STAGE8:アスガ王
「わ、私たちの家が・・・・・・」
「ひ、ひどい・・・」
作り始めてから半年。いまだ完成の兆しが見えないアガルタ城の中で外を見ておびえる民。
そして完成していない城壁に即席で盾や瓦礫を詰めて作った防壁の裏で待機する兵士。
「さぁ、燃やすのだ。何も残らずになぁ!!」
たった一人の男の指示で4千の兵士たちはアガルタ共和国の家を、田畑を、森を、草原を、家畜を、何も残らず焼き払って行く。
「これが、我がアガルタ管理局に逆らった天罰だ!!!!!!!」
高らかに吠え、叫び、街頭もとい下等演説を繰り広げる何処ぞの剣士にアガルタ共和国の兵士たちはいら立ちを隠せなかった。
「あの野郎!!俺達の大地を焼き払いやがって!!」
「ユーマ・・・もう一度・・・撃っていいか?」
「・・・・俺もその話に乗るぜ」
「俺もだ」
次々にソーマのは話しに乗り出す。一斉に集中砲火を浴びせせめて指揮官だけでも殺そうという考えなのだろう。
悪くない。冥土の土産だ。ユーマはそう考えていた。
このゲームで死んで冥土などあるのだろうか?
「チャンスは一度だ。全員構えろ」
狙撃手。よほど喧嘩に自信がない限りほとんどの奴は安全に戦える遠距離を選ぶ。射撃か魔法。このどちらか。そしてアガルタ共和国軍予備役を合わせた2000人の兵士の半分以上が狙撃手だ。
「俺は剣士だからな。指示はソーマに任せた」
「御意・・・俺のメッセージと同時に放つ。わかったか?」
メニュー画面のotherにあるメッセージ欄に了解の言葉が次々に現れてくる。
3.2.1.
次々と更新されていくメッセージ。そのメッセージに1が現れた瞬間、アガルタ城からは何重ものパァンという音が奏でるハーモニーが聞こえてきた。
あの指示を出す剣士を殺すハーモニー。
「ふっ」
ユーマはそいつの唇がかすかに動いた。別に見えていたわけではない。自分の直感がそう言っている。
ユーマの直感は現実となり、弾丸が剣士に当たる寸前ですべてはじき返された。
「レベル104。アガルタ管理局でもベスト12に入るグラディウスには向かうとは・・・これが天罰だと思い知れ!!」
先程砦を破壊した時とは比べ物にならないほどの剣筋。本来近接攻撃のはずの剣士が能力と筋力、魔力を併用する事によって使えるようになった遠距離攻撃能力“ソニックウェーブ”
レベルが3ケタにならないと手に入れることが難しいとされる能力。
アガルタ城内の兵士、民間人が目をつぶり死を覚悟した。
だが、その死は一向に訪れない。
「くくく・・・・これがローマ神話の軍神グラディウスの天罰とやらか・・・・」
「だ、だれだ?」
「これで軍神にでもなったつもりか?・・・・笑い物だ。厨二病も程々にな」
グラディウス・・・ローマ神話の軍神。
剣士は軍神にでもなりたかったのか、厨二病全快でこの名前をつけたのだろう。
「我が能力ソニックウェーブを防ぐとは・・・何者だ?」
「我が能力?馬鹿を言うのも程々にな」
「ば、馬鹿だと!!先程から私を厨二厨二とバカにしおって・・・全軍あの男に向かって進撃せよ!!」
指揮官の指示に従い4000の軍勢はアスガに向かって突き進む。
1対4000
いくらレベルが50離れていようとも、勝てる数字ではない。そう、レベルが50離れていたならば・・・
「うらああああ!!」
「死ねえええ!!」
次々血気盛んな男たちがアスガに攻撃するが一向に当たらない。というよりも事前にはじき返される。
「お前達・・・誰を相手にしていると思ってるんだ?」
敵ではない。あからさまな余裕を振りかざし、戦闘中にもかかわらず敵に話しかけるアスガ。不思議に思い、兵士たちはアスガの情報を得る。
「レ、レベルに、にひゃああああああああああ」
「これ以上口にするな」
腰から引き抜いた剣を一振り。あたりにいた数十という軍勢が竜巻に巻き込まれたかのように吹きあがり、そのまま落下。勿論全員即死である。
「な、なんだこの能力・・・」
「能力?これは能力じゃないぞ」
「そ、そんな馬鹿な・・・・いや・・・お前、もしかしてセルファーか?」
「当たりだ」
そう言っている間にも次々と兵士を切り裂いていく。一振りで数十人。何秒で4000に追いつくだろうか?
