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勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
第1章 勇者誕生
28/135

伝説の勇者(?)が現れた

 ルーシュ達は魔法生物以外の妨害もなくあっさりと山の頂上に到達する。

 あっさりと言っても、かなり長々と歩き続けた結果である。実に2泊3日の高さ4キロ距離50キロに渡る登山旅行であった。

 火山灰と溶岩が降り積もってできた巨大なボルカン山、雲の上をさらに歩き続けて辿り着いた場所は巨大な火口が見える。

 火口は何かで塞がれているようにも見えるが、湯気と煙で奥の方がよく見えない。魔法の結界のようなものを感じるので、ルーシュは目を細めて覗き見る。

「んー、何かを魔法で封印してる?」

 ルーシュは目を細めて様子を見る。

 するとゴゴゴゴゴゴゴゴッと何かが蠢く音がして、地面が大きく揺れる。同時に煙がたくさん噴き出る。パーティ一行もざわつく声が聞こえてくる。

「レナ、どう思う?魔力が弱すぎてよくわからん。何か魔法文字で封印みたいなものが書かれているように見えるけど。あれは永続固定術かな?」

「多分そうだと思うよ。っていうか、ルーシュの方が何となくで分かっちゃうと思うんだけど」

「むー…精霊の循環が入っているみたい。僕は精霊に無理やりいう事を聞かせる魔法は専門外だからね」

「というか基本的に魔法は全て精霊に無理やりいう事を聞かせるものだけど」

 レナは呆れたようにルーシュの言い訳を一言で斬り捨てる。ハティとスコールはというと、魔法のことは面倒くさいとばかりに、ルーシュの両肩に乗ったままあくびをしていた。



 すると馬車から降りてきた調査団の7名がやってくる。

 勇者一行であるボリス達10名は、調査団とは別れて、火口の近くへと向かっていた。冒険者達他80名程度は調査団を守るように火口の方へとついてくる。ルーシュもそこに混じって一番前へと走って火口を覗き込む。

 火口の形状は思ったよりなだらかな傾斜であった。奥の方はやはり湯気と煙でほとんど見えない。

 調査団のリーダーである老人、学者2名、聖職者4名、アマンドとマリエッタの2人もそこに混ざっており、マリエッタはアマンドと手を繋いで歩いていた。

「ふーむ、どうですかね」

 老人は様子を眺めながら聖職者の1人に声をかける。

「火山噴火は関係無さそうですな。ただ、封印は弱くなっている。そんな雰囲気は見られますな」

「再封印でしょうか?」

 アマンドが不安そうに口にする。

 そんな様子を近くで見たルーシュは不思議そうに首を傾げる。

「この結界って火山爆発を止めているの?でも火山爆発って地面そのものが流動しているから入り口を塞いでも意味ないと思うんだけど」

 ルーシュは精霊の動きを知っているので、火山がどうして爆発するか何となく理解している。だがその感覚を聞いて調査団のリーダーと思しき老人は目を輝かせる。

「ほほう、詳しいですな。火山の事には興味がお有りで?最新の学術研究をご存知とは」

「んー、僕は精霊を感じる事が出来るから何となく火山が爆発する時とかって、火の精霊が噴火口に集まるって言うより、地面にいる大地の精霊が押し上げるって感じだから」

 何せ現在進行形で活動している火山地帯がバエラス領にはたくさんあるので、頻繁に見てれば現象くらいは何となく察してしまうものだ。

「おおっ!まさしくその通りなのです。お若いのに感心ですな。しかも我々の研究を、よもや精霊を感じるだけで理解なさるとは。やはり他種族との交流は様々な理論の解明に役立ちますからな」

 調査団のリーダーは嬉しそうにルーシュに食いついてくるのでルーシュも困惑する。

「そう…なの?」

「種族が違うだけで感じるものも違います。私のような人間は頭を使う以外に能がありませんが、魔族は魔力の流れを我々よりもはっきりと見えますし、エルフは精霊の動きを敏感に察します。獣人族は5感に優れてますから我々の感じない現象を察します」

