14.ケフェウス座β星
2月9日【アルフィルク】(ケフェウス座β星)
慈しみと同情、使命感
雨が降りしきる中、泥水をはね上げながら、俺は抜かるんだ瓦礫に囲まれた地面を走っていた。
何度もぬかるみに足を取られて転びそうになるが、必死で体勢を立て直しながら、走るのを止めることはできなかった。
俺の抱えている腕の中には、唯一の大切な家族である、妹がいる。
大怪我をし、気を失っている妹を、後ろから追ってくる人々に殺されないように、俺は走る足を早める。
……この地獄のような世界で、唯一の大切な存在を、奪われるわけにはいかない。
例え、妹が俺たち人間にとって、殺さなければいけない対象なのだとしても。
さっきよりも、後ろから追いかけてくる声が近くなってきた。
俺の体力も、そろそろ限界だ。
ちょうどそのとき、目の前に瓦礫に隠れるようにして、小さな小屋の扉が目に入った。
もしかしたら、誰かがいるかもしれないが、妹のように多人数を相手にはできないが、一人くらいなら俺でも相手にできるだろう。
……もし敵わなくても、妹だけは絶対に守る。
そう決意を固めて、俺は扉へと飛び込んだ。
***
朔に言われた通りに森に火を放ち、森は跡形もなく消え、E区画の対策支部の建物を覆っていた植物たちも、森が焼けると同時に枯れていき、地面へと落ちた。
建物が侵食される恐れもなくなったため、俺としゅんは、本部があるC地区へと帰った。
本部へ戻ると、沢山の人が俺たちを囲んだ。
どうやら、上の役職である俺としゅんがいなくなったため、結構大変だったらしい。
「仕事押し付けて勝手に行かないでくださいよ~!!」
「俺が行くときに積んであった仕事は、全部終わらせてあったはずだけど?」
「……引き継ぎ。……引き継ぎもなしに私に押し付けたから、何をするかまったくわからなかったんですからね……っ!!」
しゅんの手伝いをよくしている女性が、しゅんの手を引っ張って執務室へと連れて行く。
言葉にすると、さながら売られていく子牛の歌みたいだが、自分の仕事だからしょうがないと諦めているしゅんからは、そんな雰囲気はしなかった。
それを眺めながら、少し落ち着いた人の群れの中、俺はいった。
「おい!銃の整備できるやつはいるか?」
「あ、はい。あたしできます!」
そういって手をあげる、人の群れに埋もれている背の低い少女。
群れをかき分けて俺の前まできた少女に、帰ってくる道中でシャドーにやられて砲身が僅かに曲がってしまったショットガンを差し出した。
少女はショットガンをくまなく眺めてから、俺に問いかけた。
「この銃に、愛着あります?」
「まぁ、あるっちゃあるが……無理だって言うなら、新品でもいい」
「わかりました。亮!風谷 亮!ちょっとこっち来て!」
少女がそう呼ぶと、人の群れの中から「はーい」という声が聞こえた。
少女と同じように群れをかき分けて出てきたのは、背の低い少女と同じくらいの少年。
少年は、俺を目にした瞬間、まるで石になったかのように固まり、カチコチになりながらも敬礼をした。
「あ、あわわぁぁああ……!!ぼ……じっ、自分は!しぇい、整備班特別部隊所属、かか、かかか、風谷 亮であります!この、このたびは、あなた様を一目見るだけでなく……」
「そんなことより、はいこれ」
「うぇっ!?えっと、え?」
「これ、もう使えないから、新しいのにして。エース様のご命令よ」
「ひゃっ!?ふぇっ、ひぇ……え、えと、承りました!!」
そういうと彼は、戸惑っていた表情を真剣なものに変え、じっくりとショットガンを見つめる。
新しいのに変えるだけ、そんなに見ることが必要なのだろうかと思いながら見つめていると、亮がショットガンの両端を手のひらで持った。
亮の瞳が、一瞬光った。
亮が手のひらの間に持っていたショットガンは、まるで紙のようにくしゃりと亮の両手に潰されていた。
ぎょっとして声をかけようとすると、すぐさま両手を先ほど持っていたショットガンの幅まで広げる。
それと同時に、元に戻るショットガン……いや、傷一つない、新品のショットガンになった。
「あの、できました……!!」
そういって怯えながらもショットガンを差し出してくる亮に、お礼をいいながら受け取り、頭を撫でてやった。
唖然とした表情をする亮を置いて、一回分解して調べてみるかな……なんて考えていると、執務室にいったはずのしゅんがこちらにかけてきた。
「まこ!B地区行くよ!」
「…………はぁ?」
***
唐突に言い出したしゅんに言われるがまま、俺はB地区の瓦礫に囲まれた小さな小屋で銃の整備をしていた。
道中、しゅんが言っていたことを要約すると、B地区のシャドーの本体を倒そうということらしい。
現状で、シャドーの本体は2人倒されており、残るは3人……そのうちの1人は、積極的に人を殺しに来る攻撃的なやつで、場所の特定は難しくない。
今まではそいつの能力とそいつを手助けするシャドーのせいで倒せなかったが、シャドーが減った今ならば、倒せるのではないか……ということらしい。
そこで、司令官として優秀なしゅん、シャドーの本体を2人倒した俺を呼んだらしい。
俺は、とりあえず切り札扱いということで、通信が来るまではここで待機していていいらしい。
そいつは、なんでもどんな銃でもどこからでも出すことができ、銃の腕前も一流であり、下手にそいつが見える位置にいると射撃される恐れがあるため、こんな隠れ家てきな場所に待機している。
あるいみ休暇みたいなものだから、今のうちにとあのショットガンを分解してみたり、整備したり、短刀の手入れをしたりしている。
雨音が窓越しに聞こえる。
銃の音も人の悲鳴もかき消す雨の音は、嫌いではない。
戦っている奴らにとっては、人の跡を消すこの雨は、歓迎しないものなのだろうけど。
扉が、勢いよく開いた。
すぐさま短刀を構えると、扉が開いたと同時に飛び込んできたのは、少女を抱えた少年だった。
咳き込み、荒い息をしながらも、立ち上がろうとする少年。
それを見て、短刀を鞘に収めてから、隣の部屋へと移動する。
隣の部屋から戻り、持ってきたタオルを放り投げる。
殺気を放つ少年は、顔に降ってきたタオルに驚いて咳き込みながら、タオルを顔からとり、こちらを訝しげに見た。
そうして俺を見る少年に、いった。
「……床に置いてるやつ、そのままでいいのか」
俺がそういうと、はっとした顔をして、タオルで少女の顔などを拭ってやる少年。
その少年に、包帯や消毒液などを投げて渡したあと、今まで整備していた武器などを持ち、座っていたベッドから立ち上がった。
警戒する少年に、扉を開けつつ、声をかけた。
「そこのベッド、使っていいから。なんかあったら呼べ」
一言も返さない、けれど「どうして」という少年の視線を受け止めながら、扉を閉めた。




