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勇者諜報員(仮)の黙示録  作者:
第1章 勇者誕生
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火山探索

 約100人の冒険者集団がボルカン火山探索任務へと赴く事になる。さすがに神聖教団によって認定された勇者は大規模作戦をこなした事があるので、烏合の衆であっても見事にまとめて隊列を組ませて調査団の護衛をこなして火山帯を進める。

 調査団の馬車を囲むように冒険者たちは歩いて進む。



 ルーシュ達は一番先頭を歩いていた。

「かざん、かざん、大きい火山。爆発したら世界がめつぼー、かざん、かざん、大きい火山」

 ルーシュは相変わらず訳の分からない歌を歌っていた。世界が滅亡してよいのだろうか?

 モンスターが大量に出るこの火山地帯において、全くモンスターが現れず、冒険者達は儲けにさえならないので拍子抜けしていた。勇者一行もそれを分け前にする予定なので、何の報酬も出せなくなって困っていた。

 モンスターなんて出るはずもない。

 木々は少なく、岩山がゴロゴロとしている火山において、生物は少ない。モンスターはたくさんいるという話だったのだが、ルーシュとハティとスコールが先頭を歩いている以上、目視出来る距離にいようなどとは思うまい。特に、ここら辺は魔力に鈍感な虫系モンスターも少ないからだ。


 だが、そんな所に、無機生物とも魔法生物とも呼ばれるモンスターが現れる。

 壊れた鎧が立ち上がったのだ。その数は20体。地面に落ちていた鎧から黒い影のような手足を生やして、地面に落ちている武器を持って立ち上がり、こちらに向かって近付いてくる。


 昔、調査途中に多くの死人を出す事があったらしい。その間にも火山噴火などがあり、遺体は無くなっているが、鎧などは溶けて歪んで残っている事がある。その鎧は空気中に含まれている魔力などを受けてモンスター化してしまったといわれている。実際にどういう原理かは分かってない。

 だがこれらのモンスターには知能がなく、ルーシュ達のような高魔力な魔族相手に怯むような事はしない。生ある者に対してはモンスターであっても殺そうとする亡者として襲い掛かってくる。


 金属音を軋ませて、黒い影の肉体を持つ鎧兵の集団が20体ほどだが、先行偵察部隊であるルーシュ達の方へと向かってくる。

 魔族達はそれを見ては慌てて戦闘準備に入る。だが魔族達はほとんどが魔導師という魔法専門職である。近接戦闘を仕掛けてくる鎧型モンスターと単独で戦うには相性があまり良くない。先頭を歩いていたルーシュとレナ、それにルーシュの肩に載っていたスコールとハティはどうしようかと考えていると、アントンが大きい声を上げる。

「どけ!」

 その声に反応して、慌ててルーシュ達は敵の最前線から走って逃げる。それを追いかけてくる鎧兵モンスター達。ガシャガシャと鎧の音を立てて追ってくる。

「生命の母たる大地の精霊よ!幾千の矛となりて、我が障害を打ち滅ぼせ」

 アントンが魔法詠唱をしつつ、大きい魔方陣を前に掲げた杖によって宙へと描く。

「針千本<サウザンドアーススピア>!」

 アントンが魔法の名前を叫ぶと、ルーシュ達を追いかけていた鎧兵達が地面から無数に生える槍によって貫かれて襲い掛かってきた一網打尽となる。

 だがそれでも槍に貫かれても尚、体を破損させた鎧兵型モンスターが襲い掛かろうと動き出す。

「万物の根源たる火の精霊よ、炎を生み出し、我が障害を撃ち抜け!火球<ファイアーボール>」

「天より流転せし風の精霊よ、鋭き刃となりて、我が生涯を切り裂け!風刃<ウインドカッター>」

「生命の母たる大地の精霊よ、鋭き鏃となりて我が障害を貫け!石矢<ストーンアロー>」

 後ろにいた魔族達も一斉に魔法を唱える。

 地面から生えた無数の刃に貫かれずに、どうにか近付いてくる鎧兵モンスターの残党を他の魔族達の魔法で一網打尽にする。


「おおー、なんだか魔法がたくさんだー」

 ルーシュは感心したように拍手をする。

 砕けた鎧の中から、白光りをした小さい結晶が残される。これはルーシュも知っており、魔石とか呼ばれるものだ。魔法生物と呼ばれるモンスターたちは倒されるとこの魔石を残す。