「んー」

「但し………これは私の持論ですが、他種族と言うのは色々と恵まれていて、それに頼りすぎてますな。自分が最初から恵まれているから、その恵まれている範囲の枠から出ようとしません。ですが我々人間は最初から何もないのでそれを補強する為に色々と工夫します。それが我々人間族が他種族をも凌駕する武器なのだと自負しているのです」

「おおー。なるほどー。おじさん頭良い」

 ルーシュは目を輝かせて拍手する。

「とは言っても、今ここで火山爆発されたら何にも出来ずに死ぬだけなのですがな。はっはっはっはっ」

 だが、そこでいきなり敗北宣言である。

 ルーシュは人間を過大評価しすぎているのかもしれないと感じて目を細める。

 だがルーシュは魔人達が弱いは弱いなりに精一杯生きて色んなことを頑張っているのを見ていた。魔公のように怠惰にしてても、いくらでも生きれる者たちとの違いは、まさに持たざる者だからなのだろうと感じる。

「ほうほう、ですが、むむむむむ」

 何やら資料をめくりがら老人は、資料と火口の奥を見比べながら唸っている。

「あの。やはりあれは…」

「火口の奥にいる巨大な岩みたいな鳴動している物体は、恐らく200年前にかつての勇者様一行が戦ったと言われている、伝説の生物兵器ではないかと」

「えー、そんなのいるの?やばくない?」

「はい。もしも噴火したら一緒に朽ちてくれないかなぁなんて思っているんですけどね。何せ、多分、生きてますから」

「何も食べずに200年も寿命のある生物なんているはずが…」

 ルーシュは口にしようとして、慌てて止める。

 そもそも自分は200年くらい絶食していても生きていられるのではという疑惑が過ったからだ。自ら生物としての尊厳を否定する所だった。

 危ない危ないと額の汗を拭うルーシュだが、レナが後を向いて肩を震わせていた。ルーシュの失言に気付いてしまったから笑うのを堪えるのに必死だったのだろう。ルーシュはそれに気づいて、後で泣かせてやろうと心に決める。

 だが、いつもいつも、反撃されて、逆に泣かされている立場を、完全に忘れてしまっている懲りない男であった。


「まあ、ここは結界強化の魔法をかけておきましょう」

 聖職者達が提案する。

「そうですな。結界に大きい綻びはありませんが、さすがに200年以上も放置されている所為で随分と劣化しているようですな。内側の噴火でモンスターが復活するのは危険ですしな」

 老人はうんうんと頷く。

「では聖職者の皆さん。結界強化の為に魔力供給を…」

 老人が回りの調査団へ話しかけようとする。その瞬間、何やら炎の球体が空に現れて結界へと降り注いだのだ。


 調査団や冒険者達や驚き戸惑う。何が起こったか理解できなかったからだ。


 更に、巨大な岩石が次々と火口の方へと叩きつけられ地面を破壊し、足元が震動する。

「うわわっ!何これ」

「一体何が…」

 困惑の声が上がる。

これまで自分達を指揮していたボリス達が総員で結界へ向けて魔法を放っていた。結界が軋み、その余波によって大地が激しく揺れて、火口の湯気や煙に隠れている結界があると思しき空間が震動していた。

「何をしているのですか!勇者殿!」

 慌てて抗議に走る調査団のリーダーの老人。ルーシュも一緒に付いて行く。

 レナはそんな異変でも理解せず、マリエッタやクロード、黒馬のロベールと共に冒険者達のいる場所に立っていた。


 怒りの声を上げる老人だが、勇者ボリス・ノイバウアーは仲間達による結界への魔法攻撃を辞めさせたりしなかった。

「見て分からぬか?」

「これから我らは封印を」

「奥にいるといわれている生物兵器アルゴスを、俺達が討伐してやるのさ」

「!」

 ボリスは奥にいるモンスターの名前を口にして、討伐すると言ったのだ。

 ようするに彼らは最初からこの奥にいるものを理解して、調査団の護衛等ではなく、他国の山中へ入る許可を得てモンスター討伐をするつもりだったと言ったのだ。

「いけませんぞ。アレは200年前に大陸を崩壊に導こうとした本物の化物ですぞ!」

 老人は慌てて説得しようとする。

「俺は勇者だが、他の勇者どもと違って新参でな。こうして手柄を手にしていかなければならないのさ。それに…俺達はガイスラー王国の国賓だ。俺達に逆らえば戦争になるぜ。黙ってみてろ!それとも…永遠に黙らせて欲しいか?」

