表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
blue sky  作者: みゅう
1.情けは人の為ならず
4/24

1―4 候補

「――ありがとうございます。ありがとうございます」

 見知らぬ女生徒が、俺に対してこれでもかという勢いで、頭を二度三度下げる。

「そんな。いいって。ホント、見つかって良かったね」

 最後にもう一度「ありがとうございました」と頭を下げ、女生徒は校門のある方に小走りで去っていった。

「誰あれ? 知り合い?」

 女生徒と入れ替わるように、今度は楓で俺の前に現れる。

「いや、知らない子。自転車の(かぎ)を落としたって言うから、一緒に捜してたんだ」

 放課後。帰ろうと思い、昇降口に向かって校舎二階の廊下を歩いていた俺の目に、中庭で何やら捜し物をしているらしい女生徒の姿が映り……今に至る、と。

「人がいいのね」

「よく言われるよ」

 呆れたように言う楓に、俺は苦笑を浮かべてみせる。

 その言葉に、いい意味以外の意味が込められている事は、重々承知している。それでもこの生き方は変えられない。

 初めは、確かにあの人への憧れから始めた人助けだった。けど、今ではこれが自分の生き方だと胸を張って言える。例え、人から呆れられようとも……。例え、人から馬鹿にされようとも……。

「用事はもう済んだ?」

「あぁ」

 見ての通り、万事解決だ。

「じゃあ、一緒に帰りましょ」

「え?」

「何? 嫌なの?」

「いや、そうじゃないけど……」

 さり気なく校舎の方に目をやる。

 やはり、女生徒二人がこちらを(うかが)っていた。

「あれは?」

「気にしないで。付いては来ないみたいだから」

 どうやら楓も、あの二人の行動には迷惑しているらしい。

「と、とにかく、一緒に帰るわよ!」

 手を引かれ、校門の方に無理矢理連れていかれる。

「ちょ、ちょっと。楓」

「う、うるさいわね。抵抗するんじゃないわよ。二人に怪しまれるでしょ」

「あー……」

 そういう事。

 とはいえ、状況は把握出来たので、大人しく楓の隣に並ぶ。

「てか、やっぱ、彼氏役やらされるんじゃん、俺」

「だ、か、ら。彼氏候補だって。候補」

「はいはい」

 もう、何でもいいよ。好きにしてくれ。

「ところで、その彼氏候補とやらには、何か特典でもあるのか?」

「特典? 私と付き合えるかもしれないという事以外に、何か特典が必要なの?」

「……」

 まぁ確かに、客観的に見れば、楓の言う事に何らおかしな点はないように思える。飽くまでも、客観的に見れば、の話だが。

「何? もしかして、私に何かやらせようとしてるわけ?」

「何かって?」

「それは……」

 顔を反対側に向け、何やらごにょごにょと口を動かす楓。

 何なんだ、一体。……ん?

 いきなりの展開で気付くのが遅れたが、楓の手少し湿ってないか?

「もしかして、緊張してんのか?」

「な!?」

 俺の指摘に、楓が立ち止まり、慌てて繋いでいた手を離す。

「ご、ごめん。私、手汗ひどかった?」

 そう言って、自分の両手をスカートに(こす)り付ける楓。

「いや、別に……」

「ヤダ。もう」

「……」

 未だ両手をスカートに擦り付け中の楓の左手を、無言で取る。

「え?」

 驚いた表情で、楓が俺の顔を見る。

「まだお前の友達に、見られてるかもしれないだろ?」

「……うん」

 手を握り、再び歩き出す。

 何だよ、急に大人しくなりやがって。調子狂うな。それに、緊張って……まさかな。

「楓」

「何よ」

「お前の髪って、よく見ると綺麗(きれい)な」

「は?」

 何言ってんの、こいつ。

 俺の顔をマジマジと見る楓の顔には、そうはっきりと、彼女の心の声が浮かび上がっていた。

「というか、よく見ないと綺麗じゃないわけ?」

「そういうわけじゃないけど……」

 改めて近くで見たら、そう感じたというか……。ぶっちゃっけ、話の流れを変えられれば、実の所、話題は何でも良かったわけで……。

「後言っとくけど、これ地毛だから」

「え? マジ?」

 嘘だろ? 日本人で、こんな綺麗な茶髪いるわけが……。

「クォーターなの、私」

「くぉーたーって、あの、四分の一が外国人っていう?」

 テレビなどではたまに見るが、実際に本物を見るのは初めてだ。

「そう。お婆ちゃんが外国の人で、髪の色以外は、あんま他の人と変わらないから、なかなか信じてもらえないけど……」

「ふーん。だからか」

「何がよ」

 不満そうに、俺に口を(とが)らせてみせる楓。

「楓が可愛いの」

「――ッ」

 俺の言葉が何やら気に食わなかったらしく、楓が俺から顔を(そむ)ける。

「あ、悪い。そういう言い方って、良くないんだよな。人種差別? みたいな? ごめん。悪気はなかったんだ。ホント、ただ思った事を口にしたというか、楓が可愛いのは事実だし」

「うるさい」

 言葉と共に、突如、俺の口が楓の左手によって塞がれる。

「それ以上言うな。言ったら()い付けるからね、その口」

「ふぁい」

 よく分からないが、楓は怒っていたわけではなさそうだ。

 顔は赤く、多少興奮した節が見受けられるが、あれは怒っているのではなく――

「今、変な事考えたでしょ!」

 ふるふる。

 まともに話せないため、顔の動きで答える。

 楓は恥ずかしがり屋。覚えておこう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=902039073&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