23.うしかい座α星
10月29日【アルクトゥルス】(うしかい座α星)
独自の世界観と精神力
私は、幼い頃から周囲に馴染めない子供だった。
皆が仲良く放課後に遊ぶ約束をしてる中で、皆が笑顔で昼休みに外で遊んでいる中で、私は教室の隅で一人ぼっちで本を読んでいた。
私を遊びに誘ってくれる子はいなくて、自分から話しかけても、相手からは微妙な顔をされる。
私が関わると皆を困らせるから、関わらないようにしようと悲しい思いで決めたのは、小学二年生の時だった。
けれど、そんな私に、友人ができた。
新しく入学した中学校で出会った、私とは違う小学校の仲良しな女の子の三人組で、その内の一人と隣の席になったのをきっかけに、よく一緒にいるようになった。
相変わらず周りは仲良くしてくれなかったけど、その子達がいるから、私は気にしなかった。
でも、そんな日々は、いつまでも続かなかった。
帰る時刻になり、お手洗いに行ってから帰ろうと思った私は、3人に待っててと伝え、お手洗いへと向かった。
そして、お手洗いから帰ってきたとき、教室の中から、3人の声が聞こえた。
何の話をしているのだろうと思って、ちょっとした好奇心で、私は扉の外から耳を澄ませた。
可愛くない。反応がキモイ。喋り方がウザイ。見てるだけでムカつく。死ねばいいのに。
何かの聞き間違いだと思ったけれど、よく耳を澄ませても、同じような言葉が聞こえてくるだけ。
ずっと友達でいようねって、私たち親友だよって、最初に言ったのはそっちなのに。
信じられなくて、私は扉を開けた。
だけど、扉を開けた先に待っていたのは、酷い現実だった。
驚いた顔で私を見た彼女たちは、バレたことに対して開き直ったのか、私に言いたい放題言ってくる。
それを無言で受け止めた私がつまらなくなったのか、彼女たちはすぐに帰っていった。
……私は、涙の一滴も零さなかった。
その日から、彼女たちによるいじめが始まった。
最初は、靴を隠されたり、足をひっかけられるなんて些細なものだったけれど、次第にそれがエスカレートしていき、花瓶を二階の窓から落として私にぶつけようとしたり、机の中にカッターの刃だけを大量に入れたり、トイレの便器に顔を突っ込まれて死にかけたことだってあった。
……でも、一番辛かったのは、教室で好きな人をバラされた挙句、その人の呼び出し、その人の目の前で惨めな姿にされたことだろう。
……私は、恋愛感情を誰かに抱くのを、やめた。
……唯一安心できる自室で黄昏ていると、どこからか、声がした。
幼い少年のような声は、私に問いかけた。
「君には、憎いと思っている人は、いる?」
その問い掛けに、私は頷いた。
するとその少年は、弾んだような声で、私にある提案をした。
「じゃあ、僕が復讐してあげる!その代わり、君の“影”を貸して?」
復讐。
その二文字に、“影”というのがどういうものかわからないまま、私は頷いた。
それ以後、その少年の声は聞こえなくなった。
中学を卒業し、彼女たちに入れと言われて強制的に受け、入学した高校で、私はその日も、彼女たちのいじめを受けていた。
何も考えずに彼女たちを見つめていると、ふと、空から声がした。
それは、私がずっと前に聞いた、少年の声だった。
少年の空から降ってくる話に、子供の悪戯だといいながら、馬鹿にしたように聞いている彼女たち。
少年の声が止み、少年の話を聞いていて止まっていたいじめを再開しようとしたとき……それは、起こった。
目の前に、3人のうち、私へのいじめを一番率先してやっていた子の首が、転がった。
そして、首のなくなった体の横に立つ、私のような……いや、私そのものの姿形をした、真っ黒な、まるで“影”みたいな人。
残る2人が悲鳴を上げようとするが、その前にその真っ黒な人影が動き、彼女たちの首を切断した。
そしてその影は、今度は私の方へと、歩いてきた。
……不思議と、恐怖は湧かなかった。