 ボリスはとんでもない事を言い出し、腰の刃を抜く。長く鋭利な銀色の刃がどこかおぞましい光を放つ。

 老人はグッと口をつぐむ。

「こ、この事は、イヴェール王国から、ガイスラー王国に正式に連絡して抗議をさせてもらいますぞ!」

「お前がどうやって抗議するんだよ?」

「え?」

 近くにいたルーシュもあまりの展開についていけず、助けにさえ入れなかった。ボリスの動きがあまりに滑らかだったからだ。


 ボリスの持つ銀の刃が、老人の胸を貫き、血で大地を濡らしていた。

 ボリスが刃を老人から引き抜くと、老人は胸から鮮血が噴き出して、糸の切れたマリオネットのように大地へと倒れこむ。

 ボリスと老人の遣り取りを遠くから見ていた冒険者集団はそれを見て血相を変える。他国の勇者が裏切りをしたのだと理解した者は、腰の刃を手に取る。だが彼らもこの旅の途中でボリス達パーティの圧倒的な能力を目の当たりにしており、戦おうという判断がつきにくくなっていた。


 ルーシュは慌てて老人に駆け寄る。

「い…け…ませ…ん……ぞぉ…」

 老人は体中を血塗れにさせたまま、結界破壊を止めるように、死の間際に至っても口にしてた。

 ルーシュは激しい後悔をする。クロードに勇者に気をつけろと警告されていたのだ。老人と一緒にいた自分が守るべき立場にあったのに、それを怠ってしまった。

 ルーシュは場合が場合だったので、形振り構わず光の魔法を使う。基本的に精霊魔法だけでなく、人前では魔法そのものを公で使うのは止めていた。制御が下手で暴走しがちだからだ。公の前で暴走を見せると怖がられるし怪しまれるのでどうしても避けたかった。

 ルーシュから放たれた光の魔法は、世界を光に包み込むほどの強力なものだった。ルーシュは必死に老人の傷を治す。だが死にかけている為か、当人が老いていた事も加味して、非常に治りが遅い。ルーシュの魔力であっても、この治りの遅さでは、普通なら確実に死んでいる。腕を失った魔族の腕を瞬時に復元できるルーシュの魔法であっても、生命維持がギリギリだったのだから。

 暫くして老人の胸からトクントクンと小さく心臓の音が聞こえてくる。

 ルーシュは、久々に全力で魔法を使う事になって、少し不安だったが、目の前の老人が生きている事でホッと胸を撫で下ろす。



 だが、そんないざこざの中、勇者一行の一番中央に立っていたアントンは、勇者一行の足元に巨大な魔方陣を描き、長い魔法詠唱を吟じていた。

「生命の母たる大地の精霊よ、眠りし土地を呼び起こし、幾千幾万の積層を覆し、我が声に耳を傾け、あらゆる混沌を崩し流せ」

 ルーシュは、老人を抱えたままホッとした束の間、魔法の動きを感じて勇者一行の方を見る。

 ボリスは老人を治した奇妙な存在と認識したようで、ルーシュを殺そうと刃を向けていた。だが、魔法発動が近いと察して慌ててアントンの作った魔方陣の中へと逃げていく。

 ルーシュも魔法詠唱自体は何を意味しているか理解してなかった。だが、魔法詠唱によって集められている土の精霊達の加護と描かれている魔方陣によって起こされる事象は読み取れる。魔族は感覚的に、高等魔族である魔公にはハッキリと、魔法の内容を魔力の流れだけで読み取れるのである。

