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星の見えない空  作者: 榎本あきな
さいしゅうしょう~閉じた卵~
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31.かじき座α星

5月31日【アルファ・ドラードゥス】(かじき座α星)

真実と信念の追求


「……おい」

「……やっぱり、生きてた」


 俺が背後から声をかけると、驚く様子もなく、生きているのが当たり前とでも言うかのように、しゅんは振り向いた。

 それが信頼なのか、それとも信用なのか、今の俺にはわからなかった。

 ……ただ言えることは、しゅんは、俺が生きていることを確信していたということだろう。

 武器も何も持たず、しゅんを見つめる。


「やっぱりってのは、どういうことだ」

「言葉のとおりだよ。死んでるとはどうしても思えなかったし、この本部のエースが、体調不良如きに遅れを取るようなことはないと思ってた。それに……」


 そこまで言いかけて、しゅんは言葉を止めた。

 ……誘導させて、しゅんから言質を取りたいと思っていたけど、流石にしゅんでは無理そうだ。

 そう思い、俺は短刀を取り出し、切っ先をしゅんに向けた。


「単刀直入に聞く。お前はなんだ」

「何言ってるのさ。俺は卯花 春季で、まこの幼馴染。それで……」



「違う。……しゅんは、遊戯の神が言っていた、“その子”だろ」



 しゅんが、開きかけた口をとじた。

 そのまま喋らなくなった沈黙が、しゅんの答えだった。

 長年一緒にいて、しゅんの考えていることがわかった俺は、しゅんがそれを言う前に、答えた。


「俺、今まで寝込んでたんだ。その夢の中で、“全てが手遅れになる。一部を、切り捨てる覚悟を持って”といわれた。……それって、しゅんのことだろ?この本部を作ったしゅんが、俺たちのように完全にこの世界を憎んでるとは思えない。本当は、このゲームを止めたい心がどこかにあるんじゃないかと感じた」

「……それで?」

「……小鳥遊……攻撃的な影の本体と戦った時、お前は“ルール”や“ゲーム”と言っていた。普段のお前だったら、そんなこと言わない。そして、遊戯の神は最初に“ある少年の影と一体化した存在”だと言っていた。神様という存在の影響を、ただの人間が受けないはずがない。現に、俺たちは神から特殊能力という影響を受けている」

「……」


 沈黙を続けるしゅんを見つめながら、どうして俺がしゅんを、神が言った“その子”だという確証を得たのかを、話し続ける。


「あの時のお前は、影響を受けた状態だった。そう仮定すると、どんどん侵食されている可能性が高い。……そして、あの神は、人間を憎む思いが強い。最後は、お前は神に飲み込まれて、憎しみに囚われてしまう。それが、手遅れの意味。……あの言葉は、お前が完全に神と一体化する前に、憎しみにまだ完全に囚われていないしゅんを殺せという意味だと、推測した。……影の本体が死ねば、影は死ぬ。それは、あいつも同じだろう」

「そんな暴論で、俺が納得すると思ってるの?」

「これで納得するとは思ってない。……灰色の痣があるからっていうのも、納得しないんだろ?でも、しゅんはこう言えば納得するっていうの、俺は知ってんだよ」


「……確証なんてない。俺の勘だ」


 その一言にしゅんは目を丸くし……そして、泣きそうになりながら、微笑んだ。


「……さっすがまこ。俺のこと、わかってるね」

「親友だからな」

「……今まで親友っていうと文句言って来たくせに、ここで認めるとか、卑怯すぎだろ」


 そういいながら微笑んだしゅんは、やがて無表情になった。

 完全にしゅんから感情が消えたと同時に、扉があいて、1人の女性が入ってきた。

 その女性は、朔たちがいる森に行く前に出会った女性だった。


「失礼します、本部長さん。E地区の報告書ですが……ひっ!?」


 入ってきたその女性……白井 綾湖(しらい あやこ)は、俺が肩にかけていたショットガンを目の前に突きつけられ、引きつった悲鳴をあげた。

 その声をあげたその女性に、俺は目を細め、見つめた。



「……おい。何やってるんだ。遊戯の神」



 俺のその言葉に女性は青ざめ、首を勢いよく左右に振る。

 否定する女性は、目の前のショットガンに怯えながらも、俺に向かって口を開いた。


「な、何を言っているんですか……?私は、E地区の報告書について、本部長さんとお話があっただけですが……。そっ、そもそも、シャドーは全員いなくなったのに、なんでシャドーの本体のあなたが、ここにいるんですか!?ほ、本部長さ……」

