STAGE3:気持ちの変化
「どうでしたか?」
フィオナが牢獄から出てきたアスガに駆け寄る。
出会った当初は俺のことを目の敵にしていたが、女とはこうも変わるものなのか・・・
凛々しい姿もフィオナには似合っていたが、ところどころ見せてくる女性らしい仕草は素直に可愛らしく思う。
イリヤの容姿が可愛いならばフィオナは綺麗や美しいというのが妥当だろう。
そのフィオナが可愛く見えてくるのはなぜだろうか?
「・・・・・」
「どうしましたか?」
「!!・・・・なんでもない」
「そうですか?それで、捕虜から聞き出せた情報は?」
「あ、ああ。俺の思っていたとおりだ。間違いなくアガルタ管理局の仕業だ。ちょっと痛みつけたらすんなり吐いてくれたぜ」
城の地下に作り上げた牢獄に数百名のNPC捕虜を閉じ込め、見せしめに一人のNPCを痛みつけたら、NPCではなく、正規プレイヤーが恐怖に耐え切れず声を出したのがきっかけだった。
基本NPCはA.S内のプログラムで作られ、数百種類の性格と数千種類の人口音声に数千種類の人間のパーツから作られる天文学的な数のパターンがある。
だが、基本的に命令には忠実で、口止めをすれば大抵何かを漏らすことはない。
だが、NPCとはいえ、過激・性的描写カット機能がないためひどい殺し方をすればその通りになってしまうのが恐ろしいことである。
それに見慣れて、残虐に痛み付けるアスガも恐ろしいといえば、言葉にできないくらい恐ろしいやつである。
そんな物目の前で魅せられたら、一般人はたまったものではない。
「・・・また非人道的なことをしたんでしょうね・・・その戦闘モードと平穏モードのギャップなんとかならなんですか?諸外国から恐怖政治をしているって言われてもおかしくないですよ」
半ば呆れるフィオナだったが、それでもその事実を知っておきながらフィオナだけでなく国民全員とまでは言わないが嫌いにならないのが不思議である。
ただ単に恐れ多くて嫌いにならないだけかもしれないが・・・
「安心しろ。自覚はしている。だが、俺たちは平穏に暮らしたいだけだ。その国に対して戦争をふっかけてくる奴が悪い。現実世界にもいただろ?勝てもしないのに喧嘩売ってきて勝ち誇っている迷惑な国・・・お隣の国だよ」
「日本生まれでしたが、私日本人じゃないので・・・・・世間には疎い方だったので」
「そうだったな」
金髪碧眼から見て取れるように、明らかに日本人ではないことがわかる。
「犯人もわかったことだ」
「では?ついにアガルタ管理局征伐に?」
「まあ・・・最終的にはそうなるかもしれんが、その前にカルタゴのクローデリア達と話してくる」
「あの、私は?」
「お留守番は嫌か?」
「あの、別にそういうわけじゃ・・・ないんですが」
「わずかな期間とは言え、俺がいない間、守れるのはお前だけだぞ?」
「とはいえ、私いなくなったぐらいで落ちるような国ならば、アガルタ管理局征伐の時にどうするんですか?アガルタ共和国軍予備軍合わせて10万。征伐時に半分持っていくとしても5万人。戦力が落ちるのは当然です。それに、そろそろ、私とアスガ様から離れて自立できるぐらいの方がいいのではないでしょうか?」
「・・・確かに一理あるな・・・・」
う~んと唸りながら考える。
別にフィオナがカルタゴに行くことに起こるメリットを考えるアスガだが、なぜか見当たらない。
それに何故自分について来たがるのか・・・それがわからない。
確かに、俺とフィオナという絶対的な力を誇る者がいなくなるという現実を突きつけられて、いつまでも俺たちに頼っていてはダメだという心意気が生まれればそれはそれでいいか・・・
「・・・・やっぱダメですか・・・」
「ダメとは一言も言ってないが・・・」
「じゃあOKですか?」
「・・・・」
アスガはジロジロ見られるのが照れくさく、そっぽを向いて「好きにしろ」と呟いた。
そしてアスガは後々気付く。
「やべえ・・・相手はクローデリアだ。あんなことがあったから何言われるか・・・」
あんな事とはカルタゴ奪還戦役前のアスガの若気の至りというかなんというか・・・・過去の見られたくない一ページである(第一章 国家改造STAGE15:決意の一部参照)
「あの後・・・とことんからかわれたんだ・・・・」
今でも思い出される、あの怪しい微笑み。というか薄ら笑い。
“ん?だいじょうぶ。あなた達の仲睦まじい姿は黙っておくから”
「大丈夫じゃねえ!!」
とはいったものの、今からフィオナにやっぱダメとかいうのもアレだし・・・
イリヤ連れて行くってのも・・・あれだからなあ。
「仕方がない。ウォルダーからアイツの若気の至りを聞き出せばいいだけのことだ」
意味も分からず自己解決したアスガは布団に入り寝ることにした。
ちなみにいつももぞもぞと入り込んでくるイリヤはここ最近フィオナと一緒に寝ている。
「・・・平和っていいな」
今更だが、そう感じるアスガだった。