17.いっかくじゅう座δ星
7月8日【デルタ・モノケローティス】(いっかくじゅう座δ星)
余裕のある愛情
ボロボロになった校舎の、なんとか形を保っている状態の柵をヒラリと舞い上がるように飛び越え、砂の地面へと静かに降りた。
校庭へと侵入した少女……攻撃的なシャドーの本体であり、銃に関する能力を有していると予測されている、小鳥遊 鷹は、校庭の真ん中で立ち止まった。
……僅かに、周りから音がする。
「…………放て」
静かでよく通る、冷静な声がその場に響き渡る。
それと同時に、弓を限界まで引き絞り少女へと狙いを定めた人々が、周りの物陰から飛び出し、一斉に矢を放った。
狙いの中心にいる少女は、危機的状況だというのに、不敵に笑った。
「そんなので、私が殺せると思ったの?」
そういうと、両手に持っていた二丁拳銃を自在に操り、まるで神に捧げる神楽でも舞っているかのような優雅さで、少女は四方八方から飛んでくる矢を撃ち落としていく。
たった二丁の拳銃だけで飛んできた全ての矢を撃ち落とした少女は、満足そうに笑った。
そして、矢を全て撃ち落とされて唖然としている人々に向けて、そして、校舎の中でこちらを狙う人々に向けて、少女は宣戦布告でもするかのように、叫んだ。
「今度は……こっちの番よっ!!!」
そういって、拳銃を2つとも上へと放り投げる。
クルクルと回転しながら上へと投げられた灰色の拳銃は、落ちて再び持ち主の元へ戻る時には、一つの、灰色の機関銃となっていた。
上から降ってきた重そうな機関銃をなんなく受け止めた少女は、引き金に指をかけた。
連なるようにして機関銃から発射される弾の音が鳴り響き、それとともに沢山の悲鳴が輪唱する。
少女以外誰もいなくなった校庭から、今度は校舎の方へと銃口を向け、再び引き金を引く。
窓が発射された弾により壊れていき、その後ろにいた人影は、校舎の中で悲鳴を反響させながら、次々と倒れていく。
全ての窓と人を殺した少女は、ふと、屋上に見えた人影に目を凝らした。
そして、目を見開いた。
「お兄ちゃんっ!?!?」
そこにいたのは、少女の実の兄であり、少女にとって滅んでしまえと思うほど憎んでいるこの世界で、唯一愛しているとも言える少年……小鳥遊 鷲であった。
少女は、兄の後ろから出てきた青年……顔立ちのよい、リーダーのような雰囲気を醸し出すその人を睨みつけた。
青年が、少女に言い放った。
「君のお兄ちゃん、返して欲しかったらここまでおいで。君が僕らに勝ったら返してあげる」
「よう!!こっちに来るなっ!!逃げろ!!」
こっちに来るなと叫ぶ兄の声を無視して、少女は校舎へと向かって走っていった。
先ほど割った窓から入り込み、窓ガラスの破片を踏んで足元がジャリジャリと音を立てるのも気にせず、全速力で校内を走っていく。
途中に出てくる敵は、銃の姿を拳銃やショットガンに変え、走っていてブレるはずだというのに、的確に眉間や米神、心臓や首などの急所に風穴を開け、一撃で葬り去ってから緩めていた足を速めて、全速力で向かう。
けれど、ここまで一撃も攻撃を食らっていない慢心からか、それとも怒りで周りが見えなかったのか……。
「そりゃぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」
丁度死角になる階段の上から降ってきた背の低い少女が、アイスピックを持って少女の眉間めがけて飛び降りてくる。
直前まで気が付いていなかった少女は、すんでのところで首をひねり……アイスピックの先が、左目に刺さった。
「う、あ……ぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!」
アイスピックが刺さった少女は、拳銃を襲いかかってきた少女の鳩尾に押し当て、そのまま少女の体に風穴を開けた。
