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blue sky  作者: みゅう
4.月に叢雲(むらくも)、花に風
16/24

4―4 女の勘

 家に帰った途端、それまで必死に抑えていた感情が一気に溢れ出す。

 やばいやばいやばいやばい。

 今の私はきっと、とてもだらしのない顔をしている。

「楓―」

 リビングから聞こえてきた母さんの声を振り切り、私は階段を駆け上がり自室に急ぐ。

 扉を開け、閉め、その勢いのまま、ベッドにダイブする。

 制服が(しわ)になるとか、今はもう関係ない。

 私、今日、誠と……。

 その時の情景が、頭の中にフラッシュバックする。

「わぁー」

 押し付けた枕に向かい大声を挙げ、両足をバタつかせる。

 なんだ、この感情は。

 恥ずかしいような、嬉しいような、爆発しそうで爆発しない、この感情は。

 夢じゃない、よね。

 唇を右手の人差し指でなぞる。

 確かにそこに、感触があった。誠の唇が触れた名残り香が。

「あー」

 明日からどんな顔して誠と会えば……。

 にしても、誠の奴、普通だったな。

 タオルを手に部屋に戻ってきた誠は、こちらが拍子抜けするくらい今まで通りだった。まるで、何事もなかったかのように……。

 いや、違うか。

 体を反転させ、ベッドの上に仰向けに寝転がる。

 誠はきっと、隠したかったのだ。自分の二つの動揺を。

 一つは私とキスをした事、もう一つは――

「ハンカチ」

 戻ってきた誠は、私の手にあるハンカチを見て、明らかに、(わず)かだけど動揺をみせた。

 白い、金の刺繍(ししゅう)の入ったハンカチ。

 私はあれと同じ物を、以前、ウチで見た事がある。

 間違いない。あれは、白詰学園の三十周年を祝うために作られた、記念の品だ。

 でも確か、当時の在校生と教職員しか購入出来なかったはずなのに、それをなんで誠が持っていたんだろう?

 知り合いからもらった、とか?

 ……うーん。分からん。

 それに、誠のあの反応。

 ただ単に、貴重なハンカチを使ってしまったから動揺した、という風には見えなかった。もっと違う、何か別の感情が見え隠れしていたような……。

 気になる。

 気になるけど、なんか誠に直接聞くのも違う気がする。それに――

「聞いた結果はぐらかされたら、きっと、凄くショックだ」

 私は何を考えているのだろう。何を気にしているのだろう。

 分からない。

 分からない。

 分からない。

 でも、これは大事な事だと、心の中で何かが告げていた。

 根拠なんてない。()いて言えば、女の勘? みたいな? ……とにかく、この問題は放置するわけにはいかない。というか、出来ない。絶対に。

 とはいえ、どうしたものか……。

 誠に関する事なんだから、本人に直接聞くのが一番手っ取り早い。けど、それは出来ない。したくない。なら――

「あ……」

 スカートのポケットから携帯を取り出し、今日交換したばかりの相手にメッセージを送る。

《今日はありがとう。琴葉ちゃんと話せて楽しかったー》

 私のメッセージに既読(きどく)が付き、その下に新たなメッセージが表示される。

《こちらこそ、楽しかったです。楓さんとは今度、兄抜きで会いたいです――なんちゃって》

 よし。

 願ってもない展開に、私は心の中でガッツポーズをする。

《じゃあ、今度会う?》

 既読が付く。しかし、なかなかメッセージは追加されず……。

 うわ。やっちゃった? 社交辞令に何マジになってんの、って感じ? もしかして私、困らせちゃった?

 等と私が軽いパニック状態に陥っていると、ふいにメッセージが現れる。

《ホントですか? というか、本気にしちゃいますよ、私》

 良かった。文面を見るに、引かれてはないようだ。

 ……気を(つか)われているという可能性もなくはないが、それを言い出したらキリがないし、ここは素直に額面通りの意味として受け取っておこう。

 それから私は、琴葉ちゃんの都合のいい日と時間を聞き出し、難なく約束を取り付ける事に成功した。

 木曜日の十七時。場所は、琴葉ちゃんと初めて会った、あの喫茶店だ。

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