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星の見えない空  作者: 榎本あきな
だいごしょう~水面の魚~
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27.いて座ε星

12月28日【カウス・アウストラリス】(いて座ε星)

穏やかな協調性


 土産物を買っていく観光客や、この地域に住む主婦などが、店から食べ物を買っていく。

 呼び込みをする店の店主や、暇そうにしている売り子、忙しそうに、それでも笑顔で魚などを捌いていく人。

 商店街は、活気にあふれていた。


「手、汚れてるぞ」

「あ、ほんとだ。……ってか、そういうお兄ちゃんこそ、口元汚れてるよ。ほら、こっち向いて」


 団子を売る小さな店のベンチに、雰囲気や顔がよく似た兄妹がいた。

 どちらも、遺伝なのかつり目だが、互を見る表情は、とても優しいものだった。

 ……そして、その兄妹が誰なのか、俺はしっていた。


「こんなところで、何してんだ?」

「あ、北馬さんだ」

「……なんのようだ。普段はこっちの方面なんか、全然来ないくせに」


 朗らかな笑顔で出迎えてくれた小鳥遊とは違い、不機嫌そうな顔で俺に声をかけた鷲。

 やっぱり、こっちでも、見るからに小鳥遊が俺と普通に接しているからか、鷲と和やかに話すことはできないようだ。

 そんなことを思いながら、こっちに来た目的を告げた。


「実は、探しているやつがいてな。“卯花 春季”って言う、俺と同い年の男子なんだけど……名前とか、聞いたことないか?」

「……ごめんなさい。私、聞いたことない」

「俺も、そんな名前のやつは、聞き覚えがないな。……お前が探してるんだから、大切なやつなんだろうけど、力になれなくて、悪かったな」


 意外と鷲の態度が、不機嫌ではあるが、思いのほか悪くないことに驚きながらも、やはりここでも収穫はないかと、肩を落とした。

 そんな俺の様子を見て、2人が申し訳なさそうにいった。


「……早く、その人見つかるといいね」

「やっぱり、そいつも俺らと同じようなやつなんだろ?」

「…………?どういうことだ?」


 俺が探しているというだけで、どうして小鳥遊と鷲と同じやつ……たぶん、同じ境遇の人ということだろうが、何故、そう判断したのだろうか。

 首をかしげる俺に、鷲も不思議そうに首をかしげる。


「どういうことって……お前が、どこで聞いたのかしらないけど、どこかから俺たちのことを聞いて、俺たちを探して、ようやく見つけた俺たちを保護して、警察とかに連絡してくれたんだろ?」


 そういう鷲に、こちらでの俺は、そんなことをしていたのかと少し驚いた。

 たぶん、自分の記憶だけを頼りに動いたのだろうから、誰から聞いたのかとか、そういうのとかは問い詰められなかったのかとか、気になる点が出てくる。

 なんか、曖昧というか、俺に都合のいいような感じがすると考えていると、唐突に2人が立ち上がり、頭を下げた。


「……ありがとう。俺たち兄妹を見つけてくれて」

「……ありがとう。私たち兄妹を救ってくれて」

「お前がいなかったら、外の世界の醜さにだけ目を向けて、周りを憎みながら、自分たちの世界にずっと居たと思う」

「あなたがいなかったら、お兄ちゃんに守られてばかりの私は、お兄ちゃんの枷になっている罪悪感を感じながら、お兄ちゃんと私以外、信用できなくなってたと思う」

「「だから、本当にありがとう」」


 そういって再び頭を下げた2人は、頭を上げると、嬉しそうに笑った。

 その笑顔は、あの世界では、確実に見れなかったものだった。


「新しいお父さんとお母さんはね、とっても優しい人なの」

「母さんはほとんど家にいるし、父さんは俺たちを殴らない」

「それどころか、嬉しいこととか、楽しいこととか、私たちが知らなかった沢山の外の世界を、教えてくれるの」

「……俺たちが愛するのは、互いだけ。でも、ちょっとなら……いいかなって、思ったんだ」

「……そっか。幸せそうで、なによりだ」


 俺のところの2人は、自分たちだけの小さな幸せしかなかったけど、こっちの2人は、大きな幸せに囲まれているみたいで、なんだか安心してしまった。

 そんなことを考えていたら、そろそろ2人が帰る時間らしいので、ここで別れることにした。


「じゃあな」

「また、お話しよ!」

「……まぁ、別に、たまになら話していいけど」

「……お兄ちゃん、そろそろ素直になりなよ。助けてくれた北馬さんのこと、ヒーローみた……むぐっ」

「違う!全然そんなこと思ってないから!全然!まったく!これっぽっちも!ってか、早く帰んないと、母さんたち心配するんじゃない!?さぁ、早く帰ろう!」


 そんな風に、騒ぎながら遠ざかっていく背中。

 俺も、最後の2人のところへ向かおうと足を進めようとすると、小鳥遊が1人、こちらにかけてきた。

 不思議に思いながらも、俺のところへ来て耳を寄せるように手招きをしてくるため、少し屈んで、素直に耳をよせた。



「早く、答えを見つけてね。……でないと、全てが手遅れになる。一部を、切り捨てる覚悟を持って」



 腹に響く、鈍い感覚。

 頭に響く、鋭い感覚。


 殴れられたときのような、2つの痛みが、俺の脳内から蘇った。

 口の中は切っていないはずなのに、血の味がするようなきがする。

 血とはほとんど無縁のはずの場所で、なんでこんな記憶がよみがえったのかわからず、混乱する頭で小鳥遊がいたところを見つめると、そこに小鳥遊はおらず、遠くに2人の背中が見えるだけだった。


 ……次が、最後だ。


 次できっと、俺は全てを思い出すんじゃないかっていう、予感がする。

 しゅんがいない謎も、わかるようなきがする。



 でも、その謎を解くのが怖いのは、なぜだろうか。


***


「……自分を、見つめてください」


「僕等を、皆を救って、お礼もさせてくれないままいなくなるのは……流石に、怒りますよ」


「……全部背負わなくったって、いいんですよ」


「僕たちも背負うから……だから、自分を見つめて、そして、帰ってきてください」


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