叫ぶことなく倒れた少女を見る暇もなく、少女は目に突き刺さったアイスピックを抜き取る。
血が出てくる感覚の代わりに、目の奥がどんどん凍っていく感覚がして……左目が灰色に包まれ、何も見えなくなった。
それでも少女は、自身の兄のもとへとかけていった。
***
「来てくれてありがとう。嬉しいよ。……あれ?その左目はどうしたの?」
「……お兄ちゃんはどこ」
「世間話くらいさせてよ~……。……君のお兄さんは、ここだよ」
そういった顔立ちのよい青年は、たっていた場所から移動し、地面に倒れている少女の兄の姿を見せた。
少女が何かを言おうとする前に、その言葉を遮る。
「大丈夫。君のお兄さんは、うるさかったからちょっと眠っててもらってるだけ。直に気が付くよ。……さて、ゲームを始めよう」
そういって青年は、先程までの青年の雰囲気とは似つかわしくない、まるで子供のように無邪気な笑顔で笑った。
それがなんだか、この状況を生み出した全ての元凶である神と名乗る少年を、少女に思い起こさせた。
「ルールは簡単。……僕に、一発でも攻撃を当ててごらんっ!!!」
青年がそう言うと同時に、凄まじい速さで少女のもとへと青年が飛び込んでくる。
ナイフを突き出された少女は、反射的に二丁の拳銃をクロスさせて攻撃を防ぎ、距離を取るために下がる。
けれど、逃がしはしないとでも言うかのように青年が追撃してくる。
防戦一方の少女は、攻撃するタイミングを何度も伺うが、青年の不規則な動きについていくのに必死で、攻撃の隙ができない。
自分の手元を見るので必死の少女は、青年がつまらなそうな顔になっていたのに気が付いていなかった。
「……飽きちゃった」
そう一言呟いた青年は、驚く少女を蹴飛ばし、今まで隠し持っていた拳銃を取り出し、銃口を少女の兄へと向けた。
そして、引き金に指をかけた。
「だめぇぇぇぇぇえええええええええええっ……!!」
15発近くもの音が鳴り、辺りへと響き渡っていく。
気絶したままの少女の兄の前には、兄を庇うようにして、少女がいた。
「ん……うぅん…………。あ、れ……俺……、……っ!!よう!!よう!?」
気絶から目を覚ました兄が、穴だらけのまま倒れた自身の妹を抱き抱える。
その体は、氷のように冷たかった。
「やっと内側から凍ってきてくれた」
そう言った青年を睨みつけるも、今はそんな場合じゃないと、すぐさま自分の妹へと視線を戻し、声をかけ続ける。
辛うじて右目を開けた少女は、小さな声で言った。
「……これで、お兄ちゃんは自由だよ。私に、縛られなくていいの」
「縛られてなんかいない!!今だって、あの親から解放されて、自由だ!!なのに、お前がいなくちゃっ……!!」
「……お兄ちゃんは、私を守る為に人を信じなくなった。ずっと、私の面倒を見てくれた。……でも、これからは自由に生きて。……生きて、信じて、愛して。……まぁ、それだけお兄ちゃんが愛されても、私の愛の方が、上、だろう……けど、ね…………」
少女の体が白くなっていき、心臓の上で大切そうに握っている、拳銃へと変化していた灰色の腕輪も、少女の体と共に凍っていく。
喋らなくなっていく少女に必死に声をかける少年は、ふと、自身の近くへ歩み寄る足音に少女へと向けていた顔をあげた。
それは、大怪我の少女を看病してくれた、灰色の髪の毛の青年だった。
「な、なぁあんた……妹を、妹を助けてく」
ガシャン
氷が割れる、音がした。
少女の腕輪を貫通し、少女の心臓を、あの時の青年がよく手入れしていた短刀が、突き刺していた。
「 」
虚ろな瞳で、ゆっくりと青年に顔を向けた少女は、わからないほど小さく口を動かした。
そして、その瞳を閉じた。
「……お前の想い、背負ってってやる」
その言葉が少女に聞こえたかどうかは、わからない。




