9.おおぐま座ψ星
9月8日【プサイ・ウルサェ・マーイョリス】(おおぐま座ψ星)
笑顔の裏の冷酷さ
鬱蒼と茂る森の中。
虫も動物もおらず、支配するのは増殖した木々達だけ。
けれど、障害物が沢山あり、奇襲をかけるには絶好の場所だというのに、シャドーを一人も見かけない。
やはり、本体がいるからいないのか、それとも俺たちの運がいいだけなのだろうか……。
「……ねぇ、まこ」
今まで静かだったしゅんが、唐突に俺に話しかけてきた。
何か重要なことでも見つけたのかと思って、俺は返事をする。
「なんだ」
「……俺さ、道に迷わないように木に印つけてきたんだけど……」
そういいながらしゅんが指さす先を辿ると……そこには、『7』と書かれた木があった。
なんだか嫌な予感がして、しゅんに尋ねる。
「……なぁ、何番まで書いた」
「……最後に書いたのは、21番だったと思うよ。間違ってたとしても、20番近くはいってる」
「「…………」」
2人揃って、暗い顔で下を向きながら黙り込む。
木の実はそこらじゅうになっているが、動物が特殊能力を持っているのと同じように、植物も、全てではないが持っている植物がいる。
その能力が毒だったりした場合、簡単に死んでしまうため、迂闊に木の実は食べれず、動物もいないから狩れない。
迷っている今、支部に帰れる自信はないし、最深部……本体がいる場所まで到達できるかどうかもわからない。
後に必ず起こるであろう食料問題について考えていると、隣からドサリという音がした。
隣を見ると、疲れたように地面に座りこむしゅんがいた。
「あー!もう……迷うってなんだよ面倒くさいなー!!」
「喚いてる元気があるなら行動しろ。とりあえず、本体が居そうな場所がないか、木に上って見てくる」
「おっ!さっすがまこちゃん!頼りになるぅ~!!」
「うっせぇな」
地面に座り込み、動く様子も見せないしゅんを置いて、上れる木があるかどうかを確認していく。
少しすると、頑丈そうで、上れる種類であり、結構高い木を見つけたため、俺はその木の枝に足をかけ、スルスルと登っていった。
「……一緒に迷えてたら、よかったのになぁ……」
しゅんの小さな声には、気付かなかった。
***
他の木々よりも腕三つ分くらい高いその木の天辺まで上り、そこから本体が居そうな場所がないかを探す。
普通の森林公園が増殖しただけだって聞いたから、そんなに広さはないと思っていたけれど、案外広い森に、少し吃驚しながら辺りを見回す。
目を凝らしながら見ていると、一本だけ、まるで神社にあるような神木みたいな……いや、それよりも大きい木が見えた。
あんなに大きな木があったら、神社に移されてるとかされてそうだ。
けれど、ここに神社があったなんて聞いてないから、たぶん、特殊能力をもらい、大きくなったのだろう。
あの木を中心に森が広がっているのを確認してから、俺は下へと降りていった。
落ちることもなく地面に足をつけると、しゅんが駆け寄ってきた。
「どうだった?」
「巨大な木を見つけた。そこから中心に森が広がっているようだから、そこが最深部といってもいいだろう」
「巨大で……そこを中心に森が広がっている……か。確か、植物を操るシャドーがいたから、本体がそこにいる可能性はあるね。いなくても、たぶんその木が原因であることは、ほぼ確定と言ってもいいかもしれない」
「じゃあ行くか」
「りょーかいっ!」
しゅんの声を聞いて、木があった方へと向かおうとすると、しゅんが何かを思い出したかのように小さく声を上げた。
何かと思って、訝しげに振り返る。
「どうしたんだ?」
「そういや、まこちゃんが木に上っている間に、こんなの見つけたんだよ!」
そういってポケットから、何かを取り出す。
透明で見えにくく、近づいて見ると、それはピアノ線であることがわかった。
「本当は、これがそこら中に張ってあって、ひっかかるとこれと繋いであった鈴が鳴るようになってたんだ」
「……人間がいるってことか」
「うん。本体か、ここに住んでいる人か、調査隊の人かはわからないけど、一つはまこに見せるために切っちゃったから鳴らないけど、近くにもう一つあったから、それにわざとひっかかって相手を誘き出すってのも、ありだと思うよ?」
悪戯を考えている子供みたいな顔で笑うしゅんを見て、何故か神様と自称する少年の声が頭の中に蘇り、首を振ってそれを振り払う。
不思議そうにこちらを見てくるしゅんを見て、そんなわけないだろ、なんて自分で自分にいいながら、しゅんに答える。
「いいかもしれないな」
「でしょー!!ある程度はここにいるはずだから、食べられる木の実とかもわかるだろうし、運がよければ最深部まで案内してくれるかもよ!」
「そんな上手くいくとは思えないが、試してみる価値はあるな」
「本体だったら殺されるかもしれないけど、まぁ、俺とまこならなんとかなるでしょ!」
「……どこからそんな自信が出てくるんだ?」
「今までの経験」
「……なんか納得してしまった……」
「それよりも、ほらっ!こっちこっち!」
そういいながら俺の腕を引っ張るしゅんの後を、ついていった。