神託
諜報員(仮)が勇者(仮)と戦う最中、勇者(真?)はみんなと一緒に逃亡中です。残念なくらいに混沌としてきました。今回は逃亡中の皆さんの状況です。神聖教団の勇者は背景にさえも出て来てません(笑)。
レナは顔色を悪くして、ルーシュが戦う空を仰ぐ。
「互角…みたいだけど…」
「ほとんど手が生えたり、人じゃないのです」
クロードとマリエッタもアルゴスを迂回して逃亡路を走っているのだが、レナはルーシュの方を心配しながら走っていた。
「でも…あれは凄く痛いんだよ」
「え?」
レナの言葉に全員がレナの方を見る。
「向こうの魔法生物は知らないけど、ルーシュはただの魔族に高い魔力がついているだけだから、体は普通に弱くて、痛がりなの。…何度も何度も腕や足を取られたら凄く痛いの。普通の人なら死ぬような痛みを何度も受けても死なないから…。全力で吹き飛ばせば負けないと思うけど、それをすると私達が死んじゃうから」
レナは心配そうにルーシュを見上げる。
「「くーん」」
ハティとスコールは役に立たなくて申し訳なさそうに耳を垂れさせる。
「くそ!年下の子供が強いからって、1人だけ痛い思いさせて、僕は何をやってるんだ!あの日、誓ったはずなのに!もう誰も殺させないような強い男になるんだって!」
クロードは悔しそうに口にする。
だがどうにもできない。アルゴスはモンスターという括りで考える方が可笑しいほどの怪物である。
「200年前、勇者様方は封印するだけで精一杯だったと言います。彼は恐らく素性からして魔公でも上級魔公でしょう?彼が魔界君主バエラスと同格の上級魔公でなければ既に我々は全滅していたでしょうし、仕方ないと思いますよ」
調査団の老人は慰めるようにクロードに声をかける。例えで出した言葉だが、真実を見事に言い当てていた。
「しかし避難してあげたいにしても、これじゃ逃げ場が………。大きく遠回りするにしても1日以上の遠回りになるだろうし」
クロードは、自分達同様に必死になって逃げようとする冒険者達を目の端で捉えつつ口にする。何せ、山のような大怪物が敵なのである。戦ってるルーシュもそうだが、もはや人智を超えていた。
そんな中、マリエッタが空を見上げる。
「はい?あれ?何か…聞こえる…?」
マリエッタは不思議そうに空を見る。
「大丈夫、マリー」
クロードもこんな状況でも逞しく頑張るマリエッタを心配する。冒険者達さえ恐慌状態で、自分だって情けなく狼狽えているのに、マリエッタのような小さい子供が落ち着いて、恐怖を我慢してついてきているのだ。クロードはもしも自分がマリエッタと同じ年代の頃にこのような状況に陥って、落ち着ける自信は無かった。
「だ、大丈夫なのです。ただ…その空から?分からないのですが…声が……あ」
マリエッタはいきなり気絶して、ロベールの背中からずり落ちてしまう。
「マリー!」
クロードは慌てて支えようとする。近くにいたアマンドも慌てて駆け寄る。
だがクロードの手がマリエッタの体に届く前に、マリエッタ自身は体を青く光らせて宙へと浮かびだした。
そしてマリエッタの口から、マリエッタの声とは異なる声がつむぎ出される。
『勇者クラウディウスの末裔たるクロードよ。このままでは我が友シャイターンの末裔ルーシュは亡くなるでしょう。その結果、北の大陸は滅びます。これは私が貴方達、人類に伝えるべき、残された数少ない選択の一つです』
マリエッタの小さな口からつむがれた言葉は、神の声のように一帯に響く。逃げている冒険者たちも、調査団の面々も驚いたようにマリエッタの方を見る。
「神託」
アマンドは恐れるように口にする。レナもその言葉がマリエッタではなく、遠くどこかにいる神にも等しい何者からか出された言葉だと理解する。調査団の老人は興味深そうにマリエッタを見上げていた。
『貴方の村を滅ぼした男の親族であるルーシュを見捨て北の大陸を破棄するか、この場で戦うか選びなさい。貴方の刃は、きっと対魔公用人造魔法生物アルゴスに届くでしょう』
全て言い切ると、マリエッタは力を失ったように再び地面に落ちそうになるので、今度はアマンドがしっかりと支える。
老人が、レナが、クロードが、そのお告げを聞いて凍りつく。
「今のは?」
一体、今の変な現象が何なのか、レナは知っている人がいないかと周りに訊ねる。
「恐らくラフィーラ様のお告げかと。マリエッタにはラフィーラ様からの神託を何度となく受けた事があります」
アマンドは説明をする。
「ちょ、ちょっと待った!どういう事なの!僕の……僕の村を滅ぼしたのはルーシュの親族って!」
クロードは目を血走らせて訴えるのだが、アマンドはわからないとばかりに首を横に振る。
「ルーシュが死ぬって……」
レナはルーシュの死を預言されて目の前が真っ暗になったように感じる。
