33.てんびん座τ星
11月19日【タウ・リーブラエ】(てんびん座τ星)
プライド内の信念
瞬間移動したかのように現れた、しゅんの姿をしたシャラーヤを半身で避け、その勢いのまま蹴り飛ばす。
俺を狩る為に振り上げていた大鎌を、瞬時に俺が蹴ろうとしたところへ持っていき、ガードしたシャラーヤは、吹っ飛ばされたあと綺麗に地面へと両足をついた。
大鎌をくるりと回して肩にかけたシャラーヤは、怖さを感じるあの笑顔で、言い放った。
「ゲームってね、いかにルールの穴を掻い潜って相手を消耗させるかが鍵なんだ。……この世界は、イメージが全てだ」
不思議なことを言い放ったシャラーヤは、無邪気な笑顔で笑った。
その笑みに悪い予感がして、俺はその場から横に跳んで転がる。
それと同時に、床からトゲのような形をした水が、突き出してきた。
「ひゅ~!やっるねー。まぁ、そんな簡単にゲームオーバーされちゃあ、僕が楽しくないんだけど……ねっ!!」
そういって、空中に水を浮かべ、四角く固まった水の上を飛び移り、シャラーヤは高く上った。
そして、高いところから大鎌を振り上げながら俺のもとへと降ってきた。
転がっていた体を既で起こし、半身でよけると、大鎌が俺の目の前を通った。
振り下ろされ、地面に刺さった大鎌の持ち手に飛び乗り、短刀を両手でもって振り上げる。
けれど、軽々と大鎌を持ち上げたシャラーヤは、大鎌を振り回して俺を振り落とした。
受身をとり、しゃがんだ体勢で前を見ると、大鎌を反転させ、持ち手で突きを繰り出してくる。
水が張っている床に張り付くぐらい体勢を低くすると、頭上を通り過ぎる風切り音が聞こえる。
その音と同時に横に転がると、ガンッという音とともに、持ち手が振り下ろされていた。
「どうしたの~?防戦一方だね!」
向こうの方がリーチが長く、俺は懐に飛び込まなければ、貫通させることはできない。
さらには、俺の負ける条件は頭であり、あいつは左脇腹だ。
どっちが狙いやすいかなんて、わかりきったことだった。
この世界は、イメージが全てだ。
そういったシャラーヤの言葉を思い出した。
……俺に出来るかどうかはわからないが、賭けてみるしかないな。
俺はそう思って、目を瞑った。
瞼の裏に映るのは、昔、俺の家族としゅんとともに行った、キャンプ場でみた満点の星空。
そこで寝転がって2人でみた、大量の流れ星。
その流星群は、まるで、俺らに降ってこようとしているみたいで、俺ら2人は、笑いながら手を伸ばした。
目を開くと、目の前には、大鎌を振り上げるシャラーヤの姿。
その姿を見つめながら、俺は、動かなかった。
きっと、俺の考えたとおりになるって、俺は、昔の俺とあいつの思い出を、信じていたから。
ピタリと、動きを止めた。
瞬時に後ろへ飛びず去るとともに、俺の目の前……シャラーヤが先ほどまでいた場所に降ってきた、人1人を潰すには十分な大きさの隕石。
空を見上げると、星空には流星群が降り注ぎ、その流星群は、大地にまでも降り落ちる。
シャラーヤは、先ほどとは違い苦しそうな顔で降り注ぐ隕石を避け、大鎌で砕き、半身を翻しながら逃げ続ける。
苦しそうなシャラーヤのもとへと走る。
流星群は、まるで俺を避けているかのように、俺のもとには、降ってこなかった。
隕石をシャラーヤが大鎌で砕いた瞬間、隕石に阻まれて見えなかった互いの顔が、見えた。
驚愕に目を見開くシャラーヤに微笑みながら、俺は短刀を突き出した。
「あ、……が、ああ…………はぁっ……っ!」
流星群は収まり、シャラーヤと俺だけが立つ場所で、シャラーヤは左の脇腹を抑えた。
苦しそうに俯いたシャラーヤは、次の瞬間、俺に飛びかかってきた。
押し倒された俺の上で、シャラーヤは怒りのこもった瞳で、俺を睨みつける。
「僕が……僕が、負けるはずないっ!お前なんかに!僕が見えない、お前なんかに!!……まだ、負けてない。貫通、してない。裂けた、だけ。……僕は負けない。負けない負けない負けない負けない負けない」
そういって、狂ったように笑い出す。
その顔は笑顔なのに、その瞳は、少し悲しそうな気がした。
「はっはっはっはははははははははは!!!……僕は負けない。君が負ける。それが、決まった未来。それが、覆せない未来。……だから、君にいいものをあげるよ」
そういって、シャラーヤは俺の心臓のところに片手を置き……俺の体の中に、手を突っ込んだ。
途端、俺の体が、槍にでも貫かれたような熱さと痛みを感じた。
その感覚は、俺の口から、悲鳴へと変換されて出てきた。
「あがぁぁぁぁぁぁああああああ!!」
「あははは!いい悲鳴!!もっともっと、声を上げてよ!……今から、君たち人間が、僕のお気に入りにどんなことをしたのか、見せてあげるから。苦痛を、感じなよ」
シャラーヤがそういったとたん、何かが頭の中へと流れ込んできた。
それは、ある一人の少年の、痛みと苦しみと憎しみの記憶だった。
その記憶の中へと、俺の意識が引っ張られ、持っていかれる。
体が、痛い。
思考が、曇る。
視界が、眩む。
「まこと」
あいつの声が、聞こえた気がした。




