5・神様
ある時、島が傾いた。凍った水面にひびが入り、お茶が吹き出してくる。こたつ布団を上げてみると、肉まんはもう、薄皮一枚しか残っていなかった。
「信じられない。あんなに大きかったのに」
「僕が来た時にはぺしゃんこだったよ」
「このままじゃ沈んじゃう!」
タフとケイが来てから、夢野の夢から出てくる食事は二倍に増えたが、デザートの肉まんも二倍の速さで減っていた。
四人は急いでこたつの上に避難したが、冷茶の海にじわじわと沈んでいくばかりである。
神様、とれみは叫んだ。すると本当に神様が現れた。粉雪に混じって、白いローブをまとった男が、雲間から縄をつたい下りてきたのだ。
「呼んだかね?」
こたつの端に降り立ち、男は言った。ただでさえ沈みかけていたのが、さらに大きく傾き、全員が波しぶきを浴びた。
誰だ、とタフが言った。
「わしはサカキバラノミコトだ」
「怪しいな。そんな神様聞いたことないぞ」
「聞いたことがなくても神だ。その証拠に、ほれ」
男はローブの胸を突き出して見せた。にじんだ文字で『サカキバラ』と書いてある。
「おかしいな。私のアンテナも全然反応しない」
「さては悪霊だな。ケイ、くっついてみろ」
「えー、やだな」
そうしている間にも、こたつは沈み続ける。布団の裾が、もうすっかり茶しぶに染まっていた。
「ところで、わしを呼んだのは誰だ」
「はいはい、私! れみです!」
れみは日本神話と北欧神話とエジプト神話を同時に読み進めているので、出てくる神様の名前がごっちゃになっていた。サカキバラ、という神様もひょっとしたらいたかもしれない。
「何か願いでもあるのかね? わかった、身長を伸ばしたいんだろう」
「違うわ。でもあなたに叶えられるかしら」
「馬鹿にするな、わしは神だぞ」
抹茶みぞれのような水面が、すぐそこまで迫っている。れみはうなずき、サカキバラに向かって両手を合わせた。
「フィギュアスケートを生観戦したいです」
全員の叫び声とともに、特大の波がこたつを飲み込んだ。




