STAGE5:2年3カ月
PlayerNameアスガ
PlayTime2年3カ月09hour15minutes19seconds
―――――アーフカリア大陸西部
「う、う~ん」
「眠れないのか?」
俺の任された依頼。某国皇女・・・イリアを目的地まで護衛。
そして今の状況は宿屋が近くになく、野宿する羽目になったため、俺がずっと見張りをしているわけだ。
「あ、いえ、そういうわけでは」
「現に寝てないじゃないか」
「あっ・・・はい。寝付けないんです」
「何故だ?」
「いつアガルタ管理局につかまるかと考えると恐ろしくて・・・」
「成程」
アガルタ管理局。通称人狩り。
この仮想世界は元いた世界シャンバラと区別をつけるためアガルタと呼ばれるようになった。そして高レベルの課金プレイヤーたちによって構成された数万人規模の軍団はある国を滅ぼし、アガルタと呼ばれる国を作り、瞬く間に周辺諸国を飲み込んでいった。
仮想世界を管理するA.S.M.Sがあればこんなことにはならなかっただろう。
だが管理されていない、いわばここはフロンティアなのだ。やりたい放題。レベルが上がれば例え銃弾が当たったとしてもダメージを受けない。そんな世界なのだ。
そして国を作り上げた課金プレイヤーたちは他のプレイヤーたちを誘ったり、またはさらったりなどして自分達の国に連行し開拓をさせ、国を大きくさせている。最初はオーレリシア大陸の小国だったはずが今ではオーレリシア大陸の半分を飲み込んでいる。
NPCを雇えばさらう必要はないのだがお金がかかる。さらに何万人となれば莫大な費用がかかるのだ。自動生成されたNPCは殺せても脅しには効かない。意味がない。ならプログラムではなく心のあるプレイヤー。プレイヤーかNPCかはカーソル合わせただけで解る。
死にたくなければ俺らの奴隷となれ。このようなセリフを吐いて某世紀末漫画みたいに人々をさらって働かせているのだろう。
そしてこのアガルタの人々を狩る課金プレイヤーたちの組織“アガルタ管理局”をみんなは恐れてこう呼ぶ。
“人狩り”と・・・
そこで彼らからのプレイヤー狩り。略称PH(Player Hunt)を避けるため。そして真の楽園を作るために約数千人の人々が決起しアーフカリア大陸西部で独立を果たした。だが、人材も兵器も領土も足りない。そのため決起を起こしたプレイヤーとしては珍しい女の子が皇女となり色々試行錯誤をしている。
その道中に襲われたらどうするのだ?と言う話し合いになり、高レベルプレイヤーがほとんどいなく、国を守る兵士すら欠けている独立国では有名な何でも屋を雇うことにした。
それが俺だということだ。
「俺は居眠りなどしないぞ。だから安心して寝てろ」
「は、はい」
年齢的に言えば俺とさほど変わりないだろう。こんなに幼い子を皇女に押しつけて大人たちは恥ずかしくないのかとつくづく思う。
つまりそれだけみんな切羽詰まっているのだろう。
誰かにすがりたい。そしてこの少女はその期待に応えようと努力する。
可愛そうなものだ。人口は増えたと聞いたがそれでも一万人。
総勢50万の兵力を有すると言われるアガルタ軍が本気で攻めてきたら勝てるはずがない。
さらに50万の軍勢のうち10万はレベル50以上のいわゆる高レベルプレイヤーである。
残り40万はほとんどがNPCである。
だが、この国民のほとんどは低レベルプレイヤーだ。
俺が見た中でもレベル50に達している者は僅か3人。
勝てるわけがない。
だが、俺としては金が入るならそれでいい。
「あの~ちょっといいですか?」
「ん?何だ?」
「もしよろしければの話ですが、私たちの国に着いたら、そこで働きませんか?」
「何?」
正直言ってとんでもない提案だった。
人を何人も殺したそこらのPHと変わらない事をしている俺を雇用するだと?笑い話にもほどがある。
