24.アンドロメダ座α星
3月22日【アルフェラッツ】(アンドロメダ座α星)
実を結ぶ美しき夢
「……なんて、思ってたけど」
話終わった瞬間、短刀を掴んでいた俺の手を蹴り上げ、上へと飛んだ短刀を掴んだ。
そして、その短刀を両手で持ち、左足の真上……穂波の、生命線である灰色のミサンガの上へと、刃を下にした状態で止まった。
驚く俺に、穂波は告げた。
「……やっぱり、亮以外に殺されるのはやだ。……だから、自分で死ぬ」
「……そうか」
「……止めないの?」
「止めたって俺の得にはならないし、そんなことをしたら亮との約束を破ることになる。何より、止めたところでやめないだろ?」
俺がそういうと、穏やかな視線でこちらを見つめる穂波。
それに視線を返しながら、俺は聞いた。
「何か、言いたいことはあるか?」
「……亮に、私の後を追わないでって。……亮の罪も、一緒に背負っていくからって。……あと、私が死んだあと、これを亮に渡して欲しい。……亮が私の、大切な“友人”だっていう証に」
「ああ。わかった。必ずやっといてやるよ」
「……ありがと」
そういった穂波は、月明かりに照らされた中、光を反射する俺の短刀を振り上げた。
「……背負った重みに、潰されないでね」
謎の言葉を残して、穂波は短刀から手を離した。
***
扉が開く音がした。
コツコツと歩く音は、まるで眠っているかのように窓に体を預ける穂波を見て、歩を止めた。
「……ああ。これでようやく、何もなくなった」
そういう亮の顔は、穂波のような無表情だった。
無感動に、無感情にそういう亮に、ミサンガを手渡す。
そのミサンガを受けっとた亮は、目を見開き、そして、その瞳から涙をこぼし始めた。
ところどころ解れたミサンガと、綺麗に編まれたミサンガ。
その2つが、絡まって出来たミサンガ。
そのミサンガは、綺麗に切られていた。
……亮と穂波の思い出のものは、穂波の最初の“友人”との思い出よりも、穂波にとって大切なものに、いつのまにかなっていたのだろう。
だから、このミサンガが、穂波の命を握る、生命線になっていた。
「僕は……僕は……っ!!咲良ちゃんが死んで悲しい。なのに、こんなに嬉しいんだっ……!だって、咲良ちゃんがこれを切って、死んだ。それは、僕を大切に思ってくれていた証。……僕が、咲良ちゃんの命を握るものを作ることが出来た。それだけで僕は……こんなに嬉しい……!」
大切そうに切れたミサンガを握り締める亮。
そして、ゆっくりと、眠ったように動かない穂波のもとへと、歩いていく。
「……シャドーがつけている宝石のように、影の本体が死ぬのも、灰色が関連しているんじゃないかって、どこかで聞いた。……だから僕は、もし咲良ちゃん、君の命を握るものを、僕自身の手で作れたら……なんて思って、灰色の紐を持ってきて、ミサンガを作りたいだなんていって、完成品を、君の足につけた。……本当にそうなるだなんて、思ってもいなかったけれど」
事切れた咲良を見つめながら話す亮は、どこか、咲良が目覚めるのを待っているような感じがした。
悲しそうな微笑みを浮かべながら穂波を見つめる亮の背中に、俺は声をかけた。
「……穂波から、遺言だ」
「……咲良ちゃんのことだから、後を追うな……とかかなぁ……」
「……『私の後を追わないで。亮の罪も、一緒に背負っていくから』……」
そう伝えると、亮はこちらを振り向いて、信じられないように目を見開いた。
そして、泣き笑いのような笑顔を浮かべた。
「……ほんと、咲良ちゃんはわかりやすいよ……。僕に、似てる。……でも、一枚上手だな……」
「……僕の、一、ば、ん……したかった、こと、を……最後にしてくれなくても、いいじゃ、ないかぁ……!!」
そういった亮は、顔を覆ってしゃがみこみ、大声で泣き出し始めた。
窓から差し込む月明かりに照らされる、眠るように窓に寄りかかる穂波と、床に膝をついてしゃがみこんで泣く亮。
その姿はまるで、本の中に出てくる、姫と騎士のようだった。
……ここは、穂波と亮の、大切な、思い出の場所。
2人が、“友人”という歪な関係を始めた、最初の場所。
そんな2人の、最期の場所にいるのは、無粋だろうと思い、俺は静かに扉を開けた。
扉をきちんと閉めると、中で泣き続けているであろう亮の声は、聞こえなくなった。
長い廊下の端の方から、段々と朝日が照らし始めているのがわかる。
今日もまた、雲に覆われた“今日”がやってきた。
3年前よりも大分頼りない明かりを見つめながら、俺は図書室の扉に、背中をつけたまま、座り込んだ。
なんだか、体がうまく動かないというか、動かしたくない。
頭の中に、地鳴りのような音が、反響する。
段々と朧げになる視界の中に、真っ黒な影が見えた。
仲間思いの、驚異的な身体能力を持つ、短刀使いの影。
……まるで、俺のようだ。
額に灰色の宝石をつけたその影は、俺に物言いたげな視線をよこしてから、長い廊下の奥に視線をやり、どこかへと消えた。
バタバタと、足音がする。
地鳴りのような音は、この足音だったのかもしれないなんてことを思いながら。
俺は
「……君の未来は、苦しく険しい道。でも、きっと幸福はやってくるから、頑張って。……先見の能力持ちのお墨付きだよ」
「じゃあね。お仲間さん」
「 」
「……背負った重みに、潰されないでね」
「……一緒に迷えてたら、よかったのになぁ……」
四人の声と、一人の、聞き覚えのない言葉を、聞いた気がした。




