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星の見えない空  作者: 榎本あきな
だいいっしょう~忠実な獣~
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6.へびつかい座η星

12月10日【サビク】(へびつかい座η星)

先見性を持つ純粋さ


 いつも明るい印象とは対照的に、真剣になると恐ろしい程冷徹な印象を見せるその顔に苦笑をしながら、同じように青年を見上げた。

 悪食とまったく同じといっても差し支えない顔が、ステンドグラスの上部から差し込む月夜によって、陰影がはっきりついている。

 いつもは開いている瞳が、今日は閉じられていて、俺は目を細めながらしゅんに告げた。


「そこの少年……悪食が3年前に拾ってきた青年だ。悪食が拾う前から廃人状態だったらしく、今は話すことはできない」

「ふーん……やっぱり優しいんね。殺す(・・)前に話そうなんて」


 その言葉とともに驚異的な速さで襲いかかってきた悪食を、しゅんは見もせずに腰に差していた警棒で受け止めた。

 よろめくことなく受け止めたしゅんは、慣れたものでないと冷徹だと言われそうな表情を悪食に向け、受け止めていた片腕を振るだけで悪食を吹き飛ばした。

 一週間ぶりの殺意は、俺ではなくしゅんにだけ向けられていた。


「誠の知り合いだっていうから気を許してたけど……この人を殺すってんなら、お前を殺すぞ!!」

「そんな殺意ギラギラさせてないで、もうちょっと穏便に行こうよ~。別に悪食君を殺すわけじゃなくて、この人を殺すんだからさ。むしろ、なんで庇うの?聞いた限りじゃ、赤の他人でしょ?」

「うるさいっ!!!」

「ありゃりゃ。こりゃ、完全に頭に血ぃ上ってるわ」


 悪食が襲い掛かり、それをしゅんが警棒で受け止める。

 走ってきた勢いのまま、しゅんの体に蹴りを放つが、予測されていたように半身を翻され、軽々とよけられる。

 翻し、回転した勢いで、瞬時に右手から左手に持ち替えた警棒を、思いっきりスイングし、警棒に飛ばされて悪食は教会の壁へと激突した。


 いくら子供といえども、あそこまで吹っ飛ばすとは、相変わらずの怪力だなと思いながら、悪食が吹っ飛ばされた壁の方を見つめる。

 ゲホゲホと咳き込みながら、少しの傷はあれどほとんど無傷で立ち上がった悪食を見て、しゅんは感心するように口笛を吹いた。

 その瞬間、先ほどまで立っていた場所に悪食の姿はなく、一瞬でしゅんの目の前まで、まるで瞬間移動したかのように移動し、回し蹴りを食らわせようとしていた。

 それを知っていたかのように、その回し蹴りを受け止め、2人はそのまま膠着状態に陥った。


「こ……いつ、を……気絶させてっ!」


 俺にかけられたその言葉を、聞いていなかったかのように、俺は何も動かなかった。

 再び、悪食が声をかける。


「せ、い!こいつ……を、きぜ、つ……させっ、て!!」

「誠。悪食をこの外まで吹っ飛ばせ」

「了解」


 しゅんではなく、本部長としての言葉に俺は頷き、先ほどの悪食のように一瞬で移動し、横から悪食を蹴っ飛ばした。

 開きっぱなしの扉を通り過ぎ、道にあった瓦礫の中に突っ込んだ。

 しゅんは駆け足で悪食に近寄りながら、俺に声をかけた。


「ひゅ~……やっぱ、うちのエースは違いますな~!」

「茶化してる場合か。早くいけ。終わるまで入れんじゃねぇぞ」

「はいはい。わかってますよーっだ!今回は先に見つけたまこちゃんに従ってあげる。その代わり、ちゃんとやってよね?」

「わかってるっての。さっさと行け」

「はいはーい!」


 そういって、しゅんは扉から外へ出ていき、俺は扉の鍵を閉めた。

 そうしてから、十字架へと向き直り、ゆっくりと十字架へと歩いていく。

 十字架の、ちょうど青年と話しやすい位置までくると、俺は声をかけた。



「……で、シャドーの本体様は、ここで何やってんだ?」



 俺のその一言で、閉じられていた瞼がゆっくりと開いていく。

 その瞳は、一週間前に見た焦点のあっていない瞳ではなく、しっかりと、一つの意思を持った瞳だった。


「よくわかったね?僕とあの子を間違えてるんだと思ってたんだけど。どうしてわかったのか、聞かせてくれないかな」

「そもそも、あいつの正体がわかったから、消去法であんたがそうだと思っただけた」

「へー。ちなみに、あの子の正体って?」


 こいつ……わかってる癖に聞くなよ。

 面倒くさいという表情を浮かべながら、とても人の良さそうな笑に勝てず、ため息をつきながら言った。


「見た目10歳程度なのに、人語をほとんど話せない。驚異的な身体能力。機械も瓦礫も人肉も、それこそなんでも食べる悪食。赤の他人のあんたと瓜二つの顔。あんたへの忠誠心。……そして、あいつの影が犬だったこと。これらを踏まえて、あいつは特殊能力『魔人化』持ちの犬だという結論に至った」

「僕への忠誠心は?それに、シャドーも本体の特殊能力を持っているから、特殊能力が判明しても、シャドーだっていう疑惑は晴れないんじゃ?」

「馬鹿かあんたは。悪食に話したとき、あんたも狸寝入りして聞いてたんだろ。あいつらと悪食の戦闘スタイルは違う。一人似てるのがいるけど、あいつは武器を使うからな。あと、忠誠心に関しては、あんたが1番よくわかってんだろ」


 犬は、飼い主に似る。

 そして、飼い主に忠誠を誓い、飼い主を守ると聞く。

 じっと睨むように青年を見つめていると、青年が諦めたようにため息を吐いた。


「……降参だよ。全部正解。試すような真似してごめんね?」

「じゃあ、代わりにあんたの今までのことを教えてくれ」

「神様に関しての情報は神様本人に口止めされてるから言えないんだけど、僕の今までのことだったら話せるよ?」

「それでいい。あんたの“闇”がどれくらい深いかを知れば、他のシャドーの本体の闇も、予測して和らげることが出来るかも知れない」

「……同じような子達の為って言われると、尚更話さないわけにはいかなくなっちゃうね。じゃあ、つまんない話だけど、それでもいいなら」




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