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言葉



 帰りは、迎えの者と入れ違わぬよう、ソラにおぶってもらうことになった。クギリ、カラハ、そして彼女の前に抱かれて俯いているファイ、ユクンやユクンの妻、ソラの両親など大勢に見送られて、二人は集落を後にした。

 途中でハナの迎えに来ていた馬車と出会い、安心したような怒ったような表情で姿を現した志乃は、ところどころ土で汚れ、引っかいたような痕のある着物を見て言葉を失った。ソラとしては自分も共犯だろうと思っていたのだが、志乃や城の者からすればハナに巻き込まれただけという認識らしく、馬車の中でも城に戻ってからも叱りを受けることはなく、むしろハナの母である千夜からは娘が迷惑を、と謝罪されてしまったくらいだった。

 ハナはというと、そんなソラとは違い、たっぶり叱られた。帰りの道中、馬車の中では志乃に無断外出のことはもちろん着物を汚したことや、友好的な関係とはいえ龍人の集落へ事前の通達もなしに行ったことなどを言われ、そして、戻ってからも千夜に同じ内容の説教を受けた。途中、様子を見に来た父、幸恒が『ち、千夜よ。そろそろ許してやってもいいのではないか?』と言ったせいで、静まりかけていた怒りが再燃して『あなたがそうやって甘やかすのも悪いのですよ』と、父と肩を並べて怒られるはめになった。そして、罰として晩に催される宴への参加を禁止されてしまった。砕けた口調で、とはいかないが、出立の前にソラと話せるとすればそこが最後の機会だったため、幸恒や千夜が思っている以上に、罰としては効果覿面だった。

 そうして、顔も合わせることのないままその日は過ぎ、出立の朝を迎えた。




 涼しい風が吹く心地良い天候の下、八木浜の城下町の広場には、多数の民達が円形を作るように集まっていた。大きく空いた中心には、幸恒、千夜、ハナ、そしてその後ろには数名の武士や女中が控えており、その中には志乃の姿もある。幸恒達が向かい合っているのは、山ほどの大荷物を背にした龍人達だった。伝えるべきことは、既に城で済ませている。あとは、激励の言葉一つで彼等は龍に姿を変え、空高く旅立つだろう。その雰囲気を察して、聴衆も静かに見守っている。ソラは、ハナ、その後ろにいる志乃、そのまた更に後ろ、聴衆の中にいるギンジョウと太助、茶屋の店主を順に見ると、静かに笑みを浮かべた。

 幸恒が、そっと口を開く。ソラは、その言葉を聞きながらも、時が止まったような静寂を感じた。視界の片隅にいるハナを見る。昨日のものとは違う、しかしやはり鮮やかな赤色の着物を身に纏っていた。ソラ達龍人も、幸恒から贈られた上等な着物を身に纏っている。着心地が良すぎて違和感があるというのは初めての体験だったが、果たしてこの格好が自分に似合っているのかソラには分からなかった。

 幸恒の激励が終わり、ソラ含む龍人達はいっそう背筋を伸ばすと勢いよく頭を下げた。龍人達は頭を上げると幸恒達に背を向け、荷物の傍まで歩いていく。そして、龍人同士で顔を合わせ頷くと、十名が龍へ変化した。龍人の変化はなかなか見られるものではない。広場がざわつき、そしてすぐに静寂が戻る。変化した十名のうち半数は先に宙に浮かぶと、幸恒達に頭を下げ、それぞれの仲間が待つ方へ飛んでいった。彼等は、龍人達の協力が少なかった国へ応援に行くことになっている。

 ハナは幸恒や千夜とともにその姿を見送ってから、ゆっくりと顔を前に向けた。

 龍へと変化した龍人に、残りの者と武士が食料などの入った荷物を括り付けていく。龍人達は交代で変化しながら旅を進めることになっている。ソラは後から変化をすることになっているらしく、武士達と共に荷物を運んでいた。しかし、あのような大荷物を持って、はたして飛べるのだろうか。とハナは不安に思ったが、荷物を括り付け終えた龍が軽々と宙へ浮いたのを見て、いらぬ心配だったと安堵の息を小さく吐いた。

 残りの荷物の括り付けを終えて、五体の龍と八名の龍人は整列し、幸恒達に向く。

 一斉に頭を下げ、

「行って参ります!」と揃えられた太い声が広場に響く。幸恒と千夜は頷き、ハナはただ、ソラを見ていた。別れの時。その実感が薄く、昨日ほど感情が湧いてこないのは、覚悟が決まっているからだろうか。それとも、どこか現実逃避をしているのだろうか。それは分からないが、ただ一つ、分かることがあった。

 顔を上げたソラと視線が合い、ハナは大きく頷いた。ソラは笑みを浮かべて、そして小さく頷き返してくれた気がした。

 ソラは背を向けると、他の龍人に続くかたちで龍に飛び乗る。龍人が全員乗ると、先に浮いていた龍に続いて、そっと地面から離れる。

 城の庭で、街角で、旅先で。きっと、木漏れ陽を目にする度に、彼を想い、そして焦がれるのだろう。

 太陽が眩しく、少し飛び上がっただけで龍人達には影がかかり、表情すら見えなくなった。しかし、きっとソラはこちらを見ている。ハナは確信とともに、太陽の光を手で遮りながら、高く、遠く跳び去っていく姿を、じっと見送った。



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