「やめておいた方がいいぜ。一言言っておくが俺は何でも屋だ。何でもするってことは人殺しも盗みも某国皇女を殺すことすらためらわない。人狩りよりも危険人物な俺を雇うとは・・・金で動く俺だ。あんたらを裏切るのもいつかわからんぜ?」
「やっぱだめですか・・・・」
声のトーンが下がる。言いすぎたか・・・・
だが、これでいい。大切な人を失う感情はもう味わいたくない。そして俺は俺なりにあいつらに復讐をするつもりだ。それを邪魔されるのもどうかと思う。
「あんたをあの国に送り返すまではどんな依頼が来てもあんたを裏切るつもりはないからそこだけは安心しておけ」
「あ、ありがとうございます」
「ホントそればっかりだな。損な性格していると思うぜ。正直どうなんだ?あの国の皇女とやらの立場は?」
「た、大変ですけど・・・みんなが応援してくれるので頑張らなくちゃと」
「応援ね・・・自分がやりたくない仕事を何一つ逆らわないあんたに押しつけているだけのように見えるが・・・」
「そ、そんなことありません。みなさんしっかり動いてくれます」
「動くならだれでもできる。いざという時の責任や、あらゆることの指示、外交。どれもめんどくさいことだ。だからあんたに押しつけたのだろう?それもいい年の大の大人たちが・・・恥と言う言葉がないんだろうな」
「み、みんなの悪口を言うのはやめてください!!」
イリアは夜中だというのに大声でアスガを一喝した。
「しっ!!」
「す、すいません。ついカッとなって・・・」
「静かにしていろ」
アスガは鼻に人差し指を立てる。
目線をきょろきょろ変えながら耳を立てる。
「グルルルルル・・・」
「獣の声?」
「いや、違う!!避けろ!!」
「きゃっ!!」
俺はイリアに抱きつくように飛びかかる。それと同時に草むらから飛び出てくる謎の影。
「・・・・めんどくさいのに出会ったな・・・・」
「な、何があったのですか?」
「・・・・獣人だ」
「獣人!!」
獣人・・・と言っても種類は豊富だが、基本的に獣人族とさほど変わらない。
違う所と言えば生まれた場所だ。人間界で生まれた獣人族は基本人語をしゃべり、人間と同じ生活をする。そのため獣人族にも仕事場がある。プレイヤーでも人間ではなく獣人族を選ぶプレイヤーも少なくない。
そして今であったこいつらは野生で生まれ、野生で生活してきた。そこらのモンスターと何ら変わりない。つまり俺たちの敵だ。
しかも、獣人族自体人間と同じ知能を持ちながら、獣と変わらない身体能力を持っている。
だからめんどくさい相手なのだ。
「下がれ・・・・サーチ開始」
イリヤを後ろに下げさせ敵の情報を読み取る[サーチ]を始める。
「狼系統の獣人。モンスターレベルは32か・・・いける!!」
サーチ終了と共に足を踏み込み跳躍し、一気に間合いを詰める。
それと同時に拳を獣人の顔面に食い込ませる。俺の現在のレベルは211。俺にとって敵ではない。
「げふううううう」
口から大量の血を吐きだし眼を白目にしてぶっ倒れる獣人。カーソルを合わせて生アイコンから死アイコンに変わったことを確認すると、所有物を奪い取る。いわゆる“物色”である。
「は、はへえええ」
突然の出来事に驚いたのかイリヤは腰を抜かしその場に倒れてしまった。
「お、おい・・・・これぐらいで腰抜かしてるなよ・・・・」
「す、すいません。突然の出来事で・・・」
「しかし・・・これじゃあ、危ないな。あまり使いたくなかったが、N.S.Aだ」
「N.S.A?」
イリヤは異物を見るかのような目で俺が渡したアクセサリーを凝視する。
「Not Search Accessoryの略だ。モンスターやプレイヤーの索敵能力を妨害する装飾品だ。すっごい激レアアイテムだからな。ちゃんと持ってろよ」
「つまり・・・・どういうことですか?」
そこからか・・・・呆れてものを言えないアスガだった。