「ラフィーラ様のお告げは絶対です」
アマンドの厳しい言葉にレナは戦いの状況を再び見る。
ルーシュは逃げる冒険者を助ける為に長期戦を展開していた。だが、アルゴスと長期戦をするなら、確実に負けるというお告げだと理解する。
レナはルーシュを追いかけようと空を飛ぼうとするのだが、そこでハティとスコールがズボンを嚙んで引き止める。
「…足手まとい?」
「わう」
「くーん」
ハティは叱咤するように鳴き、スコールは役立たずでごめんなさいと謝るように鳴く。
レナはそこでクロードを見る。
「お願い!ルーシュを助けて!」
レナは取り乱したようにクロードの裾を掴んで涙目でに頭を下げる。
レナもクロードが役に立つとは思ってなかったが、お告げが真実ならクロード以外に助けられる人材がいないという事だ。
「ルーシュが負けるとは思わないけど…ルーシュは絶対に自分の命より有象無象であれ生き残ってる人たちの命を優先させるバカなの!本気でやれば勝てるのに余波を恐れて絶対に大規模破壊魔法は使わない。ルーシュ……顔が全然余裕なかった。いつもへらへら笑ってるのに」
レナはお告げの信憑性があまりに高く、不安に思う事がいくつも過ぎってしまう。
クロードは拳を握って俯いていた。まさか旅の目的の1つである『自分の村を滅ぼした相手を見つけて裁く』という目標に対して、偶然仲良くなった魔族の友人がその親族だったとは思ってもいなかったからだ。
急すぎて、いまだ混乱をしていた。
そんな中、老人はレナとクロードの間に立つ。
「ルーシュ君の親族がクロードさんの村を滅ぼしたと?」
「ラフィーラ教徒にとって、ラフィーラのお告げは絶対です。恐らく…嘘ではないと思います」
クロードは老人の言葉に対して出来るだけ冷静に応えようとするが、混乱しているので自分でも何を喋っているかは怪しかった。
自分の勇者だというお告げを実際に聞いたわけではないので、これまでは全く信じていなかった。だが、目の前でお告げを見せられては文句のいいようもなかった。
「親族だと言ったのです。当人は関わりありません」
老人は落ち着いた様子で首を横に振る。
「でも!」
クロードは慟哭するように首を振って大きく叫ぶ。それ以降の言葉が出てこない。自分は何をしたいのか、何をすべきなのかを迷っていたからだ。。
「お告げが真実ならば200年前の勇者クラウディウス、貴方の祖先は…ルーシュ君の親族を大量に虐殺している事にもなりますよ」
「!」
冷や水をかけるように調査団の老人は口にし、クロードはその事実に気づく。
「世界では魔族の多くが虐げられていて、魔族にとって人間憎しと思うような情勢であっても、彼は命をかけてこの場の人間を救おうと努力してます。ですが…ラフィーラ様はその願いは届かないと伝えてくださり、そしてそれを避けるにはクロードさん。貴方の力が必要だと仰ってます。貴方の苦しみは私にはわかりません。ですが…命をかけて恨んでも良い相手さえ守ろうとしている少年を見殺しにするなど、したくはありません。私に力があれば…良いのですが…」
老人の言葉に対して、クロードは俯き、そして自分の腰に差してある剣の柄を握る。
「くそっ!」
クロードは剣を抜いて戦っているルーシュとアルゴスの方へと走って行く。
自分に何ができるかもわからないが、ただ一つだけ言えるのは、ルーシュを見殺しにはできないという事だけだった。
ここに来て天の言葉によるネタばらし。ラフィーラ神は見事に混乱を与えてくれました。かの神はここで勇者に決断を求めます。
そもそも200年前にラフィーラ神による勇者の神託は「みんな仲良く」の方針から大きく外れ、魔王を討伐し、人間主義とも言うべき神聖教団なるものを生み出し、混迷へと向かわせてしまってします。きっと挽回するために一生懸命なのでしょう。
さて、これまで、クロードが自分の実家の事を話すと、なぜかすべて過去形だったことに気付いたでしょうか?実はこういう事で冒険者として村から出てきていたのです。
実はその実家自体もいろいろと隠されている設定があるのですが、果たしてそこまで作者が書く事があるのか?とりあえず勇者クロードが自身の因縁を断ち切るところまでは書きたいと思ってます。問題は私の構想を無視して、ルーシュが勝手にクロードが断ち切るべき因縁をぶち壊さないかどうかが問題ですが(笑)
ちなみに、ルーシュのポテンシャルは魔王クラスでも所詮は14歳児であり、まだまだ成長期の未熟者です。魔王ルシフォーン三世や、ハティ&スコールのお母さんことフェンリルクラスだと、アルゴスなんて瞬殺です。力関係でいうとこんな感じ。
魔王≒フェンリル>ルーシュ>>ハティ&スコール>>魔公>>>>>>普通の人類
いずれはRPG風にステータス表でも出してみるのも面白いかもしれません。