「まずい!皆!避難しろ!」

 ルーシュは必死に叫ぶ。

「土砂崩落<ランドスライド>」

 アントンは魔法を唱え終えると同時に地面が激しく揺れて、一気に崩壊を始める。

 土砂崩壊とは単純に言えば『魔方陣の外にある地層を破壊』する大魔法である。

「レナ!大地を削って空を飛べ!足場が崩れるぞ!冒険者達を守れ!魔力なら後でいくらでも僕から取って良いから!」

 ルーシュの懇願のような叫びにレナも頷く。

「天より流転せし風の精霊よ、我らの声に応え、天翔ける翼を与え給え。空中歩行<エアムーブ>」

 レナは即効で魔方陣を描きながら、風系魔法ともいえる基本魔法の1つ空中歩行魔法詠唱を行使する。瞬間、レナの周りにいた調査団や冒険者全員、馬や馬車の立つ大地ごと球体で包み込んで空へと避難する。

 冒険者達の誰もが絶句する。エアムーブとは簡単な割に自分1人を浮かすだけでもかなりの魔力消費をする魔法で、ジャンプの補助程度だったり、道に迷った際に自分の位置を確かめる為に一時的に高く飛ぶ程度にしか使われないような魔法だ。

 冒険者一団の足場も含めて空に浮かすようなエアムーブなど聞いたこともないし、それを成しえるとしたら王都の宮廷魔導師が数人掛かりで行うくらいの魔力を必要とする。

 だがレナの成しえた事以上の衝撃が全員に伝播する。何せ自分達がさっきまで立っていた場所が一気に崩落したからだ。

火山頂上部が一気に崩落し、ボリス達の魔方陣以外の場所が火口の中に飲まれてしまう。

「ルーシュ!」

 クロードは崩落に巻き込まれたと思われるルーシュの方を見て慌てる。だがボリス達の魔方陣の外は既に大地が滑り落ちた跡だった。



「ああああ、もう色々と禁止事項を破っちゃったよう!」

 ルーシュは涙目でクロードの視線とは全く違う、レナが空中歩行魔法によって空間そのものを浮かしている、その横に黒い翼を生やしたまま、老人を抱えて飛んでいた。

「って、ルーシュ?」

「あー、飛ぶの禁止って言われてたのに飛んでるー。いーけないんだ、いけないんだ」

 周りが驚いている中、レナは堂々とルーシュを批判する。

「仕方ないじゃん!僕だけなら火口に飲まれても死にはしないけど、お爺ちゃんはどう考えても死ぬし!」

 レナはルーシュが違反をした事に対して咎めるが、ルーシュは人命第一だったので正当性を訴える。

 ルーシュはレナの空中歩行を行使している空間に入ると、そのまま老人を地面に下ろす。

「老師!」

「大丈夫ですか?」

 学者や聖職者達が駆け寄る。

「あの、僕も医学は専門じゃないので、適当に応急処置しただけだから、あまり動かしたりしない方が良いと思うよ」

「あ、あの魔法は一体…」

「魔族が聖なる治癒魔法を使うなんて聞いた事が…」

 周りの人間達もルーシュを見て、変な生物だと理解して恐れを持つ。

 誰もが知る御伽噺や神話で聞かされた、魔族以外の種にとって絶対悪とされた存在シャイターンにそっくりな少年がここにいたのだ。この場にいたほとんどが恐れを抱くような視線をルーシュへと向ける。


 ルーシュはその恐れを抱いた視線がが普段の領地で自分へと向けられる異物を見るような視線と同じ事に気付いて居たたまれなくなる。

 これでは、勇者諜報員とか言ってられない。この冒険が終わったら暗黒世界に撤退するしかないんだろうな、と感じてしまう。

 冒険者達は武器を持ってルーシュとレナを取り囲む。


「ルーシュ!良かった。生きてたんだね。てっきり土砂崩れに巻き込まれたかと思って心配したんだ!」

 そんな中、空気を読まないクロードは嬉しそうに駆け寄ってくる。

「ほえ?あ、いや…僕は…」

 背中の羽根をパタパタさせて、困ってしまう。ハティとスコールもレナの足元からルーシュの足元へと走ってやってくる。

「ぐ…」

 そんな中、老人がよろよろしながら上体を起こす。

「おお……何故、私は…」

 死んだと思っていた老人は周りを見渡して驚く。

「えと…」

 聖職者達は、あの怪しげな魔族に、魔族が使えるはずもない聖なる魔法で、命が救われたなどっと言う荒唐無稽な状況だったので、説明しにくくなってしまう。

 ラフィーラ教は魔族を迫害するものではないが、魔神シャイターンはラフィーラ神とも敵対してたという神話があるので、あまり印象の良いものでもなかった。

「思い出しましたぞ!そなたに助けられたのですな。ありがたいですぞ」

 老人は嬉しそうにルーシュの手をとり感謝する。

「は、はあ…」

「いやはや、よもや魔公貴族の子孫に、人生の中でお会いできるとは思わなかったですな。光の魔法を使うとなると魔神の血を引いておられるので?いやはや、長生きをするものですな!そのような方に命を救われるとは」

