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星の見えない空  作者: 榎本あきな
だいいっしょう~忠実な獣~
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2.ほ座γ2星

7月23日【アルスハイル・アルムリフ】(ほ座γ2星)

未知を見つめ光る瞳

 あまり背丈は高くない少年が、肩ほどまでの茶色い髪の毛を揺らしながら、瓦礫で積み上げられた閑散とした廃墟の中を、ゆっくりと歩いていた。

 その目は瞳孔が開き、口元はだらしなく開けられ、服はボロボロでところどころに黒ずんだものが付着している。


 飢えた獣のようなその少年は、唐突に目を左右に動かし、近くの瓦礫に身を隠した。

 それと同時に、額に灰色の宝石を埋め込んでいる、黒い人間が走り抜けていった。

 それを見送り、周りを注意深く見回したあと、黒い人間が走っていった方と逆の方向に駆けた。


 少し行くとそこには、先ほどと同じように瓦礫の山ばかり。

 何もないと判断した少年は、落胆した表情で踵を返し……僅かに聞こえたうめき声に振り返り、一目散にその場所へ向かって走り出す。

 少年がそこへ行くと、瓦礫に両足を挟まれて動けない男性がいた。

 しかし、目は虚ろで焦点が合っておらず、白い髪の毛に黒い髪の毛が混じっており、言葉にもならないうめき声を口から発している。


 少年は、地面に投げ出された両腕のうち左腕の方に口元を近づけ……口を大きく開いてから、閉じた。

 何かを振り払うように頭を振り、男性の両足を挟んでいる瓦礫を、楽々と押しのけた。

 そして、瓦礫の中から男性を引っ張りだした少年は、自分よりも倍以上ある男性を軽々と肩に担ぎ、どこかへと走り出した。


***


 3年間の間に慣れてしまった肩の重みに、慣れって怖い……なんて思いながら、俺はいつもいるC地区を出て、その隣のD地区へと来ていた。

 シャドー対策本部……C地区に本拠地を構えているそこから出てきて、このD地区へ来たのは、理由がある。


 D地区の隣にあるE地区の支部が、元は森林公園だった場所の木々が3年で急激に成長し、支部が飲み込まれてしまいそうなのだ。

 支部側は、その木々を燃やそうとしたり調査するために人を送り込んだらしいが、燃やそうとしても火が勢いを増さず、そのまま沈静化してしまう。

 送り込んだ人々は、3ヶ月はたっているが、未だ帰ってくる気配はまったくと言っていいほどないらしい。


 そこで俺は、頼まれてもいないのに自分でその場所へと向かい、調査するためにD地区へと向かっていた。

 頼まれてもいないのに向かう理由としては、単純に、何も進展しないこの現状に、嫌気がさしたというのが含まれる。

 いつもいつも、シャドーの体に埋まっている灰色の宝石を打ち壊し、殴り壊し、シャドーを倒してきた。

 あの少年がくれた特殊能力なのかは分からないが、戦闘に関して、俺は驚く程の好戦果を上げ、本部の中では一番に強いのではと言われるほどになった。


 それで戦闘がつまらなくなったから嫌気が差したとか、そういう自慢みたいなものではなく、死にかけの日々に嫌気が差したのだ。

 毎日毎日、銃を使って、刃物を使って、シャドーを倒して、死にかけながら本部に戻って……誰かが死んだという報告に、悲しむという報告と共に俺の番じゃなかったと安堵する。

 3年もたっているからか、死ぬ奴はめっきり少なくなったが、それでも、あまり殺されていない個体のシャドーに出会うと、殺される確率は高くなる。

 毎日怯えながら戦い、そして自分じゃなかった、今日も死ななかったと安堵するのを、俺は少しでもなくしたかった。


 けれど、いくら待ってもシャドーの本体である人間を倒したという報告はなく、シャドーの数も減っていない。

 それに最近、どこに隠れていたのかしらないが、彼らを統率する新たな個体が出てきた。



 銃の扱いに長け、人を見つけるとところ構わず襲ってくる攻撃的な個体。

 植物を操り、執拗に追いかけ、一度捕まると生きたまま嬲り殺しにされる粘着質な個体。

 暗殺に特化し、闇に紛れて相手を一撃で葬り去り、どこかへ消える厄介な個体。

 単独では何もないが、他の個体に攻撃すると牙を向く、仲間思いな個体。

 そして今回の、攻撃はしないがそれぞれを統率する能力をもつ個体。



 この5つの個体が、少年の言っていた5人の影なのだろう。

 だが、その本体である人間はほとんど見つかっておらず、唯一見つかっているのが、攻撃的な個体の持ち主である、中学生くらいの少女だけだ。

 シャドーの本体ではない少女の兄と共に、日夜人殺しに励んでいるという。

 少女の影が攻撃的なのも、たぶん、本体に影響されているのだろう。


 他の本体は、上手く隠れているのか見つからず、統率が取れてきた最近は、5人1組に固まっていることが多く、倒すのが難しくなってきている。

 一刻も早く見つけるためにも、俺はこうして自ら行動を起こし始めたのだ。

 純粋に、木々に飲まれかけている支部の人たちが心配ってのもあるんだけどな。


 そこまで考えてから、腰につけているバッグから、支部までの道のりが書かれた地図を取り出した。

 道順が間違っていないかを確認し、あと30分くらいだと目星をつけてから、地図をバッグへとしまった。


「がるるるぅぅ……」


 獣の声がして、俺は咄嗟にそばにあった瓦礫に身を隠した。

 なにせ、特殊能力を貰ったのは俺たち人間だけではなく、犬や猫などの他の動物や、植物までもが特殊能力を貰っているのだ。

 上手く手懐ければいいが、その能力のせいで凶暴になり、俺たちを襲ってくる野生の動物もいるため、動物愛好家の人には申し訳ないが、そういうやつは殺さなければいけない。

 ……まぁ、動物愛護団体はとっくに解散しているし、本部にいた愛好家のやつは、子犬を抱き上げたときに喉笛を噛み切られて死んでいるから、俺の知る範囲ではいないのだが。


 瓦礫から僅かに顔をだし、獣の声がしたところへと目を向ける。

 朝方だからか、雲の隙間から薄らとさす太陽の光により、瓦礫から耳が生えた動物……犬であろう影が少しだけ見えた。

 肩にかけていたショットガンシースからショットガンを取り出し、一度深呼吸をしてから、一気に瓦礫へと走り、駆け上った。

 だが……瓦礫の上から犬がいた場所へ銃を向けるが、そこには何もいなかった。


 咄嗟に、後ろへショットガンを振り回す。


 ガンっという音と、何かに当たったような手応えを感じた。

 背後から俺に襲い掛かり、俺がショットガンを振り回したことで横に吹っ飛ばされた何かは、痛みに呻きながらも綺麗に着地したようで、ぶつけたような音がしなかった。

 先ほどの犬が襲いかかってきたのだろうと思って横を見た俺は、驚愕した。





 そこにいたのは、10歳くらいの、茶色い髪の毛をした少年だった。





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