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星の見えない空  作者: 榎本あきな
だいさんしょう~自由な鳥~
18/37

18.おおぐま座β星

9月6日【メラク】(おおぐま座β星)

素直な純粋性


「………ろ………や、る…………」


 小鳥遊を抱えた鷲が、小さな声で何かを呟く。

 鷲を見つめていると、憎しみと殺気と恨みがこもった視線を俺に向けて、体全体に俺を殺したいという雰囲気を醸し出しながら、叫んだ。


「殺してやる!殺してやる!!ようは……ようは!!お前のことを信頼していたのに!俺も、お前なら、俺たちを助けてくれるかもしれないって……そう、思い始めてたのに!!!なんで……なんでなんでなんで!!」


 俺に向けて罵りの言葉を吐いた鷲は、その直後、急に呻き始めた。

 まるで野生のままだった悪食のような、けれど、どこかそれとは違う、自分の意思ではなく、苦しんでいるかのような唸り声に、俺は目を細めた。

 苦しんでいる鷲は、それでも大事な妹である小鳥遊の遺体を傷つけないようにするために、そっと床に横たわらせた。


 その隙に、できるだけ鷲を距離を取ると、鷲が頭を抱えて更に大きく唸り声をあげた。

 そして、それは起こった。


「ぐ、あ あ あ  あ   あ    あああああああああああ!!!」


 頭を抱えながら大きな叫び声をあげた鷲の肩甲骨から、翼が生えた。

 黒の模様のついた、茶色い、鳥の羽。


 恐怖、怒り、哀しみなどの、負の感情……その感情が最も強くなった時に起こる、一種の能力の暴走状態だった。

 負の感情に支配され、後天的に授けられた能力だからなのか、その感情と共に能力に体が乗っ取られ、正気をなくし、負の感情を生み出す原因になったものを、真っ先に排除しにかかる。

 そして今回狙われるのは…………俺だ。


「ギィギィギュィヤー」


 能力に意識を乗っ取られ、正気をなくした鷲は、鳥なのかも判別できないような奇怪な鳴き声を発した。

 それと同時に、肩甲骨から生えている鳥の羽を羽ばたかせ、その場から浮き上がった。

 しゅんに行けという合図をだし、ここから去ったのを確認してから、ショットガンを構える。


 意外と高いところまで浮上しており、ショットガンの射程距離まで降りてこない。

 理性は残っていないが、知性は残っているのかもしれない。

 そんなことを考えていると、鷲が羽を素早く羽ばたかせ、突風を生み出した。


 てっきり突っ込んでくるものだと思っていたため、思わぬ攻撃に足の踏ん張りがきかず、吹っ飛ばされ、屋上から落ちないように設置されたフェンスに背中からつっこむ。

 ガシャンと大きな音を立てて俺を受け止めたフェンスは、俺の判断を送らせるには十分だった。

 鷲から意識がそれたのを好機と見たのか、突っ込んできた鷲を蹴り飛ばすこともできず、脇の下に手を入れられ、そのまま持ち上げられてしまう。


 鷲と共に浮かび上がった俺は、鷲によってフェンスを超えた先……鷲に手を離されたら、落下して死んでしまう、何もない空中にいた。

 俺を捕まえられた……あとは、自分の意のままのとおり、という風に鳴き声を発する鷲が気に入らなかった俺は、体を揺らして鷲の首に両足を引っ掛けた。

 首への唐突の重さに驚いたのか、俺を離した鷲の様子に内心ラッキーと思いつつ、首に巻きつけた足で胴体を持ち上げ、まるで肩車のような姿勢になった。


 振り落とそうと躍起になって飛び回る鷲に、俺は鷲に掴まりながら機会を伺っていた。

 そして、鷲が飛び回りすぎて疲れているのを見て、俺は、両手を握り締めて、鷲の頭の頂点へと、勢いよく振り下ろした。


 ガツンといういい音がしたと同時に、鷲の体が落下する。

 落下している最中に、鷲を地面から守るように移動し、地面へと……ポスリ、と落ちた。


 ふと下を見ると、マットが敷いてあった。

 あたりを見回すと、しゅんが少し離れたところでこちらに手を振っているのが見えた。

 どうやら、俺たちが落下してくるんじゃないかと予測して、マットを置いといてくれたらしい。


 怪我をしなかったことに安堵していると、腕の中にいる鷲が、翼と腕と足を、同時にバタバタと動かし始めた。

 それでも抱きしめ続けていると、翼がどんどん縮んでいき、最後には消えた。

 手足すらも動かさなくなった鷲を見て、俺は声をかけた。


「……小鳥遊はさ、なんていってた?お前に、世界を愛して欲しいって」

「……ようのいない世界なんて、いらない」

「俺は、小鳥遊が“俺に殺されたい”っていったから、あいつの願いを叶えてやっただけだ」

「…………」

「俺は、好きにならなくていい。お前の大事な妹を殺した男なんだからな。でも、世の中には優しい人間だって、人口が減った今でも沢山いる。……全部を、好きになれなんて、小鳥遊は行ってない。ただ、小鳥遊が気づいた世界の“何か”を、お前にも知ってほしいだけなんだろうよ」

「……何、か……」

「その何かを、お前のその背中の羽で、探しにいけよ。……大事な妹の、最後の願いなんだからさ」


 俺がそういうと、鷲は一回だけ、小さく頷いて、それから何も言わなくなった。

 肩の周辺が、徐々に濡れていく感覚がしたような気がしたが、きっと気のせいだと思い、俺は抱きしめている鷲の背中を、ゆっくりと、さすった。


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