 老人はまるで子供のように嬉しそうにはしゃいでいた。ルーシュも困ってしまうし、レナも同様だ。

 クロードはルーシュが魔神の血が入ってるかもという話をマリエッタにしていたのを思い出して、ルーシュが他と違うという事を察する。

「老師!その者は危険です」

「そこの少女もだ。怪しげな魔法を使う魔族ですよ!」

 冒険者達や学者、聖職者達でさえ、ルーシュ達に恐れ武器を向ける。冒険者達の中にいた魔族でさえも魔法を使う準備をしている。

 ルーシュとレナは困ってしまう。

「危険とは?」

 起きたばかりな為か、老人は不思議そうに首を傾げる。

「ですが…あのような強力な魔法の使い手、何をされるか…」

 冒険者達は恐怖からルーシュ達の排除を考えているようだった。

「というよりも…レナさんが魔法を解いたら、僕らはこのまま地面に落ちて死ぬんじゃ…」

 エアムーブは術者が降ろすか、魔力が切れるかしないと地面に落ちない。

 レナに攻撃して魔法が解かれた瞬間、空中に浮いている大地が地面に落ちる。

 冷静でいたクロードの突っ込みに、混乱していた大人達は自分達の愚かさに気付いて慌てる。現在、レナの生命線を握られているのに、何で戦おうとしているのかと。

「あ、大丈夫だよ。もうそろそろ魔力切れだから。降ろそうと思ってたけど、なんだかドタバタしてて降ろし損ねちゃったし」

「「「「降ろし損ねちゃダメでしょ!」」」」

 レナはあっさりと自分のミスを申告して、全員を青褪めさせる。

「僕が引き継ぐよ。継承魔法して」

 ルーシュは空中歩行で用いられるレナからの魔力供給による魔法維持を、ルーシュからの魔力供給へ変えるようにレナへ提案する。

「でも、降ろしたら殺されちゃうかもよ。嫌ってる人なんてどうでも良いじゃん」

「「わうわう」」

 レナはかなり気分を害していた。ハティやスコールも同様のようだ。助けてやったのに何様だと言いたいかのようだ。

「ルシフォーン様は、自分が死んでも恨みを残すな。嫌われても諦めるな。弱者は決して見捨てるな。戦い以外で生きる道を探す努力をしろ。我が二の轍を踏むな。そう言ってたらしいじゃん。嫌われるのは仕方ないよ。自慢じゃないけど、ウチの領民も僕の事怖がるし。ほら、異次元図書館の本にもあったじゃん。何だっけ『あきらめたらそこで試合終了ですよ』だ」

 一体、ルーシュは異次元図書館でどんな本を見つけて読んでいたのだろう。版権とか気にしない困った魔族であった。

「まー、いーけどさ。はい、タッチ」

 レナは空中歩行魔法の魔力供給だけをルーシュに引き継いで、自身は歩行の制御だけをして山の斜面と斜面の間にある山の途中の山道に一同を降ろす。山の頂上を見上げる程度の場所まで逃げていた。



「それにしても…」

 ルーシュは調査団のリーダーである老人の方を見る。魔公貴族と知っても落ち着いている、というか喜んでいる様を見て、一体何者なのかと勘ぐってしまう。

 魔公貴族とはそれこそ一騎当千で人間の土地を荒らしたとされる魔族の称号だ。しかもシャイターンの血を引くとまで考えているとすれば、それは魔公王子だ。この老人はルーシュ自身の素性をほぼ間違いなく見抜いていた。

