STAGE5:握手
「現実世界へと宣戦布告?馬鹿じゃねえのか?」
「俺も最初はアホらしいと思ったさ。でも、あいつらの言うことに一理あってな・・・俺はアスガみたいにひとりでバカスカやるプレイヤーだったんだが、そこで、この世界のために尽くしてみないかと誘われてな」
「なんの勧誘だよ。現実世界でもそんな勧誘ねえぞ」
「まあ、聞け。聞くだけ聞いて帰ろうと思ったんだがな。この世界の人民は苦しんでいる。現実世界へと帰る手はなくなり、暴力で解決しようという輩が増えている。そこで、アガルタ管理局に入り、すべての人民を統一し、現実世界へ宣戦布告しようとな」
「そんな口車に乗せられたのか?」
「そこまで馬鹿じゃねえぞ。で、そこで俺があったのはおそらくアガルタNo.4のゲオルグっていう考古学者とNo.2のアイテールだ」
No.2のアイテールは弱っているところをサルデーニャ=ポートランド帝国の女が八つ裂きにした。ゲオルグと呼ばれる男はアスガは知らない。
「アイテールか・・・・既に殺されたがゲオルグっては誰だ?」
「職業は魔導士だ。元々この二人は高須ホールディングスに勤めていてな。アイテールはデーモンデリーター。ゲオルグは考古学者というが、失われた技術魔法を研究していてな。こいつは魔法の言語を覚え、この世界で唯一の魔導士のセルファーだからな。このゲームの世界構成を作ったのもゲオルグだ」
「で、そいつらがどうした?」
「この二人は理論上この仮想世界と現実世界を融合させることにより現実世界において大規模な災害を引き起こし、そこに仮想世界のモンスターと高レベルプレイヤーを送り込むという作戦だ」
「・・・・・・・」
みんな唖然。というか、軽蔑の眼差し。いや、哀れんでいるともとれる。
何言っているんだこいつという哀れみ。
「てめえら信じてねえだろ。だが、これは事実だ。あいつらが西オーレリシア占領してからカルタゴ制圧までどれだけ期間があったと思ってるんだ?1年半だぞ?西オーレリシア占領は半年でできたのにカルタゴ占領まで1年半かけるのはおかしいと思わないのか?」
「まあ、確かに・・・そうだな」
「あいつらの本拠地はレオン王国南の山間部にあるんだが、ここはオーレリシア一のMETが放出されるMETベルト地帯なんだ。なんでここに奴らの本拠地があるかわかるか?アスガならわかるだろう」
「ああ。標高も高く、周辺を見渡せなにより魔粒子砲を打つ際のエネルギー切れがない」
「まあ、表向きはな。なぜ奴らがここがMETベルト地帯だとわかったかだ。この世界を構成したのがゲオルグだからだ。さらにあいつらがカルタゴ侵攻を伸ばしたのは現実世界への宣戦布告。それが奴らの目的だからだ。そのためにレオン王国を占領しなければならない。だが、そんなことしたら西オーレリシア諸国連邦機構が黙っていない。ならば滅ぼそうと」
「つまり、海を渡らないと戦えないカルタゴは相手にする必要がなかったからと」
「そういうことだ」
メンティフィスは地図を広げる。
「あいつらの結成地は、アイルランド。ここからレオン王国のこの一部を占領したいだけに、NPCとプレイヤーあわせて1000万弱の人々が死んでいった。俺は耐えられなかった。一度でも逆らったものは降伏したとしても皆殺し。だから俺はイスパーニアで裏切ったのだ」
「成程。その話の信憑性はともかくだ。ここまで話したんだ。何が言いたいんだ?」
ふぅと息を吐き、重い口を開けた。
ようやく本題か。アスガは長かったと心の中でつぶやいていた。
「プトレマイオス共和国は本国からさらに国土を防衛している兵士10万人全員を出し、あの女狐も国中の軍人を出すと言っている。後方の東オーレリシア帝国はさらに20万の追加兵力を送ると言っていた。総勢80万超の大兵力となる。そうなればしばらくは持つだろう」
女狐とはサルデーニャ帝国の女帝のことを指しているのだろう。
「まだ前話があったのか・・・そろそろ本題にしろ」
「これだけの兵力を出せば向こうも30万だけでは足りるまい。おそらく占領地全土から兵力を出すだろう。そうなれば、本拠地も丸裸同然だ。お願いだ。貴様らに本拠地を叩いて欲しい」
ほぅ・・・・あのメンティフィスが頭を下げるとは。
いつもは協力関係までしか口を出さず、絶対にイエスを言わない男。
挨拶はいつも唐突で、外交を知らないのかとでも言うぐらい破天荒な男が。
頭を下げるとは。
「ハッハッハこりゃ面白い。お前ほどの男が頭を下げるとは!!」
「ちょっと、アスガ様」
「まあ待て。お前がここまでするとは・・・となると、こりゃあガチか。ただ、お前も知っているだろう?あの攻守完璧な要塞を。どうやって侵入すればいい?」
戦争ギルド“嘆きのライオン”にいた時代、本拠地を偵察に行った際に受けた攻撃は今でもアスガは鮮明に覚えている。人数が5人まで減った。アスガが戦争ギルド“嘆きのライオン”構成員ということはメンティフィスは知らないが、二人とも、この要塞が攻守ともに完璧だということは知っている。
「俺のかつての部下が未だに密偵を続けている。侵入経路は裏口からまだ入れるという。裏口は・・・」
そう言うと大きめの地図を開くメンティフィス。
「これは・・・」
「ああ。中心がアガルタ管理局本拠地。ここから北5km先に小さな洞窟がある。ここから入れる。警備は門番10名程だ。簡単に倒せる。なお殺すな。殺したら生命反応が消えたとして、扉が閉まる。するなら気絶か眠らせておけ」
「わかった。お前からの日付の要請は?」
「援軍が到着するのが20日後だ。それまでに準備を終えて欲しい」
「わかった。俺たちもアガルタ管理局打倒に全力を尽くそう」
アスガとメンティフィスは人生初の握手を交わした。
ここに、一時的な戦時協定が生まれ、アガルタ管理局打倒に世界が統一された。
残すはアガルタ管理局打倒のみ。
仮想世界での戦争は新たな局面を迎え、最大規模になる。
そして、最終戦争が始まる。