 冒険者たちはこれを収入源としていた。


 ここからはそういったモンスターが多く発生し始める。

 骨の犬、骨の熊、骨兵士などが襲ってきたりと、通常のモンスターはいないが、骨モンスターや鎧モンスターが大量に発生していた。流石にルーシュ達が通った後に出て来ることもあり、馬車の周りにいる勇者一行も戦っていた。

 結局、山の頂上まで半分ほど進んでその日の移動は終わりとなる。


 ルーシュとレナは野営地の見張りをする。

「わうわう」

「わうーん」

 ハティとスコールは岩の周りをグルグル走り回っていた。元々暗黒世界育ちの彼らにとって夜など月があるだけ明るいのだ。

「あの月の色はハティの毛並みにそっくりだなぁ」

「わうーん」

 ルーシュは地面にレナと並んで座りながら、ちょっとした高台に座って周りを見渡しながらぼやく。

「そだねー。こうして山登りしてるとアームやリンちゃんたちと一緒にいた頃を思い出すね」

「あー、ピクニックにいったよねー」

「ピクニックなのか…」

 ピクニックではなく、『山岳地帯への修行』だったはずだ。レナはその修行が過酷だった事を思い出すが、どうやらルーシュにとってはピクニックだったそうだ。少し腹立たしくも感じる。


 そんな2人の所にクロードとマリエッタがやってくる。

「お疲れ様~。見張り番?」

「うん。見張り~。お前みたいな役立たずはうんたらかんたらって言われて」

 ルーシュは夜景を見ながら口にする。

「そういえば戦ってなかったね」

「だって魔法使えないもん。魔法禁止って言われてるし。兄……じゃなくてアントンさんは、魔族は魔法で戦え…とか言ってたし」

 ルーシュは説明する。

「なるほど」

「だから前を歩いてたんだけど」

「レナさんも?」

「私は魔法を使ってもいいけど…お腹減るし、何より…私の得意魔法って、私の近所だけじゃなくてここら辺にもいないみたいだから変に思われると思って」

 クロードは空気を読む男なので、ルーシュやレナが特別な事情で外に出ていることを察して、遠慮をしているようである。普通にルーシュあたりは何でも話しそうだが、それでも話すのに躊躇いを持つのだからよほどなのだろうと判断した結果かもしれない。

 但し、ルーシュの天然ぶりからして悪人という訳でもないので、そこら辺は信用しているようだった。

「そういえば、レナお姉さんは髪が青いんです?」

「ほえ?あ、うん、珍しいって言われてた。こっちに来ても同じ色の人いないし」

「エルフは赤や橙、黄色や緑の髪色はいるんだけど、青はほとんどいないんです。とっても珍しいんですよ。魔族さんは全員黒いって聞いてたのでびっくりなのです」

 マリエッタはレナの事をマジマジと見る。純粋な子供で差別意識が全くないように見える。

「そうなんだぁ」

「預言者様は同じ色でした」

「ほえ?」

「青い髪の子供は皆、自分の子孫なのだと言ってました。私は緑色だけど、ずっと遠い子孫なのだと仰ってました。レナお姉さんもそうなのかなぁと」

「むー」

 レナは母親がエルフで青い髪をしていた。だが自分がエルフと魔族のハーフだという事は禁句である。一部には知れ渡っているが、こっちの世界で知られていい話しでもない。預言者の手紙から察するに、恐らくマリエッタの予想は正しいと思われるのだが、肯定できない事情があった。

