STAGE6:アガルタ軍始動
「つまりプレイヤーにもモンスターにも索敵能力があって・・・」
「ふむふむ、成程。そんな能力があったのですね」
索敵能力。現代戦で表せばレーダーの事だ。索敵能力が上がれば広範囲にわたってプレイヤー、モンスター、NPC、さらに上を行けば地形までもを把握する事が出来る。
そしてその能力にあらがうのがN.S.Aだ。現代戦で表せばステルス。もしくはECMといったところだ。
相手の索敵能力に引っ掛からない。目視確認する以外敵に見つからないというわけだ。
しかし・・・まあ、N.S.Aは高レベルプレイヤーしか知らないレアアイテムだから知らないのは当たり前だとしても、索敵能力は誰にでも知りえる能力だ。それを知らないとは・・・
「素晴らしいものですね。ありがたく受け取らせていただきます」
「よし。じゃあ先に進もう」
「ちょっと待ってください!!」
「なんだ?」
「だって夜中ですよ?そんな時間に動いたらモンスターに見つかってしまうのでは?」
動けば迷彩値に関係なく敵に見つかる。これがこのゲームのシステムの一つだ。
さらに森林地帯では夜目が利くモンスターが多く、夜動くのは自殺行為とまで言われる。
まあ、俺には関係ないが・・・・
「そのためにそのアイテムを渡したんじゃないか。俺には迷彩値と速度値を上げて、ステルスを所持しているから。ステルスを装備すればそう簡単には見つからないさ」
迷彩値・・・いわばカモフラージュだ。この値が高ければ動かない限り見つからない。
だが、ステルスは違う。動いていても見つからない。この能力を所持するためには最低レベルは60必要と言われている。
様々なパラメータを上げることによって能力が追加されるが、装備するアイテムによって強制的に能力が追加されることもある。
N.S.Aにより追加されるステルス等代表例だ。ステルスに似たような能力としてはシャドーがある。これは影は見えるが姿が見えない。AIが馬鹿なモンスターには有効だが、プレイヤー相手に使うバカはまずいない。
「しかし・・・」
「あそこで寝ていても襲われることのデメリットの方が大きいからな。それに後数時間も歩けば目的地アガルタ共和国に着くのだろう?なら朝一番に着きましたでいいじゃないか」
「で、でも・・・」
「グダグダ言ってる暇があったら動け。何かあったら俺が全部何とかするから。早く行くぞ」
「は、はい」
結局イリヤの心配したような出来事は起きず朝一番にアガルタ共和国にたどりついた。
「お、おかえりなさいませ姫様!!」
アガルタ共和国に入国するために通る砦で俺達は盛大な歓迎を受けた。
砦護衛の兵士たちによる歓喜と一般市民による俺に対する歓迎。とりあえず2年と3カ月人と関わりを持たなかった末にコミュニケーション障害となった俺にとってやかましい以外の何物でもなかった。
「さ、長旅でアスガさんも疲れているでしょう。アガルタ共和国でごゆっくりしてください。アガルタ城までご案内しますよ」
イリヤはそう言うと俺の手をひいて目の前の作り途中のお城へと出迎えてくれた。
このお城の完成レベルは1割に満たない。寝室とお堀は作られているが・・・それ以外は手つかずだ。
「寝室だけはちゃんとしてあるな・・・」
イリヤの作り途中お城見学で唯一褒められるのは寝室だけ。
お城を守るために必要不可欠な兵士。そして兵士に必要不可欠な武器。そして国を守る最大の重要拠点お城。この3つどれも一つとしてそろっていない。
「アガルタ管理局は遊ばせているのか?」
「はい?」
「いや、独り言だ。気にしなくていい」
そう考えるほか何もない。それとも本気で場所が見つからないのか?
