15.りゅうこつ座β星
8月8日【ミアプラキドゥス】(りゅうこつ座β星)
内面の野心と穏やかさ
食べ物を持っていくと、少年はいつも俺を睨みつけていて、少女はいつも眠っていた。
警戒された状態で、それでもゆっくり少年から聞き出したところによると、敵との戦闘中に少女が大怪我をし、どこか休める場所はないかと探したところここを見つけ、他に行く場所もないからここに飛び込んだのだとか。
これで俺が敵だったらどうするのだとか、言いたいことはあるにはあるが、これをいうと警戒がさらに強くなりそうだったため、やめておいた。
シャドー本体を追い詰め、倒すというのは、あともう少しというところまで行ったらしいのだが、逃げられたらしい。
そんなに遠くへ行っていないだろうから、現在ここら辺りを捜索中らしい。
……簡単にいうと、俺の休暇が伸びたって意味だな。
食事をしている最中、これでもかというくらい俺を見つめながら食べる少年にも、そろそろ慣れてきたなんて思いながら、連日続く雨の音を聞いていた。
人も、獣も、影も、何も聞こえない外の様子に、なんとも形容しがたい思いを浮かべた。
「……う、うぅ……」
「っ!?よう!?」
何も動かず、まるで死んでいるかのように眠っていた少女が、うめき声をあげた。
それを聞いて、はじかれたように椅子から立ち上がり、少女の名前と思しき言葉を発しながら、少女の枕元へと近寄る少年。
何度か呻き声を上げていた少女は、ゆっくりと瞼を開けた。
「おに……ちゃ……」
「どうした?何か欲しいか?」
「お……み、ず……」
「ああ。今、飲ませてやるからな……!!」
そういって、近くの棚に置いてあったコップを手に取り、少女の首に手を添えながら、コップを口元に持っていき、ゆっくりと傾けていく。
コップの水が減っていくと同時に、少女の喉が上下する。
コップの中の水がなくなり、少年が再び、少女の頭を枕へとそっと置く。
水がなくなったため、コップに水をくもうと、少年が少女に背を向ける。
その少年の袖を小さくひっぱり、少女はつぶやくように言った。
「……呼んで」
「……でも……」
「いいから、呼んで?」
「……わかったよ……」
少女の言葉に、渋々少年が了解すると、こちらを睨みつけるように少年が俺に声をかけた。
「……おい。妹があんたと喋りたがってる。こっちに来て」
少年に言われるがまま、席をたち、少女のそばへと寄る。
眠っているときよりも大人びたような印象を受ける少女は、俺の方に手を差し出した。
「返して」
その一言で、なんのことか理解した俺は、腰のバッグに入れていた二丁の拳銃を取り出した。
いつの間にという顔をする少年を放っておいて、少女にその二丁の拳銃を渡した。
「……私が寝てる間、お兄さんがずっと手入れしてくれてたんでしょ?……ありがとう」
「別に。血に濡れたままだったから、そのままじゃダメになると思ったからな。動けるようになったら、変なところがないか確認してくれ」
「うん。本当にありがとう」
そういって少女は、朗らかに笑った。
少女は、自身の枕元に大切そうにその拳銃を置いたあと、なんとも言えない表情をしている兄を見ることなく、俺に言った。
「私の名前は、小鳥遊 鷹。よろしく。お兄さん」
「俺の名前は北馬 誠だ。ここは仮の家だからずっといるわけじゃないが、俺が出る日までは面倒見てやるよ。よろしく」
「ちょっと!よう!?何勝手に名前教えてるのさ!そんな簡単に名前を教えちゃ……」
「お兄ちゃん。この人は悪い人じゃない。私、眠っている間、この子達を通してずっと感じてたの。この人の心」
そういいながら、拳銃を愛おしそうに撫でる小鳥遊。
拳銃から心を感じ取れるなら、自身の一部から拳銃を作り出せる能力なのかもしれないと考えていると、少年が睨みつけながらもこちらに体を向けた。
納得がいっていない顔をしながらも、口を尖らせていう。
「……俺は、ようの兄貴で、小鳥遊 鷲。妹を助けてくれたことには感謝する。……でも、助けてくれたからって、俺はお前に心を許したりなんかしないからな!!」
「ちょっと外行ってくる」と叫ぶようにこちらに告げた鷲は、扉を蹴破るかのような勢いで、外へと駆け出していった。
それをみた小鳥遊は、鷲の出て行った扉を見つめながら、俺に謝ってきた。
「……ごめんね。お兄ちゃん、ずっと私を守ってきたから、人が信じられないの。私も、この子達がいなかったら、信じられなかったと思う。だから、お兄ちゃんのこと、怒らないでね?」
そういった小鳥遊の顔は、子供らしくなかった。
その時の顔は、雨音に隠された、今も起こっているであろう目を背けたい、人と影の戦いを、俺に思い起こさせた。
会話が途切れ、部屋の中に雨音だけが響く。
ふと小鳥遊を見ると、すやすやと、今度は死んだようではなく、気持ちよさそうに眠っていた。
小鳥遊の寝顔は幼く、その幼さが、まだこいつは子供なのだと実感させてくれる、唯一のもののように思えた。
視界の隅に映った二丁拳銃が、灰色の体を光らせ、その実感を否定しているようにも思えた。