「レナの母さんの素性は知れなかったから、もしかしたら親戚かもね」

「おおー」

 ルーシュの言葉にマリエッタは目を輝かせて喜ぶ。レナは少しだけ怪訝に思う。ルーシュは何故かマリエッタに甘いと感じる。とはいえ、恋愛感情というよりはシホやレヴィアのような親愛感情なのでとりたてて目くじらを立てるようなことはしなかった。

「そういえば、その前、風の精霊さんに話しかけてみたのです。だけど全然話を聞いてくれなかったのです」

「ふーむ、そうか。僕は魔力が強いから自然と魔力を極力抑えたところで自然と言葉に乗っちゃうんだよな。小さい頃は友達がいなくてずっとそいつらとばっかりお話して遊んでたから…」

「声に魔力を乗せて語りかけるなら精霊術とあまり代わらないのです」

「そうかな?」

 ルーシュは首を傾げる。

「違うのです?」

「僕は小さい頃から精霊を見てきたけど…あの子達はそれぞれで性格も違うんだ。話しかけても無視することもあれば、皆でお祭り騒ぎする事もある。まあ、その所為で母上に精霊に手伝わせたりするのを禁止させられたんだけど。畑を耕してって土の精霊にお願いしたら、山が真っ平になったり。あいつら、調子に乗るとやり過ぎるからさ。でも、コミュニケーションをとっていくと、その内、こいつはこういう遊びが好きとか、こういうタイプの精霊はこういうのが嫌いとか察する事が出来るし、どこにいるか分かれば声を掛けるのも簡単だし。魔族なのに、精霊術が出来るって変な目で見られてたけど」

「ほえー。凄いんですね!私も風の精霊さんと仲良くなりたいのです」

「まあ、人付き合いとあまり代わらないよ。まあ、人間と違って、向こうは自分達が見えるってだけで無条件に懐いてくれるから、仲良くなりやすいし」

「そうなのですか。とってもお勉強になるのです。そしたら、私もゆう…じゃなくてクロード様のお役に立てるのです」

 マリエッタは嬉しそうにしていた。


 するとアマンドがマリエッタを探してやってくる。

 マリエッタは名残惜しそうに、アマンドに連れ去られていく。

「優しいね」

「無駄に」

 クロードの言葉に対し、レナが少しだけ機嫌悪そうに加える。

「何で?」

 レナは不満そうにルーシュを見る。

「んー、だって…精霊を見れてその事で話せる人なんていなかったから」

 ルーシュはマリエッタに対してペラペラと精霊に関して話していた事情を正直に話す。

「あ…」

「やっぱり狭い所で引き篭もってると知らない事がたくさんあるんだなぁって思っちゃうよね。もっと色んな所に行けば、僕と似たような人もいるのかなぁ」

 ルーシュは楽しそうに口にする。

ルーシュにとって魔王やシホが数少ない同類のように、彼女もまた違った意味で同類なのだ。精霊召喚が出来ても、顕現していない精霊を見る事が出来る存在はいなかった。ルーシュにとって、マリエッタは妹みたいな感覚なのかもしれない。