「あの話、本当に駄目ですか?」
「何の話だ?」
「ここでは働くっていう・・・」
「駄目だ。それに俺を一年間契約させるほどの金はあるのか?」
「そ、それは・・・」
低レベルプレイヤーばかりの集まりで税金を徴収するにもまともに集まらなく、兵士に払うお金すら足りていないという国家が一年間俺を契約させられるほどの契約金があったならば誉めてやろう。
「なら駄目だ」
「で、では・・・・100Agで・・・・」
A.Sと呼ばれる仮想世界での通貨単位は大昔に出来た通貨単位と全く変わらず、Au、Ag、Cuと3段階に分かれており、1000Cuで1Ag。1000Agで1Auとなっている。
居酒屋や食事処で飯を食べる時の平均値段が20Cu程度であるから、20Cu=500円と見積もれば10Agは250万である。
「確かあんたの行き帰りの護衛代金が10Agだったよな?1年間働いて100Agってのはちょいと少なくないか?」
「こ、これ以上は・・・・国の歳入の10分の1なんです・・・・」
10分の1・・・ということはこの国の歳入は1Au。円換算で2億5千万・・・・
「貧乏国家すぎるだろ!!」
俺の持っている金額の方がはるかに高いとは・・・・いくら持っているかはメニューを見ないと解らないが・・・ざっと1000Au近くはある。
毎日モンスター狩りやプレイヤー狩りを狩るPHH(Player Hunt Hunt)等でお金を稼いだり要らないアイテムを売る、そして何でも屋を経営する事に2年と3カ月明け暮れていたらこんなにたまってしまい、レベルもおそらくA.S内トップクラスであろう211だ。
安全な街に立てこもる人が増えたため、トップクラス連中のレベルと低レベルプレイヤーとの差は開き、レベル的には中間に当たる50でも、人数が少なく高レベルプレイヤーとして扱われるほどだ。
もっとも俺の資金貢献したのはPHHだ。もともとPHをするのはよっぽどの自信家か、アガルタ管理局。通称人狩りぐらいだ。人狩りもそれなりの高レベルプレイヤーだ。
そいつらには絶対的に負けない自信とかなりのレアアイテムやレア装備がある。だからそいつらを狩ればかなりのアイテムと装備。そしてきっと誰かを狩って手に入れたであろう多額の金がある。無駄なアイテムは売りさばけばいい。PHHだけで3ケタ近いPHを殺している。それだけ殺せばこれだけたまるだろう。
「・・・・こ、これが限界で・・・」
「ならお話はこれで終わりだ。では、これで。次に会う時が敵ではないということを祈りますよ」
「待っ・・・・・」
イリヤは言葉が続かなかった。
どうしてだろう。あの人が一緒にいてくれるとすごく落ち着いた。すごく安心した。あの人がいればこの国はもっと繁栄できる。あの人はこの国に必要な人材。
わかっていても待ってくださいと声をかけることすらできなかった。
「お、お帰りですか?」
「ああ。また新しく俺は旅に出るよ。ここで、世話になった礼だ。あんたにこの装備をくれてやるよ」
俺がこの国に来てからの案内人をずっとしてくれたユーマとか呼ばれる兵士に装備一式をくれてやった。どうせ余り物だ。
「こ、こんなレア装備を!!ほ、本当にいいんですか?」
「ああ。俺にとってはそんなもの必要ない。せいぜい、この国を守るための精進してくれ」
「が、がんばります」
「じゃあな。次会うときは敵ではない事を祈るぜ」
先程イリヤにも言った事をまんま言う。
「・・・こちらアガルタ管理局偽アガルタ監視部隊です。イリヤと呼ばれる皇女が帰国した模様。護衛として使われていたロングコートの格闘家はいないようです」
MET送還機・・・ジャンバラ中を覆うMETを使った通信機である。親機と子機の間でしか使えないが、斥候にとっては欠かせないものである。
その送還機を使いある男は通信をしている。
「成程。それならば今アガルタ共和国は無防備と言ってもいいのだな?」
「はい。そうです」
「ならアーフカリア大陸西部に設立させた基地から全軍を出せ。5千の軍勢だ。1日あればつぶれるだろう。いまだに城を守る城壁すらできていないのだ。すぐに出兵せよ」
「了解です」
それと同時にアーフカリア大陸西部に設立されたアガルタ軍5千の兵が動きだす。
設立された場所は誰にも見つからないとまで断言できる海と山、森林に囲まれた土地。
アガルタ共和国からの直線距離およそ――――2km