをして他人を守っているのかだけは理解する。

 ルーシュはその全てを自分が多少食らってもクロードには一切当たらないように防御を展開して、アルゴスへと更に近付く。


「くらええええええええええっ!」


 ルーシュはアルゴスの額にある魔石の正面へとクロードを背後に連れたまま到着し、光撃<レーザー>魔法によって魔石への攻撃を叩き込む。アルゴスは復元させ続ける触手を前にするがそれらをすべて貫く。しかし、ルーシュのレーザー魔法は、アルゴスの魔石の手前に発生した強力な魔法障壁によって阻まれて、魔石への攻撃を一切に拒む。

 さらにルーシュは魔法障壁へ復元させた右拳を叩きつけるのだが、それも互いに反発しあい、逆にルーシュは大きく吹き飛ばされる。

 だが、ルーシュの攻撃によって、アルゴスは後退り立て直すのが精一杯で反撃までいけない状況となっていた。

「クロード!頼む!」

「つああああああああああああああっ」

 魔石に到着してもルーシュが態々魔法を使って戦っていたのは、全てはクロードでも攻撃できる隙を作るためだ。

 クロードは剣を前に突き出して、風の精霊の力を借りて空を飛びながら一気にアルゴスの核となる魔石を目指して魔法障壁へと突き進む。


 クロードの刃は、スコールやルーシュさえ貫けなかったアルゴスの魔法障壁に対して簡単にヒビが入る。クロードは前へ前へと飛ぼうとするのだが、アルゴスの障壁は壊れても次々と生成されて押し返そうとし、簡単には崩れない。

 そして一瞬の均衡がアルゴスにとってはチャンスであった。アルゴスは魔石の下にある巨大な目をギラリと光らせ、その下についている口を大きく広げ、灼熱の炎をクロードへと吐きつけようとする。

 クロードは防御する術を一切持たない。

「させるか!」

 ルーシュは超高速で飛びながら回り込んでアルゴスの放つ炎の前に立ち、光の魔法で防御障壁を展開する。

 炎はルーシュの魔法障壁を壊して、ルーシュは両腕を燃やして地面へと墜落する。

 クロードに炎が届かなかった事だけを見届けて。


 アルゴスの障壁の力が緩んだ瞬間、クロードの刃が魔法障壁を一気に破壊する。そのまま人間の体よりも巨大な魔石へと刃が侵入して深く突き刺さる。

「貫けーっ!」


 刃が魔石に突き刺さり、魔石に大きいヒビが入る。そしてガラスが破壊したような大きい音を立てて、魔石がガラガラと崩れ落ちていく。

「グオオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」

 同時にアルゴスの断末魔の悲鳴が上がり、巨大な体躯は地面へと崩れ落ちていく。


 こうして1つの伝説が作られ、新たなる勇者が誕生したのだった。

 サブタイトル、勇者対勇者。誰と誰やねん、みたいな声が聞こえそうですが。

 片や神託を受けども低レベルで一般的には偽者扱いされてしまう勇者クロード。片や諜報員が幼き日より想像し、魔公王子さえも震撼させた恐るべき勇者(?)アルゴス。

 やっとクロードが勇者らしい活躍をかけました。どこかの諜報員は諜報活動しないで戦場の真ん中で活躍してたりしますが。


 元は、まじめな話を作るつもりだったのに、ルーシュという主人公に余計な属性を付けすぎた為、いろいろと不都合が出ております。作者の都合を無視して動き回るので、もう勝手にしてくれ、と半ば諦めています。


※私的な都合で週末はお休みしますので、次の更新は数日後となります。月曜には再開するかと。

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