その時間はカップめんを作る時間がかからなかった。
「う、嘘だろ・・・・」
「あ、あれが・・・アスガさんの実力」
「レベル211・・・・・」
アガルタ城から見ていた人々は、人間ではない別の――――異物。いや、神か仏か等と空想上の何かを見るかのような目で見ていた。
「セルファーの分際で!!こ、この私の部下を殺してくれたなあああああああ」
理性を失いアスガに飛びかかる。だが、その攻撃は全くもって効いていない。
「言い忘れたけど・・・俺には自動魔法“無敵の盾”がある。この魔法を打ち破るなら、伝説の激レアアイテムレーヴァテインか、これを破るだけのステータスを手に入れな。手に入れることができたらだけど!!」
突きの構え。グラディウスの顔面めがけて一突き。
「ゲボオオォォォォ」
アスガの顔面に飛び散る血液。地面に垂れ流される血。このすべてがグラディウスが死んだということを物語っていた。
「・・・・死人に口なし。ホントに口がねえな」
自分で口をつぶしたのによく言う。
「この死体からは自由に金や武器とって言っていいぞ」
そう言うとアスガは立ち去ろうとする。
「待ってください!!」
イリヤはあの時言えなかった言葉を言った。
「ん?」
「あ、あの・・・・あの・・・・お、お城での話なのですが・・・・」
「ん?却下だと何度も言ったが・・・・」
「あ、あなたはこの、この、この国に必要な人です。どうか、考え直してはくれませんか?」
「考え直せって言われても・・・」
辺り一面を見渡す。そこには一万の軍民両方合わせた、この国の民たちがトップである皇女と一緒に頭を下げている。
此処で断ったら俺恨まれそうだな・・・・
「俺はタダ働きする気はないぞ」
「お、お金なら・・・あります」
「なんだと?」
「アガルタ共和国の領土、民、お金、アイテム・・・・全てをあなたに捧げます。勿論私のこの身も心も。だからお願いします。この国には・・・私には・・・あなたが必要なんです!!」
「・・・・・」
突然の出来事に言葉を失うアスガ・・・・
言っていることは・・・つまり・・・イリヤの夫となりこの国の王となれと?
「ということはアスガさんはイリヤ皇女の夫でこの国の王様なんですよね?」
ユーマが辺に横やりを入れる。
俺のはそのセリフを聞き嫌なフラグが立ったと察知する。
「お、王様・・・アスガ王!!」
「アスガ王!!アスガ王!!」
たくさんの人々が俺をアスガ王と連呼し叫び、万歳を繰り広げる。
この状況からして悟った事。俺に逃げ場はない。
そして思う事。ユーマを思いっきりぶち殺したい。
「ア、アスガさん・・・・ふ、ふ、ふふ不束者ですが・・・よ、よろしくお願いします!!」
「・・・・よ、よろしく・・・」
何言ってるの俺。違うでしょそこ。お断りしますだろうが!!
「王様ばんざーい、ばんざーい」
「こ、今夜は・・・や、優しくしてくださいね」
イリヤの頬笑みがたった今・・・VXガスレベルの危険指定に俺の中で入った。