「まさかの幼女趣味じゃあるまい」

「何を言っているの?」

 レナの呟きにルーシュは不思議そうに首を傾げる。

「2人に忠告だけしておこうと思って来たんだけど」

 クロードは困ったようにレナとルーシュを見る。

「ちゅーこく?」

「神聖教団は元々魔族を同じ種族としてみてないし、アントンって人も結局は使える奴隷程度の扱いでしかないんだ」

「なぬ?偉そうに語ってたから、もっと偉いのかと思ったら奴隷だったのか?」

「バエラス3世閣下は奴隷かぁ」

 ルーシュはクロードの言葉に眉根をひそめるのだが、レナの奴隷発言に少しだけ傷付いてしまう。アントンが奴隷なのであって、ルーシュ・バエラス三世閣下は奴隷ではない。

 が、奴隷といわれてしまうとやはり悲しいものがあった。

「神聖教団における魔族の立ち位置は敵か物か家畜だからね」

「……それは酷いね」

「ウチの集落に住んでた魔族の小父さんが東の大陸から逃げてきたそうなんだけどね。東の大陸では、魔族は死ねばゴミ捨て場に捨てるんだって。逃亡した事もばれれば殺されてゴミ捨て場なんだって。国によって扱いは違うらしいけど、彼らを信じない方がいいよ。ラフィーラ教だって神聖教団からすれば異端者なんだから」

「……彼らは僕らを見捨てても自国に帰れば何の罪にも問われないって事?」

 ルーシュの質問をクロードは首肯する。

「調査団もそこまで信用はしてないよ。独自の冒険者をたくさん雇ってる。一応、僕も含めてって事だけど。ルーシュは他人を無条件に信じそうだから不安に思って声かけたんだよ?」

「うぐ」

 調査対象に心配される諜報員ルーシュ。

 レナは調査対象に心配されているのが仮にも諜報員なので、ツボに嵌ったのかケラケラと笑っていた。

「それじゃ、僕は戻るね」

 クロードは手をヒラヒラとさせて去っていく。ルーシュとレナはクロードが去っていくのを見て手を振って見送る。

「うーん…。人が良いと言うか…」

「だねぇ」

「ぷぷぷぷ、諜報員なのに心配されてるの」

「うっさいな」

「………あんまり悪い事出来ないね」

「まあ、……暗黒世界における僕の発言力は大きいし、旧主派を抑えていれば少なくとも戦争にはならないでしょ。クロードが僕らと戦う事はないと思うけど…」

 ルーシュは思案顔でぼやく。珍しく真面目な発言をするので、レナも少しだけ考え込む様子を見せる。

「だよね。でも、なんか…」

「?」

「個人的に何か目的はあるようには感じるよ。何となくだけど。魔族を滅ぼそうとかそういう事はないと思うけど」

「そっかぁ。レナのなんとなくは当たるからなぁ。でも…少なくとも僕や魔王様の気性を考えれば友達になれても敵対する事はありえないと思うよ」

「私もそう思う」

「母上やシホに任せておけば大丈夫だよ。ベーリオルト派罰だけじゃどう考えても僕らの派閥を揺るがせないもん。レヴィア様方は中立だし、旧主派につく事はありえないでしょ?」

 よほどの変化が起こらなければ暗黒世界はこっち側の世界に喧嘩を売る事はない。いや、そもそも喧嘩を売る必要性もないのだ。

「こっちにいる間に、色々と僕だって思う事はあったし……いっそこっち側に馴染んで暗黒世界と流通路でも確立できれば、暗黒世界の魔族達も戦争の必要性さえなくなると思うよ。元々、食糧難が問題で戦争になったんだし。旧主派の連中は戦争の恨み辛みが残ってるだけでしょ?戦争の恨み辛みは時間が薄めてくれると思うし」

「む」

「?」

「ルーシュのクセに真面目に考えるなんて…まさか偽バエラス三世!?」¥

「酷いよ!僕だって一国の君主なんだよぉ」

 誰も信用してくれないが事実である。


「モンスターが大量に出るこの火山地帯において、全くモンスターが現れず、冒険者達は儲けにさえならないので拍子抜けしていた。勇者一行もそれを分け前にする予定なので、何の報酬も出せなくなって困っていた。」

と、ありますが、そもそもモンスターの大移動で異変が起こって探査に行くのだから、モンスターがいない可能性は最初からあった筈です。ですが、勇者たちは最初からいると思っていたという部分があり、これは単純に彼らが短慮なだけではなく、その思い込みこそが伏線になってます。別に私が書き間違えたわけではなく、そういう表現にしたので悪しからず。

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