19.ふたご座η星
6月24日【プロプス】(ふたご座η星)
気を遣うさびしがり
「お前、俺に隠し事してるだろ」
「……へ?」
俺は今、しゅんを問い詰めていた。
……こいつが、俺に重大なことを隠しているからだ。
「俺の目が誤魔化せると思ったのか?」
「……やっぱり、真ってだけはあるね」
「……?俺の名前は誠だけど」
「誠って、“まこと”とも読めるでしょ?真……その呼び名のとおり、まこなら真実を見つけることができるって、思ってたよ」
「……今まで、なんで“まこと”って呼ぶのか不思議だったけど、そんな理由だったのか……。ってか、そんな話はいいんだ。それより……」
なんか悲しそうな顔をして何かを言っているしゅんを無視して、しゅんに近づく。
俺の顔が近づいたことによって、俺としゅんの温度差が、なんだか違うことにしゅんが気がついた。
「……あれ、もしかして、あのことじゃないの?」
「あのことってのはどのことだ」
「……俺の早とちりだったのかも……。ってか、距離近くないっ!?」
そういって距離を取ろうとするしゅんの右腕を掴み、逃げられないようにする。
驚くしゅんを放って、俺は、しゅんのシャツをまくりあげた。
「……なんで怪我を隠してた」
「………………てへっ」
殴った。
***
「だって、皆忙しそうだったしさー、俺の怪我なんて、周りの人と比べたら、ただのかすり傷だよ?」
「ここから病原菌が入ってくる可能性もあるし、服と接しやすいから、治るのも遅い。簡単な処置だけでもしておくに越したことはないだろう。……まぁ、あいつらの手を煩わせたくないってのは、わかるけど」
「でしょ~!だったら、報告は……勘弁して?」
「それとこれとは話が別だ」
「……ケチ」
小鳥遊との戦闘で、脇腹に怪我をしていたしゅんは、それを巧みに隠しながら、俺たちとともにC地区へとついた。
最初は気付かなかった俺だが、服と接触するのが多いためか、擦れて怪我が広がっていたらしく、それを痛がり始めたしゅんの怪我に気づいた俺は、しゅんを問い詰めた。
その結果が、今現在、しゅんの手当を俺がしているという状況だ。
小鳥遊との戦闘で、重傷を負った者が何人もおり、救護班はその手当に追われている。
かすり傷といえども、各地の支部を1人でまとめている上役のしゅんが怪我をしたといえば、重傷者への大事な人員を割いて、しゅんの手当をしてくれるだろう。
だが、しゅんはそれで重傷者への対処が遅れるのを危惧したため、今の今まで言わなかったらしい。
俺が気づかなければ、この自体が収まるまでは言わないつもりだったらしいから、本当に気がついてよかった。
大事な司令官なのに、みんなのためを思って怪我を隠し、その結果悪化して、戦闘で全力を発揮できなくて死亡……なんてことになったら、一大事だからな。
小さな怪我だったら俺が手当できるから、救護班に言っておくが、俺の手当だけで済むと口添えしておこう。
……まぁ、救護班の奴らや、あいつの補佐をしてるやつとかに、とことん叱られるだろうけどな。
左脇腹にある、生まれたときからあるらしい灰色の痣をチラリと見たあと、怪我をした左脇腹の手当が終わり、礼を言ってくるしゅんに次はないぞという意味をこめて睨みつけたあと、部屋を出て、救護室にてしゅんの怪我の報告をする。
案の定、慌ただしかった救護室は静まり返り、次の瞬間、大爆発を起こした。
なんとか騒動を諌め、心配しなくても大丈夫だと伝えたが、これは、救護班の隊長達の雷がしゅんに落ちるのも、時間の問題だろう。
俺には関係ないとばかりに、静かな怒りを滾らせる救護班のいる救護室から逃げ出し、久々に訓練場でも行くかな……と歩を進めていたときだった。
言い争いの、声が聞こえた。
壁に隠れ、相手から見えないようにしながらも、声を盗みきく。
「お前、あんまり褒めない部隊長が褒めたからって、調子に乗ってんじゃねーよ」
「ぼ、僕は……別に、そんなつもりじゃ……」
「口答えすんじゃねーよ。下っ端のくせに」
「そうそう。壊れたものを新しくする力しかなくて?しかも、設計図が頭に入ってないと出来ない?馬鹿じゃねーのお前」
「俺たちは、戦場に出る人たちの大事な相棒を整備してんだよ。なんの愛着もない、新しい道具を作り出すしか能がないお前は、整備班にはいらねぇよ」
下を向いて、今にも泣き出しそうな背の低い少年。
その少年を取り囲み、まるで脅しているように壁際に追い詰める3人の青年。
自身で口答えをするなといっておきながら、何も言わず、ただ俯いたままの少年に苛立ちを感じたのか、少年の目の前にいた青年が、拳を振り上げる。
それと同時に、壁から飛び出し、青年の腕を掴んで足払いをかけて床へと叩きつけた。
突然の出来事に反応できていないのか、目を丸くする少年と、唖然とする青年2人と、叩きつけられた衝撃で咳き込む、拳を振り上げた青年。
俺を見つめていた少年が、震える声で告げた。
「C区画総部隊長……北馬 誠……さん?」
その声に、われに帰ったらしいそいつらは、俺に向かって敬礼した。
俺の名前を言った少年も、慌てて敬礼する。
こういう反応されるのって、結構面倒なんだけど……なんて思いながら、手を下ろせとジェスチャーをし、少年を脅していた青年達に告げる。
「本部内での暴力は、非常時以外は許可された場合を除いて、原則として禁止されているはずだが?」
「そ、それは……そいつが勝手にやろうとしたことで」
「おいっ!俺を見捨てるのか!?お前らもリンチしよーぜって言ってたじゃねーか!!」
「……お前は静かにしていろ。とにかく、暴行未遂のお前は、然るべき処罰がくだされる。あと、お前らも、報告だけはしておく。……次は、忠告だけじゃ済まないからな」
「「は、はいっ!!」」
そういって、抑えている青年を他の青年に預け、連れて行くように指示する。
走って逃げる彼らの背中を見ていると、後ろから少年が声をかけてきた。
「あ、あの……たた、たしゅけ、助けて頂き、誠にありゅ、ありがとうございます……!!」
その声と顔に、どこか見覚えを感じて、少年を見つめる。
何か粗相をしたのかと焦る少年に気がつきながらも、そのまま少年を見つめていると、ふと、思い出した。
「……ああ。あの時ショットガン直してくれた……確か、亮って言ったか?」
「は、ひゃいっ!!!おぼぼぼ、覚えて頂き、至極きょう栄に思いましゅっ!!」
その言葉に苦笑すると、更に亮は焦った。
ここまでの反応はなかなかないため、笑いをこらえるのに必死になっていると、亮が腕時計を見て、さっきとは違う風に焦り始めた。
「どうした?」
「え、えと、えとえと、そりょ、そろそろ、友達のところに行く時間でして……。あの、決して、けっっっっして、部隊長さんが嫌いとか、そういうんじゃないですから!!」
必死に言葉を尽くして俺のせいではなく時間が……と訴える亮に、苦笑しながら告げた。
「そんくらい、わかってるって。行ってこい。友達は大切にしないとな」
そういうと、亮の瞳が輝き、大きな声でお礼をいい、廊下を走っていった。
見えなくなる寸前、亮が大きな声で、俺に向かって呼びかけた。
「僕、この時間は友達と図書室にいるので、御用があったらそのときは図書室に御足労願います!!!」
そういって、今度こそ亮の姿は見えなくなった。