筆談ができるらしい私の影と、私は話をしていた。
影から聞いた話で、私は大体の状況を理解した。
それと同時に、一つだけ、理解したくなかった。
『私達を生み出した神は、人の滅亡を願っている。そして、観賞できない神が代わりに遣わしたのが、憎しみを持った人間の“影”。私達はあなたたちが死なない限り完全に消えない。そして、あなたたちも簡単には死なない。……灰色をした、あなたたちの大切な何か、あるいは体の部位を破壊されない限りは』
そういって私の影が見たのは、私の左足についた、灰色のミサンガ。
これは、彼女たちと私がまだ友達だと言い合っていた頃に作ったものだった。
……私がまだ、“友達”というものにすがっている事実に、胸が痛くなった。
その後、私達影の本体には協力的な影に、私は、安全な場所まで連れて行ってもらった。
私が元の本体だからか、私に協力するといった私の姿をした影をつれて、私はこの、シャドー対策本部へと入った。
けれど、暗殺という能力の私は、奇襲や不意打ちなどの攻撃しかできなかったから、真正面から戦う彼らの仲間には、なれなかった。
さらには、非戦闘要員の人たちが、戦闘員の人たちの為に働いていることも、人一倍不器用な私にはうまくできなかった。
小さい頃のように浮き、私がいると迷惑になると考えた私は、せめて知識だけでも得るために、夜番や警備の目を暗殺の能力でくぐり抜け、図書室へとやってきた。
けれどそこには、先客がいた。
暗がりの中で熱心に本を読む彼に気がつき、私は彼に声をかけた。
吃驚して慌てて言い訳を並べ立てる彼の言葉の中に、私は、彼がここに来る原因になったことを把握した。
そして彼は、私と同じだと確信した。
彼女たちに会ってなかったら、きっと私も、彼のようになっていたかもしれないと思いながら、彼に告げた。
“私が、開花させてあげる”って。
役立たずで落ちこぼれかもしれないけど、私が必ず、開花させてあげるって。
きっと、私と同じ彼を、救いたかったのかもしれない。
その日から私たちは、“友人”になった。
毎日図書館に来て、私が言ったとおりの本を、一生懸命読む彼。
背中合わせで座った私達の間には、確かに、少しづつ、“友情”が育まれていたと思う。
……それと同時に、今までいなかった本当の“友人”に、私達は互いに、依存していって、そして、この関係をやめたくなくて……停滞を、望んだ。
ある日彼が、灰色の紐を持ってきた。
図書室の奥から、ミサンガの編み方が載った本を見つけたため、やってみたいと思い立ち、持ってきたのだという。
純粋に笑う彼の姿に、私は、これをすることで、その笑顔が他の“友人”に向けられないためなら……なんて思いながら、頷いた。
器用な彼とは違い、不器用な私は、一度やったことがあるはずなのに、上手くできずに所々ほつれたものが出来上がった。
少し落ち込んだ私を見て、彼は微笑みながら、自身が編んだきれいなミサンガと私の作った不格好なミサンガを、絡めて、私の左足に結んだ。
“これで、少しは見栄えもよくなったでしょ?”なんて笑いながら。
……このままじゃダメだ。彼と私は、切り離さなければならないと、そう思った。
彼が、私以外の人と話している。
“友人”ではないらしいけれど、いつ“友人”という関係になるのか、私は不安だった。
きっと“友人”になってしまったら、彼はそちらと交流を育むだろう。
彼の唯一でなくなるのが、怖かった。
……“友人”が手のひらを返すあの光景が、再びやってくるのが怖くて仕方が無かった。
けれど、その子は死んだ。
私は、思わず嬉しくなった。
そして、そう思っている自分に、絶望した。
私は、大切な彼が生きる世界を残すために、死ななければいけない。
彼がいるから、もう少しだけ……なんて甘えていたけれど、もう、依存するのは、終わりにしなければいけない。
私達を切り離してくれる存在にも、出会った。
もう、停滞するのは終わりにしよう。




