10.りゅう座η星
11月30日【アル・ディーバイン】(りゅう座η星)
直線的に走る過激さ
しゅんが指し示したピアノ線を思いっきり引っ張ると、ガランガランと、木々に上手く隠されていた大量の鈴の音が鳴った。
音が鳴った瞬間、一足先に駆け出したしゅんを、呆れたように見つめる。
「おい、そこには……」
「う、わぁぁぁぁああああああ!?!?」
「……トラップがあるって言おうとしたが、手遅れだったみたいだな」
網に囚われ、動けば動くほど余計絡まる網がきつくなる為、動こうにも動けないしゅんを見ながら、近くの木上に隠れる。
「ちょっ、ちょっと!囮にすんの!?」
「来た奴と適当に話しとけ。情報を手に入れられたら上出来だな。文句なら引っかかった自分に言うんだな。ほら、来たぞ」
「え、いやいや、嘘でしょ!?」
そうこうしているうちに、俺が隠れている場所と反対の方向から、何かが移動してきているのがわかった。
俺は黙り込み、しゅんは喚いてはいるものの、俺に話しかけてはこない。
やがて、ガサガサという草をかき分ける音と共に、俺のいる場所と反対方向から、金髪で肌が真っ白の、どこかのお姫様のような容姿の少女が出てきた。
その少女を見たしゅんは一瞬止まったものの、笑顔で少女に話しかけた。
「あ、いいところに来た!ねぇ君。この網切ってくれない?」
「は?君馬鹿なの?人っ子一人いないこの森で、罠なんて仕掛けてるのなんて、見るからにここに慣れ親しんでますーって感じの私しかいないじゃん。顔も鶏っぽいのに、頭も鶏とか、可哀想だね」
「……は?」
……うわぁ……こりゃ酷い。
お姫様のような顔をした少女からスラスラと出てくるのは、流暢な日本語での罵倒。
ちなみに、しゅんの顔は鶏ではなく、世間一般的に言えばイケメンの部類であり、大量の部隊、さらには他の地区にも指令を出す総本部長であるため、頭の良さも普通と比べ物にならないくらい良いと言っておこう。
「……じゃあ、俺をどうする気なの?この森の最深部にいる、シャドーの本体のところまで連れて行く気?」
「……ふーん。鶏頭ってのは訂正してあげる。君、鼠頭ね」
「……お褒め頂き、至極光栄ですー」
「これが褒め言葉ってわかるなんて、君、案外やるね。気に入った。殺すのは少し待ってあげる」
そういって背中に背負った弓と矢を取り出し、網とそれを吊るす縄の繋ぎ目に狙いを定め、矢を放つ。
放たれた矢は狙い通りに繋ぎ目を切り、しゅんは地面に落ちた。
網が絡まって受身は取れなかったようだが、そこまで高いところではなかったため、怪我はなかったようだ。
木の上から見ていると、少女は再び矢を取り出し……凄まじい速さと精度で、矢をこちらに放ってきた。
咄嗟にずらした顔の横を通り、風切り音を発しながら奥へと飛んでいく。
「そこの君。いるのはもうわかってんの。今出てこないんなら、君に中るまで、何度でも撃つよ」
そういう少女の声を無視して、俺はしゅんに指示を仰ぐ。
しゅんを見ると、困ったように笑っていた。
それを見て俺は、ため息をつきながら木から飛び降り、膝を曲げて衝撃を逃がしながら地面に降り立った。
「いつから気づいてた」
「わりと最初の方。私、君らがシャドーの本体って呼んでる子と知り合いだから、その子の能力で教えてもらった」
「……やっぱり、植物を操るシャドーの本体か」
「そう。まぁ、森って時点でほとんど判別できてるようなものだけど」
そういいながら、縄をしゅんの右足、そして、俺の左足に縛り、まるで二人三脚でもやるかのようにした。
「え、なにこれ……?」
「二人三脚。見てわかんないの?君の目節穴?蛆虫にでも食われた?」
「なんで俺だけそんなあたりキツイの……?じゃなくて、なんで二人三脚させたのかってことだよ」
「そりゃあ、簡単に逃げられないようにするために決まってるじゃん。お仲間なんだから、歩くくらいは余裕でしょ?ちゃんと頭働かしなよ鼠」
「鼠でも鶏でもない!それに、これって家族とかでも難しいから!」
しゅんの言葉を無視して最深部の方へと歩き始める少女に、俺はついていこうとする。
それに引っ張られ、しゅんがバランスを崩して倒れる。
何やってんだと冷めた目で見てると、前を歩いていた少女が、俺たちがついてこないのに気がついたのか戻ってきた。
「……何やってんの?こんなのも歩けないとか……本当にお仲間?赤の他人じゃなくて?」
「仲間!ってか、親友で幼馴染!!」
「……って、言ってるみたいだけど、お仲間で親友で幼馴染さんは、こちらさんのことをどうお思いで?」
「…………」
「えっ、なんかいってよまこちゃん!俺の片思いとか虚しいんですけど!!」
ギャーギャー喚くしゅんを無視していると、少女が呆れたようにしゅんを見ながら、足の縄をとき、今度はしゅんの右手と俺の左手に縄をつけた。
面倒くさそうにしゅんを見ながら、再び森の最深部へ向けて、歩き始めた。
その背中を、俺は呼び止めた。
「おい」
「……何?僕に言ってる?」
「……僕?」
「ああ、ごめん。知り合いの影響で、たまに出てきちゃうんだ。それで、何?」
「俺は北馬 誠。こっちは卯花 春季。あんたは?」
「先に名乗る礼儀ぐらいは持ち合わせてるみたいだね」
そう、俺たちに毒を吐いてから、自分の名前を名乗った。
「私は龍野 佐良。よろしくは、言わないから」