「倒れた俺を、捜索隊よりも早く見つけたんだから、あの3人は、その日に集まったはずだ。だが、悪食がこちらに来るという報告は、なかった。あの時、まだ部隊長だった俺のところに、戦闘員が来るという話は、一つも聞いていない。そして、向こうからこちらへ来るには、飛行系のやつに乗せてもらっても、一日以上はかかる。悪食を逃がした報告も、なし。……お前は、わざと悪食を逃がしたんだろう」

「そこから、どうして私が遊戯の神だと……私が、人類の敵だという結論が出てくるんですか!?」


 青ざめた顔から一変、真っ赤になって怒るその人を冷めた目で見ながら、俺は続ける。


「……しゅんは、俺の自意識過剰じゃなきゃ、俺以外のやつの言葉は、ほとんど信用しない。けど、俺自身でさえも知らなかった、俺が影の本体だという報告を、受けたと言った。現時点でそういうのが見抜けるやつはおらず、新しく入ってきたやつもいない。……だったら、それがわかるのは神だけ。そして、誰にも疑われずにしゅんのそばに居られて、その情報を伝えられるのは、しゅんの秘書のような役割をしていた、女性だけ」

「それ、私じゃないですよね!?どうして私なんですか!?」

「うるさい。……神だったら、その情報は正確なはずだ。だから、しゅんは疑いもせず、俺を殺しに来た」


 俺を睨みつける女性の視線をなんとも思わず、俺は最後の理由を述べた。


「最後に。……4人目の影の本体の友人、亮に接触していた、背の低い少女。4人目の影の本体が死んだショックから亮が立ち直ってから言おうと思って言っていなかったが、殉職した戦闘員の家族にそのことを告げるために、非戦闘員の家々を回っていたが、その少女の家は、なかった。それどころか、そこにいる人たちは、皆知らなかった。知っていたのは、戦闘員だけ。……つまり、その少女は存在しない」

「私には関係ありません!勝手に人を敵と一緒にして……失礼にも程があります!!」


「黙れよ」


 その一言で、目の前のそいつは、沈黙した。

 ショットガンを突きつけたまま、俺は、淡々と、ただ事実を言い聞かせるように、言った。



「神の姿は、人によって様々だ。……人の信仰心で出来ている神は、男には女にも、大人にも子供にも、それこそ、何にでもなれる。……違うか?」



 俺の言葉に俯いたそれ。

 俯いたまま、肩を震わせた。


「……はは……あっはっはっははははははは!!!」

「言ったでしょ。“(まこと)”は“(まこと)”。絶対真実を突き止めるって」

「あー、面白い!君の言ったとおりだ!本当に真実を見つけた!まさか、本当にやれるだなんて、思ってなかったけど」


 突然、少年の声になった神は、俺が瞬きする一瞬の間に、悪食と同じくらいの見た目の、幼い頃のしゅんにそっくりな、金髪の少年に姿を変えた。

 満面の笑みで俺をみた神は、楽しそうに言った。


「じゃあ、めでたく全ての影を“踏んだ”北馬 誠君には、EXTRAステージへご招待!」


 そういって、しゅんの手をとり、この部屋の唯一の出入り口である扉を開き、その無効へと消えていった。

 どこに向かうつもりだろうと、廊下へと通ずる扉を開き……俺は、息を飲んだ。



 扉の先には、足元も空も、満天の星空で埋め尽くされていた。


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