 だがそんな考え等忘れさせるかのように巨大な爆発音が火口のほうから聞こえてくる。

「うわあああああああああ」

「ぎゃあああああああっ」

 火口の方で結界を破壊していたボリス達勇者一行は、悲鳴を上げて逃げてくる。中には悲鳴も上げられず、遺体となって体を飛散させて落ちてくる者もいた。


ズウウウンズウウン

 地震ではないが、凄まじく巨大で重たい何かが歩いているような音と共に、大地が揺れる。

「いけませんな。アルゴスが復活してしまったかもしれません」

 調査団の老人は深刻そうな表情で口にする。

「アルゴス?…知ってる?」

「さー、生まれる前の時代に興味なかったし、レナが知らないなら僕も知らないよ」

 レナとルーシュは首を傾げる。基本的にルーシュ達が教わる歴史はダンタリウスが記録した内容を伝え聞いたようなものだ。

『シギャアアアアアアアアアアアアアアッ』

 異形の化物の咆哮が大気を奮わせる。その場にいた冒険者達も息を飲んで構える。大きいモンスターなのかと考えていたのだが、この世界における最も大きいモンスターはドラゴンが代表的で体長は最大で2~40メートル程度だ。

 逃げてくる勇者ボリス達一行。調査団の周りにいた冒険者達も、火口の方から大きいモンスターが現れるのだろうかと誰もが武器を構えていた。

 だが想像を遥かに超える巨体が蠢いた。火口から、山そのものが現れるかのように巨大な何かが姿を現したのだった。


 誰もがその大きさに恐怖した。


 体長は山ほどに巨大な体を持つ異形な怪物だ。

 巨大な口はギザギザした牙が生え揃っており、大きくぎょろりとした瞳が存在する。その大きな瞳の周りには無数の小さな瞳が存在して周りを見渡している。大きい瞳の上には巨大な宝玉のような魔石がはめ込まれていた。

 その魔石から強力な光の束が穿ち、逃げる勇者一行を爆発によって吹き飛ばす。

 火口から現れた異形な怪物は蛸やイカのような触手を無数に持っていて、それで体を支えているようだった。さらに天を覆うような巨大な黒い翼を広げて、天蓋を揺るがすような咆哮を上げて姿を現す。


「ワシの知る限りでは、あのアルゴスという怪物、勇者達は戦う事が不可能と察して、火山に誘導して動きを止めた間に封印を施したといわれてます。かつては封印の得意な2人のエルフがいたとの事で…」

 調査団老人は戦慄する様に火口から現れた生物を見上げる。はいえ誰もが逃げる以外に方法があるのか、或いは逃げ切れるのかさえも怪しく、冒険者達は散り散りになって逃げ出し始めていた。


 だがルーシュはその目の前に現れた怪物を目にして恐怖に震えて声を出せないでいた。

「何で、あれがここにいるの!あんなのいる筈ないのに!」

 レナはあまりの驚きに、声を荒げて叫ぶ。そう、ありえる筈が無いのだ。

「2人はアレを知ってる…の?」

 クロードは恐れるようにルーシュとレナを見る。

「間違いないよ。あれは…伝説の…勇者だ」

「「「「はい?」」」」

 ルーシュは自分の手帳に書いてある伝説の勇者の想像図を皆に見せて断言する。

 全員が目を丸くして聞き返していた。


 その通り、アルゴスという怪物の姿こそ、ルーシュが想像していた勇者像そのものだったのだ。

 ルーシュの手帳にあった勇者像とほぼ同じ形をしている化物が目の前に現れたのだった。偶然とはあるものである。


ついに入りましたクライマックス。

これまでの伏線がまさかこんなところに(笑)


 後々、この勇者(?)の素性は明らかにされますが…

 200年前、魔族を倒すべく人間たちは対魔公用生物兵器を開発した。

 しかしその生物兵器は人間には制御できず暴走し始めてすべてを破壊し始めた。かつての勇者一行は、当時の活火山にこの生物兵器を落とし、弱ったところで封印魔法を展開して、世界を救ったのだった。


 なんだかSFもので、対抗組織が敵を倒すために作った兵器が逆に自分たちに襲い掛かるというよくありがちなお約束展開を背景に、その存在さえも忘れたころにドーンと登場したわけです。

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